文語訳舊約聖書(1953年版)(振り仮名付き)
章: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
サムエル後書
1:1 サウルの死し後ダビデ、アマレク人を撃てかへりチクラグに二日とどまりけるが
1:2 第三日に及びて一個の人其衣を裂き頭に土をかむりて陣營より即ちサウルの所より來りダビデの許にいたり地にふして拝せり
1:3 ダビデかれにいひけるは汝いづくより來れるやかれダビデにいひけるはイスラエルの陣營より逃れきたれり
1:4 ダビデかれにいひけるは事いかん請ふ我につげよかれこたへけるは民戰に敗れて逃げ民おほく仆れて死りまたサウルと其子ヨナタンも死り
1:5 ダビデ其おのれにつぐる少者にいひけるは汝いかにしてサウルと其子ヨナタンの死たるをしるや
1:6 ダビデにつぐる少者いひけるは我はからずもギルボア山にのぼり見しにサウル其槍に倚かかりをりて戰車と騎兵かれにせめよらんとせり
1:7 彼うしろにふりむきて我を見我をよびたれば我こたへて我ここにありといふ
1:8 かれ我に汝は誰なるやといひければ我かれにこたへて我はアマレク人なりといふ
1:9 かれまた我にいひけるはわが身いたく攣ば請ふ我うへにのりて我をころせわが生命なほわれの中にまつたければなりと
1:10 我すなはちかれの上にのりてかれを殺したり其は我かれが?に仆て生ることをえざるをしりたればなりしかして我その首にありし冕とその腕にありし釧を取りてこれをわが主に携へきたれり
1:11 是においてダビデおのれの衣を執てこれを裂けりまた彼とともにある者も皆しかせり
1:12 彼等サウルのためまた其子ヨナタンのためまたヱホバの民のためイスラエルの家のために哭きかなしみて晩まで食を斷り其は彼ら劍にたふれたればなり
1:13 ダビデおのれに告し少者にいひけるは汝は何處の者なるやかれこたへけるは我は他國の人すなはちアマレク人なりと
1:14 ダビデかれにいひけるは汝なんぞ手をのばしてヱホバの膏そそぎし者をころすことを畏ざりしやと
1:15 ダビデ一人の少者をよびていひけるは近よりてかれをころせとすなはちかれをうちければ死り
1:16 ダビデかれにいひけるは汝の血は汝の首に歸せよ其は汝口づから我ヱホバのあぶらそそぎし者をころせりといひて己にむかひて證をたつればなり
1:17 ダビデ悲歌をもてサウルと其子ヨナタンを吊ふ
1:18 ダビデ命じてこれをユダの族にをしへしむ即ち弓の歌是なり是はヤシル書に記さる
1:19 イスラエルよ汝の榮耀は汝の崇邱に殺さる嗚呼勇士は仆れたるかな
1:20 此事をガテに告るなかれアシケロンの邑に傳るなかれ恐くはペリシテ人の女等喜ばん恐くは割禮を受ざる者の女等樂み祝はん
1:21 ギルボアの山よ願は汝の上に雨露降ることあらざれ亦供物の田園もあらざれ其は彼處に勇士の干棄らるればなり即ちサウルの干膏を沃がずして彼處に棄らる
1:22 殺せし者の血をのまずしてヨナタンの弓は退かず勇士の脂を食ずしてサウルの劍は空く歸らず
1:23 サウルとヨナタンは愛らしく樂げにして生死ともに離れず二人は鷲よりも捷く獅子よりも強かりき
1:24 イスラエルの女等よサウルのために哀けサウルは絳き衣をもて汝等を華麗に粧ひ金の飾を汝等の衣に着たり
1:25 嗚呼勇士は戰の中に仆たるかなヨナタン汝の崇邱に殺されぬ
1:26 兄弟ヨナタンよ我汝のために悲慟む汝は大に我に樂き者なりき汝の我をいつくしめる愛は尋常ならず婦の愛にも勝りたり
1:27 嗚呼勇士は仆たるかな戰の具は失たるかな
2:1 此のちダビデ、ヱホバに問ていひけるは我ユダのひとつの邑にのぼるべきやヱホバかれにいひたまひけるはのぼれダビデいひけるは何處にのぼるべきやヱホバいひたまひけるはヘブロンにのぼるべしと
2:2 ダビデすなはち彼處にのぼれりその二人の妻ヱズレル人アヒノアムおよびカルメル人ナバルの妻なりしアビガルもともにのぼれり
2:3 ダビデ其おのれとともにありし從者と其家族をことごとく將のぼりければ皆ヘブロンの諸巴にすめり
2:4 時にユダの人々きたり彼處にてダビデに膏をそそぎてユダの家の王となせり 人々ダビデにつげてサウルを葬りしはヤベシギレアデの人なりといひければ
2:5 ダビデ使者をヤベシギレアデの人におくりてこれにいひけるは汝らこの厚意を汝らの主サウルにあらはしてかれを葬りたればねがはくは汝らヱホバより福祉をえよ
2:6 ねがはくはヱホバ恩寵と眞實を汝等にしめしたまへ汝らこの事をなしたるにより我亦汝らに此恩惠をしめすなり
2:7 されば汝ら手をつよくして勇ましくなれ汝らの主サウルは死たり又ユダの家我に膏をそそぎて我をかれらの王となしたればなりと
2:8 爰にサウルの軍の長ネルの子アブネル、サウルの子イシボセテを取りてこれをマナイムにみちびきわたり
2:9 ギレアデとアシユリ人とヱズレルとエフライムとベニヤミンとイスラエルの衆の王となせり
2:10 サウルの子イシボセテはイスラエルの王となりし時四十歳にして二年のあひだ位にありしがユダの家はダビデにしたがへり
2:11 ダビデのヘブロンにありてユダの家の王たりし日數は七年と六ヶ月なりき
2:12 ネルの子アブネル及びサウルの子なるイシボセテの臣僕等マハナイムを出てギベオンに至れり
2:13 セルヤの子ヨアブとダビデの臣僕もいでゆけり彼らギベオンの池の傍にて出會一方は池の此畔に一方は池の彼畔に坐す
2:14 アブネル、ヨアブにいひけるはいざ少者をして起て我らのまへに戯れしめんヨアブいひけるは起しめんと
2:15 サウルの子イシボセテに屬するベニヤミンの人其數十二人及びダビデの臣僕十二人起て前み
2:16 おのおの其敵手の首を執へて劍を其敵手の脅に刺し斯して彼等倶に斃れたり是故に其處はヘルカテハヅリム(利劍の地)と稱らる即ちギベオンにあり
2:17 此日戰甚だ烈しくしてアブネルとイスラエルの人々ダビデの臣僕のまへに敗る
2:18 其處にゼルヤの三人の子ヨアブ、アビシヤイ、アサヘル居たりしがアサヘルは疾足なること野にをる?のごとくなりき
2:19 アサヘル、アブネルの後を追ひけるが行に右左にまがらずアブネルの後をしたふ
2:20 アブネル後を顧みていふ汝はアサヘルなるか彼しかりと答ふ
2:21 アブネルかれにいひけるは汝の右か左に轉向て少者の一人を擒へて其戎服を取れと然どアサヘル、アブネルをおふことを罷て外に向ふを肯ぜず
2:22 アブネルふたたびアサヘルにいふ汝我を追ことをやめて外に向へ我なんぞ汝を地に撃ち仆すべけんや然せば我いかでかわが面を汝の兄ヨアブにむくべけんと
2:23 然どもかれ外にむかふことをいなむによりアブネル槍の後銛をもてかれの腹を刺しければ槍その背後にいでたりかれ其處にたふれて立時に死り斯しかばアサヘルの仆れて死るところに來る者は皆たちどまれり
2:24 されどヨアブとアビシヤイはアブネルの後を追きたりしがギベオンの野の道傍にギアの前にあるアンマの山にいたれる時日暮ぬ
2:25 ベニヤミンの子孫アブネルにしたがひて集まり一隊となりてひとつの山の頂にたてり
2:26 爰にアブネル、ヨアブをよびていひけるは刀劍豈永久にほろぼさんや汝其終りには怨恨を結ぶにいたるをしらざるや汝何時まで民に其兄弟を追ふことをやめてかへることを命ぜざるや
2:27 ヨアブいひけるは神は活く若し汝が言出さざりしならば民はおのおの其兄弟を追はずして今晨のうちにさりゆきしならんと
2:28 かくてヨアブ喇叭を吹きければ民皆たちどまりて再イスラエルの後を追はずまたかさねて戰はざりき
2:29 アブネルと其從者終夜アラバを經ゆきてヨルダンを濟りビテロンを通りてマハナイムに至れり
2:30 ヨアブ、アブネルを追ことをやめて歸り民をことごとく集めたるにダビデの臣僕十九人とアサヘル缺てをらざりき
2:31 されどダビデの臣僕はベニヤミンとアブネルの從者三百六十人を撃ち殺せり
2:32 人々アサヘルを取りあげてベテレヘムにある其父の墓に葬るヨアブと其從者は終夜ゆきて黎明にヘブロンにいたれり
3:1 サウルの家とダビデの家の間の戰爭久しかりしがダビデは益強くなりサウルの家はますます弱くなれり
3:2 ヘブロンにてダビデに男子等生る其首出の子はアムノンといひてヱズレル人アヒノアムより生る
3:3 其次はギレアブといひてカルメル人ナバルの妻なりしアビガルより生る第三はアブサロムといひてゲシユルの王タルマイの女子マアカの子なり
3:4 第四はアドニヤといひてハギテの子なり第五はシバテヤといひてアビタルの子なり
3:5 第六はイテレヤムといひてダビデの妻エグラの子なり是等の子ヘブロンにてダビデに生る
3:6 サウルの家とダビデの家の間に戰爭ありし間アブネルは堅くサウルの家に荷擔り
3:7 嚮にサウル一人の妾を有り其名をリヅパといふアヤの女なり爰にイシボセテ、アブネルにいひけるは汝何ぞわが父の妾に通じたるや
3:8 アブネル甚しくイシボセテの言を怒りていひけるは我今日汝の父サウルの家とその兄弟とその朋友に厚意をあらはし汝をダビデの手にわたさざるに汝今日婦人の過を擧て我を責む我あに犬の首ならんやユダにくみする者ならんや
3:9 神アブネルに斯なしまたかさねて斯なしたまへヱホバのダビデに誓ひたまひしごとく我かれに然なすべし
3:10 即ち國をサウルの家より移しダビデの位をダンよりベエルシバにいたるまでイスラエルとユダの上にたてん
3:11 イシボセテ、アブネルを恐れたればかさねて一言も之にこたふるをえざりき
3:12 アブネルおのれの代に使者をダビデにつかはしていひけるは此地は誰の所有なるや又いひけるは汝我と契約を爲せ我力を汝に添へてイスラエルを悉く汝に歸せしめん
3:13 ダビデいひけるは善し我汝と契約をなさん但し我一の事を汝に索む即ち汝來りてわが面を覿る時先づサウルの女ミカルを携きたらざれば我面を覿るを得じと
3:14 ダビデ使者をサウルの子イシボセテに遣していひけるはわがペリシテ人の陽皮一百を以て聘たるわが妻ミカルを我に交すべし
3:15 イシボセテ人をつかはしてかれを其夫ライシの子パルテより取しかば
3:16 其夫哭つつ歩みて其後にしたがひて倶にバホリムにいたりしがアブネルかれに歸り往けといひければすなはち歸りぬ
3:17 アブネル、イスラエルの長老等と語りていひけるは汝ら前よりダビデを汝らの王となさんことを求め居たり
3:18 されば今これをなすべし其はヱホバ、ダビデに付て語りて我わが僕ダビデの手を以てわが民イスラエルをペリシテ人の手よりまたその諸の敵の手より救ひいださんといひたまひたればなりと
3:19 アブネル亦ベニヤミンの耳に語れりしかしてアブネル自らイスラエルおよびベニヤミンの全家の善とおもふ所をヘブロンにてダビデの耳に告んとて往り
3:20 すなはちアブネル二十人をしたがへてヘブロンにゆきてダビデの許にいたりければダビデ、アブネルと其したがへる從者のために酒宴を設けたり
3:21 アブネル、ダビデにいひけるは我起てゆきイスラエルをことごとくわが主王の所に集めて彼等に汝と契約を立しめ汝をして心の望む所の者をことごとく治むるにいたらしめんと是においてダビデ、アブネルを歸してかれ安然に去り
3:22 時にダビデの臣僕およびヨアブ人の國を侵して歸り大なる掠取物を携へきたれり然どアブネルはタビデとともにヘブロンにはをらざりき其はダビデかれを歸してかれ安然に去りたればなり
3:23 ヨアブおよびともにありし軍兵皆かへりきたりしとき人々ヨアブに告ていひけるはネルの子アブネル王の所にきたりしが王かれを返してかれ安然にされりと
3:24 ヨアブ王に詣りていひけるは汝何を爲したるやアブネル汝の所にきたりしに汝何故にかれを返して去ゆかしめしや
3:25 汝ネルの子アブネルが汝を誑かさんとてきたり汝の出入を知りまた汝のすべて爲す所を知んために來りしを知ると
3:26 かくてヨアブ、ダビデの所より出來り使者をつかはしてアブネルを追しめたれば使者シラの井よりかれを將返れりされどダビデは知ざりき
3:27 アブネル、ヘブロンに返りしかばヨアブ彼と密に語らんとてかれを門の内に引きゆき其處にてその腹を刺てこれを殺し己の兄弟アサヘルの血をむくいたり
3:28 其後ダビデ聞ていひけるは我と我國はネルの子アブネルの血につきてヱホバのまへに永く罪あることなし
3:29 其罪はヨアブの首と其父の全家に歸せよねがはくはヨアブの家には白濁を疾ものか癩病人か杖に倚ものか劍に仆るものか食物に乏しき者か絶ゆることあらざれと
3:30 ヨアブとその弟アビシヤイのアブネルを殺したるは彼がギベオンにて戰陣のうちにおのれの兄弟アサヘルをころせしによれり
3:31 ダビデ、ヨアブおよびおのれとともにある民にいひけるは汝らの衣服を裂き麻の衣を著てアブネルのために哀哭くべしとダビデ王其棺にしたがふ
3:32 人衆アブネルをヘブロンに葬れり王聲をあげてアブネルの墓に哭き又民みな哭けり
3:33 王アブネルの爲に悲の歌を作りて云くアブネル如何にして愚なる人の如くに死けん
3:34 汝の手は縛もあらず汝の足は鏈にも繋れざりしものを嗚呼汝は惡人のために仆る人のごとくにたふれたり斯て民皆再びかれのために哭けり
3:35 民みな日のあるうちにダビデにパンを食はしめんとて來りしにダビデ誓ひていひけるは若し日の沒まへに我パンにても何にても味ひなば神我にかくなし又重ねて斯なしたまへと
3:36 民皆見て之を其目に善しとせり凡て王の爲すところの事は皆民の目に善と見えたり
3:37 其日民すなはちイスラエル皆ネルの子アブネルを殺たるは王の所爲にあらざるを知れり
3:38 王その臣僕にいひけるは今日一人の大將大人イスラエルに斃る汝らこれをしらざるや
3:39 我は膏そそがれし王なれども今日尚弱しゼルヤの子等なる此等の人我には制しがたしヱホバ惡をおこな者に其惡に隨ひて報いたまはん
4:1 サウルの子はアブネルのヘブロンにて死たるを聞きしかば其手弱くなりてイスラエルみな憂へたり
4:2 サウルの子隊長二人を有てり其一人をバアナといひ一人をレカブといふベニヤミンの支派なるベロテ人リンモンの子等なり其はベロテも亦ベニヤミンの中に數らるればなり
4:3 昔にペロテ人ギツタイムに逃遁れて今日にいたるまで彼處に旅人となりて止まる
4:4 サウルの子ヨナタンに跛足の子一人ありヱズレルよりサウルとヨナタンの事の報いたりし時には五歳なりき其乳媼かれを抱きて逃れたりしが急ぎ逃る時其子堕て跛者となれり其名をメピボセテといふ
4:5 ベロテ人リンモンの子レカブとバアナゆきて日の熱き頃イシボセテの家にいたるにイシボセテ午睡し居たり
4:6 かれら麥を取らんといひて家の中にいりきたりかれの腹を刺りしかしてレカブと其兄弟バアナ逃げさりぬ
4:7 彼等が家にいりしときイシボセテは其寝室にありて床の上に寝たりかれら即ちこれをうちころしこれを馘りて其首級をとり終夜アラバの道をゆきて
4:8 イシボセテの首級をヘブロンにダビデの許に携へいたりて王にいひけるは汝の生命を求めたる汝の敵サウルの子イシボセテの首を視よヱホバ今日我主なる王の仇をサウルと其裔に報いたまへりと
4:9 ダビデ、ベロテ人リンモンの子レカブと其兄弟バアナに答へていひけるはわが生命を諸の艱難の中に救ひたまひしヱホバは生く
4:10 我は嘗て人の我に告て視よサウルは死りと言ひて自ら我に善き事を傳ふる者と思ひをりしを執てこれをチクラグに殺し其消息に報いたり
4:11 况や惡人の義人を其家の床の上に殺したるをやされば我彼の血をながせる罪を汝らに報い汝らをこの地より絶ざるべけんやと
4:12 ダビデ少者に命じければ少者かれらを殺して其手足を切離しヘブロンの池の上に懸たり又イシボセテの首を取りてヘブロンにあるアブネルの墓に葬れり
5:1 爰にイスラエルの支派咸くヘブロンにきたりダビデにいたりていひけるは視よ我儕は汝の骨肉なり
5:2 前にサウルが我儕の王たりし時にも汝はイスラエルを率ゐて出入する者なりきしかしてヱホバ汝に汝わが民イスラエルを牧養はん汝イスラエルの君長とならんといひたまへりと
5:3 斯くイスラエルの長老皆ヘブロンにきたり王に詣りければダビデ王ヘブロンにてヱホバのまへにかれらと契約をたてたり彼らすなはちダビデに膏を灑でイスラエルの王となす
5:4 ダビデは王となりし時三十歳にして四十年の間位に在き
5:5 即ちヘブロンにてユダを治むること七年と六箇月またエルサレムにてイスラエルとユダを全く治むること三十三年なり
5:6 茲に王其從者とともにエルサレムに往き其地の居民ヱブス人を攻んとすヱブス人ダビデに語りていひけるは汝此に入ること能はざるべし反て盲者跛者汝を追はらはんと是彼らダビデ此に入るあたはずと思へるなり
5:7 然るにダビデ、シオンの要害を取り是即ちダビデの城邑なり
5:8 ダビデ其日いひけるは誰にても水道にいたりてヱブス人を撃ちまたダビデの心の惡める跛者と盲者を撃つ者は(首となし長となさん)と是によりて人々盲者と跛者は家に入るべからずといひなせり
5:9 ダビデ其要害に住て之をダビデの城邑と名けたりまたダビデ、ミロ(城塞)より内の四方に建築をなせり
5:10 かくてダビデはますます大に成りゆき且萬軍の神ヱホバこれと共にいませり
5:11 ツロの王ヒラム使者をダビデに遣はして香柏および木匠と石工をおくれり彼らダビデの爲に家を建つ
5:12 ダビデ、ヱホバのかたく己をたててイスラエルの王となしたまへるを暁りまたヱホバの其民イスラエルのために其國を興したまひしを暁れり
5:13 ダビデ、ヘブロンより來りし後エルサレムの中よりまた妾と妻を納たれば男子女子またダビデに生る
5:14 ヱルサレムにて彼に生れたる者の名はかくのごとしシヤンマ、シヨバブ、ナタン、ソロモン
5:15 イブハル、エリシユア、ネペグ、ヤピア
5:16 エリシヤマ、エリアダ、エリバレテ
5:17 爰に膏を沃いでダビデをイスラエルの王と爲し事ペリシテ人に聞えければペリシテ人皆ダビデを獲んとて上るダビデ聞て要害に下れり
5:18 ペリシテ人臻りてレバイムの谷に布き備たり
5:19 ダビデ、ヱホバに問ていひけるは我ペリシテ人にむかひて上るべきや汝かれらをわが手に付したまふやヱホバ、ダビデにいひたまひけるは上れ我必らずペリシテ人を汝の手にわたさん
5:20 ダビデ、バアルペラジムに至りかれらを其所に撃ていひけるはヱホバ水の破壞り出るごとく我敵をわが前に破壞りたまへりと是故に其所の名をバアルペラジム(破壞の處)と呼ぶ
5:21 彼處に彼等其偶像を遺たればダビデと其從者これを取あげたり
5:22 ペリシテ人再び上りてレバイムの谷に布き備へたれば
5:23 ダビデ、ヱホバに問にヱホバいひたまひけるは上るべからず彼等の後にまはりベカの樹の方より彼等を襲へ
5:24 汝ベカの樹の上に進行の音を聞ばすなけち突出づべし其時にはヱホバ汝のまへにいでてペリシテ人の軍を撃たまふべければなりと
5:25 ダビデ、ヱホバのおのれに命じたまひしごとくなしペリシテ人を撃てゲバよりガゼルにいたる
6:1 ダビデ再びイスラエルの選抜の兵士三萬人を悉く集む
6:2 ダビデ起ておのれと共にをる民とともにバアレユダに往て神の櫃を其處より舁上らんとす其櫃はケルビムの上に坐したまふ萬軍のヱホバの名をもて呼る
6:3 すなはち神の櫃を新しき車に載せて山にあるアビナダブの家より舁だせり
6:4 アビナダブの子ウザとアヒオ神の櫃を載たる其新しき車を御しアヒオは櫃のまへにゆけり
6:5 ダビデおよびイスラエルの全家琴と瑟と?と鈴と鐃?をもちて力を極め謡を歌ひてヱホバのまへに躍踴れり
6:6 彼等がナコンの禾場にいたれる時ウザ手を神の櫃に伸してこれを扶へたり其は牛振たればなり
6:7 ヱホバ、ウザにむかひて怒りを發し其誤謬のために彼を其處に撃ちたまひければ彼そこに神の櫃の傍に死ねり
6:8 ヱホバ、ウザを撃ちたまひしによりてダビデ怒り其處をペレヅウザ(ウザ撃)と呼り其名今日にいたる
6:9 其日ダビデ、ヱホバを畏れていひけるはヱホバの櫃いかで我所にいたるべけんやと
6:10 ダビデ、ヱホバの櫃を己に移してダビデの城邑にいらしむるを好まず之を轉してガテ人オベデエドムの家にいたらしむ
6:11 ヱホバの櫃ガテ人オベデエドムの家に在ること三月なりきヱホバ、オベデエドムと其全家を惠みたまふ
6:12 ヱホバ神の櫃のためにオベデエドムの家と其所有を皆惠みたまふといふ事ダビデ王に聞えけれぼダビデゆきて喜樂をもて神の櫃をオベデエドムの家よりダビデの城邑に舁上れり
6:13 ヱホバの櫃を舁者六歩行](ゆき)}たる時ダビデ牛と肥たる者を献げたり
6:14 ダビデ力を極めてヱホバの前に踊躍れり時にダビデ布のエポデを著け居たり
6:15 ダビデおよびイスラエルの全家歓呼と喇叭の聲をもてヱホバの櫃を舁のぼれり
6:16 神の櫃ダビデの城邑にいりし時サウルの女ミカル?より窺ひてダビデ王のヱホバのまへに舞躍るを見其心にダビデを蔑視む
6:17 人々ヱホバの櫃を舁入てこれをダビデが其爲に張たる天幕の中なる其所に置りしかしてダビデ燔祭と酬恩祭をヱホバのまへに献げたり
6:18 ダビデ燔祭と酬恩祭を献ぐることを終し時萬軍のヱホバの名を以て民を祝せり
6:19 また民の中即ちイスラエルの衆庶の中に男にも女にも倶にパン一箇肉一斤乾葡萄一塊を分ちあたへたり斯て民皆おのおの其家にかへりぬ
6:20 爰にダビデ其家族を祝せんとて歸りしかばサウルの女ミカル、ダビデをいでむかへていひけるはイスラエルの王今日如何に威光ありしや自ら遊蕩者の其身を露すがごとく今日其臣僕の婢女のまへに其身を露したまへりと
6:21 ダビデ、ミカルにいふ我はヱホバのまへに即ち汝の父よりもまたその全家よりも我を選みて我をヱホバの民イスラエルの首長に命じたまへるヱホバのまへに躍れり
6:22 我は此よりも尚鄙からんまたみづから賤しと思はん汝が語る婢女等とともにありて我は尊榮をえんと
6:23 是故にサウルの女ミカルは死ぬる日まで子あらざりき
7:1 王其家に住にいたり且ヱホバ其四方の敵を壞てかれを安らかならしめたまひし時
7:2 王預言者ナタンに云けるは視よ我は香柏の家に住む然ども神の櫃は幔幕の中にあり
7:3 ナタン王に云けるはヱホバ汝と共に在せば往て凡て汝の心にあるところを爲せ
7:4 其夜ヱホバの言ナタンに臨みていはく
7:5 往てわが僕ダビデに言へヱホバ斯く言ふ汝わがために我の住むべき家を建んとするや
7:6 我はイスラエルの子孫をエジプトより導き出せし時より今日にいたるまで家に住しことなくして但天幕と幕屋の中に歩み居たり
7:7 我イスラエルの子孫と共に凡て歩める處にて汝ら何故に我に香柏の家を建ざるやとわが命じてわが民イスラエルを牧養しめしイスラエルの士師の一人に一言も語りしことあるや
7:8 然ば汝わが僕ダビデに斯く言ふべし萬軍のヱホバ斯く言ふ我汝を牧場より取り羊に隨ふ所より取りてわが民イスラエルの首長となし
7:9 汝がすべて往くところにて汝と共にあり汝の諸の敵を汝の前より斷さりて地の上の大なる者の名のごとく汝に大なる名を得さしめたり
7:10 又我わが民イスラエルのために處を定めてかれらを植つけかれらをして自己の處に住て重て動くことなからしめたり
7:11 また惡人昔のごとくまたわが民イスラエルの上に士師を立てたる時よりの如くふたたび之を惱ますことなかるべし我汝の諸の敵をやぶりて汝を安かならしめたり又ヱホバ汝に告ぐヱホバ汝のために家をたてん
7:12 汝の日の滿て汝が汝の父祖等と共に寝らん時に我汝の身より出る汝の種子を汝の後にたてて其國を堅うせん
7:13 彼わが名のために家を建ん我永く其國の位を堅うせん
7:14 我はかれの父となり彼はわが子となるべし彼もし迷はば我人の杖と人の子の鞭を以て之を懲さん
7:15 されど我の恩惠はわが汝のまへより除きしサウルより離れたるごとくに彼よりは離るることあらじ
7:16 汝の家と汝の國は汝のまへに永く保つべし汝の位は永く堅うせらるべし
7:17 ナタン凡て是等の言のごとくまたすべてこの異象のごとくダビデに語りければ
7:18 ダビデ王入りてヱホバの前に坐していひけるは主ヱホバよ我は誰わが家は何なればか爾此まで我を導きたまひしや
7:19 主ヱホバよ此はなほ汝の目には小き事なり汝また僕の家の遥か後の事を語りたまへり主ヱホバよ是は人の法なり
7:20 ダビデ此上何を汝に言ふを得ん其は主ヱホバ汝僕を知たまへばなり
7:21 汝の言のためまた汝の心に隨ひて汝此諸の大なることを爲し僕に之をしらしめたまふ
7:22 故に神ヱホバよ爾は大なり其は我らが凡て耳に聞る所に依ば汝の如き者なくまた汝の外に神なければなり
7:23 地の何れの國か汝の民イスラエルの如くなる其は神ゆきてかれらを贖ひ己の民となして大なる名を得たまひまた彼らの爲に大なる畏るべき事を爲したまへばなり即ち汝がエジプトより贖ひ取たまひし民の前より國々の人と其諸神を逐拂ひたまへり
7:24 汝は汝の民イスラエルをかぎりなく汝の民として汝に定めたまへりヱホバよ汝はかれの神となりたまふ
7:25 されば神ヱホバよ汝が僕と其家につきて語りたまひし言を永く堅うして汝のいひしごとく爲たまへ
7:26 ねがはくは永久に汝の名を崇めて萬軍のヱホバはイスラエルの神なりと曰しめたまへねがはくは僕ダビデの家をして汝のまへに堅く立しめたまへ
7:27 其は萬軍のヱホバ、イスラエルの神よ汝僕の耳に示して我汝に家をたてんと言たまひたればなり 是故に僕此祈祷を汝に爲す道を心の中に得たり
7:28 主ヱホバよ汝は神なり汝の言は眞なり汝この惠を僕に語りたまへり
7:29 願くは僕の家を祝福て汝のまへに永く続くことを得さしめたまへ其は主ヱホバ汝これを語りたまへばなりねがはくは汝の祝福によりて僕の家に永く祝福を蒙らしめたまへ
8:1 此後ダビデ、ペリシテ人を撃てこれを服すダビデまたペリシテ人の手よりメテグアンマをとれり
8:2 ダビデまたモアブを撃ち彼らをして地に伏しめ繩をもてかれらを度れり即ち二條の繩をもて死す者を度り一條の繩をもて生しおく者を量度るモアブ人は貢物を納てダビデの臣僕となれり
8:3 ダビデまたレホブの子なるゾバの王ハダデゼルがユフラテ河の邊にて其勢を新にせんとて往るを撃り
8:4 しかしてダビデ彼より騎兵千七百人歩兵二萬人を取りまたダビデ一百の車の馬を存して其餘の車馬は皆其筋を切斷り
8:5 ダマスコのスリア人ゾバの王ハダデゼルを援んとて來りければダビデ、スリア人二萬二千を殺せり
8:6 しかしてダビデ、ダマスコのスリアに代官を置きぬスリア人は貢物を納てダビデの臣僕となれりヱホバ、ダビデを凡て其往く所にて助けたまへり
8:7 ダビデ、ハダデゼルの臣僕等の持る金の楯を奪ひてこれをエルサレムに携きたる
8:8 ダビデ王又ハダデゼルの邑ベタとベロタより甚だ多くの銅を取り
8:9 時にハマテの王トイ、ダビデがハダデゼルの總の軍を撃破りしを聞て
8:10 トイ其子ヨラムをダビデ王につかはし安否を問ひかつ祝を宣しむ其はハダデゼル嘗てトイと戰を爲したるにダビデ、ハダデゼルとたたかひてこれを撃やぶりたればなりヨラム銀の器と金の器と銅の器を携へ來りければ
8:11 ダビデ王其攻め伏せたる諸の國民の中より取りて納めたる金銀と共に是等をもヱホバに納めたり
8:12 即ちエドムよりモアブよりアンモンの子孫よりペリシテ人よりアマレクよりえたる物およびゾバの王レホブの子ハダデゼルより得たる掠取物とともにこれを納めたり
8:13 ダビデ鹽谷にてエドム人一萬八千を撃て歸て名譽を得たり
8:14 ダビデ、エドムに代官を置り即ちエドムの全地に?く代官を置てエドム人は皆ダビデの臣僕となれりヱホバ、ダビデを凡て其往くところにて助け給へり
8:15 ダビデ、イスラエルの全地を治め其民に公道と正義を行ふ
8:16 ゼルヤの子ヨアブは軍の長アヒルデの子ヨシヤバテは史官
8:17 アヒトブの子ザドクとアビヤタルの子アヒメレクは祭司セラヤは書記官
8:18 ヱホヤダの子ベナヤはケレテ人およびペレテ人の長ダビデの子等は大臣なりき
9:1 爰にダビデいひけるはサウルの家の遺存れる者尚あるや我ヨナタンの爲に其人に恩惠をほどこさんと
9:2 サウルの家の僕なるヂバと名くる者ありければかれをダビデの許に召きたるに王かれにいひけるは汝はヂバなるか彼いふ僕是なり
9:3 王いひけるは尚サウルの家の者あるか我其人に神の恩惠をほどこさんとすヂバ王にいひけるはヨナタンの子尚あり跛足なり
9:4 王かれにいひけるは其人は何處にをるやヂバ王にいひけるはロデバルにてアンミエルの子マキルの家にをる
9:5 ダビデ王人を遣はしてロデバルより即ちアンミエルの子マキルの家よりかれを携來らしむ
9:6 サウルの子ヨナタンの子なるメピボセテ、ダビデの所に來り伏て拝せりダビデ、メピボセテよといひければ答て僕此にありと曰ふ
9:7 ダビデかれにいひけるは恐るるなかれ我必ず汝の父ヨナタンの爲に恩惠を汝にしめさん我汝の父サウルの地を悉く汝に復すべし又汝は恒に我席において食ふべしと
9:8 かれ拝して言けるは僕何なればか汝死たる犬のごとき我を眷顧たまふ
9:9 王サウルの僕ヂバを呼てこれにいひけるは凡てサウルとその家の物は我皆汝の主人の子にあたへたり
9:10 汝と汝の子等と汝の僕かれのために地を耕へして汝の主人の子に食ふべき食物を取りきたるべし但し汝の主人の子メピボセテは恒に我席において食ふべしとヂバは十五人の子と二十人の僕あり
9:11 ヂバ王にいひけるは總て王わが主の僕に命じたまひしごとく僕なすべしとメピボセテは王の子の一人のごとくダビデの席にて食へり
9:12 メピボセテに一人の若き子あり其名をミカといふヂバの家に住る者は皆メピボセテの僕なりき
9:13 メピボセテはエルサレムに住みたり其はかれ恒に王の席にて食ひたればなりかれは兩の足ともに跛たる者なり
10:1 此後アンモンの子孫の王死て其子ハヌン之に代りて位に即く
10:2 ダビデ我ナハシの子ハヌンにその父の我に恩惠を示せしごとく恩惠を示さんといひてダビデかれを其父の故によりて慰めんとて其僕を遣せりダビデの僕アンモンの子孫の地にいたるに
10:3 アンモンの子孫の諸伯其主ハヌンにいひけるはダビデ慰者を汝に遣はしたるによりて彼汝の父を崇むと汝の目に見ゆるやダビデ此城邑を窺ひこれを探りて陷いれんために其僕を汝に遣はせるにあらずや
10:4 是においてハヌン、ダビデの僕を執へ其鬚の半を剃り落し其衣服を中より斷て股までにしてこれを歸せり
10:5 人々これをダビデに告たればダビデ人を遣はしてかれらを迎へしむ其人々大に恥たればなり即ち王いふ汝ら鬚の長るまでヱリコに止まりて然るのち歸るべしと
10:6 アンモンの子孫自己のダビデに惡まるるを見しかばアンモンの子孫人を遣はしてベテレホブのスリア人とゾバのスリア人の歩兵二萬人およびマアカの王より一千人トブの人より一萬二千人を雇いれたり
10:7 ダビデ聞てヨアブと勇士の惣軍を遣はせり
10:8 アンモンの子孫出て門の入口に軍の陣列をなしたりゾバとレホブのスリア人およびトブの人とマアカの人は別に野に居り
10:9 ヨアブ戰の前後より己に向ふを見てイスラエルの選抜の兵の中を選みてこれをスリア人に對ひて備へしめ
10:10 其餘の民をば其兄弟アビシヤイの手に交してアンモンの子孫に向て備へしめて
10:11 いひけるは若スリア人我に手強からば汝我を助けよ若アンモンの子孫汝に手剛からば我ゆきて汝をたすけん
10:12 汝勇ましくなれよ我ら民のためとわれらの神の諸邑のために勇しく爲んねがはくはヱホバ其目によしと見ゆるところをなしたまへ
10:13 ヨアブ己と共に在る民と共にスリア人にむかひて戰んとて近づきければスリア人彼のまへより逃たり
10:14 アンモンの子孫スリア人の逃たるを見て亦自己等もアビシヤイのまへより逃て城邑にいりぬヨアブすなはちアンモンの子孫の所より還りてエルサレムにいたる
10:15 スリア人其イスラエルのまへに敗れたるを見て倶にあつまれり
10:16 ハダデゼル人をやりて河の前岸にをるスリア人を將ゐ出して皆ヘラムにきたらしむハダデゼルの軍の長シヨバクかれらを率ゐたり
10:17 其事ダビデに聞えければ彼イスラエルを悉く集めてヨルダンを渉りてヘラムに來れりスリア人ダビデに向ひて備へ之と戰ふ
10:18 スリア人イスラエルのまへより逃ければダビデ、スリアの兵車の人七百騎兵四萬を殺し又其軍の長シヨバクを撃てこれを其所に死しめたり
10:19 ハダデゼルの臣なる王等其イスラエルのまへに壞れたるを見てイスラエルと平和をなして之に事へたり斯スリア人は恐れて再びアンモンの子孫を助くることをせざりき
11:1 年歸りて王等の戰に出る時におよびてダビデ、ヨアブおよび自己の臣僕並にイスラエルの全軍を遣はせり彼等アンモンの子孫を滅ぼしてラバを圍めりされどダビデはエルサレムに止りぬ
11:2 爰に夕暮にダビデ其床より興きいでて王の家の屋蓋のうへに歩みしが屋蓋より一人の婦人の體をあらふを見たり其婦は觀るに甚だ美し
11:3 ダビデ人を遣して婦人を探らしめしに或人いふ此はエリアムの女ハテシバにてヘテ人ウリヤの妻なるにあらずやと
11:4 ダビデ乃ち使者を遣はして其婦を取る婦彼に來りて彼婦と寝たりしかして婦其不潔を清めて家に歸りぬ
11:5 かくて婦孕みければ人をつかはしてダビデに告ていひけるは我子を孕めりと
11:6 是においてダビデ人をヨアブにつかはしてヘテ人ウリヤを我に遣はせといひければヨアブ、ウリヤをダビデに遣はせり
11:7 ウリヤ、ダビデにいたりしかばダビデこれにヨアブの如何なると民の如何なると戰爭の如何なるを問ふ
11:8 しかしてダビデ、ウリヤにいひけるは汝の家に下りて足を洗へとウリヤ王の家を出るに王の贈物其後に從ひてきたる
11:9 然どウリヤは王の家の門に其主の僕等とともに寝ておのれの家にくだりいたらず
11:10 人々ダビデに告てウリヤ其家にくだり至らずといひければダビデ、ウリヤにいひけるは汝は旅路をなして來れるにあらずや何故に自己の家にくだらざるや
11:11 ウリヤ、ダビデにいひけるは櫃とイスラエルとユダは小屋の中に住まりわが主ヨアブとわが主の僕は野の表に陣を取るに我いかでわが家にゆきて食ひ飮しまた妻と寝べけけんや汝は生また汝の霊魂は活く我此事をなさじ
11:12 ダビデ、ウリヤにいふ今日も此にとどまれ明日我汝を去しめんとウリヤ其日と次の日エルサレムにとどまりしが
11:13 ダビデかれを召て其まへに食ひ飮せしめダビデかれを酔しめたり晩にいたりて彼出て其床に其主の僕と共に寝たりされどおのれの家にはくだりゆかざりき
11:14 朝におよびてダビデ、ヨアブヘの書を認めて之をウリヤの手によりて遣れり
11:15 ダビデ其書に書ていはく汝らウリヤを烈しき戰の先鉾にいだしてかれの後より退きて彼をして戰死せしめよ
11:16 是においてヨアブ城邑を窺ひてウリヤをば其勇士の居ると知る所に置り
11:17 城邑の人出てヨアブと戰ひしかばダビデの僕の中の數人仆れヘテ人ウリヤも死り
11:18 ヨアブ人をつかはして軍の事を悉くダビデに告げしむ
11:19 ヨアブ其使者に命じていひけるは汝が軍の事を皆王に語り終しとき
11:20 王もし怒りを發して汝に汝らなんぞ戰はんとて城邑に近づきしや汝らは彼らが石墻の上より射ることを知らざりしや
11:21 ヱルベセテの子アビメレクを撃し者は誰なるや一人の婦が石垣の上より磨の上石を投て彼をテベツに殺せしにあらずや何ぞ汝ら城垣に近づきしやと言はば汝言べし汝の僕ヘテ人ウリヤもまた死りと
11:22 使者ゆきてダビデにいたりヨアブが遣はしたるところのことをことごとく告げたり
11:23 使者ダビデにいひけるは敵我儕に手強かりしが城外にいでて我儕にいたりしかば我儕これに迫りて門の入口にまでいたれり
11:24 時に射手の者城垣の上より汝の僕を射たりければ王の僕の或者死に亦汝の僕ヘテ人ウリヤも死りと
11:25 ダビデ使者にいひけるは斯汝ヨアブに言べし此事を憂ふるなかれ刀劍は此をも彼をも同じく殺すなり強く城邑を攻て戰ひ之を陷いるべしと汝かくヨアブを勵ますべし
11:26 ウリヤの妻其夫ウリヤの死たるを聞て夫のために悲哀り
11:27 其喪の過し時ダビデ人を遣はしてかれをおのれの家に召いる彼すなはちその妻となりて男子を生り但しダビデの爲たる此事はヱホバの目に惡かりき
12:1 ヱホバ、ナタンをダビデに遣はしたまへば彼ダビデに至りてこれにいひけるは一の邑に二箇の人あり一は富て一は貧し
12:2 其富者は甚だ多くの羊と牛を有り
12:3 されど貧者は唯自己の買て育てたる一の小き牝羔の外は何をも有ざりき其牝羔彼およびかれの子女とともに生長ちかれの食物を食ひかれの椀に飮みまた彼の懐に寝て彼には女子のごとくなりき
12:4 時に一人の旅人其富る人の許に來りけるが彼おのれの羊と牛の中を取りてそのおのれに來れる旅人のために烹を惜みてかの貧き人の牝羔を取りて之をおのれに來れる人のために烹たり
12:5 ダビデ其人の事を大に怒りてナタンにいひけるはヱホバは生く誠に此をなしたる人は死べきなり
12:6 且彼此事をなしたるに因りまた憐憫まざりしによりて其牝羔を四倍になして償ふべし
12:7 ナタン、ダビデにいひけるは汝は其人なりイスラエルの神ヱホバ斯いひたまふ我汝に膏を沃いでイスラエルの王となし我汝をサウルの手より救ひいだし
12:8 汝に汝の主人の家をあたへ汝の主人の諸妻を汝の懐に與へまたイスラエルとユダの家を汝に與へたり若し少からば我汝に種々の物を増くはへしならん
12:9 何ぞ汝ヱホバの言を藐視じて其目のまへに惡をなせしや汝刃劍をもてヘテ人ウリヤを殺し其妻をとりて汝の妻となせり即ちアンモンの子孫の劍をもて彼を斬殺せり
12:10 汝我を軽んじてヘテ人ウリヤの妻をとり汝の妻となしたるに因て劍何時までも汝の家を離るることなかるべし
12:11 ヱホバ斯いひたまふ視よ我汝の家の中より汝の上に禍を起すべし我汝の諸妻を汝の目のまへに取て汝の隣人に與へん其人此日のまへにて汝の諸妻とともに寝ん
12:12 其は汝は密に事をなしたれど我はイスラエルの衆のまへと日のまへに此事をなすべければなりと
12:13 ダビデ、ナタンにいふ我ヱホバに罪を犯したりナタン、ダビデにいひけるはヱホバまた汝の罪を除きたまへり汝死ざるべし
12:14 されど汝此所行によりてヱホバの敵に大なる罵る機會を與へたれば汝に生れし其子必ず死べしと
12:15 かくてナタン其家にかへれり 爰にヱホバ、ウリヤの妻がダビデに生る子を撃たまひければ痛く疾めり
12:16 ダビデ其子のために神に乞求む即ちダビデ斷食して入り終夜地に臥したり
12:17 ダビデの家の年寄等彼の傍に立ちてかれを地より起しめんとせしかども彼肯ぜず又かれらとともに食を爲ざりき
12:18 第七日に其子死りダビデの僕其子の死たることをダビデに告ることを恐れたりかれらいひけるは子の尚生る間に我儕彼に語たりしに彼我儕の言を聽いれざりき如何ぞ彼に其子の死たるを告ぐべけんや彼害を爲んと
12:19 然にダビデ其僕の私語くを見てダビデ其子の死たるを暁れりダビデ乃ち其僕に子は死たるやといひければかれら死りといふ
12:20 是においてダビデ地よりおきあがり身を洗ひ膏をぬり其衣服を更てヱホバの家にいりて拝し自己の家に至り求めておのれのために食を備へしめて食へり
12:21 僕等彼にいひけるは此の汝がなせる所は何事なるや汝子の生るあひだはこれがために斷食して哭きながら子の死る時に汝は起て食を爲すと
12:22 ダビデいひけるは嬰孩の尚生るあひだにわが斷食して哭きたるは我誰かヱホバの我を憐れみて此子を生しめたまふを知んと思ひたればなり
12:23 されど今死たれば我なんぞ斷食すべけんや我再びかれをかへらしむるを得んや我かれの所に往べけれど彼は我の所にかへらざるべし
12:24 ダビデ其妻バテシバを慰めかれの所にいりてかれとともに寝たりければ彼男子を生りダビデ其名をソロモンと呼ぶヱホバこれを愛したまひて
12:25 預言者ナタンを遣はし其名をヱホバの故によりてヱデデア(ヱホバの愛する者)と名けしめたまふ
12:26 爰にヨアブ、アンモンの子孫のラバを攻めて王城を取れり
12:27 ヨアブ使者をダビデにつかはしていひけるは我ラバを攻て水城を取れり
12:28 されば汝今餘の民を集め斯城に向て陣どりて之を取れ恐らくは我此城を取て人我名をもて之を呼にいたらんと
12:29 是においてダビデ民を悉くあつめてラバにゆき攻て之を取り
12:30 しかしてダビデ、アンモン王の冕を其首より取はなしたり其金の重は一タラントなりまた寶石を嵌たりこれをダビデの首に置ダビデ其邑の掠取物を甚だ多く持出せり
12:31 かくてダビデ其中の民を將いだしてこれを鋸と鐵の千歯と鐵の斧にて斬りまた瓦陶の中を通行しめたり彼斯のごとくアンモンの子孫の凡ての城邑になせりしかしてタビデと民は皆エルサレムに還りぬ
13:1 此後ダビデの子アブサロムにタマルと名くる美しき妹ありしがダビデの子アムノンこれを戀ひたり
13:2 アムノン心を苦しめて遂に其姉妹タマルのためにわづらへり其はタマルは處女なりければアムノンかれに何事をも爲しがたしと思ひたればなり
13:3 然るにアムノンに一人の朋友ありダビデの兄弟シメアの子にして其名をヨナダブといふヨナダブに甚だ有智き人なり
13:4 彼アムノンにいひけるは汝王の子なんぞ日に日に斯く痩ゆくや汝我に告ざるやアムノン彼にいひけるは我わが兄弟アブサロムの妹タマルを戀ふ
13:5 ヨナダブかれにいひけるは床に臥て病と佯り汝の父の來りて汝を見る時これにいへ請ふわが妹タマルをして來りて我に食を予へしめわが見て彼の手より食ふことをうる樣にわが目のまへにて食物を調理しめよと
13:6 アムノンすなはち臥して病と佯りしが王の來りておのれを見る時アムノン王にいひけるは請ふ吾妹タマルをして來りてわが目のまへにて二の菓子を作へしめて我にかれの手より食ふことを得さしめよと
13:7 是においてダビデ、タマルの家にいひつかはしけるは汝の兄アムノンの家にゆきてかれのために食物を調理よと
13:8 タマル其兄アムノンの家にいたるにアムノンは臥し居たりタマル乃ち粉をとりて之を摶てかれの目のまへにて菓子を作へ其菓子を燒き
13:9 鍋を取て彼のまへに傾出たりしかれども彼食ふことを否めりしかしてアムノンいひけるは汝ら皆我を離れていでよと皆かれをはなれていでたり
13:10 アムノン、タマルにいひけるは食物を寝室に持きたれ我汝の手より食はんとタマル乃ち己の作りたる菓子を取りて寝室に持ゆきて其兄アムノンにいたる
13:11 タマル彼に食しめんとて近く持いたれる時彼タマルを執へて之にいひけるは妹よ來りて我と寝よ
13:12 タマルかれにいひける否兄上よ我を辱しむるなかれ是のごとき事はイスラエルに行はれず汝此愚なる事をなすべからず
13:13 我は何處にわが恥辱を棄んか汝はイスラエルの愚人の一人となるべしされば請ふ王に語れ彼我を汝に予ざることなかるべしと
13:14 然どもアムノン其言を聽ずしてタマルよりも力ありければタマルを辱しめてこれと偕に寝たりしが
13:15 遂にアムノン甚だ深くタマルを惡むにいたる其かれを惡む所の惡みはかれを戀ひたるところの戀よりも大なり即ちアムノンかれにいひけるは起て往けよ
13:16 かれアムノンにいひけるは我を返して此惡を作るなかれ是は汝がさきに我になしたる所の惡よりも大なりとしかれども聽いれず
13:17 其側に仕ふる少者を呼ていひけるは汝此女をわが許より遣りいだして其後に戸を?せと
13:18 タマル振袖を着ゐたり王の女等の處女なるものは斯のごとき衣服をもて粧ひたりアムノンの侍者かれを外にいだして其後に戸を?せり
13:19 タマル灰を其首に蒙り着たる振袖を裂き手を首にのせて呼はりつつ去ゆけり
13:20 其兄アブサロムかれにいひけるは汝の兄アムノン汝と偕に在しや然ど妹よ默せよ彼は汝の兄なり此事を心に留るなかれとかくてタマルは其兄アブサロムの家に凄しく住み居れり
13:21 ダビデ王是等の事を悉く聞て甚だ怒れり
13:22 アブサロムはアムノンにむかひて善も惡きも語ざりき其はアブサロム、アムノンを惡みたればたり是はかれがおのれの妹タマルを辱しめたるに由り
13:23 全二年の後アブサロム、エフライムの邊なるバアルハゾルにて羊の毛を剪しめ居て王の諸子を悉く招けり
13:24 アブサロム王の所にいりていひけるは視よ僕羊の毛を剪しめをるねがはくは王と王の僕等僕とともに來りたまへ
13:25 王アブサロムに云けるは否わが子よ我儕を皆いたらしむるなかれおそらくは汝の費を多くせんアブサロム、ダビデを強ふしかれどもダビデ往ことを肯ぜずして彼を祝せり
13:26 アブサロムいひけるは若しからずば請ふわが兄アムノンをして我らとともに來らしめよ王かれにいひけるは彼なんぞ汝とともにゆくべけんやと
13:27 されどアブサロムかれを強ければアムノンと王の諸子を皆アブサロムとともにゆかしめたり
13:28 爰にアブサロム其少者等に命じていひけるは請ふ汝らアムノンの心の酒によりて樂む時を視すましてわが汝等にアムノンを撃てと言ふ時に彼を殺せ懼るるなかれ汝等に之を命じたるは我にあらずや汝ら勇しく武くなれと
13:29 アブサロムの少者等アブサロムの命ぜしごとくアムノンになしければ王の諸子皆起て各其騾馬に乗て逃たり
13:30 彼等が路にある時風聞ダビデにいたりていはくアブサロム王の諸子を悉く殺して一人も遺るものなしと
13:31 王乃ち起ち其衣を裂きて地に臥す其臣僕皆衣を裂て其傍にたてり
13:32 ダビデの兄弟シメアの子ヨナダブ答へていひけるは吾主よ王の御子等なる少年を皆殺したりと思たまふなかれアムノン獨り死るのみ彼がアブサロムの妹タマルを辱かしめたる日よりアブサロム此事をさだめおきたるなり
13:33 されば吾主王よ王の御子等皆死りといひて此事をおもひ煩ひたまふなかれアムノン獨死たるなればなりと
13:34 斯てアブサロムは逃れたり爰に守望ゐたる少者目をあげて視たるに視よ山の傍よりして己の後の道より多くの人來れり
13:35 ヨナダブ王にいひけるは視よ王の御子等來る僕のいへるがごとくしかりと
13:36 彼語ることを終し時視よ王の子等來り聲をあげて哭り王と其僕等も皆大に甚く哭り
13:37 偖アブサロムは逃てゲシユルの王アミホデの子タルマイにいたるダビデは日々其子のために悲めり
13:38 アブサロム逃てゲシユルにゆき三年彼處に居たり
13:39 ダビデ王アブサロムに逢んと思ひ煩らふ其はアムノンは死たるによりてダビデかれの事はあきらめたればなり