電網聖書

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ルカによる福音書

1:1 わたしたちの間で実現したさまざまな事柄について,

1:2 初めからの目撃証人またみ言葉の奉仕者であった者たちがわたしたちに伝えたとおりに,その物語を順序正しくまとめようと,すでに多くの人が手を着けてきましたが,

1:3 わたしもすべての成り立ちを初めからつぶさにたどりましたので,テオフィロス閣下,あなたに順序正しく書いて差し上げるのが良いと思いました。

1:4 それは,学ばれた事柄が確実なものであることを知っていただくためです。

1:5 ユダヤの王ヘロデの時代に,アビヤの祭司組の者で,ザカリアという名の祭司がいた。彼にはアロンの娘である妻がいて,名をエリザベツといった。

1:6 二人とも神の前に正しい者で,主のすべてのおきてと法令の内を非の打ちどころなく歩んでいた。

1:7 しかし彼らには子供がなかった。エリザベツが不妊であり,二人ともかなり年を取っていたからである。

1:8 さて,彼が自分の組の順番に従って神の前で祭司職を務めていたときのこと,

1:9 祭司職の習慣に従って彼が主の聖所に入って香をたくことになった。

1:10 民の群衆はみな,香の時刻に外で祈っていた。

1:11 主のみ使いが彼に現われて,香の祭壇の右側に立っていた。

1:12 ザカリアはそれを見て動転し,恐れにとらわれた。

1:13 しかしみ使いは彼に言った,「恐れてはいけない,ザカリアよ,あなたの願いは聞き入れられたからだ。すなわち,あなたの妻エリザベツは,あなたに男の子を産むだろう。そして,あなたはその名をヨハネと呼ぶことになる。

1:14 あなたには歓喜と喜びとがあり,多くの人がその誕生を喜ぶだろう。

1:15 彼は主のみ前で大いなる者となり,ぶどう酒や酔わせる飲み物を飲まないからだ。彼は母の胎にいる時から聖霊に満たされるだろう。

1:16 彼は多くのイスラエルの子らを,その神なる主に立ち返らせるだろう。

1:17 彼はエリヤの霊と力のうちにそのみ前を行くだろう。『父たちの心を子供たちに立ち返らせ』,不従順な者たちを義人の知恵に立ち返らせ,準備のできた民を主のために備えるためだ」。

1:18 ザカリアはみ使いに言った,「どうしてそのことを信用できるでしょうか。わたしは老人ですし,わたしの妻もかなり年を取っているからです」。

1:19 み使いは彼に答えた,「わたしはガブリエル,神のみ前に立つ者だ。わたしはあなたに語るため,この良いたよりをあなたにもたらすために遣わされたのだ。

1:20 見よ,これらの事が起きるその日まで,あなたは声が出ず,ものが言えなくなるだろう。しかるべき時に実現するわたしのこれらの言葉を信じなかったからだ」。

1:21 民はザカリアを待っていたが,彼が聖所で手間取っているのを不思議に思っていた。

1:22 外に出て来た時,彼は彼らに話すことができなかった。そこで彼らは,彼が聖所で幻を見たのだと分かった。彼は彼らに手まねを続けるだけで,口がきけないままであった。

1:23 その奉仕の日々が満ちた時,彼は自分の家に帰って行った。

1:24 こうした日々ののち,彼の妻エリザベツは子を宿し,五か月の間引きこもって,こう言った,

1:25 「主はこのごろ,人々の中での恥辱を取り去るためにわたしに目を向けてくださり,わたしに対してこのようにしてくださいました」。

1:26 さて,六か月目に,み使いガブリエルが,神からガリラヤのナザレという名の町に遣わされた。

1:27 ダビデの家のヨセフという名の男と結婚を誓っていた,一人の処女のもとに遣わされたのである。その処女の名前はマリアといった。

1:28 み使いは入って来ると彼女に言った,「喜べ,大いに恵まれた者よ。主があなたと共におられる。女たちの中であなたは幸いな人だ!」

1:29 しかし,彼を見た時,彼女はその言葉にひどく動転し,いったいこれは何のあいさつなのだろうと考えていた。

1:30 み使いは彼女に言った,「恐れてはいけない,マリアよ,あなたは神からの恵みを見いだしたからだ。

1:31 見よ,あなたは胎内に子を宿し,男の子を産むだろう。そして,その名を『イエス』と呼ぶことになる。

1:32 彼は偉大になり,いと高き方の子と呼ばれるだろう。主なる神は彼にその父ダビデの王座をお与えになるだろう。

1:33 そして彼はヤコブの家を永久に支配することになる。彼の王国には終わりがないだろう」。

1:34 マリアはみ使いに言った,「どうしてそのようなことが起こり得るのでしょうか。わたしは処女ですのに」。

1:35 み使いは彼女に答えた,「聖霊があなたの上に臨み,いと高き方の力があなたを影で覆うだろう。それゆえにも,あなたから生まれる聖なる者は神の子と呼ばれることになる。

1:36 見よ,あなたの親族エリザベツも老齢で男の子を宿している。不妊と呼ばれていた彼女が六か月目になっている。

1:37 神によって語られたことはすべてが可能なのだ」。

1:38 マリアは言った,「ご覧ください,主の女召使いです。あなたのお言葉どおりのことがわたしに起きますように」。

み使いは彼女から去って行った。

1:39 そのころ,マリアは立ち上がり,急いで山岳地帯に向かい,ユダのある町に行き,

1:40 ザカリアの家に入ってエリザベツにあいさつした。

1:41 エリザベツがマリアのあいさつを聞いた時,その胎内で赤子が飛び跳ねて,エリザベツは聖霊に満たされた。

1:42 彼女は大声で叫んでこう言った,「女たちの中であなたは幸いな人,あなたの胎の実も幸いなもの! 

1:43 わたしはなぜこれほど恵まれているのでしょう,わたしの主の母がわたしのもとに来てくださるとは。

1:44 ご覧なさい,あなたのあいさつの声がわたしの耳に入った時,わたしの胎内の赤子は喜んで飛び跳ねたのです! 

1:45 信じた女は幸いです。主から語られた事柄は実現するからです!」

1:46 マリアは言った,

「わたしの魂は主をたたえます。
      

1:47 わたしの霊は,わたしの救い主なる神を喜びます。
      

1:48 卑しい身分の女召使いに目をとめてくださったからです。

ご覧ください,今からのち,あらゆる世代の人々がわたしを幸いな者と呼ぶでしょう。
      

1:49 強力な方がわたしのために大いなる事柄をなさったからです。
       そのみ名は神聖です。
      

1:50 そのあわれみは世々にわたり,その方を恐れる人々の上に臨みます。

1:51 主はそのみ腕で力を示されました。
       心の想いの高慢な者たちを散らされました。

1:52 君主たちをその座から引き降ろされました。
       そして身分の低い者たちを高くされました。

1:53 飢えた者たちを数々の良い物で満たされました。
       富んだ者たちを何も持たせないで帰らされました。

1:54 あわれみを忘れないために,ご自分の召使いイスラエルに助けを与えられました。
      

1:55 わmたしたちの父祖たちに,
       アブラハムとその子孫に対して永久に語られたとおりに」。

1:56 マリアは彼女のもとに三か月ほど滞在し,それから自分の家に帰って行った。

1:57 さて,エリザベツの出産する時が満ちて,彼女は男の子を産んだ。

1:58 彼女の隣人や親族は,主が彼女のためにそのあわれみを増してくださったと聞いて,彼女と共に喜んだ。

1:59 八日目のこと,人々が幼子に割礼を施すためにやって来て,彼を父の名にならってザカリアと呼ぼうとした。

1:60 その母は答えた,「それはいけません,ヨハネと呼ばれるのです」。

1:61 人々は彼女に言った,「あなたの親族の中ではその名によって呼ばれている者は一人もいない」。

1:62 人々はその父に向かって,その子を何と呼びたいのかと手まねをした。

1:63 彼は書き板を求め,「その名はヨハネ」と書いた。

人々はみな驚いた。

1:64 すぐに彼の口は開き,舌は解かれ,語り出して神を賛美した。

1:65 近くに住む人々すべての上に恐れが臨み,これらのすべての話がユダヤの山岳地帯のあらゆる所でうわさされた。

1:66 それを聞いた者たちはみな,それを自分の心に留めて,「この子はいったい何になるのだろう」と言った。主の手が彼と共にあった。

1:67 そmの父ザカリアは,聖霊に満たされ,預言してこう言った。

1:68 「イスラエルの神なる主が賛美されるように。
       その民に目を向けて請け戻しをされたからだ。

1:69 そして,その召使いダビデの家に,わたしたちのための救いの角を起こされた。
      

1:70 (古くからその聖なる預言者たちの口によって語られたとおりに。)
      

1:71 わたしたちの敵からの救い,またわたしたちを憎むすべての者の手からの救いを。

1:72 わたしたちの父祖たちにあわれみを示し,
       その聖なる契約を忘れないために。

1:73 わたしたちの父祖アブラハムに立てられた誓い,
      

1:74 それがわたしたちにもたらすことは,わたしたちが敵の手から解き放たれ,恐れることなくその方に仕えること,
      

1:75 わたしたちの命の日々の限り,神聖さと義のうちに,そのみ前で仕えることなのだ。

1:76 そして子供よ,お前はいと高き方の預言者と呼ばれるだろう。
       お前は主の面前を行き,その道を整え,
      

1:77 その民に罪の許しによる救いの知識を与えることになるからだ。

1:78 それは,わたしたちの神の優しいあわれみによる。
       そのあわれみによって,夜明けが高い所からわたしたちに訪れ,
      

1:79 闇と死の陰に座る者たちの上に輝き,
       わたしたちの足を平和の道に導くだろう」。

1:80 幼子は成長し,霊において強くなってゆき,イスラエルに対する公の出現の日まで寂しい所にいた。

 

2:1 さて,そのころ,全世界の住民登録をせよという布告が,カエサル・アウグストゥスから出た。

2:2 これは,クィリニウスがシリアの総督だった時に行なわれた,最初の登録であった。

2:3 すべての人が登録をするために,それぞれ自分の町に向かった。

2:4 ヨセフもナザレの町を出て,ガリラヤからユダヤに上って行き,ベツレヘムと呼ばれるダビデの町に入った。彼がダビデの家に属し,その一族だったからであり,

2:5 また,妻として彼に嫁ぐことを誓っており,妊娠していたマリアと共に登録するためであった。

2:6 彼らがそこにいる間に,彼女の出産する日が来た。

2:7 彼女は初子を産み,これを布の帯でくるんで,飼い葉おけの中に横たえた。宿屋に彼らの場所がなかったからである。

2:8 その同じ地方では,羊飼いたちが野宿をしながら,夜に自分たちの群れの番をしていた。

2:9 見よ,主のみ使いが彼らのそばに立ち,主の栄光が彼らの周りで輝いた。そのため彼らはおびえた。

2:10 み使いは彼らに言った,「恐れてはいけない。見よ,わたしはあなた方に,あらゆる民にとって大きな喜びとなる良いたよりをもたらすからだ。

2:11 すなわち,今日,ダビデの町で,あなた方に救い主,主なるキリストが生まれたのだ。

2:12 これがあなた方に対するしるしだ。あなた方は,布の帯にくるまり,飼い葉おけに横たえられている赤子を見つけるだろう」。

2:13 突然,天の大軍勢が,そのみ使いと共に神を賛美して,こう言った,

2:14 「いと高き所では栄光が神に,
       地上では平和が,善意の向かう人々に」。

2:15 み使いたちが彼らを離れて天に帰った時,羊飼いたちは互いに言い合った,「さあ,ベツレヘムに行って,主がわたしたちに知らせてくださった出来事を見て来よう」。

2:16 急いでやって来て,マリアとヨセフ,そして飼い葉おけに横たわっている赤子を見つけた。

2:17 これを見ると,この子供について自分たちに語られた言葉を広く告げ知らせた。

2:18 これを聞いた者たちは,羊飼いたちによって自分たちに語られた事柄を不思議に思った。

2:19 しかしマリアは,これらのことをよく考えながら,これらのすべての言葉を自分の心にとどめた。

2:20 羊飼いたちは,自分たちが見聞きしたすべての事柄のゆえに,神に栄光をささげ,賛美しながら戻って行った。自分たちに告げられたとおりだったのである。

2:21 子供の割礼のための八日が満ちると,彼の名はイエスと呼ばれた。彼が胎内に宿る前にみ使いによって与えられた名である。

2:22 モーセの律法による彼らの清めの日々が満ちた時,彼らは彼をエルサレムに連れ上った。彼を主にささげるため,

2:23 (主の律法に,「胎を開くすべての男子は,主にとって聖なる者と呼ばれなければならない」と書かれているとおりである。)

2:24 また,主の律法で「一つがいのコキジバトか二羽のハト」と言われているところに従って,犠牲をささげるためであった。

2:25 見よ,エルサレムにシメオンという名の人がいた。この人は正しく敬けんな人で,イスラエルの慰めを待ち望んでおり,聖霊がその上にあった。

2:26 彼には,主の キリストを見るまでは死を見ることはないと,聖霊によって示されていた。

2:27 彼は霊のうちに神殿に入って来た。両親が幼子イエスを,彼に関して律法の慣習どおりに行なうために連れて来ると,

2:28 その時シメオンは,彼を両腕に抱き取り,神を賛美してこう言った,

2:29 「今こそあなたはご自分の召使いを去らせてくださいます,ご主人様,
       あなたのお言葉どおり,平安のうちに。

2:30 わたしの両目はあなたの救いを見たからです。
      

2:31 あなたがあらゆる民の面前に備えられた救いを。

2:32 異邦人たちに対する啓示の光,
       またご自分の民イスラエルの栄光を」。

2:33 ヨセフとその妻は,彼について語られた事柄を不思議に思っていた。

2:34 するとシメオンは彼らを祝福し,その母マリアに言った, 「見なさい,この子はイスラエルの多くの人を倒れさせ,また起き上がらせるために,また敵対を受けるしるしとして定められている。

2:35 実に,剣があなたの魂を刺し通すだろう。多くの者の心の思いが明らかにされるためだ」。

2:36 アシェル族のファヌエルの娘で,アンナという女預言者がいた。(高齢で,処女のときから七年間夫と共に暮らしたが,

2:37 およそ八十四歳の今になるまでやもめであった。)神殿を離れず,夜も昼も断食と祈願とをもって崇拝していた。

2:38 ちょうどその時刻に,彼女は主に感謝をささげ,エルサレムにおける請け戻しを待ち望んでいるすべての人々に,彼について語り始めた。

2:39 主の律法に基づいたすべての事柄を成し遂げると,彼らはガリラヤへ,自分たちの町ナザレへ戻って行った。

2:40 幼子は成長し,霊において強くなってゆき,知恵に満たされ,神の恵みがその上にあった。

2:41 彼の両親は,過ぎ越しの祭りの時には毎年エルサレムに行った。

2:42 彼が十二歳の時,彼らは祭りの習慣に従ってエルサレムに上って行ったが,

2:43 祭mmりの日々を満たして帰る時,少年イエスはエルサレムに残っていた。ヨセフとその妻はそれを知らず,

2:44 彼が道連れの中にいるものと思い,一日分の道のりを行ってから,親族や知人たちの中で彼を探した。

2:45 彼が見つからなかったので,彼を探しながらエルサレムに戻った。

2:46 三日後に神殿の中で彼を見つけた。彼は教師たちの真ん中に座り,彼らの話すことを聞いたり,彼らに質問したりしていた。

2:47 彼の話すことを聞いた人々はみな,その理解力と答えとに驚いていた。

2:48 両親は彼を見てびっくりした。その母は彼に言った,「息子よ,なぜわたしたちにこんなことをしたのですか。見なさい,あなたのお父さんとわたしは心配しながらあなたを探していたのです」。

2:49 彼は彼らに言った, 「なぜわたしを探したのですか。わたしが自分の父の家にいるはずだ,ということをご存じなかったのですか」。

2:50 彼らは,彼が自分たちに語った言葉を理解できなかった。

2:51 それから彼は彼らと共に下って行き,ナザレに来た。彼は彼らに服していたが,彼の母はこれらのすべての言葉を自分の心にとどめた。

2:52 そしてイエスは,知恵と背丈においても,また神と人からの好意においても,増し加わっていった。

 

3:1 さて,ティベリウス・カエサルの治世の第十五年,ポンティウス・ピラトがユダヤの総督,ヘロデがガリラヤの領主,その兄弟フィリポがイトゥリアとトラコニティスの領主,リュサニアスがアビレネの領主,

3:2 アンナスとカイアファスが大祭司であったころ,神の言葉が荒野でザカリアの子ヨハネに臨んだ。

3:3 彼はヨルダン周辺の全地方に行って,罪の許しのための悔い改めのバプテスマを宣教していた。

3:4 預言者イザヤの言葉の書の中にこう書かれているとおりである。

「荒野で叫ぶ者の声がする,
       『主の道を整えよ。

その道筋をまっすぐにせよ。
      

3:5 すべての谷間は埋められるだろう。

すべての山と丘とは低くされるだろう。
       曲がったところはまっすぐにされ,
       でこぼこの道は平らにされるだろう。

3:6 すべての肉なる者は神の救いを見るだろう』」。

3:7 そこで彼は,彼からバプテスマを受けようとして出て来た群衆に言った, 「マムシらの子孫よ,来ようとしている憤りから逃れるようにと,だれがあなた方に告げたのか。

3:8 それなら,悔い改めにふさわしい実を生み出しなさい。『我々の父にアブラハムがいる』などと自分の内で言い始めてはいけない。あなた方に告げるが,神はこれらの石からでもアブラハムに子孫を起こすことができるのだ。

3:9 おのはすでに木々の根もとに置かれている。だから,良い実を生み出さない木はみな切り倒されて,火の中に投げ込まれるのだ」。

3:10 群衆は彼に尋ねた,「わたしたちは何をすればよいのですか」。

3:11 彼は彼らに答えた,「二枚の上着を持っている者は,持っていない者に与えなさい。食物を持っている者も,同じようにしなさい」。

3:12 徴税人たちもバプテスマを受けに来て,彼に言った,「先生,わたしたちは何をすればよいのですか」。

3:13 彼は彼らに言った,「自分に定められたより多くを取り立ててはいけない」。

3:14 兵士たちも彼に尋ねて言った,「わたしたちについてはどうですか。わたしたちは何をすればよいのですか」。

彼は彼らに言った,「人から乱暴にゆすり取ったり,不当に非難したりしてはいけない。自分の給料で満足しなさい」。

3:15 民は待ち望んでおり,すべての者がヨハネについて,彼がキリストなのではないかと心の中で論じていたので,

3:16 ヨハネは皆に答えた,「わたしは確かに,あなた方に水でバプテスマを施しているが,わたしより強力な方が来られる。わたしはその方のサンダルの締めひもをほどくにも値しない。その方は,あなた方に聖霊と火でバプテスマを施すだろう。

3:17 あおり分けるものがその手にあり,その脱穀場をすっかりきれいにし,小麦をその倉に集め,もみ殻のほうは消すことのできない火で焼き尽くすだろう」。

3:18 こうして,他にも多くのことを勧めながら,民に良いたよりを宣教した。

3:19 ところが,領主ヘロデは,自分の兄弟の妻ヘロディアに関して,またヘロデが行なったすべての悪いことに関して彼に戒められたので,

3:20 それらのすべての行為に加えて,ヨハネをろうやに閉じ込めた。

3:21 民が皆バプテスマを受けている時のこと,イエスもバプテスマを受け,祈っていた。天が開いて,

3:22 聖霊がハトのような姿で彼の上に下って来た。そして,天から出て来た声が言った,「あなたはわたしの愛する子,わたしの心にかなう者である」。

3:23 イエス自身は,教え始めた時およそ三十歳で,(一般の見方では)ヨセフの子,ヘリの子,

3:24 マタトの子,レビの子,メルキの子,ヤナイの子,ヨセフの子,

3:25 マタティアの子,アモスの子,ナウムの子,エスリの子,ナガイの子,

3:26 マアトの子,マタティアの子,セメインの子,ヨセフの子,ユダの子,

3:27 ヨハナンの子,レサの子,ゼルバベルの子,シャルティエルの子,ネリの子,

3:28 メルキの子,アディの子,コサムの子,エルモダムの子,エルの子,

3:29 ヨサの子,エリエゼルの子,ヨリムの子,マタトの子,レビの子,

3:30 シメオンの子,ユダの子,ヨセフの子,ヨナンの子,エリアキムの子,

3:31 メレアの子,メナンの子,マタタの子,ナタンの子,ダビデの子,

3:32 エッサイの子,オベドの子,ボアズの子,サルモンの子,ナフションの子,

3:33 アミナダブの子,アラムの子,ヨラムの子,ヘツロンの子,ペレツの子,ユダの子,

3:34 ヤコブの子,イサクの子,アブラハムの子,テラの子,ナホルの子,

3:35 セルグの子,レウの子,ペレグの子,エベルの子,シェラの子,

3:36 カイナンの子,アルパクシャドの子,セムの子,ノアの子,レメクの子,

3:37 メトセラの子,エノクの子,ヤレドの子,マハラルエルの子,カイナンの子,

3:38 エノスの子,セツの子,アダムの子,神の子であった。

 

4:1 イエスは聖霊に満ちてヨルダンから戻り,霊によって荒野の中を連れ回されて

4:2 四十日に及び,悪魔の誘惑を受けていた。それらの日々の間,何も食べなかった。そののち,その期間が終わると,空腹を感じた。

4:3 悪魔は彼に言った,「もしあなたが神の子なら,この石がパンになるように命じなさい」。

4:4 イエスは彼に答えて言った, 「『人はパンだけで生きるのではなく,神のすべての言葉によって生きなければならない』と書いてある」。

4:5 悪魔は彼を高い山の上に連れて行き,またたく間に世のすべての王国を見せた。

4:6 悪魔は彼に言った,「このすべての権力とこれらの栄光をあなたに与えよう。それはわたしに渡されており,わたしは自分が望む者にそれを与えるからだ。

4:7 もしあなたがわたしを拝むなら,すべてはあなたのものになるだろう」。

4:8 イエスは彼に答えた, 「サタンよ,わたしの後ろに下がれ! 『あなたの神なる主をあなたは崇拝しなければならず,その方だけに仕えなければならない』と書いてあるからだ」。

4:9 悪魔は彼をエルサレムに連れて来て,神殿の高い所に立たせて,彼に言った,「もしあなたが神の子なら,ここから下に身を投げなさい。

4:10 こう書いてあるからだ,

『神はあなたについてご自分のみ使いたちに指示をお与えになり,あなたを守られるだろう』,

4:11 そして,

『彼らはその手であなたを支え,
       あなたが石に足を打ちつけることのないようにする』」。

4:12 イエスは答えて彼に言った, 「『あなたは,あなたの神なる主を試みてはならない』とも書いてある」。

4:13 悪魔はすべての誘惑を終え,別の時が来るまで彼から離れた。

4:14 イエスは霊の力のうちにガリラヤに戻ったが,彼についての知らせは周囲の全地方に広がった。

4:15 すべての人から栄光を与えられながら,彼らの会堂で教えた。

4:16 自分が育てられたナザレに来た。安息日に自分の習慣どおりに会堂に入り,朗読のために立ち上がった。

4:17 預言者イザヤの書が彼に手渡された。彼はその書を開き,こう書かれている箇所を見つけた。

4:18 「主の霊がわたしの上にある。
       貧しい者たちに良いたよりを宣教するために,わたしに油を注いでくださったからだ。

主はわたしを遣わされた。心の打ち砕かれた者たちをいやすため,
       捕らわれた者たちに解放を宣明するため,
       目の見えない者たちに視力の回復を宣明するため,
       圧迫されている者たちを解放するため,
      

4:19 そして主の受け入れられる年を宣明するために」。

4:20 その書を閉じ,それを係の者に返して,腰を下ろした。会堂にいる皆の目が彼に注がれた。

4:21 彼は彼らに告げ始めた, 「この聖句は,あなた方が耳にしたこの日に果たされた」。

4:22 皆は彼について良い証言をし,彼の口から出て行く数々の恵み深い言葉に驚いた。そして言った,「これはヨセフの子ではないか」。

4:23 彼は彼らに言った, 「あなた方はきっとこのたとえをわたしに告げるだろう,『医者よ,自分自身を治せ! カペルナウムでなされたと聞いたことすべてを,ここ,あなたの故郷でもやってくれ』」。

4:24 彼は言った, 「本当にはっきりとあなた方に告げるが,自分の故郷で受け入れられた預言者はいない。

4:25 そして,本当にあなた方に告げるが,エリヤの日々,天が三年と六か月の間閉じられ,大ききんが全地を襲ったとき,イスラエルには多くのやもめがいた。

4:26 エリヤはそのうちのだれのもとにも遣わされず,ただシドンの地のザレファツに,やもめである一人の女のもとにだけ遣わされた。

4:27 預言者エリシャの時に,イスラエルには多くのらい病人がいたが,彼らのうち一人も清められず,ただシリア人ナアマンだけが清められた」。

4:28 これらの事柄を耳にして,会堂にいた彼らは皆憤りに満たされた。

4:29 立ち上がって,彼を町の外に投げ出し,彼らの町の建っている丘のがけっぷちまで連れて行き,彼を絶壁から投げ落とそうとした。

4:30 しかし彼は,彼らの真ん中を通り抜けて,去って行った。

4:31 ガリラヤの町カペルナウムに下って行った。安息日に彼らを教えていたが,

4:32 人々は彼の教えに驚いた。その言葉には権威があったからである。

4:33 会堂には汚れた悪霊の霊に付かれた男がいて,大声で叫んで

4:34 言った,「ああ! ナザレ人イエスよ,わたしたちはあなたと何のかかわりがあるのか。わたしたちを滅ぼしに来たのか。わたしはあなたがだれだか知っている。神の聖なる方だ!」

4:35 イエスは彼をしかりつけて言った, 「黙れ。この人から出て行け!」 悪霊は,人々の真ん中にその人を投げ倒すと,傷を負わせずに彼から出て行った。

4:36 驚きがすべての者に臨み,人々は互いに語り合って言った,「この言葉はいったい何だ。彼は汚れた霊に権威と力をもって命じる。すると彼らはこの人から出て行くのだ!」 

4:37 彼についての知らせは,周囲の地方の至る所に伝わった。

4:38 彼は会堂から立ち上がり,シモンの家に入った。シモンのしゅうとめが高い熱で苦しんでいて,人々は彼女のことで彼に懇願した。

4:39 彼は彼女のそばに立ち,熱をしかりつけた。すると熱は引いた。すぐに彼女は起き上がって彼らに仕えた。

4:40 日が沈むと,さまざまな疾患を持つ病人を抱えている者たちが皆,彼らを彼のもとに連れて来た。彼は,そのひとりひとりの上に両手を置いて,彼らをいやした。

4:41 悪霊たちも,「あなたは神の子キリストだ!」と叫んで言いながら,多くの人々から出て来た。彼は彼らをしかりつけ,彼らが語ることを許さなかった。彼らが彼はキリストだと知っていたからである。

4:42 朝になると,彼は出発し,人の住んでいない場所に行ったが,群衆が彼を探し回り,彼のもとにやって来て,自分たちのところから去って行かないよう彼を引き留めた。

4:43 しかし,彼は彼らに言った, 「わたしはほかの町々にも神の王国の良いたよりを宣教しなければならない。わたしはそのために遣わされたからだ」。

4:44 そして,ガリラヤの諸会堂で宣教していた。

 

5:1 さて,群衆が彼に押し迫って,神の言葉を聞いていたときのこと,彼はゲネサレト湖のほとりに立っていた。

5:2 湖のほとりに二そうの舟があるのを目にしたが,漁師たちはそれらの舟から下りて,自分たちの網を洗っていた。

5:3 そのうちの一そうのシモンの舟に乗り込み,彼に陸から少しこぎ出すように頼んだ。腰を下ろして,舟から群衆を教えた。

5:4 語り終えると,シモンに言った, 「深いところにこぎ出して,漁のためにあなた方の網を下ろしなさい」。

5:5 シモンは彼に言った,「師よ,わたしたちは夜通し働いても,何も取れませんでした。でも,あなたのお言葉ですから,網を下ろしてみます」。

5:6 それを行なうと,彼らは魚の大群を捕らえ,彼らの網は裂け始めた。

5:7 彼らはほかの舟にいる仲間たちに,やって来て自分たちを手助けするようにと合図を送った。彼らが来て,両方の舟をいっぱいにしたので,それらは沈み始めた。

5:8 それで,シモン・ペトロはこれを見て,イエスのひざもとにひれ伏し,言った,「わたしからお離れください。わたしは罪深い男なのです,主よ」。

5:9 というのは,自分たちが捕った魚の多さに,彼も,彼と共にいたすべての者も,びっくりしたからである。

5:10 また,シモンの仲間であったゼベダイの息子たち,すなわちヤコブとヨハネも同じようであった。

イエスはシモンに言った, 「恐れてはいけない。今からのち,あなたは人々を生け捕るだろう」。

5:11 彼らは自分たちの舟を陸に着けると,すべてを残して彼に従った。

5:12 彼がある町にいた間のこと,見よ,全身らい病の男がいた。イエスを見ると,顔を地に伏せて,彼に懇願して言った,「主よ,あなたは,もしそうお望みになれば,わたしを清くすることがおできになります」。

5:13 イエスは手を伸ばして彼に触り,こう言った, 「わたしはそう望む。清くなりなさい」。

すぐにらい病は彼から去った。

5:14 イエスは彼に,だれにも言わないように命じた。 「ただ行って,自分の体を祭司に見せ,あなたの清めのためにモーセの命じたとおりにささげ物をしなさい。人々への証明のためだ」。

5:15 しかし,彼についての知らせはますます広まって行き,話を聞くため,また自分たちの病弱さを彼にいやしてもらうために,大群衆がやって来た。

5:16 しかし,彼は寂しい所に引きこもり,祈っていた。

5:17 ある日,彼が教えていると,ファリサイ人たちと律法の教師たちとがそこに座っていた。ガリラヤとユダヤとのあらゆる村々およびエルサレムから出て来た者たちである。人々をいやすために,主の力が彼と共にあった。

5:18 見よ,男たちが彼のもとに,体のまひした人を寝床に載せて運んで来た。そして,その人を運び込んでイエスの前に横たえようとした。

5:19 群衆のせいで彼を運び入れる方法が見つからなかったので,屋上に上ってかわらをはがし,そこを通して彼の寝床をイエスの真ん前に下ろした。

5:20 イエスは彼らの信仰を見て,体のまひした人に言った。 「人よ,あなたの罪は許された」。

5:21 律法学者たちとファリサイ人は,論じ始めて言った,「冒とくを語るこの人はだれなのか。神おひとりのほか,だれが罪を許せるだろうか」。

5:22 しかしイエスは,彼らの考えに気づき,彼らに答えた, 「なぜあなた方は心の中でそのように論じているのか。

5:23 『あなたの罪は許されている』と告げるのと,『起き上がって歩きなさい』と言うのでは,どちらがたやすいか。

5:24 だが,人の子が地上で罪を許す権威を持っていることをあなた方が知るために」(体のまひした人に言った), 「あなたに告げる。起き上がって,寝床を取り上げて,自分の家に帰りなさい」。

5:25 すぐに彼は人々の前で起き上がり,自分が横たわっていた床を取り上げて,神に栄光をささげながら,自分の家に帰って行った。

5:26 驚きがすべての者をとらえ,彼らは神に栄光をささげた。彼らは恐れに満たされて言った,「今日は不思議なことを見た」。

5:27 こうした事の後,イエスは出て行き,収税所に座っているレビという名の徴税人を見て, 「わたしに従いなさい!」と言った。

5:28 彼はすべてを残し,立ち上がってイエスに従った。

5:29 レビは彼のために自分の家で大きな祝宴を催した。徴税人たちやほかの者たちからなる大群衆が彼らと共に横になっていた。

5:30 彼らの律法学者たちとファリサイ人たちは,彼の弟子たちに対して不平を言った,「なぜあなた方は,徴税人たちや罪人たちと共に食べたり飲んだりするのか」。

5:31 イエスは彼らに答えた, 「健康な人たちに医者は必要でなく,病気の人たちに必要なのだ。

5:32 わたしは義人たちではなく,罪人たちを悔い改めへと呼び寄せるために来た」。

5:33 彼らは彼に言った,「ヨハネの弟子たちはたびたび断食と祈りをし,ファリサイ人の弟子たちも同じようにしているのに,あなたの弟子たちが食べたり飲んだりしているのはなぜですか」。

5:34 彼は彼らに言った, 「あなた方は,花婿の友人たちに,花婿が共にいるのに断食させられるだろうか。

5:35 だが,花婿が彼らから取り去られる日々が来る。それらの日々には,彼らは断食するだろう」。

5:36 たとえでも彼らに語った。 「新しい衣から取った布切れを古い衣に当てる人はいない。そんなことをすれば,新しい衣が破けてしまうし,新しい衣から取った布切れは古い衣には合わないだろう。

5:37 新しいブドウ酒を古い皮袋に入れる人はいない。そんなことをすれば,新しいブドウ酒は皮袋を破裂させ,ブドウ酒は流れ出て,皮はだめになるだろう。

5:38 そうではなく,新しいブドウ酒は新しい皮袋に入れられるべきだ。そうすればどちらも長持ちするのだ。

5:39 古いブドウ酒を飲んで,すぐに新しいブドウ酒を欲しがる者はいない。その者は,『古いのが良い』と言うからだ」。

 

6:1 さて,最初の安息日の次の安息日に,彼が穀物畑を通り抜けていたときのことである。彼の弟子たちは穀物の穂を摘み,両手でこすり合わせて食べ始めた。

6:2 しかしファリサイ人たちが彼らに言った,「なぜあなた方は安息日に許されていないことをしているのか」。

6:3 イエスは彼らに答えて言った, 「ダビデが,自分も共にいた者たちも空腹だったときに何をしたか,あなた方は一度も読んだことがないのか。

6:4 彼がどのようにして神の家に入り,ただ祭司たちのほかは食べることが許されていない供えのパンを取って食べ,共にいた者たちにも与えたかを」。

6:5 彼は彼らに言った, 「人の子は安息日の主なのだ」。

6:6 また別の安息日に,会堂に入って教えていたときのことである。一人の人がそこにいたが,その右手はなえていた。

6:7 律法学者たちとファリサイ人たちは,安息日にいやすかどうか,彼の様子をうかがっていた。彼に不利な罪状を見つけるためであった。

6:8 しかし彼は彼らの考えを知って,片手のなえた人に, 「起き上がって,真ん中に立ちなさい」と言った。彼は起き上がって立った。

6:9 イエスは彼らに言った, 「あなた方に尋ねよう。安息日に許されているのは,善を行なうことか,害を加えることか。命を救うことか,殺すことか」。

6:10 彼は彼らすべてを見回して, 「あなたの手を伸ばしなさい」とその人に言った。そのようにすると,その手はもう一方の手と同じようによくなった。

6:11 しかし彼らは激怒に満たされ,イエスに対して何をしようかと語り合った。

6:12 そのころ,彼は祈るために山に出て行き,夜通し神に祈り続けていた。

6:13 朝になると,弟子たちを呼び寄せて,その中から十二人を選び出し,これを使徒とも名付けた。

6:14 彼がペトロとも名付けたシモン,その兄弟アンデレ,ヤコブ,ヨハネ,フィリポ,バルトロマイ,

6:15 マタイ,トマス,アルファイオスの子ヤコブ,熱心党と呼ばれたシモン,

6:16 ヤコブの子ユダ,それにユダ・イスカリオト。このユダはまた,裏切り者になった者でもある。

6:17 彼は彼らと共に下りて行き,平らな所に立った。弟子たちからなる群衆,また,全ユダヤとエルサレム,およびテュロスとシドンの海岸から来たおびただしい数の人々が共にいた。彼らがやって来るのは,彼の話を聞くため,また自分たちの疾患をいやしてもらうためであった。

6:18 汚れた悪霊に悩まされている者たちもいたが,彼らはいやされた。

6:19 群衆はみな彼に触ろうとした。彼のもとから力が出て来て,彼らすべてをいやしたからである。

6:20 彼は弟子たちに向かって目を上げて,こう言った。

「貧しいあなた方は幸いだ,
       神の王国はあなた方のものだからだ。

6:21 飢えているあなた方は幸いだ,
       あなた方は満たされるからだ。

今泣いているあなた方は幸いだ,
       あなた方は笑うようになるからだ。

6:22 人々があなた方を憎むとき,また人の子のゆえにあなた方を締め出し,あざけり,あなた方の名を悪いものとして退けるとき,あなた方は幸いだ。
      

6:23 その日には喜んで飛び跳ねなさい。見よ,天においてあなた方の報いは大きいからだ。彼らの父祖たちは預言者たちにも同じようにしたのだ。

6:24 「だが,富んでいるあなた方は災いだ!
       あなた方は自分の慰めをすでに受けているからだ。

6:25 今満たされているあなた方,そのあなた方は災いだ!
       あなた方は飢えるようになるからだ。

今笑っているあなた方は災いだ!
       あなた方は泣き悲しむようになるからだ。

6:26 *人々があなた方のことを良く言うときには, *災いだ! 
       彼らの父祖たちは偽預言者たちにも同じことをしたのだ。

6:27 「だが,聞いているあなた方に告げる。敵を愛し,憎む者たちに良いことをし,

6:28 のろう者たちを祝福し,虐待する者たちのために祈りなさい。

6:29 あなたの一方のほおを打つ者には,反対側をも差し出しなさい。外衣を取り去る者には,上着をも拒んではいけない。

6:30 求めるすべての者には与えなさい。そして,あなたの持ち物を取り去る者からは,返してもらおうとしてはいけない。

6:31 「人々からして欲しいと思うことを,人々にもちょうど同じようにしなさい。

6:32 自分を愛してくれる者たちを愛したからといって,それがあなた方に何の名誉になるだろうか。罪人たちでさえ,自分を愛してくれる者たちを愛するのだ。

6:33 自分に良いことをしてくれる者たちに良いことをしたからといって,それがあなた方に何の名誉になるだろうか。罪人たちでさえ,同じことをしているのだ。

6:34 返してもらうことを期待して貸したからといって,それがあなた方に何の名誉になるだろうか。罪人たちでさえ,同じだけ取り戻そうとして,罪人たちに貸しているのだ。

6:35 そうではなく,あなた方の敵を愛し,良いことをし,返してもらうことを期待せずに貸しなさい。そうすればあなた方の報いは大きく,あなた方はいと高き方の子らになるだろう。その方は,感謝しない悪い者たちにも親切であられるからだ。

6:36 「だから,あなた方の父もあわれみ深いように,
       あわれみ深くなりなさい。

6:37 裁いてはいけない,
       そうすれば裁かれないだろう。

罪に定めてはいけない,
       そうすれば罪に定められることはないだろう。

許しなさい,
       そうすれば許されるだろう。

6:38 「与えなさい,そうすれば与えられるだろう。押し入れ,揺すり入れ,あふれ出るほどに良いはかりで,あなた方に与えられるだろう。あなた方が量るその同じはかりで,あなた方に量り返されるだろう」。

6:39 彼は彼らにたとえを語った。 「盲人が盲人を案内できるだろうか。両方とも穴に落ちてしまわないだろうか。

6:40 弟子はその教師より上ではないが,十分に訓練された者はその教師のようになるのだ。

6:41 なぜあなたは,兄弟の目の中にあるわらくずは見るのに,自分の目の中にある丸太のことを考えないのか。

6:42 また,あなた自身は自分の目の中にある丸太を見ないのに,どうして兄弟に『兄弟,あなたの目からそのわらくずを取らせてくれ』と言えるのか。偽善者よ! まず自分の目から丸太を取り出しなさい。そうすればあなたは,はっきりと見えて,兄弟の目からわらくずを取り出すことができるだろう。

6:43 良い木が腐った実を生み出すことはなく,腐った木が良い実を生み出すこともないのだ。

6:44 というのは,それぞれの木はその実によって知られるからだ。人々はイバラからイチジクを集めることはないし,ノバラの茂みからブドウを集めることもないのだ。

6:45 善い者は自分の心の良い宝の中から良いものを取り出し,悪い者は自分の心の悪い宝の中から悪いものを取り出す。心に満ちあふれているものの中から,人の口は語るからだ。

6:46 「なぜあなた方は,『主よ,主よ』とわたしを呼びながら,わたしの言う事柄を行なわないのか。

6:47 わたしのもとに来て,わたしの数々の言葉を聞き,それらを行なうすべての者が,何に似ているかをあなた方に示そう。

6:48 彼は,深く掘り下げ,岩の上に土台を据えて家を建てる人に似ている。洪水が起こり,激流が家に打ち当たったが,それは揺り動かなかった。岩の上に土台を据えていたからだ。

6:49 だが,聞いても行なわない者は,土台なしで地面の上に家を建てた人に似ている。激流が打ち当たると,それはすぐに倒れ,その損壊はひどいものだった」。

 

7:1 彼は話を民に聞かせ終わると,カペルナウムに入って行った。

7:2 一人の百人隊長の召使いで,彼にとって大切な者が,病気で死にかかっていた。

7:3 彼はイエスについて聞くと,そのもとにユダヤ人の長老たちを遣わし,やって来て自分の召使いを救ってくれるよう,彼に頼んだ。

7:4 イエスのもとに来ると,彼らは彼に真剣に懇願して言った,「あの方は,このことをしていただくのにふさわしい人です。

7:5 わたしたちの民族を愛して,わたしたちのために会堂を建ててくれたのです」。

7:6 イエスは彼らと共に出かけた。彼がその家からあまり遠くない所まで来た時,その百人隊長は友人たちを彼のもとに遣わして,彼に言った,「主よ,お手数をかけるには及びません。わたしは自分の屋根の下にあなたをお迎えするほどの者ではないからです。

7:7 そのために,あなたのもとに伺うことさえふさわしくないと思ったのです。むしろ,お言葉を下さい。そうすればわたしの召使いはいやされるでしょう。

7:8 というのも,わたしも権威の下に置かれた者ですが,わたしの下にも兵士たちがいます。わたしがある者に『行け!』と言えば行きますし,別の者に『来い!』と言えば来ます。またわたしの召使いに『これをしろ』と言えばそれをします」。

7:9 イエスはこれらの事柄を聞くと,彼について驚嘆し,自分に従っている者たちに言った, 「あなた方に告げるが,イスラエルにおいて,わたしはこれほどの信仰を見いだしたことがない」。

7:10 遣わされた者たちがその家に戻ってくると,病気であった召使いがよくなっているのを見た。

7:11 その後すぐ,彼はナインと呼ばれる町に行った。大勢の弟子たちと大群衆が彼に伴っていた。

7:12 彼が町の門に近づくと,見よ,死んだ者が運び出されるところであった。それは,やもめである母親の一人息子であった。大勢の町の人々が彼女と共にいた。

7:13 主は彼女を見ると,彼女に対して哀れみを抱き,彼女に言った, 「泣いてはいけない」。

7:14 近づいてひつぎに触れると,運んでいる者たちは立ち止まった。彼は言った, 「若者よ,あなたに告げる,起きなさい!」 

7:15 死んでいた者は起き直り,ものを言い始めた。そしてイエスは彼をその母に渡した。

7:16 みんなは恐れを抱き,神に栄光をささげて言った,「偉大な預言者がわたしたちの間に起こされた!」 また,「神はその民に目を向けてくださった!」 

7:17 彼に関するこの知らせは,ユダヤ全土および周囲の全地域に出て行った。

7:18 ヨハネの弟子たちは,これらすべてのことについてヨハネに告げた。

7:19 ヨハネは自分の弟子のうちの二人を呼び寄せ,彼らをイエスのもとに遣わして,「あなたが来たるべき方なのですか。それとも,わたしたちはほかの方を待つべきでしょうか」と言わせた。

7:20 その者たちはイエスのもとに来て言った,「バプテスマを施す人ヨハネがわたしたちをあなたのもとに遣わして,『あなたが来たるべき方なのですか。それとも,わたしたちはほかの方を待つべきでしょうか』と申しました」。

7:21 その時に,彼は疾患や伝染病や悪い霊から多くの人をいやし,目の見えない多くの人に視力を与えていた。

7:22 イエスは彼らに答えた, 「行って,あなた方が見聞きしている事柄をヨハネに告げなさい。目の見えない人たちは見えるようになり,足の不自由な人たちは歩き,らい病の人たちは清められ,耳の聞こえない人たちは聞き,死んだ人たちは生き返らされ,貧しい人たちには良いたよりが宣教されている。

7:23 わたしに背かない者は幸いだ」。

7:24 ヨハネの使いの者たちが去って行くと,彼は群衆にヨハネについてこう告げ始めた。 「あなた方は何を見るために荒野へ出て行ったのか。風に揺れるアシか。

7:25 そうでなければ,何を見るために出て行ったのか。柔らかな衣を着た人か。見よ,豪華に装って優美に暮らしている者たちなら王たちの家にいる。

7:26 そうでなければ,なぜ出て行ったのか。預言者か。そうだ,あなた方に言うが,預言者よりはるかに優れた者だ。

7:27 この者こそ,このように書かれている者だ。

『見よ,わたしはあなたの面前にわたしの使者を遣わす。
       その者はあなたの前に道を整えるだろう』。

7:28 「本当にはっきりとあなた方に告げる。女から生まれた者の中で,バプテスマを施す人ヨハネより偉大な者はいない。だが,神の王国で最も小さな者も,彼よりは偉大だ」。

7:29 すべての民と徴税人たちがそれを聞いた時,彼らは,ヨハネのバプテスマを受けることにより,神の正しさを宣言した。

7:30 しかし,ファリサイ人たちと律法の専門家たちは,彼からバプテスマを受けないことにより,神の勧めをはねのけた。

7:31 しかし主は言った, 「わたしはこの世代の人々を何にたとえようか。彼らは何に似ているだろうか。

7:32 彼らは,市場に座って,互いに叫び合っている子供たちに似ている。こう言うのだ,『君たちのために笛を吹いたのに,踊ってくれなかった。君たちのために悲しんだのに,泣いてくれなかった』。

7:33 というのも,バプテスマを施す人ヨハネがやって来て,パンを食べもせず,ぶどう酒を飲みもしないと,あなた方は,『彼には悪霊がいる』と言う。

7:34 人の子がやって来て食べたり飲んだりすると,あなた方は,『見ろ,大食いの大酒飲み,徴税人たちや罪人たちの友!』と言う。

7:35 知恵はその実によって,正しいことが証明されるのだ」。

7:36 ファリサイ人たちのうちのある者が,一緒に食事をするよう彼を招いた。彼はそのファリサイ人の家に入り,食卓に着いた。

7:37 見よ,罪人である一人の女がその町にいたが,彼がファリサイ人の家で横になっていると知ると,香油の入った雪花石こうのつぼを持って来た。

7:38 泣きながら後ろから彼の足もとに進み寄り,自分の涙で彼の両足をぬらし始め,自分の髪でそれらをぬぐい,その両足に口づけし,それらに香油を塗った。

7:39 彼を招待したファリサイ人はこれを見て,自分の中で言った,「この人がもし預言者なら,自分に触っているこの者がだれで,どんな女なのか分かるはずだ。罪人だということを」。

7:40 イエスは彼に答えた, 「シモン,あなたに言うことがある」。

彼は言った,「先生,おっしゃってください」。

7:41 「ある貸し主に二人の借り主がいた。一人は五百デナリ,もう一人は五十デナリを借りていた。

7:42 彼らが返済できないので,彼は彼ら両方の借金を帳消しにしてやった。それで,彼らのうちどちらが彼をいちばん多く愛するだろうか」。

7:43 シモンは答えた,「いちばん多く許されたほうだと思います」。

イエスは彼に言った, 「あなたは正しく判断した」。

7:44 その女のほうを向いて,シモンに言った, 「あなたはこの女が目に入るか。わたしがあなたの家に入っても,あなたは足を洗う水をくれなかったが,彼女はわたしの両足をその涙でぬらし,それらをその髪でぬぐった。

7:45 あなたはわたしに口づけしてくれなかったが,彼女は,わたしが入って来た時から,わたしの両足に口づけしてやまなかった。

7:46 あなたはわたしの頭に油を塗ってくれなかったが,彼女はわたしの両足に香油を塗った。

7:47 だから,あなたに告げるが,彼女の多くある罪は許されている。彼女が多く愛したからだ。だが,少ししか許されていない者は,少ししか愛さないのだ」。

7:48 彼は彼女に言った, 「あなたの罪は許されている」。

7:49 彼と共に食卓に着いていた者たちは自分の中で言い始めた,「罪さえ許すこの人はいったいだれなのだろう」。

7:50 彼はその女に言った, 「あなたの信仰があなたを救ったのだ。平安のうちに行きなさい」。

 

8:1 その後間もなく,彼は町々や村々を通って行きながら,宣教し,神の王国の良いたよりを伝えた。彼と共にいたのは十二人,

8:2 また,悪い霊たちと病弱さからいやされた何人かの女たちであった。すなわち,七つの悪霊たちが出て行った,マグダレネと呼ばれるマリア,

8:3 そしてヘロデの管理人クーザスの妻ヨハンナ,スサンナ,そのほか大勢の女たちである。彼女たちは,自分たちの財産をもって彼らに仕えていた。

8:4 大群衆が集まって来て,人々があらゆる町から彼のもとに来ていた時,彼はたとえを用いて話した。

8:5 「ある耕作人が種をまきに出かけた。種をまいているときのこと,あるものは道ばたに落ち,空の鳥たちがやって来て,それをむさぼり食ってしまった。

8:6 別の種は岩の上に落ちた。そして,すぐに生え出たが,水分がないために枯れ果ててしまった。

8:7 別の種はイバラの真ん中に落ち,イバラが生え出てそれをふさいでしまった。

8:8 別の種は良い土に落ち,成長して,百倍の実を生み出した」。 これらのことを言いながら,彼は叫んだ, 「だれでも聞く耳のある者は聞きなさい!」

8:9 弟子たちは彼に尋ねた,「このたとえはどんな意味なのですか」。

8:10 彼は言った, 「あなた方には神の王国の秘密を知ることが与えられているが,残りの者たちにはたとえで与えられる。それは,『彼らが見るには見るが分からず,聞くには聞くが理解しない』ためだ。

8:11 さて,このたとえはこういうことだ。種は神の言葉だ。

8:12 道ばたのものは,み言葉を聞く人たちだが,そののち悪魔がやって来て,彼らの心からみ言葉を取り去るのだ。

8:13 岩の上のものは,こういう人たちのことだ。み言葉を聞くと,喜んですぐに受け入れる。だが,根がないので,しばらくは信じても,誘惑の時には離れてしまう。

8:14 イバラの間に落ちたものは,み言葉を聞いた人たちだが,思い煩いや,富や,人生の快楽でふさがれてしまい,実が熟さない。

8:15 良い土のものとは,誠実な良い心でみ言葉を聞き,それを堅く守り,忍耐して実を生み出す人たちだ。

8:16 「ともし火をともしてから,それを器で覆い隠したり,寝台の下に置く者はいない。むしろ,入って来る者たちに光が見えるように,それをしょく台の上に置く。

8:17 隠されているもので,明らかにされないものはなく,秘密にされているもので,知られず,明るみに出ないものはないからだ。

8:18 それで,自分がどのように聞いているかに注意しなさい。持っている者にはさらに与えられ,持っていない者からは,自分では持っていると思うものまでも取り去られることになるからだ」。

8:19 彼の母と兄弟たちが彼のもとにやって来たが,群衆のせいでそばに行けなかった。

8:20 そこで彼に,「あなたのお母さんと兄弟たちが外に立っていて,あなたに会うことを望んでいます」という知らせがあった。

8:21 しかし彼は彼らに答えた, 「わたしの母,またわたしの兄弟たちとは,神の言葉を聞いて,それを行なうこれらの人たちのことだ」。

8:22 ある日のこと,彼は弟子たちと共に舟に乗り込み,彼らに言った, 「湖の向こう岸に渡ろう」。そこで彼らは出航した。

8:23 しかし,彼らがこいでいる間に,彼は眠りに落ちた。風あらしが湖に吹き下ろして,彼らは水びたしになり,危険な状態になった。

8:24 彼らは彼のもとに来て,彼を起こして言った,「師よ,師よ,わたしたちは死んでしまいます!」 彼は起き上がり,風と荒れ狂う水とをしかりつけた。するとそれらはやみ,なぎになった。

8:25 彼は彼らに言った, 「あなた方の信仰はどこにあるのか」。彼らは恐れ驚いて,互いに言い合った,「いったいこの方はどなただろう。風や水さえも,この方が命じると従うとは」。

8:26 彼らは,ガリラヤの向かい側にあるゲラサ人たちの地方に着いた。

8:27 イエスが岸に降り立つと,長い間悪霊たちに取りつかれている一人の男が町から出て来て彼に出会った。彼は服を着ておらず,家に住まずに墓場にいた。

8:28 イエスを見ると,叫び声を上げて彼の前にひれ伏し,大声で言った,「いと高き神の子イエスよ,わたしはあなたと何のかかわりがあるのか。あなたにお願いする,わたしを苦しめないでくれ!」 

8:29 というのは,イエスは汚れた霊に,その人から出て行くように命じたからである。汚れた霊はたびたび彼に取りついていたのである。彼は監視の下に置かれ,足かせや鎖で縛られた。だが,かせはばらばらに壊され,彼は悪霊によって寂しい所に追いやられるのであった。

8:30 イエスは彼に尋ねた, 「あなたの名前は何か」。

彼は言った,「レギオンだ」。多くの悪霊たちが彼の中に入っていたからである。

8:31 彼らはイエスに,自分たちを底なしの深みに行けとは命じないように懇願した。

8:32 ところで,その山ではたくさんの豚の群れが飼われていた。そこで彼らは,それらの中に入ることを認めてくれるように懇願した。彼は彼らに認めた。

8:33 汚れた霊たちはその人から出て来て豚たちの中に入った。それでその群れは,険しい土手を下って湖に突進し,おぼれ死んだ。

8:34 それらを飼っていた者たちは,起きたことを見ると,逃げて行き,その町とその地方でそのことを知らせた。

8:35 人々は起きたことを見ようと出て来た。イエスのもとに来て,悪霊たちが出て行った男がイエスの足もとに座り,服を着て,正気でいるのを見つけた。それで彼らは恐れた。

8:36 また,それを見ていた者たちは,悪霊たちに取りつかれていた人がどのようにしていやされたかを彼らに告げた。

8:37 周囲のゲラサ人たちの地方から来たすべての人々は,自分たちのもとから去るようにとイエスに求めた。非常に恐れていたからである。彼は舟に乗って戻って行った。

8:38 しかし悪霊たちが出て行ったその人は,一緒に行かせてくれるようイエスに懇願した。しかしイエスはこう言って彼を去らせた。

8:39 「あなたの家に帰り,神があなたのためにどんな大きな事柄をしてくださったかを知らせなさい」。彼は立ち去り,イエスが彼のためにどんな大きな事柄を行なったかを町全体で宣明した。

8:40 イエスが戻ると,群衆は彼を喜んで迎えた。みんなが彼を待っていたからである。

8:41 見よ,ヤイロスという名の者がやって来たが,この者は会堂長であった。イエスの足もとにひれ伏し,自分の家に入ってくれるよう懇願した。

8:42 というのは,彼には十二歳のひとり娘がいたが,その娘が死にかけていたのである。しかしイエスが進んで行くと,群衆が彼に押し迫った。

8:43 十二年間も血の流出をわずらっている女がいた。さまざまな医者のために全財産を使い果たしたが,だれにも直してもらえなかった。

8:44 この女が彼の後ろに近づき,その衣の房べりに触った。すると,すぐに彼女の血の流出は止まった。

8:45 イエスは言った, 「わたしに触ったのはだれか」。

みんながそれを否定していると,ペトロや彼と共にいた者たちが言った,「師よ,群衆があなたに迫って押しているのに, 『だれが触ったか』と言われるのですか」。

8:46 しかしイエスは言った, 「だれかがわたしに触ったのだ。力が自分から出て行くのが分かったのだ」。

8:47 女は隠れられないのを見ると,おののきながらやって来て,彼の前にひれ伏し,すべての民の面前で,彼に触った理由と,自分がどのようにしてすぐにいやされたかを知らせた。

8:48 彼は彼女に言った, 「娘よ,元気を出しなさい。あなたの信仰があなたをよくならせた。平安のうちに行きなさい」。

8:49 彼がまだ話しているうちに,会堂長の家からある人が来て,会堂長に言った,「あなたの娘さんは亡くなりました。先生を煩わすには及びません」。

8:50 しかし,イエスはそれを聞いて,会堂長に答えた, 「恐れることはない。ただ信じなさい。そうすれば彼女はいやされる」。

8:51 その家にやって来ると,ペトロとヨハネとヤコブ,そして子供の父と母のほかは,だれも中に入ることを許さなかった。

8:52 みんなが泣いたり,彼女のために嘆いたりしていた。しかし彼は言った, 「泣かなくてもよい。彼女は死んだのではなく,眠っているのだ」。

8:53 人々は,彼女が死んでいるのを知っていたので,彼をばかにした。

8:54 しかし彼は,みんなを外に出し,彼女の手を取って,「子供よ,起きなさい!」と呼びかけた。

8:55 彼女の霊は戻り,彼女はすぐに起き上がった。彼は,彼女に何か食べる物を与えるようにと命じた。

8:56 彼女の両親はびっくりした。しかし彼は,起きたことをだれにも告げないよう彼らに命じた。

 

9:1 彼は十二人を呼び集め,彼らにすべての悪霊たちに対する,またさまざまな疾患を治すための力と権威を与えた。

9:2 神の王国を宣教し,病気をいやすために彼らを遣わした。

9:3 彼らに言った, 「旅のために何も持って行かないように。つえも,袋も,パンも,お金も,それぞれ二枚の上着も持ってはいけない。

9:4 どこでも家に入ったなら,そこにとどまり,そこから出発しなさい。

9:5 人々があなた方を受け入れないなら,その町から出発する時に,彼らに対する証言のため,あなた方の両足からそのちりさえも払い落としなさい」。

9:6 彼らは去って行き,至る所で福音を宣教し,病気をいやしながら,村から村を巡って行った。

9:7 さて,領主ヘロデは,イエスによってなされたすべてのことを聞いて,ひどく当惑していた。というのは,ある人々はヨハネが死んだ者たちの中から生き返ったと言っており,

9:8 またある人々はエリヤが表われたと言い,さらに別の人々は昔の預言者たちの一人が生き返ったと言っていたからである。

9:9 ヘロデは言った,「ヨハネならわたしが首をはねた。だが,わたしがこうしたうわさを聞くこの者はだれなのだろう」。彼はイエスを見たいと思った。

9:10 使徒たちは戻って来ると,自分たちが行なったことをイエスに告げた。

彼は彼らを連れて,ベツサイダと呼ばれる町の寂しい場所へ自分たちだけで引きこもった。

9:11 しかし群衆はそれに気づき,彼に従った。彼は彼らを喜んで迎え,神の王国について彼らに語り,いやしを必要としていた者たちを治した。

9:12 日が傾き始めたので,十二人がやって来て彼に言った,「群衆を去らせて,彼らが周りの村や農園に行って,宿を取り,食べ物を得るようにさせてください。わたしたちはこんな寂しい場所にいるのですから」。

9:13 しかし彼は彼らに答えた, 「あなた方が彼らに食べ物を与えなさい」。

彼らは言った,「わたしたちには五つのパンと二匹の魚しかありません。わたしたちが行って,この人々すべてのために食べ物を買わない限りは」。

9:14 というのは,およそ五千人の男たちがいたからである。

彼は弟子たちに言った, 「彼らを五十人ぐらいずつ組にして座らせなさい」。

9:15 彼らはそのようにし,みんなを座らせた。

9:16 彼は五つのパンと二匹の魚を取り,天を見上げ,祝福してからパンを裂き,弟子たちに渡して群衆の前に置かせた。

9:17 みんなは食べて満ち足りた。彼らは残ったパン切れを十二のかごに集めた。

9:18 彼がひとりで祈っていたとき,弟子たちが共にいた。そして彼は彼らに尋ねた, 「群衆はわたしをだれだと言っているか」。

9:19 彼らは答えた,「『バプテスマを施す人ヨハネ』,またほかの者たちは『エリヤ』と言い,さらにほかの者たちは,昔の預言者たちの一人が生き返ったのだと言っています」。

9:20 彼は彼らに言った, 「だが,あなた方はわたしをだれだと言うのか」。

ペトロが答えた,「神のキリストです」。

9:21 しかし彼は彼らを戒め,このことをだれにも告げないようにと命じて,

9:22 こう言った。 「人の子は多くの苦しみを受け,長老たちや祭司長たちや律法学者たちから退けられ,かつ殺され,そして三日後に生き返らなければならない」。

9:23 彼は皆に言った, 「だれでもわたしに付いて来たいと望むなら,その人は自分を否定し, *自分の十字架を取り上げて,わたしに従いなさい。

9:24 自分の命を救いたいと望む者はそれを失うことになり,わたしのために自分の命を失う者はそれを救うことになるからだ。

9:25 人が全世界を手に入れても,それによって自分自身を失ったり,奪われたりするなら,何の益になるだろうか。

9:26 わたしとわたしの言葉を恥じる者は,人の子もまた,自分の栄光,また父と聖なるみ使いたちとの栄光のうちに来るとき,その者を恥じるだろう。

9:27 だが,真実にあなた方に告げる。ここに立っている者の中には,神の王国を見るまでは決して死を味わわない者たちがいる」。

9:28 これらの話の八日後,彼はペトロとヨハネとヤコブを伴い,祈るために山に上った。

9:29 彼が祈っていると,顔の様子が変えられ,衣服は白く目もくらむほどになった。

9:30 見よ,二人の人がイエスと語り合っていたが,それはエリヤとモーセであった。

9:31 栄光のうちに現われて,彼がエルサレムで遂げることになる出発について話していたのである。

9:32 ペトロおよび彼と共にいた者たちはひどく眠かったが,すっかり目を覚ますと,彼の栄光と,彼と共に立っている二人の人を目にした。

9:33 二人が彼から去って行くとき,ペトロがイエスに言った,「師よ,わたしたちがここにいるのは良いことです。幕屋を三つ作りましょう。一つはあなたのため,一つはモーセのため,一つはエリヤのためです」。彼は自分が何を言っているのか分からなかった。

9:34 彼がこれらのことを言っているうちに,雲が起こって彼らを影で覆った。雲の中に入ったとき,彼らは恐れた。

9:35 その雲から声がして言った,「これはわたしの愛する子である。この者に聞き従いなさい!」 

9:36 この声がした時には,イエスだけがそこにいるのが分かった。彼らは沈黙を守り,目にした事柄をその当時はだれにも告げなかった。

9:37 次の日,彼らが山から下りて来ると,大群衆が彼を迎えた。

9:38 見よ,群衆の中の一人の男が叫んで言った,「先生,お願いですから,わたしの息子を見てやってください。わたしのひとり息子なのです。

9:39 ご覧ください,霊が取りつくと,彼は突然に叫び出すのです。そしてそれは彼にあわを吹かせながらけいれんさせ,なかなか離れないで,彼をひどく傷つけるのです。

9:40 わたしは,あなたの弟子たちにそれを追い出してくれるよう願いましたが,彼らにはできませんでした」。

9:41 イエスは答えた, 「信仰のないねじ曲がった世代よ,いつまでわたしはあなた方と一緒にいて,あなた方のことを我慢しようか。あなたの息子をここに連れて来なさい」。

9:42 その子がやって来る間,その悪霊は彼を投げ倒し,激しくけいれんさせた。しかしイエスはその汚れた霊をしかりつけ,その少年をいやし,彼をその父親に返した。

9:43 みmmんなは神の尊厳に驚いた。

しかし,みんながイエスの行なったすべてのことに驚嘆している間に,彼は弟子たちに言った,

9:44 「これらの言葉をあなた方の耳にしまっておきなさい。すなわち,人の子は人々の手に引き渡されるだろう」。

9:45 しかし彼らはこの言葉を理解しなかった。彼らがそれを理解することがないように,それは彼らから隠されていた。また,彼らはこの言葉について彼に尋ねるのを恐れていた。

9:46 彼らの間で,自分たちのうちでだれが一番偉いかという論争が生じた。

9:47 イエスは彼らの心の思いに気づき,幼子を連れて来て,自分のわきに立たせて,

9:48 彼らに言った, 「わたしの名のゆえにこのような幼子の一人を受け入れる者は,わたしを受け入れるのだ。わたしを受け入れる者は,わたしを遣わした方を受け入れるのだ。あなた方全員のうちで最も小さい者こそ偉いなのだ」。

9:49 ヨハネが答えた,「師よ,わたしたちは,ある人があなたの名において悪霊たちを追い出しているのを見ました。それでわたしたちは,彼がわたしたちに従っていないので,彼をとどめました」。

9:50 イエスは彼に言った, 「彼をとどめてはいけない。わたしたちに逆らわない者は,わたしたちの味方なのだ」。

9:51 イエスが上げられる日々が近づくと,彼はエルサレムに行くことに顔を一心に据えた。

9:52 そして自分の面前に使者を遣わした。彼らは出て行き,彼のために準備をしようと,サマリア人の村に入った。

9:53 彼らは彼を受け入れなかった。彼が顔をエルサレムに向けて旅行していたからである。

9:54 それを見て,弟子たちのヤコブとヨハネは言った,「主よ,エリヤがしたとおり,天から火が下って彼らを滅ぼすよう,わたしたちが命じることをお望みですか」。

9:55 しかし彼は振り返って彼らをしかりつけた。 「あなた方は自分たちがどんな性質なのか分かっていない。

9:56 人の子は人々の命を滅ぼすために来たのではなく,それらを救うために来たのだ」。

彼らは別の村に向かった。

9:57 彼らが進んで行くと,ある人が彼に言った,「あなたの行かれる所なら,どこへでも従って行きたいと思います,主よ」。

9:58 イエスは彼に言った, 「キツネたちには穴があり,空の鳥たちには巣がある。だが,人の子には頭を横たえる所がない」。

9:59 彼は別の者に言った, 「わたしに従いなさい!」

しかし彼は言った,「主よ,まず,行ってわたしの父を葬ることをお許しください」。

9:60 しかしイエスは彼に言った, 「死んだ者たちに自分たちの死者を葬らせなさい。だが,あなたは行って神の王国を知らせなさい」。

9:61 さらに別の者が言った,「わたしはあなたに従いたいと思います,主よ。ですが,まず,わたしの家の者たちに別れを告げることをお許しください」。

9:62 しかしイエスは彼に言った, 「手をすきにかけてから後ろを見る者は,だれも神の王国にふさわしくない」。

 

10:1 さて,これらの事ののち,主はほかの七十人を任命し,自分が行こうとしているすべての町と場所へ,自分の先に彼らを二人ずつ遣わした。

10:2 そして彼は弟子たちに言った, 「収穫は確かに多いが,働き人が少ない。だから,収穫に働き人を遣わしていただくよう,収穫の主人にお願いしなさい。

10:3 行きなさい。見よ,わたしはあなた方を,オオカミの間に子羊を送り込むようにして遣わす。

10:4 財布も,袋も,サンダルも持って行ってはいけない。道中ではだれにもあいさつしてはいけない。

10:5 どこでも家に入ったなら,まず,『この家に平安があるように』と言いなさい。

10:6 平安の子がそこにいるなら,あなた方の平安はその者の上にとどまり,いなければ,それはあなた方のもとに戻って来るだろう。

10:7 その家にとどまり,彼らが出す物を食べたり飲んだりしなさい。働き人は自分の報酬を受けるに値するからだ。家から家に行ってはいけない。

10:8 どこでも町に入って,彼らがあなた方を受け入れるなら,あなた方の前に出されるものを食べなさい。

10:9 そこにいる病気の者たちをいやし,彼らに,『神の王国はあなた方に近づいた』と告げなさい。

10:10 だが,どこでも町に入って,彼らがあなた方を受け入れないなら,その町の通りに出て,こう言いなさい。

10:11 『あなた方の町からわたしたちの足に付いたちりさえも,わたしたちはあなた方に対してぬぐい捨てる。それでも,神の王国があなた方に近づいたというこのことは知っておきなさい』。

10:12 あなた方に告げるが,その日には,ソドムのほうがその町よりは耐えやすいだろう。

10:13 「災いだ,コラジンよ! 災いだ,ベトサイダよ! あなた方の中でなされた強力な業がテュロスやシドンでなされていたなら,彼らはとっくの昔にあら布と灰の中に座って悔い改めていただろう。

10:14 だが,裁きの時には,テュロスとシドンのほうがあなた方よりは耐えやすいだろう。

10:15 カペルナウム,天まで高くされた者よ,あなたはハデスにまで下ることになる。

10:16 あなた方に聞き従う者は,わたしに聞き従うのであり,あなた方を拒む者は,わたしを拒むのだ。わたしを拒む者は,わたしを遣わした方を拒むのだ」。

10:17 七十人は喜びながら戻って来て,言った,「主よ,悪霊たちでさえ,あなたの名においてわたしたちに服するのです!」

10:18 彼は彼らに言った, 「わたしは,サタンが天からいなずまのように落ちたのを見た。

10:19 見よ,わたしはあなた方に蛇やサソリを踏みつける権威,また敵のすべての力を支配する権威を与えた。あなた方を害するものは何もない。

10:20 それでも,霊たちがあなた方に服することを喜ぶのではなく,あなた方の名が天において書き記されたことを喜びなさい」。

10:21 まさにその時,イエスは聖霊において喜び,また言った, 「ああ,父よ,天地の主よ,わたしはあなたに感謝します。あなたはこれらの事を賢い者や理解力のある者から隠し,それを幼子たちに明らかにされたからです。そうです,父よ,そのようにして,あなたのみ前で意にかなうことが生じたのです」。

10:22 弟子たちのほうを振り向いて,言った, 「すべての事が,わたしの父によってわたしに引き渡されている。子を知っている者は父のほかにはおらず,父を知っている者は子と子が明らかにしたいと望む者のほかにはいない」。

10:23 弟子たちのほうを振り向いて,彼らだけに言った, 「あなた方の見ているものを見るその目は幸いだ。

10:24 あなた方に告げるが,多くの預言者たちと王たちは,あなた方が見ているものを見たいと願ったのにそれを見ず,あなた方が聞いていることを聞きたいと願ったのにそれを聞かなかったからだ」。

10:25 見よ,ある律法の専門家が立ち上がり,彼を試そうとして言った,「先生,わたしは何をすれば永遠の命を受け継げるのでしょうか」。

10:26 イエスは彼に言った, 「律法には何と書かれているか。あなたはそれをどう読んでいるのか」。

10:27 彼は答えた,「あなたは,心を尽くし,魂を尽くし,力を尽くし,思いを尽くして,あなたの神なる主を愛さなければならない。そして,隣人を自分自身のように愛さなければならない」。

10:28 イエスは彼に言った, 「あなたは正しく答えた。それを行ないなさい。そうすれば生きるだろう」。

10:29 しかし彼は,自分を正当化したいと思って,イエスに答えた,「わたしの隣人とはだれですか」。

10:30 イエスは答えた, 「ある人がエルサレムからエリコに下って行く途中,強盗たちの手中に落ちた。彼らは彼の衣をはぎ,殴りつけ,半殺しにして去って行った。

10:31 たまたまある祭司がその道を下って来た。彼を見ると,反対側を通って行ってしまった。

10:32 同じように一人のレビ人も,その場所に来て,彼を見ると,反対側を通って行ってしまった。

10:33 ところが,旅行していたあるサマリア人が,彼のところにやって来た。彼を見ると,哀れみに動かされ,

10:34 彼に近づき,その傷に油とぶどう酒を注いで包帯をしてやった。彼を自分の家畜に乗せて,宿屋に連れて行き,世話をした。

10:35 次の日,出発するとき,二デナリを取り出してそこの主人に渡して,言った,『この人の世話をして欲しい。何でもこれ以外の出費があれば,わたしが戻って来たときに返金するから』。

10:36 さて,あなたは,この三人のうちのだれが,強盗たちの手中に落ちた人の隣人になったと思うか」。

10:37 彼は言った,「その人にあわれみを示した者です」。

するとイエスは彼に言った, 「行って,同じようにしなさい」。

10:38 彼らが進んで行くうちに,彼はある村に入り,マルタという名の女が彼を自分の家に迎えた。

10:39 彼女にはマリアという姉妹がいたが,イエスの足もとに座って,その言葉を聞いていた。

10:40 しかしマルタは,多くの給仕で取り乱していた。そこで彼女は彼のもとに上がって来て言った,「主よ,わたしの姉妹がわたしだけに給仕をさせているのを何とも思われないのですか。ですから,わたしを手伝うよう彼女におっしゃってください」。

10:41 イエスは彼女に答えた, 「マルタ,マルタ,あなたは多くのことを心配して動転している。

10:42 だが,必要なのは一つだけだ。マリアは良いほうを選んだのだ。それが彼女から取り去られることはないだろう」。

 

11:1 彼がある場所で祈り終えたときのこと,弟子たちの一人が彼に言った,「主よ,ヨハネも自分の弟子たちに教えたように,わたしたちに祈り方を教えてください」。

11:2 彼は彼らに言った, 「あなた方が祈るときにはこう言いなさい,

『天におられるわたしたちの父よ,
       あなたのお名前が神聖なものとされますように。

あなたの王国が来ますように。
       あなたのご意志が,天におけると同じように地上においてもなされますように。

11:3 日々,わたしたちの日ごとのパンをお与えください。

11:4 わたしたちの罪をお許しください。
       わたしたちも自分に負い目のある人たちを許しますから。

わたしたちを誘惑に陥らせることなく,
       悪い者からお救いください』」。

11:5 彼らに言った, 「あなた方のうちのだれかが,真夜中に友人のところに行き,彼にこう言うとする。『友よ,パンを三つ貸してくれ。

11:6 わたしの友人が旅の途中でわたしのところに来たのだが,出してやるものが何もないのだ』。

11:7 すると彼は中から答えて言うだろう,『わたしを煩わさないでくれ。戸はもう閉めてしまったし,子供たちはわたしと一緒に寝床に入っているのだ。起きて行ってあなたに物をやることなどできない』。

11:8 あなた方に告げる。彼は,その人が自分の友人だということでは,起き上がって物を与えないとしても,その人のしつこさのゆえには,起きて行ってその人が必要とするものを与えるだろう。

11:9 「あなた方に告げる。求め続けなさい,そうすれば与えられるだろう。探し続けなさい,そうすれば見いだすだろう。たたき続けなさい,そうすれば開かれるだろう。

11:10 だれでも求めている者は受け,探している者は見いだし,たたいている者には開かれるのだ。

11:11 「あなた方のうちのどの父親が,自分の息子がパンを求めているのに石を与えるだろうか。また,魚を求めているのに魚の代わりに蛇を与えるだろうか。

11:12 また,卵を求めているのにサソリを与えるだろうか。

11:13 それなら,あなた方が,悪い者でありながら,自分の子供たちに良い贈り物を与えることを知っているのであれば,ましてあなた方の天の父は,ご自分に求める者たちに聖霊を与えてくださらないだろうか」。

11:14 彼はある悪霊を追い出していたが,それは口のきけない悪霊であった。その悪霊が出て行くと,口のきけなかった人は物を言い出した。それで群衆は驚嘆した。

11:15 しかし彼らのうちのある者たちは言った,「彼が悪霊たちを追い出すのは,悪霊たちの首領ベエルゼブルによるのだ」。

11:16 ほかの者たちは,彼を試そうとして,天からのしるしを彼から求めていた。

11:17 しかし彼は,彼らの考えを知って,彼らに言った, 「自らに敵対して分裂した王国はすべて荒廃してしまう。自らに敵対して分裂した家は倒れてしまう。

11:18 もしサタンも自らに敵対して分裂するなら,どうしてその王国は立ち行くだろうか。というのは,あなた方は,わたしがベエルゼブルによって悪霊たちを追い出していると言うからだ。

11:19 だmが,わたしがベエルゼブルによって悪霊たちを追い出しているのなら,あなた方の子らはだれによってそれらを追い出しているのか。それで,彼らがあなた方を裁く者になるだろう。

11:20 だが,わたしが神の指によって悪霊たちを追い出しているのなら,神の王国はすでにあなた方のところに来ているのだ。

11:21 「強い者が十分に武装して自分の住みかを守っている時は,その家財は安全だ。

11:22 だが,もっと強い者たちが襲って来て,彼に打ち勝つなら,彼が頼みとしていた全装備を彼から取り去り,その戦利品を分け合うだろう。

11:23 「わたしと共にいない者はわたしに敵対しているのだ。わたしと共に集めない者は散らしているのだ。

11:24 汚れた霊は,人から出て来ると,休み場を求めて乾いた場所を通るが,何も見つからない。そこで,『出て来た自分の家に帰ろう』と言う。

11:25 そして戻って来ると,そこが掃き清められており,きちんと片づけられているのを見つける。

11:26 そこで,出て行って,自分より悪いほかの七つの霊を連れて来る。そして彼らは中に入ってそこに住みつく。その人の最後の状態は,最初よりも悪くなる」。

11:27 彼がこれらの事を話していると,ある女が群衆の中から声を上げて,彼に言った,「あなたを宿した胎と,あなたに乳を飲ませた乳房とは幸いです!」

11:28 しかし彼は言った, 「いや,神の言葉を聞いて,それを守る人たちは幸いだ」。

11:29 群衆が彼のもとに集まって来た時,彼はこう言い始めた, 「この世代は悪い世代だ。しるしを求める。この世代には,預言者ヨナのしるしのほかには何のしるしも与えられないだろう。

11:30 実に,ヨナがニネベ人に対するしるしとなったのと同じように,人の子もこの世代に対するしるしとなるだろう。

11:31 南の女王は裁きの際にこの世代の人々と共に起き上がり,彼らを罪に定めるだろう。彼女はソロモンの知恵を聞くために地の果てからやって来たからだ。そして見よ,ソロモンよりも偉大な者がここにいる。

11:32 ニネベの人々は裁きの際にこの世代と共に立ち上がり,この世代を罪に定めるだろう。彼らはヨナの宣教することを聞いて悔い改めたからだ。そして見よ,ヨナよりも偉大な者がここにいる。

11:33 「ともし火をともしてから,それを穴ぐらの中や,かごの下に置く者はいない。むしろ,入って来る者たちに光が見えるように,それをしょく台の上に置く。

11:34 体のともし火は目だ。だから,あなた方の目が健全なら,あなた方の全身は光で満ちているだろう。だが,それがよこしまなら,あなた方の体も闇で満ちているだろう。

11:35 だから,あなた方の内にある光が闇ではないかどうか確かめなさい。

11:36 それで,あなた方の全身が光で満ちており,闇の部分が少しもなければ,ともし火が明るく輝いてあなたを照らす時のように,全体が光に満たされるだろう」。

11:37 さて,彼が話していると,あるファリサイ人が一緒に食事をして欲しいと頼んだ。彼は入って行って,食卓に着いた。

11:38 ファリサイ人はそれを見て,彼が食事の前に身を洗わないのに驚いた。

11:39 主は彼に言った, 「ところで,あなた方ファリサイ人たちは杯と皿の外側は清めるが,あなた方の内側は強奪と不正で満ちている。

11:40 愚か者たちよ,外側を造られた方は内側をも造られたのではないか。

11:41 それでも,内にあるそれらのものを,困窮している人たちに施しをしなさい。そうすれば,見よ,あなた方にとってすべてのものが清められるだろう。

11:42 だが,あなた方ファリサイ人たちは災いだ! あなた方はハッカ,ヘンルーダ,あらゆる野菜の十分の一税は納めていながら,公正と神の愛を無視している。これらこそ行なわなくてはいけない。もっとも,もう一方のこともなおざりにしてはいけないが。

11:43 あなた方ファリサイ人たちは災いだ! あなた方が好むのは,会堂での上席と市場でのあいさつなのだ。

11:44 あなた方は災いだ,律法学者たちとファリサイ人たち,偽善者たちよ! あなた方は目につかない墓のようなものだ。その上を歩く人々は何も気づかないのだ」。

11:45 律法の専門家たちの一人が彼に答えた,「先生,そのようなことを言われるのは,わたしたちをも侮辱することです」。

11:46 彼は言った, 「あなた方律法の専門家たちも災いだ! 運びにくい重荷を人々に負わせるが,自分ではそれらの重荷を運ぶのを助けるために指一本持ち上げようとさえしない。

11:47 あなた方は災いだ! あなた方は預言者たちの墓を建てているが,彼らを殺したのはあなた方の父祖たちだからだ。

11:48 そのようにして,あなた方は,あなた方の父祖たちの業を証言し,同意しているのだ。彼らが預言者たちを殺し,あなた方がその墓を建てているからだ。

11:49 このゆえに,神の知恵もこう言った,『わたしは彼らに預言者たちと使徒たちを遣わす。彼らはそのうちのある者たちを殺し,迫害するだろう。

11:50 こうして,世の基礎が据えられて以来流されて来たすべての預言者たちの血が,この世代に要求されることになる。

11:51 すなわち,アベルの血から,祭壇と聖所の間で死んだザカリヤの血に至るまで』。そうだ,あなた方に告げるが,それはこの世代に要求されるだろう。

11:52 あなた方律法の専門家たちは災いだ! あなた方は知識のかぎを取り去ったからだ。自分たちが入らないばかりか,入ろうとする者たちをも妨げたのだ」。

11:53 彼が彼らにこれらの事を話したとき,律法学者たちとファリサイ人たちはひどく腹を立て始め,彼から多くの事を聞き出し始めた。

11:54 そして,彼を待ち構え,その言葉じりを捕らえようとした。彼を訴えようとしてであった。

 

12:1 そうしているうちに,数えきれないほどの群衆が集まって来て,互いに足を踏み合うほどになった時,彼はまず弟子たちに告げ始めた, 「ファリサイ人たちのパン種,つまり偽善に用心しなさい。

12:2 だが,覆いかぶされているもので明らかにされないものはなく,隠されているもので知られないものはない。

12:3 だから,あなた方が闇の中で言ったことは,光の中で聞かれるだろう。奥の部屋で耳もとに話されたことは,屋上で宣明されるだろう。

12:4 「わたしの友であるあなた方に告げる。体を殺しても,その後はもう何もできない者たちを恐れてはいけない。

12:5 むしろ,だれを恐れるべきかをあなた方に知らせよう。殺した後で,ゲヘナに投げ込む力のある方を恐れなさい。そうだ,あなた方に告げるが,その方を恐れなさい。

12:6 「五羽のスズメは二つのアサリオン硬貨で売られているではないか。その一羽も神に忘れられてはいない。

12:7 ところが,あなた方の髪の毛さえも,みな数えられている。だから恐れるな。あなた方はたくさんのスズメよりも価値があるのだ。

12:8 「あなた方に告げる。人々の前でわたしのことを告白する者はみな,人の子も神のみ使いたちの前でその者のことを告白するだろう。

12:9 だが,人々の面前でわたしのことを否認する者は,わたしも神のみ使いたちの面前でその者のことを否認するだろう。

12:10 だれでも人の子に逆らう言葉を語る者は許されるだろう。だが,だれでも聖霊に対して冒とくする者は許されないだろう。

12:11 人々があなた方を会堂や支配者や権力者の前に連れ出す時,何をどのように答えようか,また何を言おうかと思い煩ってはいけない。

12:12 言うべきことは,その時に聖霊があなた方に教えるからだ」。

12:13 群衆の一人が彼に言った,「先生,わたしの兄弟に相続財産をわたしと分けるようにおっしゃってください」。

12:14 だが,彼はその人に言った, 「人よ,だれがわたしを,裁判官や仲裁人としてあなた方の上に立てたのか」。

12:15 彼らに言った, 「用心しなさい! どん欲から身を守りなさい。人の命は豊かな所有物にあるのではないからだ」。

12:16 彼は彼らにたとえを語って言った, 「ある富んだ人の土地が豊かに産出した。

12:17 彼は自分の中で論じて言った,『どうしようか。作物を入れておく場所がないのだが』。

12:18 彼は言った,『こうしよう。倉を取り壊して,もっと大きなものを建てよう。そしてそこに穀物と財産を入れよう。

12:19 自分の魂に言うのだ,「魂よ,お前は何年分も積み上げた多くの財産を持っている。くつろいで,食べて,飲んで,楽しめ」』。

12:20 「だが,神は彼に言われた,『愚か者よ,今夜,あなたの魂は求められる。あなたが用意した物は,いったいだれのものになるのか』。

12:21 自分のために宝を積み上げ,神に対して富んでいない者は,こうなるのだ」。

12:22 彼は弟子たちに言った, 「だから,あなた方に告げる。何を食べようかと自分の命のことで,また何を着ようかと自分の体のことで思い煩ってはいけない。

12:23 命は食物より,体は衣服より大切なのだ。

12:24 ワタリガラスのことをよく考えなさい。種をまいたり,刈り入れたりせず,納屋も倉に持っていないが,神がそれらを養っておられる。あなた方は鳥たちよりもどれほど多くの価値があるだろう! 

12:25 あなた方のうちのだれが,思い煩ったからといって,自分の背丈に一キュビトを加えられるだろうか。

12:26 一番小さな事さえできないのであれば,なぜほかの事で思い煩うのか。

12:27 ユリがどのように育つかをよく考えなさい。労したり,紡いだりしない。だが,あなた方に告げるが,栄光を極めたときのソロモンでさえ,それらの一つほどにも装っていなかった。

12:28 では,神が,今日生えていて明日かまどに投げ込まれる野の草に衣服を与えておられるのであれば,あなた方にはなおのこと衣服を与えてくださらないだろうか,ああ,信仰の少ない者たちよ。

12:29 だから,何を食べようか,何を飲もうかと求めてはいけない。また,思い煩ってもいけない。

12:30 こうしたものすべては,世の諸国民が追い求めているものだからだ。だが,あなた方の父は,あなた方がこうしたものを必要としていることをご存じなのだ。

12:31 むしろ,神の王国を求めなさい。そうすれば,こうしたものすべてはあなた方に加えられるだろう。

12:32 恐れてはいけない,小さな群れよ。あなた方の父は,あなた方に王国を与えることをよしとされたのだ。

12:33 あなた方の持ち物を売って,困窮している人たちに施しをしなさい。自分のために古くなることのない財布を作り,天に尽きることのない宝を積み上げなさい。そこでは盗人たちが近づくことも,ガがだめにすることもない。

12:34 あなた方の宝のある所,そこにあなた方の心もあるからだ。

12:35 「あなた方の腰に帯を締め,ともし火をたいていなさい。

12:36 自分たちの主人がいつ婚宴から戻って来るかと見張っている者たちのようになりなさい。彼がやって来て戸を叩く時,すぐに彼のために戸を開けられるようにするためだ。

12:37 彼がやって来たときに見張っているところを見いだされるそれらの召使いたちは幸いだ。本当にはっきりとあなた方に告げる。彼は着替えて,彼らを横にならせ,やって来て,彼らに給仕をするだろう。

12:38 彼が第二見張り時に,あるいは第三見張り時にやって来ても,彼らがそのようにしているところを見いだされるなら,その者たちは幸いだ。

12:39 だが,このことを知っておきなさい。家の主人は,どの時刻に盗人が来るかを知っているなら,見張っていて,自分の家に押し入られることを許さなかっただろう。

12:40 だから,あなた方も用意をしておきなさい。あなた方の思いもしない時刻に人の子は来るからだ」。

12:41 ペトロが彼に言った,「主よ,このたとえはわたしたちに対して話しておられるのですか,それともみんなに対してですか」。

12:42 主は言った, 「それでは,主人が,時に応じて家の者たちに食物を分配させるため,彼らの上に任命した,忠実で賢い管理人は,いったいだれか。

12:43 主人がやって来た時,そうしているのを見られるその召使いは幸いだ。

12:44 本当にあなた方に告げるが,主人は彼を自分のすべての持ち物の上に任命するだろう。

12:45 だが,その召使いが,心の中で,『わたしの主人は来るのが遅れている』と言い,下男や下女を打ちたたき始め,飲んで酔っぱらい始めるなら,

12:46 その召使いの主人は,彼の思いもしない日,彼の知らない時にやって来て,彼を二つに切り裂き,その受け分を不忠実な者たちと共にならせるだろう。

12:47 その召使いが,自分の主人の意志を知りながら,主人の望んでいることを備えなかったり,行なわなかったりするなら,多くむち打ちうたれるだろう。

12:48 だが,知らずにむち打ちに値することをしてしまった者は,少ししかむち打たれないだろう。だれでも多く与えられた者からは多くが要求され,多くを託された者からはより多くが求められるだろう。

12:49 「わたしは地上に火を投げるために来た。それがすでに燃やされていればと願う。

12:50 だが,わたしには受けなければならないバプテスマがある。それが成し遂げられるまで,どんなに苦悩することか! 

12:51 あなた方は,わたしが地上に平和をもたらすために来たと考えてはいるのか。あなた方に告げるが,そうではなく,むしろ分裂をもたらすために来たのだ。

12:52 今からのち,一つの家に五人がいれば,三人が二人に対して,二人が三人に対して分裂させられることになるからだ。

12:53 彼らは,父が息子に対して,息子は父に対して,母は娘に対して,娘は母に対して,しゅうとめは嫁に対して,嫁はしゅうとめに対して分裂させられるだろう」。

12:54 群衆にも言った, 「あなた方は,雲が西にわき起こるのを見るとすぐ,『にわか雨が来るぞ』と言い,そのとおりになる。

12:55 南風が吹くと,『猛烈な暑さになるぞ』と言い,そのとおりになる。

12:56 偽善者たち! あなた方は天地の模様の解き明かし方は知っていながら,どうして今の時のしるしの解き明かし方は知らないのか。

12:57 なぜあなた方は,何が正しいかを自分で判断しないのか。

12:58 あなたを訴える者と共に判事の前に行く時には,その途上にある間に,彼から解放されるように熱心に試みなさい。彼があなたを裁判官のところに引きずって行き,裁判官があなたを役人に引き渡し,役人があなたをろうやに投げ込んでしまうことのないためだ。

12:59 あなた方に告げる。まさしく最後の小銭を払い切るまで,あなたは決してそこから出ることはないだろう」。

 

13:1 さて,ちょうどその時,ガリラヤ人たちのことを彼に報告した。ピラトが彼らの血を彼らの犠牲と混ぜたのである。

13:2 イエスは彼らに答えた, 「あなた方は,彼らがこのような災難に遭ったからといって,これらのガリラヤ人たちがほかのすべてのガリラヤ人たちよりも罪人だったと思うのか。

13:3 あなた方に告げるが,そうではない。むしろ,あなた方も悔い改めなければ,みな同じように滅びるだろう。

13:4 あるいは,シロアムの塔が倒れて押し殺されたあの十八人は,エルサレムに住むすべての人たちよりも違反の多い者だったと思うのか。

13:5 あなた方に告げるが,そうではない。むしろ,あなた方も悔い改めなければ,みな同じように滅びるだろう」。

13:6 彼は次のたとえを話した。 「ある人が,自分のブドウ園に植えた一本のイチジクの木を持っていた。彼はそこに実を探しに来たが,何も見つからなかった。

13:7 彼はブドウの栽培人に言った,『見ろ,この三年間,このイチジクの木に実を探しに来ているのに,何も見つからなかった。これを切り倒してしまえ。なぜこれが土地を無駄にふさいでいるのか』。

13:8 栽培人は答えた,『ご主人様,それを今年だけそのままにしておいてやってください。この木の周りを掘って,肥料をやりますから。

13:9 もし実を結べば上等ですし,そうでなければ,その後で,これを切り倒してしまって構いません』」。

13:10 彼は安息日に会堂の一つで教えていた。

13:11 見よ,十八年間も病弱の霊に取りつかれた女がいた。彼女は腰が曲がったままで,どうしても伸ばすことができなかった。

13:12 イエスは彼女を見ると,呼び寄せて彼女に言った, 「女よ,あなたは自分の病弱さから解き放たれている」。

13:13 彼女の上に手を置いた。すると,すぐに彼女はまっすぐになり,神に栄光をささげた。

13:14 会堂長は,イエスが安息日にいやしたので憤慨し,群衆に言った,「人々が働くべき日は六日ある。だからそれらの日にやって来て,いやしてもらうがよい。安息日にはいけないのだ!」

13:15 そこで主は彼に答えた, 「偽善者たち! あなた方はおのおの,安息日に自分の牛やロバを家畜小屋から解いて,水を飲ませに引いて行くではないか。

13:16 アmブラハムの娘で,サタンが十八年間も縛っていたこの女は,安息日にその束縛から解かれるべきではなかったか」。

13:17 彼がこれらのことを言うと,彼の反対者たちはみな恥じ入った。しかし,群衆はみな,彼によってなされたすべての栄光ある事柄のために喜んだ。

13:18 彼は言った, 「神の王国は何に似ているだろうか。それを何と比べようか。

13:19 それは,ある人が取って自分の庭にまいた,一粒のからしの種のようなものだ。それは成長し,大きな木になり,その枝に空の鳥たちが巣を作った」。

13:20 また彼は言った, 「神の王国を何と比べようか。

13:21 それはパン種のようだ。ある女がそれを取って,三ますの麦粉の中に隠すと,ついには全体が発酵した」。

13:22 彼は町々や村々を通って行きながら,教え,エルサレムに向けて旅をしていた。

13:23 ある者が彼に言った,「主よ,救われる者は少ないのですか」。

彼は彼らに言った,

13:24 「狭い戸口を通って入るよう必死に努めなさい。あなた方に告げるが,入ろうと努めながら,入れない人が多いからだ。

13:25 いったん家の主人が起き上がって戸を閉めてしまうと,あなた方が外に立ち,戸をたたいて,『だんな様,だんな様,わたしたちに開けてください!』と言い始めても,彼は答えてあなた方に告げるだろう,『わたしはあなた方を知らないし,あなた方がどこから来たのかも知らない』。

13:26 その時,あなた方は言い始めるだろう,『わたしたちはあなたの面前で食べたり飲んだりしましたし,あなたはわたしたちの通りで教えてくださいました』。

13:27 彼は言うだろう,『わたしはあなた方を知らないし,あなた方がどこから来たのかも知らない。不法を働く者たちよ,皆わたしから離れ去れ』。

13:28 そこには嘆きと歯ぎしりとがあるだろう。アブラハム,イサク,ヤコブ,そしてすべての預言者たちが神の王国にいるのに,自分たちが外に投げ出されているのを見るときには。

13:29 人々は東から,西から,北から,南からやって来て,神の王国で席に着くだろう。

13:30 見よ,最後であったのに最初になる者たちがおり,最初であったのに最後になる者たちがいる」。

13:31 その同じ日に,何人かのファリサイ人たちがやって来て,彼に言った,「ここから出て,立ち去りなさい。ヘロデがあなたを殺そうとしているからです」。

13:32 彼は彼らに言った, 「行って,あのキツネに言いなさい,『見よ,わたしは今日も明日も悪霊たちを追い出し,いやしを行なっている。そして三日目に,自分の使命を成し遂げるだろう。

13:33 それでも,わたしは,今日も明日もあさっても進んで行かなければならない。預言者がエルサレムの外で滅びることはあり得ないからだ』。

13:34 「エルサレム,エルサレム,預言者たちを殺し,自分のところに遣わされた者たちを石打ちにする者よ! めんどりがそのひなの群れを翼の下に集めるように,わたしは幾たびあなたの子らを集めようとしたことか。だが,あなた方は拒んだ! 

13:35 見よ,あなた方の家は荒れ果てたままに残される。あなた方に告げるが,あなた方は,『主の名において来る者は幸いだ!』と言うときまでは,決してわたしを見ることはないだろう」。

 

14:1 彼が安息日にファリサイ人たちの支配者たちの一人の家に入った時のこと,彼らは彼の様子をうかがっていた。

14:2 見よ,水しゅをわずらっている人が彼の前にいた。

14:3 イエスはそれに応じて,律法の専門家たちやファリサイ人たちに話して,こう言った。 「安息日にいやすことは許されているか」。

14:4 だが,彼らは黙っていた。

彼はその人の手を取って,いやし,去らせた。

14:5 彼らに答えた, 「あなた方のうち,息子や牛が井戸の中に落ちた場合,安息日だからといってすぐに引き上げない者がいるだろうか」。

14:6 これらのことについても,彼らは彼に答えることができなかった。

14:7 招かれた人々が上席を選ぶ様子に気づくと,彼らにたとえで話して,こう言った。

14:8 「だれかから婚宴に招かれた時は,上席に着いてはいけない。あなたより身分の高い人も招かれているかも知れないからだ。

14:9 そうすると,あなた方双方を招いた人がやって来て,『この人のために場所を空けてください』とあなたに告げるだろう。その時,あなたは恥をかきながら最も低い場所に着くことになる。

14:10 だが,あなた方が招かれた時は,行って,最も低い場所に着きなさい。そうすれば,あなたを招いた人がやって来た時,『友よ,もっと高い方へ移ってください』とあなたに告げるだろう。その時,共に食卓に着いているみんなの前で,あなたは誉れを受けるだろう。

14:11 だれでも自分を高くする者は低くされ,自分を低くする者は高くされるのだ」。

14:12 彼は自分を招いた人にも言った, 「あなたが昼食や夕食を設ける時は,自分の友人たちも,兄弟たちも,親族たちも,富んでいる隣人たちも呼んではいけない。そうでないと。彼らも逆にもてなして,あなたに返礼することになるかも知れない。

14:13 だが,あなたが祝宴を催す時には,貧しい人たち,足の不自由な人たち,また盲人たちを招きなさい。

14:14 そうすれば,彼らはあなたに報いる手段がないので,あなたは幸いだ。あなたは義人たちの復活において報いを受けることになるからだ」。

14:15 これらのことを聞くと,彼と共に食卓に着いていた者たちの一人が彼に言った,「神の王国で祝宴にあずかる人は幸いです!」

14:16 するとイエスは彼に言った, 「ある人が盛大な晩さんを設けて,大勢の人々を招いた。

14:17 晩さんの時刻に自分の召使いたちを遣わして,招いておいた者たちに言った,『おいでください。もうすっかり整いましたから』。

14:18 彼らは皆,いっせいに言い訳をし始めた。

「最初の者は彼に言った,『畑を買いましたので,見に行かなければなりません。どうぞお許しください』。

14:19 「別の者は言った,『五くびきの牛を買いましたので,試しに行かなければなりません。どうぞお許しください』。

14:20 「別の者は言った,『妻をめとりましたので,そのために参ることができません』。

14:21 「召使いはやって来て,主人にこれらのことを告げた。すると家の主人は腹を立て,召使いに言った,『急いで町の通りや小道に出て行き,貧しい人たち,体の不自由な人たち,盲人たち,また足の不自由な人たちを連れて来なさい』。

14:22 「召使いは言った,『ご主人様,おおせのとおりにしましたが,まだ場所が余っています』。

14:23 「主人は召使いに言った,『大通りや垣根に出て行き,無理にでも人々を入って来させて,わたしの家がいっぱいになるようにしなさい。

14:24 お前たちに告げるが,招かれていた者たちのうち,わたしの晩さんを味わう者はひとりもいないだろう』」。

14:25 さて,大群衆が彼と共に歩いていた。彼は振り向いて彼らに言った,

14:26 「だれでもわたしのもとに来て,自分の父,母,妻,子供たち,兄弟たち,姉妹たち,そうだ,自分の命さえも憎まない者は,わたしの弟子になることはできない。

14:27 だれでも自分の十字架を背負ってわたしの後に付いて来ない者は,わたしの弟子になることはできない。

14:28 あなた方のうちのだれが,塔を建てたいと望みながら,まず座って費用を計算し,それを完成させるだけのものがあるかを確かめないだろうか。

14:29 そうしないと,土台を据えただけで仕上げられなかった時,見ているすべての人が彼をあざけり始めて

14:30 言うことだろう,『この人は建て始めたが,仕上げることができなかった』。

14:31 あるいは,どんな王が,別の王と戦いを交えようとするときに,まず座って,二万人を率いて向かって来る者を,一万人で迎え撃つことができるかどうか,よく考えないだろうか。

14:32 もしできないのであれば,一方の者がまだ遠くにいる間に使者を送り,和平の条件を尋ねるのだ。

14:33 そのようなわけで,だれでもあなた方のうちで自分の持ち物すべてを捨てない者は,わたしの弟子になることはできない。

14:34 塩は良いものだ。だが塩の塩気が抜けて味がなくなったら,あなた方は何によって塩に味を付けるのか。

14:35 そmれは土にもたい肥にも適さない。それは投げ出されるのだ。聞く耳のある者は聞きなさい」。

 

15:1 さて,徴税人たちや罪人たちがみな,彼の話を聞こうとして近づいて来た。

15:2 ファリサイ人と律法学者たちはつぶやいて言った,「この人は,罪人たちを歓迎して一緒に食事をする」。

15:3 彼は彼らに次のたとえを話した。

15:4 「あなた方のうちのだれが,百匹の羊がいて,そのうちの一匹を失ってしまったなら,九十九匹を荒野に残しておいて,失われた一匹を,それが見つかるまで探しに行かないだろうか。

15:5 それを見つけると,喜びながらそれを自分の肩に載せる。

15:6 家に帰ると,自分の友人たちや隣人たちを呼び寄せて,彼らに言うのだ,『わたしと一緒に喜んでくれ。失われていたわたしの羊を見つけたからだ!』 

15:7 あなた方に告げるが,悔い改める一人の罪人については,悔い改める必要のない九十九人の義人たち以上の喜びが天にあるだろう。

15:8 あるいは,どの女が,十枚のドラクマ硬貨を持っていて,一枚のドラクマ硬貨を失ったなら,ともし火をつけ,家を掃き,それが見つかるまで念入りに探さないだろうか。

15:9 それを見つけると,自分の友人たちや隣人たちを呼び集め,こう言うのだ,『わたしと一緒に喜んでください。失っていたドラクマを見つけたからです』。

15:10 そのゆえにも,あなた方に告げる。悔い改める一人の罪人については,神のみ使いたちの面前で喜びがあるのだ」。

15:11 彼は言った, 「ある人に二人の息子がいた。

15:12 そのうちの年下のほうが父親に言った,『お父さん,財産のうちわたしの取り分を下さい』。父親は自分の資産を二人に分けてやった。

15:13 何日もしないうちに,年下の息子はすべてを取りまとめて遠い地方に旅立った。彼はそこで羽目を外した生活をして自分の財産を浪費した。

15:14 すべてを使い果たした時,その地方にひどいききんが起こって,彼は困窮し始めた。

15:15 彼はその地方の住民たちの一人のところに行って身を寄せたが,その人は彼を自分の畑に送って豚の世話をさせた。

15:16 彼は,豚たちの食べている豆のさやで腹を満たしたいと思ったが,彼に何かをくれる者はいなかった。

15:17 だが,我に返った時,彼は言った,『父のところでは,あれほど大勢の雇い人たちにあり余るほどのパンがあるのに,わたしは飢えて死にそうだ! 

15:18 立ち上がって,父のところに行き,こう言おう,「お父さん,わたしは天に対しても,あなたの前でも罪を犯しました。

15:19 わたしはもはやあなたの息子と呼ばれるには値しません。あなたの雇い人の一人のようにしてください」』。

15:20 「彼は立って,自分の父親のところに帰って来た。だが,彼がまだ遠くにいる間に,彼の父親は彼を見て,哀れみに動かされ,走り寄って,その首を抱き,彼に口づけした。

15:21 息子は父親に言った,『お父さん,わたしは天に対しても,あなたの前でも罪を犯しました。わたしはもはやあなたの息子と呼ばれるには値しません』。

15:22 「だが,父親は召使いたちに言った,『最上の衣を持って来て,彼に着せなさい。手に指輪をはめ,足に履物をはかせなさい。

15:23 肥えた子牛を連れて来て,それをほふりなさい。そして,食べて,お祝いをしよう。

15:24 このわたしの息子が,死んでいたのに生き返ったからだ。失われていたのに,見つかったのだ』。彼らは祝い始めた。

15:25 「さて,年上の息子は畑にいた。家のそばに来ると,音楽や踊りの音が聞こえた。

15:26 召使いたちの一人を呼び寄せ,どうしたのかと尋ねた。

15:27 召m使いは彼に言った,『あなたの弟さんが来られたのです。それで,あなたのお父様は,弟さんを無事に健康な姿で迎えたというので,肥えた子牛をほふられたのです』。

15:28 ところが,彼は腹を立て,中に入ろうとしなかった。そのため,彼の父親が出て来て,彼に懇願した。

15:29 だが,彼は父親に答えた,『ご覧なさい,わたしはこれほど長い年月あなたに仕えてきて,一度もあなたのおきてに背いたことはありません。それでも,わたしには,わたしの友人たちと一緒に祝うために,ヤギ一匹さえ下さったことがありません。

15:30 それなのに,あなたの財産を売春婦たちと一緒に食いつぶした,このあなたの息子がやって来ると,あなたは彼のために肥えた子牛をほふられました』。

15:31 「父親は彼に言った,『息子よ,お前はいつもわたしと一緒にいるし,わたしのものは全部お前のものだ。

15:32 だが,このことは祝って喜ぶのにふさわしい。このお前の弟が,死んでいたのに生き返ったからだ。失われていたのに,見つかったのだ』」。

 

16:1 彼は弟子たちにもこう言った。 「ある富んだ人がいたが,彼には一人の管理人がいた。この者が主人の財産を浪費しているという告発が彼になされた。

16:2 彼は管理人を呼んで言った,『わたしがお前について聞いているこのことは,どういうことなのか。お前の管理の会計報告を出しなさい。もう管理はさせられない』。

16:3 「その管理人は自分の内で言った,『どうしようか。わたしの主人はわたしから管理職を取り上げるというのだ。土を掘るほどの力はない。物ごいをするのは恥ずかしい。

16:4 どうすればよいかわかったぞ。こうすれば,わたしが管理職から外された時,人々はわたしを自分たちの家に迎えてくれるだろう』。

16:5 自分の主人の借り主たちを一人ずつ呼び出して,最初の者に言った,『わたしの主人にどのくらいの借りがあるのか』。

16:6 彼は言った,『油百バトスです』。管理人は彼に言った,『自分の証書を取りなさい。早く座って,五十と書きなさい』。

16:7 それから別の者に言った,『どのくらいの借りがあるのか』。彼は言った,『小麦百コロスです』。管理人は彼に言った,『自分の証書を取って,八十と書きなさい』。

16:8 「主人は,この不正な管理人が賢く行動したので,彼をほめた。というのは,この世の子らは,自分たちの世代の中では,光の子らよりも賢いからだ。

16:9 あなた方に告げる。不義の富で自分のために友人たちを作りなさい。そうすれば,それが尽きたとき,彼らはあなた方を永遠の天幕に迎え入れてくれるだろう。

16:10 ごく小さなことに忠実な者は,多くのことにも忠実だ。ごく小さなことに不正直な者は,多くのことにも不正直だ。

16:11 だから,あなた方が不義の富に関して忠実でなかったなら,だれがあなた方に真実の富をゆだねるだろうか。

16:12 あなた方が他人のものに関して忠実でなかったなら,だれがあなた方にあなた方自身のものを与えるだろうか。

16:13 どんな召使いも二人の主人に仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛するか,一方を重んじて他方をさげすむかのどちらかだからだ。あなた方は神と富の両方に仕えることはできない」。

16:14 お金を愛する者であるファリサイ人たちもこれらのすべてのことを聞いていたが,彼らは彼をあざ笑った。

16:15 彼は彼らに言った, 「あなた方は人々の面前で自分を義とする者たちだ。だが,神はあなた方の心を知っておられる。人々の間で高くされているものも,神のみ前では嫌悪すべきものだからだ。

16:16 律法と預言者たちとはヨハネに至るまでだった。その時から,神の王国の福音が宣教されており,すべての人がその中に無理にでも入ろうとしている。

16:17 だが,律法からごく小さな一画が落ちるよりは,天と地の過ぎ行くほうが易しいだろう。

16:18 自分の妻を離縁して別の女と結婚する者は,姦淫かんいんを犯すのだ。夫から離縁された女と結婚する者は,姦淫かんいんを犯すのだ。

16:19 「さて,ある富んだ人がいた。紫の衣と上等の亜麻布を身に着けて,毎日ぜいたくに暮らしていた。

16:20 その門の前には,ラザロという名のこじきが,できものだらけの身で横たわっていて,

16:21 富んだ人の食卓から落ちるパンくずで腹を満たしたいと思っていた。そればかりか,犬たちまでやって来ては,彼のできものをなめていた。

16:22 やがて,そのこじきは死んで,み使いたちによってアブラハムの懐に運び去られた。富んだ人も死んで,葬られた。

16:23 ハデスで苦しみながら目を上げると,はるか遠くにいるアブラハムと,その懐にいるラザロとが見えた。

16:24 彼は叫んで言った,『父アブラハムよ,わたしをあわれんでください。そしてラザロをお遣わしになり,その指先を水に浸して,わたしの舌を冷やすようにさせてください! わたしはこの炎の中で苦しんでいるからです』。

16:25 「だが,アブラハムは言った,『子よ,お前は一生の間に自分の良いものを受け,ラザロは同様に悪いものを受けたことを思い出しなさい。だが,今ここでは,彼は慰められ,お前は苦痛のうちにある。

16:26 それだけではなく,わたしたちとお前たちとの間には大きな裂け目が設けられていて,ここからお前のところに通って行こうと思う者たちもそれができず,そちらからわたしたちのところに渡って来られる者たちもいないのだ』。

16:27 「彼は言った,『それではお願いです,父よ,わたしの父の家に彼を遣わしてください。

16:28 わたしには兄弟が五人いますので,彼らまでこの苦しみの場所に入ることのないように,彼らに対して証言をさせていただきたいのです』。

16:29 「だが,アブラハムは彼に言った,『彼らにはモーセと預言者たちがいる。その者たちに聞き従えばよい』。

16:30 「彼は言った,『そうではないのです,父アブラハムよ,むしろ,だれかが死んだ者たちの中から行くなら,彼らは悔い改めるでしょう』。

16:31 「アブラハムは彼に言った,『彼らがモーセと預言者たちに聞き従わないのであれば,だれかが死んだ者たちのなかから生き返ったとしても,彼らが説得されることはないだろう』」。

 

17:1 彼は弟子たちに言った, 「つまずきのもとがやって来ないということはあり得ないが,自分を通してそれらがやって来るその人は災いだ! 

17:2 これら小さな者たちの一人をつまずかせるよりは,首にうす石をかけられて海に投げ込まれる方が,その者にとっては良いだろう。

17:3 注意していなさい。あなたの兄弟があなたに対して罪を犯したなら,彼をとがめなさい。悔い改めたなら,許しなさい。

17:4 彼が一日に七回あなたに対して罪を犯し,七回戻って来て,『悔い改めます』と言ったとしても,彼を許さなければならない」。

17:5 使徒たちが主に言った,「わたしたちの信仰を増やしてください」。

17:6 主は言った, 「もしあなた方に一粒のからしの種ほどの信仰があるなら,このイチジクグワの木に,『根こそぎにされて,海に植えられよ』と言えば,それはあなた方に従うだろう。

17:7 ところで,あなた方のうちのだれが,畑を耕すか羊の番をする召使いがいるとして,彼が畑から帰って来た時に,『すぐに来て食卓に着きなさい』と言うだろうか。

17:8 むしろ,『わたしの夕食を整えなさい。着替えて,わたしが食べたり飲んだりしている間,わたしの給仕をしなさい。その後で,食べたり飲んだりするがよい』と言うのではないか。

17:9 その召使いが命じられたことを行なったからといって,主人は彼に感謝するだろうか。そうは思えない。

17:10 同じように,あなた方も,自分に命じられたことすべてを行なった時は,『わたしたちは取るに足りない召使いです。自分の義務を行なったまでです』と言いなさい」。

17:11 彼がエルサレムへの途上にあり,サマリアとガリラヤの境界を通り過ぎていたときのことである。

17:12 ある村に入った時,十人のらい病人たちが彼に出会ったが,彼らは遠くに立っていた。

17:13 彼らは声を上げて言った,「師イエスよ,わたしたちをあわれんでください!」

17:14 彼はそれを見ると,彼らに言った, 「行って,自分を祭司たちに見せなさい」。出かけて行く途中で,彼らは清められた。

17:15 彼らのうちの一人は,自分がいやされたのを見て,大声で神に栄光をささげながら戻って来た。

17:16 イエスの足もとにひれ伏して,彼に感謝をささげた。しかも,それはサマリア人であった。

17:17 イエスは答えた, 「十人が清められたのではなかったか。それなら,九人はどこにいるのか。

17:18 神に栄光をささげるために戻って来たのは,この他国人のほかには見いだせないのか」。

17:19 それからイエスは彼に言った, 「立ち上がって,行きなさい。あなたの信仰があなたをいやした」。

17:20 神の王国はいつ来るのかとファリサイ人たちに尋ねられて,彼は彼らに言った, 「神の王国は人目につくようにして来ることはなく,

17:21 人々が,『見よ,ここだ!』とか,『見よ,あそこだ!』などと言うこともない。というのは,見よ,神の王国はあなた方の中にあるのだ」。

17:22 彼は弟子たちに言った, 「あなた方が人の子の日々を一日でも見たいと望みながら,それを見ることのできない日々が来るだろう。

17:23 人々はあなた方に,『見よ,ここだ!』とか,『見よ,あそこだ!』などと言うだろう。出かけて行って,彼らの後に従ってはいけない。

17:24 いなずまが天の下の一方の端からひらめき出て,天の下の他方の端にまで輝きわたるように,人の子も自分の日にはそのようだからだ。

17:25 だが,彼はまず多くの苦しみを受け,この世代から退けられなければならない。

17:26 ノアの日々に起きたとおり,人の子の日々においてもそのようになるだろう。

17:27 ノアが箱船に入るその日まで,人々は食べたり飲んだり,めとったり嫁いだりしていたが,洪水が来て,彼らすべてを滅ぼしてしまった。

17:28 同じように,ロトの日々に起きたとおりになるだろう。人々は食べたり飲んだり,買ったり売ったり,植えたり建てたりしていたが,

17:29 ロトがソドムから出て行ったその日に,火と硫黄が天から降ってきて,彼らすべてを滅ぼしてしまった。

17:30 人の子が現わされる日にも,同じようになるだろう。

17:31 その日には,屋上にいる者は,家の中に自分の家財があっても,それらを取り出そうとして降りてはいけない。畑にいる者も同じように,後ろを振り向いてはいけない。

17:32 ロトの妻のことを思い出しなさい! 

17:33 自分の命を救おうと努める者はそれを失い,自分の命を失う者はそれを保つのだ。

17:34 あなた方に告げるが,その夜,二人の人が一つの寝床にいるだろう。一方は取り去られ,他方は残される。

17:35 二人の女が粉をひいているだろう。一人は取り去られ,一人は残される」。

17:36 *

17:37 彼らは答えて彼に言った,「主よ,どこでですか」。

彼は彼らに言った, 「どこでも死体のあるところ,そこにハゲワシたちも集まって来るだろう」。

 

18:1 彼はまた,いつも祈っていなければならず,あきらめてはならないことを,彼らにたとえで話して

18:2 言った, 「ある町に,神を恐れず,人をも敬わない一人の裁判官がいた。

18:3 その町には一人のやもめがおり,何度も彼のもとに来ては,『わたしを訴える者からわたしを弁護してください!』と言っていた。

18:4 彼は,しばらくの間はそうしようとはしなかったが,後になって自分に言った,『わたしは神を恐れず,人をも敬わないが,

18:5 それでもこのやもめがわたしを煩わすので,彼女を弁護してやろう。そうしないと,彼女は絶え間なくやって来て,わたしを疲れ果てさせるだろう』」。

18:6 主は言った, 「この不義の裁判官の言うことを聞きなさい。

18:7 まして神は,昼も夜もご自分に向かって叫んでいる,ご自分の選ばれた者たちのあだを討たずに,彼らのことを我慢し続けられることがあるだろうか。

18:8 あなた方に告げるが,神は速やかに彼らのあだを討たれるだろう。それでも,人の子が来る時,地上に信仰を見いだすだろうか」。

18:9 彼はまた,自分の義を確信しており,他のすべての人たちをさげすんでいたある人々に対して,次のたとえを語った。

18:10 「二人の人が祈るために神殿に上って行った。一人はファリサイ人で,もう一人は徴税人だった。

18:11 ファリサイ人は立って,自分の中でこのように祈った。『神よ,わたしがほかの者たち,すなわち,奪い取る者たち,不義の者たち,姦淫かんいんを犯す者たちのようでなく,さらにはこの徴税人のようでさえないことに感謝します。

18:12 わたしは週に二度断食しています。自分の得るすべてのものの十分の一税をささげています』。

18:13 だが,徴税人は,遠くに立ち,目を天に上げようともせず,胸を打ちながら言った,『神よ,罪人のわたしをあわれんでください!』 

18:14 あなた方に告げるが,この人は,最初の人よりも義とされて自分の家に下って行った。だれでも自分を高くする者は低くされ,自分を低くする者は高くされるのだ」。

18:15 人々はまた,彼に触ってもらおうとして,赤子たちを彼のもとに連れて来ていた。しかし,弟子たちはそれを見て,彼らをしかりつけた。

18:16 イエスは彼らを呼び寄せて言った, 「幼子たちがわたしのところに来るままにしておきなさい。彼らをとどめてはいけない。神の王国はこのような者たちのものだからだ。

18:17 本当にはっきりとあなた方に告げる。神の王国を幼子のように受け入れない者は,決してその中に入ることはない」。

18:18 ある支配者が彼に尋ねて言った,「善い先生,永遠の命を受け継ぐためには何をしたらよいでしょうか」。

18:19 イエスは彼に答えた, 「なぜ,わたしのことを善いと呼ぶのか。神おひとりのほかに善い者はいない。

18:20 あなたはおきてを知っている。『姦淫かんいんを犯してはいけない』,『殺してはいけない』,『盗んではいけない』,『偽りの証言をしてはいけない』,『だまし取ってはいけない』,『あなたの父と母を敬いなさい』」。

18:21 彼は言った,「わたしはそうした事すべてを幼いころから守ってきました」。

18:22 イmエスはこれらの事を聞いて,彼に言った, 「あなたにはまだ一つのことが足りない。自分の持ち物をみな売って,貧しい人々に配りなさい。あなたは天に宝を持つことになる。来て,わたしに従いなさい」。

18:23 しかし,彼はこれらの事を聞いてひどく悲しんだ。非常に富んでいたからである。

18:24 彼がひどく悲しむのを見ながら,イエスは言った, 「富んだ人たちが神の王国に入るのは,何と難しいことか! 

18:25 富んだ人が神の王国に入るよりは,ラクダが針の穴を通り抜ける方が易しいのだ」。

18:26 彼らはこれを聞いて言った,「それでは,だれが救いを得られるのですか」。

18:27 しかし彼は言った, 「人には不可能な事柄でも,神には可能なのだ」。

18:28 ペトロが言った,「ご覧ください,わたしたちは何もかも後にして,あなたに従いました」。

18:29 イエスは言った, 「本当にはっきりとあなた方に告げる。神の王国のために,家,妻,兄弟たち,両親,あるいは子供たちを後にする者で,

18:30 今この時に何倍も受け,また来たるべき世で永遠の命を受けない者はいない」。

18:31 彼は十二人をわきに連れて行き,彼らに言った, 「見よ,わたしたちはエルサレムに上って行く。そして,人の子について,預言者たちを通して書かれたことはみな成し遂げられるだろう。

18:32 彼は異邦人たちに引き渡され,あざけられ,ひどい扱いを受け,つばをかけられる。

18:33 彼らは彼をむち打ち,殺すだろう。三日目に彼は生き返る」。

18:34 彼らはこれらのことを理解しなかった。この言葉は彼らから隠されており,彼らは語られたことを理解しなかったのである。

18:35 彼がエリコに近づいていた時のこと,ある盲人が道ばたに座って物ごいをしていた。

18:36 群衆が通り過ぎるのを耳にして,これは何事かと尋ねた。

18:37 人々は,ナザレのイエスが通って行くのだと彼に告げた。

18:38 彼は叫んで言った,「ダビデの子イエスよ,わたしをあわれんでください!」 

18:39 先を行く者たちが彼をしかりつけ,黙らせようとしたが,彼はますます,「ダビデの子よ,わたしをあわれんでください!」と叫び続けた。

18:40 イエスは立ち止まって,彼を連れて来るようにと命じた。彼が近づいて来ると,イエスは彼に尋ねた,

18:41 「何をして欲しいのか」。

彼は言った,「主よ,また見えるようになることです」。

18:42 イエスは彼に言った, 「見えるようになりなさい。あなたの信仰があなたをいやしたのだ」。

18:43 すぐに彼は見えるようになり,神に栄光をささげながらイエスに従った。それを見て,人々はみな神をたたえた。

 

19:1 彼はエリコに入り,そこを通り過ぎていた。

19:2 ザアカイオスという名の人がいた。徴税人の長で,富んでいた。

19:3 イエスがどんな人か見ようとしたが,群衆のためにできなかった。背が低かったからである。

19:4 前方に走って行き,イチジクグワの木に登って,彼を見ようとした。彼がその道を通っていたからである。

19:5 イエスはその場所に来ると,彼を見上げて,彼に言った, 「ザアカイオス,急いで降りて来なさい。わたしは今日,必ずあなたの家に泊まるからだ」。

19:6 彼は急いで降りて来て,喜んでイエスを迎えた。

19:7 それを見ると,みんなはつぶやいて言った,「彼は罪人であるこの男のところに行って宿を取った」。

19:8 ザアカイオスは立ち上がって主に言った,「ご覧ください,主よ,わたしは自分の財産の半分を貧しい人たちに与えます。だれかのものを不正に取り立てていたなら,四倍にして返します」。

19:9 イエスは彼に言った, 「今日,救いがこの家に来た。彼もまたアブラハムの子だからだ。

19:10 人の子は,失われたものを探し出し,それを救うために来たのだ」。

19:11 彼らがこれらのことを聞いていると,彼は続けて一つのたとえを話した。彼がエルサレムに近づいており,彼らは神の王国がすぐに現われるものと思っていたからである。

19:12 それで彼は言った, 「ある貴族が,王国を受けて戻るために,遠い国に出かけた。

19:13 彼は自分の十人の召使いたちを呼び,彼らに十枚のミナ硬貨を渡して,彼らに言った,『わたしが帰って来るまで商売をしなさい』。

19:14 しかし彼の市民たちは彼を憎んでいたので,彼の後から使者を遣わして,こう言った,『わたしたちはこの男が自分たちを支配することを望みません』。

19:15 「彼は王国を受けて帰って来ると,お金を渡しておいたそれらの召使いたちを呼び寄せるよう命じた。彼らが商売をして何をもうけたかを知るためだった。

19:16 最初の者が彼の前に来て言った,『主よ,あなたの一ミナはさらに十ミナを作り出しました』。

19:17 「主人は彼に言った,『よくやった,善い召使いよ。あなたはごく小さなことに忠実だと分かったから,十の都市に対する権威を持ちなさい』。

19:18 「二番目の者が来て言った,『主よ,あなたの一ミナは五ミナを作り出しました』。

19:19 「そこで主人は彼に言った,『あなたも五つの都市を治めなさい』。

19:20 別の者が来て言った,『主よ,ご覧ください,あなたの一ミナです。手ぬぐいに包んで,しまっておきました。

19:21 わたしはあなたが恐かったのです。あなたは厳格な方ですから。預けなかったところで取り立て,種をまかなかった所で刈り取られるのです』。

19:22 「主人は彼に言った,『あなた自身の口からあなたを裁こう,悪い召使いよ! あなたはわたしが厳しい者で,預けなかったところで取り立て,種をまかなかった所で刈り取ることを知っていたのか。

19:23 それなら,どうしてわたしのお金を銀行に預けなかったのか。そうすれば,帰って来た時,それに加えて利息を得られただろうに』。

19:24 そばに立っている者たちに言った,『その一ミナを彼から取り上げて,十ミナ持っている者に与えなさい』。

19:25 「彼らは彼に言った,『主よ,彼はすでに十ミナを持っています!』 

19:26 『あなた方に告げるが,だれでも持っている者にはさらに与えられるが,持っていない者からはその持っているものまでも取り去られることになるのだ。

19:27 だが,わたしがその上で支配することを望まなかった,あのわたしの敵たちをここに連れ出して,わたしの前で殺してしまえ』」。

19:28 これらのことを言ってから,彼は先に立って進み,エルサレムに上って行った。

19:29 オリブトと呼ばれる山のふもとの,ベツファゲとベタニアに近づいた時,彼は弟子たちのうちの二人を遣わして,

19:30 こう言った, 「向こう側の村に行きなさい。そこに入ると,だれも乗ったことのない子ロバがつないであるのが見つかるだろう。それを解いて,連れて来なさい。

19:31 もしだれかが,『なぜそれを解いているのか』と尋ねるなら,その者に,『主がこれを必要としているのです』と言いなさい」。

19:32 遣わされた者たちは出て行き,彼が自分たちに告げたとおりのことを見いだした。

19:33 彼は子ロバを解いていると,その持ち主たちが彼らに言った,「なぜ子ロバを解いているのか」。

19:34 彼らは言った,「主がこれを必要とされているのです」。

19:35 彼らはそれをイエスのもとに連れて来た。子ロバの上に自分たちの外衣を投げかけると,イエスはそれらに乗った。

19:36 彼が進んで行くと,人々は自分たちの外衣を道に敷いた。

19:37 彼が今やオリーブ山の下り坂に近づくと,弟子たちから成る群衆はみな,自分たちが見たすべての強力な業のことで喜び,大声で神を賛美し始めて

19:38 言った,「主の名において来る王は幸いだ! 平和が天に,栄光がいと高き所に!」

19:39 数人のファリサイ人たちが,群衆の中から彼に言った,「先生,あなたの弟子たちをしかってください!」

19:40 彼は彼らに答えた, 「あなた方に告げるが,これらの者が黙っているなら,石が叫ぶだろう」。

19:41 彼は都に近づくと,都を見てそのために涙を流し,

19:42 こう言った, 「もしあなたが,まさにあなたが,この日に,自分の平和にかかわる事柄を知っていたなら! だが,それらは今あなた方の目から隠されている。

19:43 あなたには次のような日々が来るからだ。すなわち,あなたの敵たちはあなたに対してバリケードを築き,あなたを包囲して四方から取り巻き,

19:44 あなたとあなたの中にいるあなたの子らを地面に打ち倒すだろう。彼らはあなたの中で,石をほかの石の上に残しておくことはないだろう。あなたが自分の訪れの時を知らなかったからだ」。

19:45 彼mは神殿に入り,そこで買ったり売ったりしていた者たちを追い出し始め,

19:46 彼らに言った, 「『わたしの家は祈りの家だ』と書かれているのに,あなた方はそれを『強盗の巣』にしてしまった!」

19:47 彼は神殿で毎日教えていたが,祭司長たちと律法学者たち,および民の指導者たちは,彼を滅ぼそうとした。

19:48 しかし,どうすればよいか分からなかった。民はみな,彼の語るすべての言葉に聞き入っていたからである。

 

20:1 ある日のこと,彼が神殿で民を教え,福音を宣教していると,祭司 *たちと律法学者たちが長老たちと共に彼のもとにやって来た。

20:2 彼らは彼に尋ねた,「わたしたちに告げなさい。あなたは何の権威によってこうした事をするのか。また,だれがその権威をあなたに与えたのか」。

20:3 彼は彼らに答えた, 「わたしもあなた方に一つのことを尋ねよう。わたしに告げなさい。

20:4 ヨハネのバプテスマは天からのものだったか,それとも人からのものだったか」。

20:5 彼らは互いに論じ合って言った,「我々が『天から』と言えば,彼は『あなた方が彼を信じなかったのはなぜか』と言うだろう。

20:6 だが,我々が『人から』と言えば,民はみな我々を石打ちにするだろう。彼らがヨハネは預言者だと信じ込んでいるからだ」。

20:7 彼らは,自分たちはそれがどこからのものか知らないと答えた。

20:8 イエスは彼らに言った, 「わたしも,何の権威によってこうした事をするのかをあなた方に告げない」。

20:9 彼は民に次のたとえを告げ始めた。 「ある人がブドウ園を造り,それを何人かの耕作人たちに貸して,長い間外国に出かけた。

20:10 しかるべき季節に,彼は召使いを耕作人たちのところに送って,ブドウ園の産物の分け前を集めようとした。しかし彼らはその召使いを打ちたたき,何も持たせずに送り返した。

20:11 彼はさらに別の召使いを送ったが,彼らはその召使いをも打ちたたき,ひどい扱いをし,何も持たせずに送り返した。

20:12 彼はさらに三人目の者を送ったが,彼らはその召使いにも傷を負わせ,外に投げ出した。

20:13 ブドウ園の主人は言った,『どうしようか。わたしの愛する息子を送ろう。彼を見れば,彼らも彼を敬うだろう』。

20:14 「ところが耕作人たちは,彼を見て,互いに論じ合って言った,『これは相続人だ。さあ,こいつを殺そう。そうすれば,相続財産は我々の物になるのだ』。

20:15 彼らは彼を,そのブドウ園の外に投げ出して殺した。それで,ブドウ園の主人は彼らをどうするだろうか。

20:16 やって来てそれらの耕作人たちを滅ぼし,そのブドウ園をほかの者たちに与えるだろう」。

それを聞くと彼らは言った,「そんなことがあってはならない!」

20:17 しかし彼は彼らを見つめて言った, 「では,こう書かれているのはどういうことか。

『建てる者たちが退けた石,
       それが主要な隅石となった』。

20:18 「この石の上に落ちる者は皆,粉々に砕かれ,
       その石がだれかの上に落ちれば,それはその者をみじんにするだろう」。

20:19 祭司長たちとファリサイ人たちは,まさにその時,彼に手をかけようとしたが,民を恐れた。彼がこのたとえを自分たちに当てつけて話したことを知っていたからである。

20:20 彼らは彼の様子をうかがって,義人のふりをしたスパイたちを遣わした。彼の言葉じりを捕らえて,総督の支配力と権威のもとに彼を引き渡すためであった。

20:21 彼らは彼に言った,「先生,わたしたちはあなたが正しいことを話したり教えたりされること,また,だれをもえこひいきすることなく,神の道を正しく教えられることを知っています。

20:22 カエサルに税金を払うことは許されているでしょうか,許されていないでしょうか」。

20:23 しかし彼は,彼らのずる賢さに気づいて,彼らに言った, 「なぜあなた方はわたしを試すのか。

20:24 一デナリオスをわたしに見せなさい。そこにあるのはだれの像と銘なのか」。

彼らは答えた,「カエサルのです」。

20:25 彼は彼らに答えた, 「それなら,カエサルのものはカエサルに,神のものは神に返しなさい」。

20:26 彼らは民の前で彼の言葉じりを捕らえることができなかった。彼の答えに驚嘆し,黙ってしまった。

20:27 サドカイ人たちのある者たちが彼のもとにやって来た。復活があることを否定する者たちである。

20:28 彼に尋ねて言った,「先生,モーセはわたしたちに,『もしある人の兄に妻がいて,子供を残さずに死んだ場合,彼の弟がその妻をめとり,自分の兄のために子孫を起こさなければならない』と書きました。

20:29 ところで,七人の兄弟がいました。最初の者が妻をめとりましたが,子供を残さずに死にました。

20:30 二番目の者が彼女をめとりましたが,子供を残さずに死にました。

20:31 三番目の者が彼女をめとりました。そして同じように七人全員が子供を残さずに死にました。

20:32 その後,その女も死にました。

20:33 それで,復活において,彼女は彼らのうちだれの妻になるのですか。七人全員が彼女を妻にしたのですから」。

20:34 イエスは彼らに答えた, 「この世の子らは,めとったり嫁いだりしている。

20:35 だが,その世と死んだ者たちの中からの復活とを得るのにふさわしいとされた者たちは,めとることも嫁ぐこともない。

20:36 彼らはもはや死ぬことはあり得ないからだ。み使いのようだからであり,また復活の子らとして神の子らであるからだ。

20:37 だが,死んだ者たちが起こされることについては,モーセも『茂み』のくだりで,主を『アブラハムの神,イサクの神,ヤコブの神』と呼んで,そのことを示している。

20:38 この方は死んだ者たちの神ではなく,生きている者たちの神なのだ。その方にとってはすべての人が生きているのだ」。

20:39 律法学者たちのある者たちが答えた,「先生,立派なお答えです」。

20:40 彼らは彼にこれ以上あえて何かを尋ねることはなかった。

20:41 彼は彼らに言った, 「どうして彼らはキリストがダビデの子だと言うのか。

20:42 ダビデ自身,詩編の書の中でこう言っている。

『主はわたしの主に言われた,
       「わたしの右に座っていなさい,
      

20:43 わたしがあなたの敵たちをあなたの足台とするまで」』。

20:44 「それで,ダビデが彼を主と呼んでいるのなら,どうして彼はダビデの子なのか」。

20:45 すべての民が聞いているところで,彼は弟子たちに言った,

20:46 「律法学者たちに用心しなさい。彼らが好むのは,長い衣をまとって歩き回ることであり,彼らが愛しているのは,市場であいさつされること,そして会堂での上席や祝宴での上座だ。

20:47 彼らは,やもめたちの家々を食い物にし,見せかけのために長い祈りをする者たちだ。こうした者たちは最も厳しい裁きを受けるだろう」。

 

21:1 彼は目を上げて,富んだ人たちが宝物庫に彼らの供え物を入れているのを見た。

21:2 また,ある貧しいやもめが小さな真ちゅうの硬貨二つを投げ入れているのを見た。

21:3 彼は言った, 「本当にあなた方に言う。この貧しいやもめは,彼ら全部よりも多くを入れた。

21:4 これらの者はみな自分のあり余る中から神への供え物を入れたが,彼女は,その乏しい中から,彼女が生活のために持っていたものすべてを差し出したからだ」。

21:5 ある者たちが,神殿について,それが美しい石や供え物で飾り立てられていることを話していると,彼は言った,

21:6 「あなた方が見ているこれらのものについて言えば,ここで石が崩されずにほかの石の上に残ることのない日々が来る」。

21:7 彼らは彼に答えた,「先生,それでは,それらのことはいつ起きるのですか。それらのことが起きるときのしるしは何ですか」。

21:8 彼は言った, 「あなた方は惑わされないように注意していなさい。多くの者がわたしの名においてやって来て,『わたしはある』,また『その時が近づいた』と言うだろう。だから,彼らに従ってはいけない。

21:9 戦争や動乱のことを聞く時,おびえてはいけない。これらのことはまず起こらなければならないが,終わりはすぐには来ないからだ」。

21:10 それから,彼は彼らに言った, 「民族は民族に,王国は王国に敵対して立ち上がるだろう。

21:11 あちこちで大きな地震やききんや伝染病がある。さまざまな恐ろしいことや天からの大いなるしるしがある。

21:12 だが,これらのすべてのことの前に,人々はあなた方に手をかけ,迫害し,会堂やろうやに引き渡し,わたしの名のゆえに王たちや総督たちの前に引き出すだろう。

21:13 それはあなた方にとって証言の機会となるだろう。

21:14 だから,どのように答えようかと前もって考えないよう心に決めなさい。

21:15 わたしがあなた方に,あなた方の反対者たち全員が反論も否定もできないような口と知恵を与えるからだ。

21:16 あなた方は,両親,兄弟たち,親族たち,友人たちからさえ引き渡されるだろう。彼らは,あなた方のうちのある者たちを死に至らせるだろう。

21:17 あなた方はわたしの名のゆえにすべての者たちから憎まれるだろう。

21:18 しかし,あなた方の髪の毛一本さえ滅びることはない。

21:19 「あなた方は自分の忍耐によって自分の命を勝ち取りなさい。

21:20 「だが,エルサレムが軍隊に包囲されているのを見るなら,その時,その荒廃が近づいたことを知りなさい。

21:21 その時,ユダヤにいる者たちは山に逃げなさい。都の中にいる者たちは立ち去りなさい。田舎にいる者たちは,都に入ってはいけない。

21:22 これこそ,書かれているすべてのことが果たされる報復の日々だからだ。

21:23 それらの日,妊娠している者たちと幼子に乳を飲ませている者たちにとっては災いだ! この地には大きな苦しみがあり,この民に対しては憤りがあるからだ。

21:24 彼らは剣の刃に倒れ,とりことしてあらゆる民族のもとへ引いて行かれるだろう。エルサレムは,異邦人たちの時が満たされるまで,異邦人たちによって踏みつけられるだろう。

21:25 太陽と月と星々にしるしがあり,地上では,海と波のとどろきのゆえに当惑する諸国民の不安があり,

21:26 人々は恐れのゆえ,また世界に臨もうとしている事柄についての予想のゆえに,気を失うだろう。天にあるもろもろの力が揺り動かされるからだ。

21:27 その時,人々は,人の子が力と大いなる栄光を伴って雲のうちに来るのを見るだろう。

21:28 だが,これらのことが起こり始めたなら,身を起こして頭を上げなさい。あなた方の請け戻しが近づいているからだ」。

21:29 彼は彼らに一つのたとえを話した。 「イチジクの木や,すべての木を見なさい。

21:30 すでに芽を出していると,あなた方はそれを見て,もう夏が近いことを自分で知る。

21:31 このようにあなた方も,これらのことが起こるのを見たなら,神の王国が近いことを知りなさい。

21:32 本当にはっきりとあなた方に告げる。これらのすべてのことが実現するまでは,この世代は過ぎ去らない。

21:33 天と地は過ぎ去るだろう。それでも,わたしの言葉は決して過ぎ去ることがないのだ。

21:34 「だから,見張っていなさい。そうでないと,飲み騒ぎや泥酔や生活の思い煩いであなた方の心が鈍くなり,その日が急にあなた方に臨むことになるだろう。

21:35 それは全地の表に住むすべての者たちに,わなのように臨むからだ。

21:36 だから,祈りながらいつも見張っていなさい。あなた方が,起ころうとしているこれらすべてのことを逃れ,人の子の前に立つにふさわしいとみなされるためだ」。

21:37 イエスは毎日,昼は神殿で教え,夜は出て行って,オリブトと呼ばれる山で夜を過ごしていた。

21:38 民はみな,彼の言うことを聞くために,朝早くから,神殿にいる彼のもとにやって来た。

 

22:1 さて,過ぎ越しと呼ばれる種なしパンの祭りが近づいていた。

22:2 祭司長たちと律法学者たちは,どうしたら彼を死に至らせることができるかを探り求めていた。彼らは民を恐れていたのである。

22:3 サタンが,またの名をイスカリオトといい,十二人の中に数えられていたユダに入り込んだ。

22:4 彼は出て行き,祭司長たちや指揮官たちと,どうしたら彼がイエスを彼らに引き渡せるかについて話し合った。

22:5 彼らは喜び,彼にお金を与えることに決めた。

22:6 彼は承諾し,群衆のいないときにイエスを引き渡す機会を探り求めた。

22:7 種なしパンの日がやって来た。過ぎ越しの犠牲がささげられなければならない日である。

22:8 彼はペトロとヨハネを遣わして,こう言った, 「行って,わたしたちのために過ぎ越しの食事を用意しなさい」。

22:9 彼mらは彼に言った,「どこに用意をすることをお望みですか」。

22:10 彼は彼らに言った, 「見よ,あなた方が市内に入ると,水がめを運んでいる男があなた方に出会うだろう。その人に付いて行き,彼の入る家に行きなさい。

22:11 その家の主人にこう言いなさい。『先生が,「わたしが弟子たちと共に過ぎ越しの食事をする客室はどこか」と言っています』。

22:12 彼はあなた方に,席の整えられた大きな階上の部屋を見せてくれるだろう。その場所で準備をしなさい」。

22:13 彼らは出て行き,彼が自分たちに告げたとおりのことを見いだした。それで彼らは過ぎ越しの用意をした。

22:14 その時刻になると,彼は十二人の使徒たちと共に席に着いた。

22:15 彼は彼らに言った, 「わたしは,自分が苦しみを受ける前に,あなた方と一緒にこの過ぎ越しの食事をしたいと,熱烈に願っていた。

22:16 あなた方に告げるが,神の王国でこれが満たされるまで,わたしはもはやこの食事をすることはないからだ」。

22:17 杯を受け取り,感謝をささげてから,彼らに言った, 「これを取って,互いに分け合いなさい。

22:18 あなた方に告げるが,神の王国が来るまで,わたしはもはやブドウの木の産物を飲むことはないからだ」。

22:19 パンを取り,感謝をささげてからそれを裂き,彼らに与えてこう言った。 「これはあなた方のために与えられるわたしの体だ。わたしの思い出として,これを行ないなさい」。

22:20 同じように,晩さんの後で杯を取ってこう言った。 「この杯は,あなた方のために流されるわたしの血による新しい契約だ。

22:21 だが,見よ,わたしを売り渡す者の手が,わたしと共に食卓にある。

22:22 確かに人の子は定められたとおりに去って行く。だが,彼を売り渡すその人は災いだ!」

22:23 彼らは,彼らの中でだれがそんなことをしようとしているのか,互いに尋ね始めた。

22:24 彼らの間ではまた,自分たちの中でだれが一番偉いと思われるかに関する口論も生じた。

22:25 彼は彼らに言った, 「異邦人たちの王たちは人々に対して威張り散らし,人々の上に権力のある者たちは『恩人』と呼ばれている。

22:26 だが,あなた方はそうではない。むしろ,あなた方の間で一番偉い者は一番若い者のように,支配する者は仕える者のようになりなさい。

22:27 というのは,食卓に着いている者と仕える者では,どちらが偉いのか。食卓に着いている者ではないか。それでも,わたしは仕える者としてあなた方の中にいる。

22:28 だが,あなた方はわたしの数々の試練のときに,ずっとわたしと共にいてくれた者たちだ。

22:29 わたしの父がわたしに王国を授けてくださったように,わたしはあなた方にそれを授ける。

22:30 あなた方がわたしの王国で,わたしの食卓に着いて食べたり飲んだりするためだ。あなた方は座に着き,イスラエルの十二部族を裁くだろう」。

22:31 主は言った, 「シモン,シモン,見よ,サタンは,あなた方を小麦のようにふるいにかけるために,あなた方を手に入れることを求めた。

22:32 だがわたしは,あなたの信仰が尽きないように,あなたのために祈った。あなたは,いったん立ち返ったなら,あなたの兄弟たちを強めなさい」。

22:33 ペトロは彼に言った,「主よ,わたしは,ろうやにも,死に至るまでも,あなたと一緒に行く用意ができています!」

22:34 彼は言った, 「ペトロよ,あなたに告げる。あなたが三度わたしを知っていることを否認するまでは,今日,おんどりが鳴くことはないだろう」。

22:35 彼は彼らに言った, 「わたしがあなた方を,財布も袋も履物も持たせずに遣わした時,何かに不足したか」。

彼らは言った,「何にも不足しませんでした」。

22:36 すると彼は彼らに言った, 「だが今は,財布のある者はそれを取り,袋も同じようにしなさい。何も持っていない者は,自分の外衣を売って,剣を買いなさい。

22:37 あなた方に告げるが,『彼は不法な者たちと共に数えられた』と書かれているこのことは,なおわたしにおいて果たされなければならないのだ。わたしに関することは終わりを迎えるからだ」。

22:38 彼らは言った,「主よ,ご覧ください,ここに剣が二振りあります」。

彼は彼らに言った, 「それで十分だ」。

22:39 彼は出て来て,自分の習慣どおりに,オリーブ山に行った。弟子たちも彼に従った。

22:40 その場所に来ると,彼は彼らに言った, 「あなた方は誘惑に陥らないよう,祈っていなさい」。

22:41 彼らから石を投げて届くほどの所に下がり,ひざまずいて祈り,

22:42 こう言った, 「父よ,もしそう望まれるなら,この杯をわたしから取り除いてください。それでも,わたしの意志ではなく,あなたのご意志がなされますように」。

22:43 天から一人のみ使いが彼に現われ,彼を強めた。

22:44 彼mは苦しみもだえ,ますます熱烈に祈った。彼の汗は大粒の血の滴りのようになって地面に落ちた。

22:45 祈りから起き上がり,弟子たちのところに来ると,彼らが悲しみのために眠り込んでいるのを見いだした。

22:46 それで彼らに言った, 「なぜあなた方は眠っているのか。誘惑に陥らないよう,起きて祈っていなさい」。

22:47 彼がまだ話しているうちに,見よ,群衆が現われた。そして,十二人の一人でユダと呼ばれる者が彼らの先頭に立っていた。口づけをしようとしてイエスに近づいた。

22:48 しかしイエスは彼に言った, 「ユダ,あなたは口づけで人の子を売り渡すのか」。

22:49 彼の周りにいた者たちは,起きようとしていることを見て,彼に言った,「主よ,剣で撃ちましょうか」。

22:50 彼らのうちのある者が,大祭司の召使いに撃ちかかり,その右耳を切り落とした。

22:51 しかしイエスは答えた, 「そこまでにしなさい」。そして,彼の耳を触って,彼をいやした。

22:52 イエスは,自分に向かって来た祭司長たち,神殿の指揮官たち,および長老たちに言った, 「あなた方は強盗に対するかのように,剣とこん棒を持って出て来たのか。

22:53 わたしは毎日あなた方と一緒に神殿にいて教えていたのに,あなた方はわたしに向かって手を出さなかった。だが,今はあなた方の時,闇の支配だ」。

22:54 彼らは彼を捕まえて,引いて行き,大祭司の家に連れて来た。しかしペトロは遠くから付いて行った。

22:55 人々は中庭の真ん中に火をたいて一緒に座ったので,ペトロも彼らの中で腰を下ろした。

22:56 ある召使いの女が,彼が明るいところに座っているのを見,彼をじっと見つめて言った,「この男も彼と一緒にいました」。

22:57 彼はイエスを否認して言った,「女よ,わたしは彼を知らない」。

22:58 しばらくして,ほかの者が彼を見て言った,「あなたも彼らの一人だ!」

しかしペトロは答えた,「人よ,わたしは違う!」

22:59 一時間ほどすると,別の者が自信満々に断言して言った,「確かにこの男も彼と一緒にいた。ガリラヤ人だからだ!」

22:60 しかしペトロは言った,「人よ,わたしはあなた方の話しているそのことを知らないのだ!」 すぐに,彼がまだ話している間に,おんどりが鳴いた。

22:61 主は振り返ってペトロを見つめた。そこでペトロは, 「おんどりが鳴く前に,あなたは三度わたしを否認するだろう」と,主が自分に言った言葉を思い出した。

22:62 外に出て,激しく泣いた。

22:63 イエスを拘留していた者たちは,彼をなぶりものにし,殴りつけた。

22:64 彼に目隠しをして顔を打ち,彼に言った,「預言しろ! お前を打ったのはだれか」。

22:65 彼らは,彼を侮辱しながら,彼に向かってほかにも多くのことを話しかけた。

22:66 朝になると,民の長老たちの会は,祭司長たちも律法学者たちも共に集まり,彼を彼らの最高法院に引いて行き,こう言った。

22:67 「もしお前がキリストなら,我々に告げよ」。

しかし彼は彼らに言った, 「あなた方に告げたとしても,あなた方は信じないだろうし,

22:68 尋ねたとしても,あなた方はわたしに答えたり,わたしを解放したりはしないだろう。

22:69 今後,人の子は神の力の右に座ることになる」。

22:70 みんなは言った,「それならお前は神の子か」。

彼は彼らに言った, 「わたしはあるとは,あなた方が言った」。

22:71 彼らは言った,「なぜこれ以上証人が必要だろうか。我々自身が本人の口から聞いたのだ!」

 

23:1 彼らの全員が立ち上がり,彼をピラトの前に連れて行った。

23:2 彼らは彼を訴え始めて言った,「わたしたちは,この男が国民を惑わし,カエサルに税を払うのを禁じ,また,自分が王なるキリストだと言っているのを見いだしました」。

23:3 ピラトは彼に尋ねた,「お前はユダヤ人の王なのか」。

彼はピラトに答えた, 「あなたがそう言っている」。

23:4 ピラトは祭司長たちと群衆に言った,「わたしはこの男に対して訴える根拠を何も見いださない」。

23:5 しかし彼らは言い張った,「彼は,ユダヤのあちこちで教えながら,民を扇動しているのです。しかもガリラヤから始めてこの場所にまで至ったのです」。

23:6 ガリラヤと聞いて,ピラトはこの男がガリラヤ人かどうか尋ねた。

23:7 彼がヘロデの管轄内にあると知ると,ピラトは彼をヘロデのもとに送った。ヘロデもそのころエルサレムにいたのである。

23:8 さてヘロデは,イエスを見ると非常に喜んだ。彼について多くのことを耳にしていたため,ずっと前から彼を見てみたいと思っていたからである。彼が何か奇跡を行なうのを見たいと望んでいた。

23:9 ヘロデは多くの言葉で彼に質問したが,彼は何も答えなかった。

23:10 祭司長たちと律法学者たちが立っており,激しく彼を訴えていた。

23:11 ヘロデも自分の兵士たちと一緒になって彼を辱め,彼をなぶりものにした。豪華な衣を着せて,彼をピラトのところに送り返した。

23:12 まさにその日,ヘロデとピラトは互いに友人になった。それまでは互いに敵対していたのである。

23:13 ピラトは祭司長たちと支配者たちと民を呼び,

23:14 彼らに言った,「お前たちは,民を惑わす者として,この男をわたしのところに連れて来た。それで見よ,わたしはお前たちの前で彼を尋問したが,この男に対してお前たちが訴えている事柄について,その根拠を何も見いだせなかった。

23:15 ヘロデも同じだ。わたしはお前たちをそのもとに送ったからだ。それで見よ,彼は死に値することを何もしていない。

23:16 だから,わたしは彼をむち打ってから,彼を釈放することにする」。

23:17 さて,ピラトは祭りの際に,囚人を一人,彼らのために釈放しなければならなかった。

23:18 しかし彼らはいっせいに叫んで言った,「その男を取り除け! 我々にはバラバを釈放しろ!」 

23:19 このバラバは,都での暴動と人殺しとのかどでろうやに入れられていた者である。

23:20 ピラトは,イエスを解放したいと思い,再び彼らに語りかけた。

23:21 しかし彼らは叫んで言った,「はりつけにしろ! 彼をはりつけにしろ!」

23:22 彼は三度目に彼らに言った,「なぜだ。この男がどんな悪事をしたというのか。わたしは死刑に値する犯罪を何も彼に見いださなかった。だから,わたしは彼をむち打ってから,彼を釈放することにする」。

23:23 しかし彼らは,彼をはりつけにするように求めて,大声で迫った。彼らの声と祭司長たちの声が優勢になった。

23:24 ピラトは彼らの要求どおりにするよう布告を出した。

23:25 暴動と殺人のかどでろうやに入れられていた者,彼らが求めていた者を釈放し,イエスを彼らの意向に引き渡した。

23:26 イエスを引いて行く時,彼らは田舎から出てきたキュレネのシモンを捕まえ,彼に十字架を負わせ,イエスの後ろから運ばせた。

23:27 民の大群衆と,彼のために嘆き悲しむ女たちが,彼に従った。

23:28 しかしイエスは,彼女たちのほうに振り向いて言った, 「エルサレムの娘たちよ,わたしのために泣いてはいけない。むしろ,自分と自分の子供たちのために泣きなさい。

23:29 見よ,人々が,『不妊の女と,生まなかった胎と,乳を飲ませなかった乳房とは幸いだ』と言う日々が来ようとしているからだ。

23:30 その時,人々は山々に向かって,『我々の上に倒れてくれ!』と言い,丘に向かって,『我々を覆ってくれ!』と言い始めるだろう。

23:31 というのも,青々とした木において彼らがこれらのことをするのであれば,枯れ木においては何がなされるだろうか」。

23:32 彼らはほかの二人の犯罪者をも,死に至らせるために彼と共に引いて行った。

23:33 「どくろ」と呼ばれている場所にやって来ると,彼を犯罪者たちと共にそこではりつけにし,一人はその右に,もう一人はその左に置いた。

23:34 イエスは言った, 「父よ,彼らをお許しください。自分たちが何をしているかを知らないからです」。

彼らは,互いに彼の外衣を分けようとしてくじを引いた。

23:35 民は立って見届けていた。支配者たちも彼をあざ笑って言った,「ほかの者たちは救ったのだ。もしこれが神のキリスト,その選ばれた者なら,自分を救うがよい!」

23:36 兵士たちも彼をなぶりものにし,彼のもとに来て酢を差し出して

23:37 言った,「もしお前がユダヤ人の王なら,自分を救え!」

23:38 彼の上には,「これはユダヤ人の王」と,ギリシャ語,ラテン語,およびヘブライ語で書かれたものがあった。

23:39 十字架に掛けられた犯罪者たちの一人が彼を侮辱して言った,「もしお前がキリストなら,自分自身と我々を救え!」

23:40 しかし,もう一人の者が答えて,彼をしかりつけて言った,「お前は同じ刑罰を受けているのに,神を恐れないのか。

23:41 確かに我々には当然のことだ。自分の行ないに応じた報いを受けているのだから。だがこの人は何も不正なことをしていないのだ」。

23:42 彼はイエスに言った,「主よ,あなたがご自分の王国に入られる時には,わたしのことを思い出してください」。

23:43 イエスは彼に言った, 「確かにあなたに告げる。今日あなたはわたしと共にパラダイスにいるだろう」。

23:44 すでに第六時ごろになっていたが,闇が全土を覆い,第九時にまで及んだ。

23:45 太陽が暗くなり,神殿の幕が二つに裂けた。

23:46 イエスは大声で叫んで言った, 「父よ,あなたのみ手に,わたしの霊をゆだねます!」 こう言ってから,息を引き取った。

23:47 百人隊長は,起きたことを見ると,神に栄光をささげて,「確かにこの人は義人だった」と言った。

23:48 見物に集まって来ていた群衆は皆,起きた事柄を見ると,胸を打ちながら帰って行った。

23:49 彼のすべての知人たちと,ガリラヤから彼に従ってきた女たちとは,遠くに立ってこれらのことを見届けていた。

23:50 見よ,ヨセフという名の人がいた。最高法院の議員であり,善良な正しい人であった。

23:51 (彼は彼らの企てや行動には同意しなかった。)ユダヤ人の町アリマタヤの出身で,やはり神の王国を待ち望んでいた。

23:52 この人がピラトのところへ行き,イエスの体を渡してくれるようにと願い出た。

23:53 彼はそれを取り降ろして亜麻布に包み,岩に切り掘った,まだだれも横たえられたことのない墓に横たえた。

23:54 準備の日で,安息日が近づいていた。

23:55 イエスと共にガリラヤから来ていた女たちは,後を付いて行き,その墓と,彼の体が横たえられる様子とを見ていた。

23:56 彼女たちは帰って行き,香料と香油を準備した。安息日には,おきてに従って休息した。

 

24:1 しかし,週の初めの日,明け方早く,彼女たちとほかの幾人かは,準備した香料を墓にやって来た。

24:2 墓から石が転がしてあるのを見つけた。

24:3 中に入ると,主イエスの体が見つからなかった。

24:4 このことで途方に暮れていると,見よ,二人の人がまばゆい衣を着て彼女たちに現われた。

24:5 彼女たちはおびえて,地に顔を伏せた。

彼らは彼女たちに言った,「あなた方はなぜ,生きている者を死んだ者たちの間に探し求めるのか。

24:6 彼はここにはいない。起こされたのだ。彼がまだガリラヤにいた時にあなた方に告げたことを思い出しなさい。

24:7 人の子は罪深い者たちの手に引き渡され,はりつけにされ,三日目に生き返らなければならない,と言ったではないか」。

24:8 彼女たちは彼の言葉を思い出し,

24:9 墓から戻って来て,十一人と残りの全員に,これらのすべてのことを告げた。

24:10 ところで,その女たちは,マリア・マグダレネ,ヨハンナ,およびヤコブの母マリアであった。彼女たちと一緒にいたほかの女たちも,使徒たちにこれらのことを告げた。

24:11 これらの言葉は,彼らにはばかげたことのように思われたので,彼らは彼女たちのことを信じなかった。

24:12 しかし,ペトロは立ち上がり,墓に走って行った。身をかがめて中をのぞくと,亜麻布だけが置かれているのを見た。それで,起きたことを不思議に思いながら,家に帰って行った。

24:13 見よ,まさにその日,彼らのうちの二人が,エルサレムから六十スタディアのところにあるエマオという名の村へ向かっていた。

24:14 起きたこれらのすべての事柄について,互いに語り合っていた。

24:15 彼らが語り,論じ合っていると,イエス自身が近づいて来て,彼らと一緒に歩き出した。

24:16 しかし彼らの目は,彼を見分けられないでいた。

24:17 彼は彼らに言った, 「あなた方が歩きながら語り合って,悲しんでいることは,いったい何ですか」。

24:18 彼らのうちの一人で,クレオパスという名の者が,彼に答えた,「あなたはエルサレムで一人だけ他国人で,このごろその中で起こったことを知らないのですか」。

24:19 彼は彼らに言った, 「どんなことですか」。

彼らは彼に言った,「ナザレ人イエスに関することです。彼は,神と民すべての前で,業と言葉において強力な預言者でしたが,

24:20 祭司長たちとわたしたちの支配者たちとは,彼を死の裁きに引き渡し,はりつけにしたのです。

24:21 ですが,わたしたちは,彼こそイスラエルを買い戻してくださる方だと期待していました。しかも,そればかりでなく,これらのことが起こってからもう三日になるのです。

24:22 その上,わたしたちの仲間の女たちが,わたしたちを驚かせました。彼女たちは朝早く墓に着きましたが,

24:23 彼の体が見つからずに戻って来て,み使いたちが彼は生きていると告げる幻まで見たと言うのです。

24:24 わたしたちのうちの何人かが墓に行ってみると,まさに女たちが言ったとおりだと知りましたが,彼は見当たりませんでした」。

24:25 彼は彼らに言った, 「愚かで,預言者たちが語ったすべてのことを信じるのに心の鈍い者たちよ! 

24:26 キリストはこれらの苦しみを受けて,自分の栄光に入って行くはずではなかったのか」。

24:27 モーセとすべての預言者たちから始めて,聖書全体から,自分自身に関する事柄を彼らに説明した。

24:28 彼らは向かっていた村に近づいたが,彼はさらに進んで行く様子を見せた。

24:29 彼らは彼を促して言った,「わたしたちと一緒にお泊まりください。夕方になりかけていますし,日も傾きかけていますから」。

彼は彼らと一緒に泊まるために入って行った。

24:30 彼らと共に食卓に着いた時,彼はパンを取って感謝をささげた。それを裂いて彼らに与えた。

24:31 彼らの目は開かれ,それが彼だと分かった。すると,彼は彼らの面前から見えなくなった。

24:32 彼らは互いに言った,「あの方が道を行きながらわたしたちに語っておられた時,またわたしたちに聖書を解き明かしておられた時,わたしたちの心はわたしたちの内で燃えていなかっただろうか」。

24:33 すぐに立ち上がって,エルサレムに戻ってみると,十一人および彼らと共にいる者たちが集まり合い,

24:34 「主は確かに起こされて,シモンに現われたのだ!」と言っているのを見いだした。

24:35 二人は,道の途中で起こったことや,パンを裂いているときに彼だと分かった様子について詳しく話した。

24:36 彼らがこれらのことを話していると,イエス自身が彼らの間に立ち,彼らに言った, 「あなた方に平安があるように」。

24:37 しかし彼らはおびえて恐れに満たされ,霊を見ているものと思った。

24:38 彼は彼らに言った, 「なぜあなた方は動転しているのか。あなた方の心に疑いが生じるのはどうしてか。

24:39 わたしの両手と両足を見なさい。まさしくわたしだ。わたしに触り,また見なさい。霊にはあなた方がわたしに見るような肉や骨はないのだ」。

24:40 こう言ってから,彼らに自分の両手と両足を見せた。

24:41 彼らが喜びのあまりまだ信じられず,不思議に思っていると,彼は彼らに言った, 「あなた方は何か食べる物を持っているか」。

24:42 彼らは彼に,一切れの焼き魚と,幾つかのハチの巣を出した。

24:43 彼はそれらを取って,彼らの前で食べた。

24:44 彼らに言った, 「これは,わたしがまだあなた方と一緒にいた時,あなた方に告げたことなのだ。つまり,わたしについて,モーセの律法と預言者たちと詩編の中で書かれているすべての事柄は,必ず果たされるということだ」。

24:45 それから彼は彼らの知力を開き,彼らが聖書を理解できるようにした。

24:46 彼らに言った, 「このように書いてあり,このようなことがキリストに要求されている。つまり,苦しみを受け,三日目に死んだ者たちの中から生き返り,

24:47 そして,悔い改めと罪の許しが,エルサレムから始まって,彼の名においてあらゆる民族に宣教されることだ。

24:48 あなた方はこれらのことの証人だ。

24:49 見よ,わたしはあなた方の上に,わたしの父が約束されたものを送り出す。だが,高い所からの力に包まれるまでは,エルサレムの都に待機していなさい」。

24:50 彼らをベタニアまで連れて行き,両手を上げて彼らを祝福した。

24:51 彼らを祝福している間に,彼らから離れて行き,天に運び上げられた。

24:52 彼らは彼を拝み,大きな喜びをもってエルサレムに戻って行き,

24:53 絶えず神殿にいて,神を賛美していた。アーメン。

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