口語訳聖書(振り仮名付き)
章: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
ヨブ記き
第1章 Jb-Audio
1:1 ウヅの地ちにヨブという名なの人ひとがあった。そのひととなりは全まったく、かつ正ただしく、神かみを恐おそれ、悪あくに遠とおざかった。
1:2 彼かれに男おとこの子こ七人にんと女おんなの子こ三人にんがあり、
1:3 その家畜かちくは羊ひつじ七千頭とう、らくだ三千頭とう、牛うし五百くびき、雌めろば五百頭とうで、しもべも非常ひじょうに多おおく、この人ひとは東ひがしの人々ひとびとのうちで最もっとも大おおいなる者ものであった。
1:4 そのむすこたちは、めいめい自分じぶんの日ひに、自分じぶんの家いえでふるまいを設もうけ、その三人にんの姉妹しまいをも招まねいて一緒いっしょに食くい飲のみするのを常つねとした。
1:5 そのふるまいの日ひがひとめぐり終おわるごとに、ヨブは彼かれらを呼よび寄よせて聖別せいべつし、朝あさ早はやく起おきて、彼かれらすべての数かずにしたがって燔祭はんさいをささげた。これはヨブが「わたしのむすこたちは、ことによったら罪つみを犯おかし、その心こころに神かみをのろったかもしれない」と思おもったからである。ヨブはいつも、このように行いった。
1:6 ある日ひ、神かみの子こたちが来きて、主しゅの前まえに立たった。サタンも来きてその中なかにいた。
1:7 主しゅは言いわれた、「あなたはどこから来きたか」。サタンは主しゅに答こたえて言いった、「地ちを行いきめぐり、あちらこちら歩あるいてきました」。
1:8 主しゅはサタンに言いわれた、「あなたはわたしのしもべヨブのように全まったく、かつ正ただしく、神かみを恐おそれ、悪あくに遠とおざかる者ものの世よにないことを気きづいたか」。
1:9 サタンは主しゅに答こたえて言いった、「ヨブはいたずらに神かみを恐おそれましょうか。
1:10 あなたは彼かれとその家いえおよびすべての所有物しょゆうぶつのまわりにくまなく、まがきを設もうけられたではありませんか。あなたは彼かれの勤労きんろうを祝福しゅくふくされたので、その家畜かちくは地ちにふえたのです。
1:11 しかし今いまあなたの手てを伸のべて、彼かれのすべての所有物しょゆうぶつを撃うってごらんなさい。彼かれは必かならずあなたの顔かおに向むかって、あなたをのろうでしょう」。
1:12 主しゅはサタンに言いわれた、「見みよ、彼かれのすべての所有物しょゆうぶつをあなたの手てにまかせる。ただ彼かれの身みに手てをつけてはならない」。サタンは主しゅの前まえから出でて行いった。
1:13 ある日ひヨブのむすこ、娘むすめたちが第だい一の兄あにの家いえで食事しょくじをし、酒さけを飲のんでいたとき、
1:14 使者ししゃがヨブのもとに来きて言いった、「牛うしが耕たがやし、ろばがそのかたわらで草くさを食くっていると、
1:15 シバびとが襲おそってきて、これを奪うばい、つるぎをもってしもべたちを打うち殺ころしました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告つげるために来きました」。
1:16 彼かれがなお語かたっているうちに、またひとりが来きて言いった、「神かみの火ひが天てんから下くだって、羊ひつじおよびしもべたちを焼やき滅ほろぼしました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告つげるために来きました」。
1:17 彼かれがなお語かたっているうちに、またひとりが来きて言いった、「カルデヤびとが三組くみに分わかれて来きて、らくだを襲おそってこれを奪うばい、つるぎをもってしもべたちを打うち殺ころしました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告つげるために来きました」。
1:18 彼かれがなお語かたっているうちに、またひとりが来きて言いった、「あなたのむすこ、娘むすめたちが第だい一の兄あにの家いえで食事しょくじをし、酒さけを飲のんでいると、
1:19 荒野あらのの方ほうから大風おおかぜが吹ふいてきて、家いえの四よすみを撃うったので、あの若わかい人ひとたちの上うえにつぶれ落おちて、皆みな死しにました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告つげるために来きました」。
1:20 このときヨブは起おき上あがり、上着うわぎを裂さき、頭あたまをそり、地ちに伏ふして拝はいし、
1:21 そして言いった、 「わたしは裸はだかで母ははの胎たいを出でた。また裸はだかでかしこに帰かえろう。主しゅが与あたえ、主しゅが取とられたのだ。主しゅのみ名なはほむべきかな」。
1:22 すべてこの事ことにおいてヨブは罪つみを犯おかさず、また神かみに向むかって愚おろかなことを言いわなかった。
第2章 2:1 ある日ひ、また神かみの子こたちが来きて、主しゅの前まえに立たった。サタンもまたその中なかに来きて、主しゅの前まえに立たった。2:2 主しゅはサタンに言いわれた、「あなたはどこから来きたか」。サタンは主しゅに答こたえて言いった、「地ちを行ゆきめぐり、あちらこちら歩あるいてきました」。2:3 主しゅはサタンに言いわれた、「あなたは、わたしのしもべヨブのように全まったく、かつ正ただしく、神かみを恐おそれ、悪あくに遠とおざかる者ものの世よにないことを気きづいたか。あなたは、わたしを勧すすめて、ゆえなく彼かれを滅ほろぼそうとしたが、彼かれはなお堅かたく保たもって、おのれを全まっとうした」。2:4 サタンは主しゅに答こたえて言いった、「皮かわには皮かわをもってします。人ひとは自分じぶんの命いのちのために、その持もっているすべての物ものをも与あたえます。2:5 しかしいま、あなたの手てを伸のべて、彼かれの骨ほねと肉にくとを撃うってごらんなさい。彼かれは必かならずあなたの顔かおに向むかって、あなたをのろうでしょう」。2:6 主しゅはサタンに言いわれた、「見みよ、彼かれはあなたの手てにある。ただ彼かれの命いのちを助たすけよ」。 2:7 サタンは主しゅの前まえから出でて行いって、ヨブを撃うち、その足あしの裏うらから頭あたまの頂いただきまで、いやな腫物はれものをもって彼かれを悩なやました。2:8 ヨブは陶器とうきの破片はへんを取とり、それで自分じぶんの身みをかき、灰はいの中なかにすわった。2:9 時ときにその妻つまは彼かれに言いった、「あなたはなおも堅かたく保たもって、自分じぶんを全まっとうするのですか。神かみをのろって死しになさい」。2:10 しかしヨブは彼女かのじょに言いった、「あなたの語かたることは愚おろかな女おんなの語かたるのと同おなじだ。われわれは神かみから幸さいわいをうけるのだから、災わざわいをも、うけるべきではないか」。すべてこの事ことにおいてヨブはそのくちびるをもって罪つみを犯おかさなかった。 2:11 時ときに、ヨブの三人にんの友ともがこのすべての災わざわいのヨブに臨のぞんだのを聞きいて、めいめい自分じぶんの所ところから尋たずねて来きた。すなわちテマンびとエリパズ、シュヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルである。彼かれらはヨブをいたわり、慰なぐさめようとして、たがいに約束やくそくしてきたのである。2:12 彼かれらは目めをあげて遠方えんぽうから見みたが、彼かれのヨブであることを認みとめがたいほどであったので、声こえをあげて泣なき、めいめい自分じぶんの上着うわぎを裂さき、天てんに向むかって、ちりをうちあげ、自分じぶんたちの頭あたまの上うえにまき散ちらした。2:13 こうして七日なぬか七夜ななよ、彼かれと共ともに地ちに座ざしていて、ひと言ことも彼かれに話はなしかける者ものがなかった。彼かれの苦くるしみの非常ひじょうに大おおきいのを見みたからである。 第3章 3:1 この後のち、ヨブは口くちを開ひらいて、自分じぶんの生うまれた日ひをのろった。3:2 すなわちヨブは言いった、 3:3 「わたしの生うまれた日ひは滅ほろびうせよ。『男おとこの子こが、胎たいにやどった』と言いった夜よもそのようになれ。3:4 その日ひは暗くらくなるように。神かみが上うえからこれを顧かえりみられないように。光ひかりがこれを照てらさないように。3:5 やみと暗黒あんこくがこれを取とりもどすように。雲くもが、その上うえにとどまるように。日ひを暗くらくする者ものが、これを脅おびやかすように。3:6 その夜よは、暗くらやみが、これを捕とらえるように。年としの日ひのうちに加くわわらないように。月つきの数かずにもはいらないように。3:7 また、その夜よは、はらむことのないように。喜よろこびの声こえがそのうちに聞きかれないように。3:8 日ひをのろう者ものが、これをのろうように。レビヤタンを奮ふるい起おこすに巧たくみな者ものが、これをのろうように。3:9 その明あけの星ほしは暗くらくなるように。光ひかりを望のぞんでも、得えられないように。また、あけぼののまぶたを見みることのないように。3:10 これは、わたしの母ははの胎たいの戸とを閉とじず、また悩なやみをわたしの目めに隠かくさなかったからである。 3:11 なにゆえ、わたしは胎たいから出でて、死しななかったのか。腹はらから出でたとき息いきが絶たえなかったのか。3:12 なにゆえ、ひざが、わたしを受うけたのか。なにゆえ、乳ちぶさがあって、わたしはそれを吸すったのか。3:13 そうしなかったならば、わたしは伏ふして休やすみ、 ねむったであろう。そうすればわたしは安やすんじており、3:14 自分じぶんのために荒あれ跡あとを築きずき直なおした地ちの王おうたち、参議さんぎたち、3:15 あるいは、こがねを持もち、しろがねを家いえに満みたした君きみたちと一緒いっしょにいたであろう。3:16 なにゆえ、わたしは人知ひとしれずおりる胎児たいじのごとく、光ひかりを見みないみどりごのようでなかったのか。3:17 かしこでは悪人あくにんも、あばれることをやめ、うみ疲つかれた者ものも、休やすみを得え、3:18 捕とらわれ人びとも共ともに安やすらかにおり、追おい使つかう者ものの声こえを聞きかない。3:19 小ちいさい者ものも大おおきい者ものもそこにおり、奴隷どれいも、その主人しゅじんから解とき放はなされる。 3:20 なにゆえ、悩なやむ者ものに光ひかりを賜たまい、心こころの苦くるしむ者ものに命いのちを賜たまわったのか。3:21 このような人ひとは死しを望のぞんでも来こない、これを求もとめることは隠かくれた宝たからを掘ほるよりも、はなはだしい。3:22 彼かれらは墓はかを見みいだすとき、非常ひじょうに喜よろこび楽たのしむのだ。3:23 なにゆえ、その道みちの隠かくされた人ひとに、神かみが、まがきをめぐらされた人ひとに、光ひかりを賜たまわるのか。3:24 わたしの嘆なげきはわが食物しょくもつに代かわって来きたり、わたしのうめきは水みずのように流ながれ出でる。3:25 わたしの恐おそれるものが、わたしに臨のぞみ、わたしの恐おそれおののくものが、わが身みに及およぶ。3:26 わたしは安やすらかでなく、またおだやかでない。わたしは休やすみを得えない、ただ悩なやみのみが来くる」。 第4章 4:1 その時とき、テマンびとエリパズが答こたえて言いった、 4:2 「もし人ひとがあなたにむかって意見いけんを述のべるならば、あなたは腹はらを立たてるでしょうか。しかしだれが黙だまっておれましょう。4:3 見みよ、あなたは多おおくの人ひとを教おしえさとし、衰おとろえた手てを強つよくした。4:4 あなたの言葉ことばはつまずく者ものをたすけ起おこし、かよわいひざを強つよくした。4:5 ところが今いま、この事ことがあなたに臨のぞむと、あなたは耐たえ得えない。この事ことがあなたに触ふれると、あなたはおじ惑まどう。4:6 あなたが神かみを恐おそれていることは、あなたのよりどころではないか。あなたの道みちの全まったきことは、あなたの望のぞみではないか。4:7 考かんがえてみよ、だれが罪つみのないのに、滅ほろぼされた者ものがあるか。どこに正ただしい者もので、断たち滅ほろぼされた者ものがあるか。4:8 わたしの見みた所ところによれば、不義ふぎを耕たがやし、害悪がいあくをまく者ものは、それを刈かり取とっている。4:9 彼かれらは神かみのいぶきによって滅ほろび、その怒いかりの息いきによって消きえうせる。4:10 ししのほえる声こえ、たけきししの声こえはともにやみ、若わかきししのきばは折おられ、4:11 雄おじしは獲物えものを得えずに滅ほろび、雌めじしの子こは散ちらされる。 4:12 さて、わたしに、言葉ことばがひそかに臨のぞんだ、わたしの耳みみはそのささやきを聞きいた。4:13 すなわち人ひとの熟睡じゅくすいするころ、夜よるの幻まぼろしによって思おもい乱みだれている時とき、4:14 恐おそれがわたしに臨のぞんだので、おののき、わたしの骨ほねはことごとく震ふるえた。4:15 時ときに、霊れいがあって、わたしの顔かおの前まえを過すぎたので、わたしの身みの毛けはよだった。4:16 そのものは立たちどまったが、わたしはその姿すがたを見みわけることができなかった。一つのかたちが、わたしの目めの前まえにあった。わたしは静しずかな声こえを聞きいた、4:17 『人ひとは神かみの前まえに正ただしくありえようか。人ひとはその造つくり主ぬしの前まえに清きよくありえようか。4:18 見みよ、彼かれはそのしもべをさえ頼たのみとせず、その天使てんしをも誤あやまれる者ものとみなされる。4:19 まして、泥どろの家いえに住すむ者もの、ちりをその基もといとする者もの、しみのようにつぶされる者もの。4:20 彼かれらは朝あさから夕ゆうまでの間あいだに打うち砕くだかれ、顧かえりみる者ものもなく、永遠えいえんに滅ほろびる。4:21 もしその天幕てんまくの綱つなが彼かれらのうちに取とり去さられるなら、ついに悟さとることもなく、死しにうせるではないか』。 第5章 5:1 試こころみに呼よんでみよ、だれかあなたに答こたえる者ものがあるか。どの聖者せいじゃにあなたは頼たのもうとするのか。5:2 確たしかに、憤いきどおりは愚おろかな者ものを殺ころし、ねたみはあさはかな者ものを死しなせる。5:3 わたしは愚おろかな者ものの根ねを張はるのを見みた、しかしわたしは、にわかにそのすみかをのろった。5:4 その子こらは安やすきを得えず、町まちの門もんでしえたげられても、これを救すくう者ものがない。5:5 その収穫しゅうかくは飢うえた人ひとが食たべ、いばらの中なかからさえ、これを奪うばう。また、かわいた者ものはその財産ざいさんをあえぎ求もとめる。5:6 苦くるしみは、ちりから起おこるものでなく、悩なやみは土つちから生しょうじるものでない。5:7 人ひとが生うまれて悩なやみを受うけるのは、火ひの子こが上うえに飛とぶにひとしい。 5:8 しかし、わたしであるならば、神かみに求もとめ、神かみに、わたしの事ことをまかせる。5:9 彼かれは大おおいなる事ことをされるかたで、測はかり知しれない、その不思議ふしぎなみわざは数かぞえがたい。5:10 彼かれは地ちに雨あめを降ふらせ、野のに水みずを送おくられる。5:11 彼かれは低ひくい者ものを高たかくあげ、悲かなしむ者ものを引ひき上あげて、安全あんぜんにされる。5:12 彼かれは悪賢わるがしこい者ものの計はかりごとを敗やぶられる。それで何事なにごともその手てになし遂とげることはできない。5:13 彼かれは賢かしこい者ものを、彼かれら自身じしんの悪巧わるだくみによって捕とらえ、曲まがった者ものの計はかりごとをくつがえされる。5:14 彼かれらは昼ひるも、やみに会あい、真昼まひるにも、夜よるのように手探てさぐりする。5:15 彼かれは貧まずしい者ものを彼かれらの口くちのつるぎから救すくい、また強つよい者ものの手てから救すくわれる。5:16 それゆえ乏とぼしい者ものに望のぞみがあり、不義ふぎはその口くちを閉とじる。 5:17 見みよ、神かみに戒いましめられる人ひとはさいわいだ。それゆえ全能者ぜんのうしゃの懲こらしめを軽かろんじてはならない。5:18 彼かれは傷きずつけ、また包つつみ、撃うち、またその手てをもっていやされる。5:19 彼かれはあなたを六つの悩なやみから救すくい、七つのうちでも、災わざわいはあなたに触ふれることがない。5:20 ききんの時ときには、あなたをあがなって、死しを免まぬかれさせ、いくさの時ときには、つるぎの力ちからを免まぬかれさせられる。5:21 あなたは舌したをもってむち打うたれる時ときにも、おおい隠かくされ、滅ほろびが来くる時ときでも、恐おそれることはない。5:22 あなたは滅ほろびと、ききんとを笑わらい、地ちの獣けものをも恐おそれることはない。5:23 あなたは野のの石いしと契約けいやくを結むすび、野のの獣けものはあなたと和やわらぐからである。5:24 あなたは自分じぶんの天幕てんまくの安全あんぜんなことを知しり、自分じぶんの家畜かちくのおりを見回みまわっても、 かけた物ものがなく、5:25 また、あなたの子孫しそんの多おおくなり、そのすえが地ちの草くさのようになるのを知しるであろう。5:26 あなたは高齢こうれいに達たっして墓はかに入はいる、あたかも麦むぎ束たばをその季節きせつになって打うち場ばに運はこびあげるようになるであろう。5:27 見みよ、われわれの尋たずねきわめた所ところはこのとおりだ。あなたはこれを聞きいて、みずから知しるがよい」。 第6章 6:1 ヨブは答こたえて言いった、 6:2 「どうかわたしの憤いきどおりが正ただしく量はかられ、同時どうじにわたしの災わざわいも、はかりにかけられるように。6:3 そうすれば、これは海うみの砂すなよりも重おもいに相違そういない。それゆえ、わたしの言葉ことばが軽率けいそつであったのだ。6:4 全能者ぜんのうしゃの矢やが、わたしのうちにあり、わたしの霊れいはその毒どくを飲のみ、神かみの恐おそるべき軍勢ぐんぜいが、わたしを襲おそい攻せめている。6:5 野のろばは、青草あおくさのあるのに鳴なくであろうか。牛うしは飼葉かいばの上うえでうなるであろうか。6:6 味あじのない物ものは塩しおがなくて食たべられようか。すべりひゆのしるは味あじがあろうか。6:7 わたしの食欲しょくよくはこれに触ふれることを拒こばむ。これは、わたしのきらう食物しょくもつのようだ。 6:8 どうかわたしの求もとめるものが獲えられるように。どうか神かみがわたしの望のぞむものをくださるように。6:9 どうか神かみがわたしを打うち滅ほろぼすことをよしとし、み手てを伸のべてわたしを断たたれるように。6:10 そうすれば、わたしはなお慰なぐさめを得え、激はげしい苦くるしみの中なかにあっても喜よろこぶであろう。わたしは聖せいなる者ものの言葉ことばを否いなんだことがないからだ。6:11 わたしにどんな力ちからがあって、なお待またねばならないのか。わたしにどんな終おわりがあるので、なお耐たえ忍しのばねばならないのか。6:12 わたしの力ちからは石いしの力ちからのようであるのか。わたしの肉にくは青銅せいどうのようであるのか。6:13 まことに、わたしのうちに助たすけはなく、救すくわれる望のぞみは、わたしから追おいやられた。 6:14 その友ともに対たいするいつくしみをさし控ひかえる者ものは、全能者ぜんのうしゃを恐おそれることをすてる。6:15 わが兄弟きょうだいたちは谷川たにがわのように、過すぎ去さる出水でみずのように欺あざむく。6:16 これは氷こおりのために黒くろくなり、そのうちに雪ゆきが隠かくれる。6:17 これは暖あたたかになると消きえ去さり、暑あつくなるとその所ところからなくなる。6:18 隊商たいしょうはその道みちを転てんじ、むなしい所ところへ行いって滅ほろびる。6:19 テマの隊商たいしょうはこれを望のぞみ、シバの旅たびびとはこれを慕したう。6:20 彼かれらはこれにたよったために失望しつぼうし、そこに来きてみて、あわてる。6:21 あなたがたは今いまわたしにはこのような者ものとなった。あなたがたはわたしの災難さいなんを見みて恐おそれた。6:22 わたしは言いったことがあるか、『わたしに与あたえよ』と、あるいは『あなたがたの財産ざいさんのうちからわたしのために、まいないを贈おくれ』と、6:23 あるいは『あだの手てからわたしを救すくい出だせ』と、あるいは『しえたげる者ものの手てからわたしをあがなえ』と。 6:24 わたしに教おしえよ、そうすればわたしは黙だまるであろう。わたしの誤あやまっている所ところをわたしに悟さとらせよ。6:25 正ただしい言葉ことばはいかに力ちからのあるものか。しかしあなたがたの戒いましめは何なにを戒いましめるのか。6:26 あなたがたは言葉ことばを戒いましめうると思おもうのか。望のぞみの絶たえた者ものの語かたることは風かぜのようなものだ。6:27 あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、あなたがたの友ともをさえ売うり買かいするであろう。 6:28 今いま、どうぞわたしを見みられよ、わたしはあなたがたの顔かおに向むかって偽いつわらない。6:29 どうぞ、思おもいなおせ、まちがってはならない。さらに思おもいなおせ、わたしの義ぎは、なおわたしのうちにある。6:30 わたしの舌したに不義ふぎがあるか。わたしの口くちは災わざわいをわきまえることができぬであろうか。 第7章 7:1 地上ちじょうの人ひとには、激はげしい労務ろうむがあるではないか。またその日ひは雇人やといにんの日ひのようではないか。7:2 奴隷どれいが夕暮ゆうぐれを慕したうように、雇人やといにんがその賃銀ちんぎんを望のぞむように、7:3 わたしは、むなしい月つきを持もたせられ、悩なやみの夜よるを与あたえられる。7:4 わたしは寝ねるときに言いう、『いつ起おきるだろうか』と。しかし夜よるは長ながく、暁あかつきまでころびまわる。7:5 わたしの肉にくはうじと土つちくれとをまとい、わたしの皮かわは固かたまっては、またくずれる。7:6 わたしの日ひは機はたのひよりも速はやく、望のぞみをもたずに消きえ去さる。 7:7 記憶きおくせよ、わたしの命いのちは息いきにすぎないことを。わたしの目めは再ふたたび幸さいわいを見みることがない。7:8 わたしを見みる者ものの目めは、かさねてわたしを見みることがなく、あなたがわたしに目めを向むけられても、わたしはいない。7:9 雲くもが消きえて、なくなるように、陰府よみに下くだる者ものは上あがって来くることがない。7:10 彼かれは再ふたたびその家いえに帰かえらず、彼かれの所ところも、もはや彼かれを認みとめない。 7:11 それゆえ、わたしはわが口くちをおさえず、わたしの霊れいのもだえによって語かたり、わたしの魂たましいの苦くるしさによって嘆なげく。7:12 わたしは海うみであるのか、龍りゅうであるのか、あなたはわたしの上うえに見張みはりを置おかれる。7:13 『わたしの床とこはわたしを慰なぐさめ、わたしの寝床ねどこはわが嘆なげきを軽かるくする』とわたしが言いうとき、7:14 あなたは夢ゆめをもってわたしを驚おどろかし、幻まぼろしをもってわたしを恐おそれさせられる。7:15 それゆえ、わたしは息いきの止とまることを願ねがい、わが骨ほねよりもむしろ死しを選えらぶ。7:16 わたしは命いのちをいとう。わたしは長ながく生いきることを望のぞまない。わたしに構かまわないでください。わたしの日ひは息いきにすぎないのだから。7:17 人ひとは何者なにものなので、あなたはこれを大おおきなものとし、これにみ心こころをとめ、7:18 朝あさごとに、これを尋たずね、絶たえ間まなく、これを試こころみられるのか。7:19 いつまで、あなたはわたしに目めを離はなさず、つばをのむまも、わたしを捨すてておかれないのか。7:20 人ひとを監視かんしされる者ものよ、わたしが罪つみを犯おかしたとて、あなたに何なにをなしえようか。なにゆえ、わたしをあなたの的まととし、わたしをあなたの重荷おもにとされるのか。7:21 なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、わたしの不義ふぎを除のぞかれないのか。わたしはいま土つちの中なかに横よこたわる。あなたがわたしを尋たずねられても、わたしはいないでしょう」。 第8章 8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、 8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。 8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。 8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。 8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。 第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
2:1 ある日ひ、また神かみの子こたちが来きて、主しゅの前まえに立たった。サタンもまたその中なかに来きて、主しゅの前まえに立たった。
2:2 主しゅはサタンに言いわれた、「あなたはどこから来きたか」。サタンは主しゅに答こたえて言いった、「地ちを行ゆきめぐり、あちらこちら歩あるいてきました」。
2:3 主しゅはサタンに言いわれた、「あなたは、わたしのしもべヨブのように全まったく、かつ正ただしく、神かみを恐おそれ、悪あくに遠とおざかる者ものの世よにないことを気きづいたか。あなたは、わたしを勧すすめて、ゆえなく彼かれを滅ほろぼそうとしたが、彼かれはなお堅かたく保たもって、おのれを全まっとうした」。
2:4 サタンは主しゅに答こたえて言いった、「皮かわには皮かわをもってします。人ひとは自分じぶんの命いのちのために、その持もっているすべての物ものをも与あたえます。
2:5 しかしいま、あなたの手てを伸のべて、彼かれの骨ほねと肉にくとを撃うってごらんなさい。彼かれは必かならずあなたの顔かおに向むかって、あなたをのろうでしょう」。
2:6 主しゅはサタンに言いわれた、「見みよ、彼かれはあなたの手てにある。ただ彼かれの命いのちを助たすけよ」。
2:7 サタンは主しゅの前まえから出でて行いって、ヨブを撃うち、その足あしの裏うらから頭あたまの頂いただきまで、いやな腫物はれものをもって彼かれを悩なやました。
2:8 ヨブは陶器とうきの破片はへんを取とり、それで自分じぶんの身みをかき、灰はいの中なかにすわった。
2:9 時ときにその妻つまは彼かれに言いった、「あなたはなおも堅かたく保たもって、自分じぶんを全まっとうするのですか。神かみをのろって死しになさい」。
2:10 しかしヨブは彼女かのじょに言いった、「あなたの語かたることは愚おろかな女おんなの語かたるのと同おなじだ。われわれは神かみから幸さいわいをうけるのだから、災わざわいをも、うけるべきではないか」。すべてこの事ことにおいてヨブはそのくちびるをもって罪つみを犯おかさなかった。
2:11 時ときに、ヨブの三人にんの友ともがこのすべての災わざわいのヨブに臨のぞんだのを聞きいて、めいめい自分じぶんの所ところから尋たずねて来きた。すなわちテマンびとエリパズ、シュヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルである。彼かれらはヨブをいたわり、慰なぐさめようとして、たがいに約束やくそくしてきたのである。
2:12 彼かれらは目めをあげて遠方えんぽうから見みたが、彼かれのヨブであることを認みとめがたいほどであったので、声こえをあげて泣なき、めいめい自分じぶんの上着うわぎを裂さき、天てんに向むかって、ちりをうちあげ、自分じぶんたちの頭あたまの上うえにまき散ちらした。
2:13 こうして七日なぬか七夜ななよ、彼かれと共ともに地ちに座ざしていて、ひと言ことも彼かれに話はなしかける者ものがなかった。彼かれの苦くるしみの非常ひじょうに大おおきいのを見みたからである。
第3章 3:1 この後のち、ヨブは口くちを開ひらいて、自分じぶんの生うまれた日ひをのろった。3:2 すなわちヨブは言いった、 3:3 「わたしの生うまれた日ひは滅ほろびうせよ。『男おとこの子こが、胎たいにやどった』と言いった夜よもそのようになれ。3:4 その日ひは暗くらくなるように。神かみが上うえからこれを顧かえりみられないように。光ひかりがこれを照てらさないように。3:5 やみと暗黒あんこくがこれを取とりもどすように。雲くもが、その上うえにとどまるように。日ひを暗くらくする者ものが、これを脅おびやかすように。3:6 その夜よは、暗くらやみが、これを捕とらえるように。年としの日ひのうちに加くわわらないように。月つきの数かずにもはいらないように。3:7 また、その夜よは、はらむことのないように。喜よろこびの声こえがそのうちに聞きかれないように。3:8 日ひをのろう者ものが、これをのろうように。レビヤタンを奮ふるい起おこすに巧たくみな者ものが、これをのろうように。3:9 その明あけの星ほしは暗くらくなるように。光ひかりを望のぞんでも、得えられないように。また、あけぼののまぶたを見みることのないように。3:10 これは、わたしの母ははの胎たいの戸とを閉とじず、また悩なやみをわたしの目めに隠かくさなかったからである。 3:11 なにゆえ、わたしは胎たいから出でて、死しななかったのか。腹はらから出でたとき息いきが絶たえなかったのか。3:12 なにゆえ、ひざが、わたしを受うけたのか。なにゆえ、乳ちぶさがあって、わたしはそれを吸すったのか。3:13 そうしなかったならば、わたしは伏ふして休やすみ、 ねむったであろう。そうすればわたしは安やすんじており、3:14 自分じぶんのために荒あれ跡あとを築きずき直なおした地ちの王おうたち、参議さんぎたち、3:15 あるいは、こがねを持もち、しろがねを家いえに満みたした君きみたちと一緒いっしょにいたであろう。3:16 なにゆえ、わたしは人知ひとしれずおりる胎児たいじのごとく、光ひかりを見みないみどりごのようでなかったのか。3:17 かしこでは悪人あくにんも、あばれることをやめ、うみ疲つかれた者ものも、休やすみを得え、3:18 捕とらわれ人びとも共ともに安やすらかにおり、追おい使つかう者ものの声こえを聞きかない。3:19 小ちいさい者ものも大おおきい者ものもそこにおり、奴隷どれいも、その主人しゅじんから解とき放はなされる。 3:20 なにゆえ、悩なやむ者ものに光ひかりを賜たまい、心こころの苦くるしむ者ものに命いのちを賜たまわったのか。3:21 このような人ひとは死しを望のぞんでも来こない、これを求もとめることは隠かくれた宝たからを掘ほるよりも、はなはだしい。3:22 彼かれらは墓はかを見みいだすとき、非常ひじょうに喜よろこび楽たのしむのだ。3:23 なにゆえ、その道みちの隠かくされた人ひとに、神かみが、まがきをめぐらされた人ひとに、光ひかりを賜たまわるのか。3:24 わたしの嘆なげきはわが食物しょくもつに代かわって来きたり、わたしのうめきは水みずのように流ながれ出でる。3:25 わたしの恐おそれるものが、わたしに臨のぞみ、わたしの恐おそれおののくものが、わが身みに及およぶ。3:26 わたしは安やすらかでなく、またおだやかでない。わたしは休やすみを得えない、ただ悩なやみのみが来くる」。 第4章 4:1 その時とき、テマンびとエリパズが答こたえて言いった、 4:2 「もし人ひとがあなたにむかって意見いけんを述のべるならば、あなたは腹はらを立たてるでしょうか。しかしだれが黙だまっておれましょう。4:3 見みよ、あなたは多おおくの人ひとを教おしえさとし、衰おとろえた手てを強つよくした。4:4 あなたの言葉ことばはつまずく者ものをたすけ起おこし、かよわいひざを強つよくした。4:5 ところが今いま、この事ことがあなたに臨のぞむと、あなたは耐たえ得えない。この事ことがあなたに触ふれると、あなたはおじ惑まどう。4:6 あなたが神かみを恐おそれていることは、あなたのよりどころではないか。あなたの道みちの全まったきことは、あなたの望のぞみではないか。4:7 考かんがえてみよ、だれが罪つみのないのに、滅ほろぼされた者ものがあるか。どこに正ただしい者もので、断たち滅ほろぼされた者ものがあるか。4:8 わたしの見みた所ところによれば、不義ふぎを耕たがやし、害悪がいあくをまく者ものは、それを刈かり取とっている。4:9 彼かれらは神かみのいぶきによって滅ほろび、その怒いかりの息いきによって消きえうせる。4:10 ししのほえる声こえ、たけきししの声こえはともにやみ、若わかきししのきばは折おられ、4:11 雄おじしは獲物えものを得えずに滅ほろび、雌めじしの子こは散ちらされる。 4:12 さて、わたしに、言葉ことばがひそかに臨のぞんだ、わたしの耳みみはそのささやきを聞きいた。4:13 すなわち人ひとの熟睡じゅくすいするころ、夜よるの幻まぼろしによって思おもい乱みだれている時とき、4:14 恐おそれがわたしに臨のぞんだので、おののき、わたしの骨ほねはことごとく震ふるえた。4:15 時ときに、霊れいがあって、わたしの顔かおの前まえを過すぎたので、わたしの身みの毛けはよだった。4:16 そのものは立たちどまったが、わたしはその姿すがたを見みわけることができなかった。一つのかたちが、わたしの目めの前まえにあった。わたしは静しずかな声こえを聞きいた、4:17 『人ひとは神かみの前まえに正ただしくありえようか。人ひとはその造つくり主ぬしの前まえに清きよくありえようか。4:18 見みよ、彼かれはそのしもべをさえ頼たのみとせず、その天使てんしをも誤あやまれる者ものとみなされる。4:19 まして、泥どろの家いえに住すむ者もの、ちりをその基もといとする者もの、しみのようにつぶされる者もの。4:20 彼かれらは朝あさから夕ゆうまでの間あいだに打うち砕くだかれ、顧かえりみる者ものもなく、永遠えいえんに滅ほろびる。4:21 もしその天幕てんまくの綱つなが彼かれらのうちに取とり去さられるなら、ついに悟さとることもなく、死しにうせるではないか』。 第5章 5:1 試こころみに呼よんでみよ、だれかあなたに答こたえる者ものがあるか。どの聖者せいじゃにあなたは頼たのもうとするのか。5:2 確たしかに、憤いきどおりは愚おろかな者ものを殺ころし、ねたみはあさはかな者ものを死しなせる。5:3 わたしは愚おろかな者ものの根ねを張はるのを見みた、しかしわたしは、にわかにそのすみかをのろった。5:4 その子こらは安やすきを得えず、町まちの門もんでしえたげられても、これを救すくう者ものがない。5:5 その収穫しゅうかくは飢うえた人ひとが食たべ、いばらの中なかからさえ、これを奪うばう。また、かわいた者ものはその財産ざいさんをあえぎ求もとめる。5:6 苦くるしみは、ちりから起おこるものでなく、悩なやみは土つちから生しょうじるものでない。5:7 人ひとが生うまれて悩なやみを受うけるのは、火ひの子こが上うえに飛とぶにひとしい。 5:8 しかし、わたしであるならば、神かみに求もとめ、神かみに、わたしの事ことをまかせる。5:9 彼かれは大おおいなる事ことをされるかたで、測はかり知しれない、その不思議ふしぎなみわざは数かぞえがたい。5:10 彼かれは地ちに雨あめを降ふらせ、野のに水みずを送おくられる。5:11 彼かれは低ひくい者ものを高たかくあげ、悲かなしむ者ものを引ひき上あげて、安全あんぜんにされる。5:12 彼かれは悪賢わるがしこい者ものの計はかりごとを敗やぶられる。それで何事なにごともその手てになし遂とげることはできない。5:13 彼かれは賢かしこい者ものを、彼かれら自身じしんの悪巧わるだくみによって捕とらえ、曲まがった者ものの計はかりごとをくつがえされる。5:14 彼かれらは昼ひるも、やみに会あい、真昼まひるにも、夜よるのように手探てさぐりする。5:15 彼かれは貧まずしい者ものを彼かれらの口くちのつるぎから救すくい、また強つよい者ものの手てから救すくわれる。5:16 それゆえ乏とぼしい者ものに望のぞみがあり、不義ふぎはその口くちを閉とじる。 5:17 見みよ、神かみに戒いましめられる人ひとはさいわいだ。それゆえ全能者ぜんのうしゃの懲こらしめを軽かろんじてはならない。5:18 彼かれは傷きずつけ、また包つつみ、撃うち、またその手てをもっていやされる。5:19 彼かれはあなたを六つの悩なやみから救すくい、七つのうちでも、災わざわいはあなたに触ふれることがない。5:20 ききんの時ときには、あなたをあがなって、死しを免まぬかれさせ、いくさの時ときには、つるぎの力ちからを免まぬかれさせられる。5:21 あなたは舌したをもってむち打うたれる時ときにも、おおい隠かくされ、滅ほろびが来くる時ときでも、恐おそれることはない。5:22 あなたは滅ほろびと、ききんとを笑わらい、地ちの獣けものをも恐おそれることはない。5:23 あなたは野のの石いしと契約けいやくを結むすび、野のの獣けものはあなたと和やわらぐからである。5:24 あなたは自分じぶんの天幕てんまくの安全あんぜんなことを知しり、自分じぶんの家畜かちくのおりを見回みまわっても、 かけた物ものがなく、5:25 また、あなたの子孫しそんの多おおくなり、そのすえが地ちの草くさのようになるのを知しるであろう。5:26 あなたは高齢こうれいに達たっして墓はかに入はいる、あたかも麦むぎ束たばをその季節きせつになって打うち場ばに運はこびあげるようになるであろう。5:27 見みよ、われわれの尋たずねきわめた所ところはこのとおりだ。あなたはこれを聞きいて、みずから知しるがよい」。 第6章 6:1 ヨブは答こたえて言いった、 6:2 「どうかわたしの憤いきどおりが正ただしく量はかられ、同時どうじにわたしの災わざわいも、はかりにかけられるように。6:3 そうすれば、これは海うみの砂すなよりも重おもいに相違そういない。それゆえ、わたしの言葉ことばが軽率けいそつであったのだ。6:4 全能者ぜんのうしゃの矢やが、わたしのうちにあり、わたしの霊れいはその毒どくを飲のみ、神かみの恐おそるべき軍勢ぐんぜいが、わたしを襲おそい攻せめている。6:5 野のろばは、青草あおくさのあるのに鳴なくであろうか。牛うしは飼葉かいばの上うえでうなるであろうか。6:6 味あじのない物ものは塩しおがなくて食たべられようか。すべりひゆのしるは味あじがあろうか。6:7 わたしの食欲しょくよくはこれに触ふれることを拒こばむ。これは、わたしのきらう食物しょくもつのようだ。 6:8 どうかわたしの求もとめるものが獲えられるように。どうか神かみがわたしの望のぞむものをくださるように。6:9 どうか神かみがわたしを打うち滅ほろぼすことをよしとし、み手てを伸のべてわたしを断たたれるように。6:10 そうすれば、わたしはなお慰なぐさめを得え、激はげしい苦くるしみの中なかにあっても喜よろこぶであろう。わたしは聖せいなる者ものの言葉ことばを否いなんだことがないからだ。6:11 わたしにどんな力ちからがあって、なお待またねばならないのか。わたしにどんな終おわりがあるので、なお耐たえ忍しのばねばならないのか。6:12 わたしの力ちからは石いしの力ちからのようであるのか。わたしの肉にくは青銅せいどうのようであるのか。6:13 まことに、わたしのうちに助たすけはなく、救すくわれる望のぞみは、わたしから追おいやられた。 6:14 その友ともに対たいするいつくしみをさし控ひかえる者ものは、全能者ぜんのうしゃを恐おそれることをすてる。6:15 わが兄弟きょうだいたちは谷川たにがわのように、過すぎ去さる出水でみずのように欺あざむく。6:16 これは氷こおりのために黒くろくなり、そのうちに雪ゆきが隠かくれる。6:17 これは暖あたたかになると消きえ去さり、暑あつくなるとその所ところからなくなる。6:18 隊商たいしょうはその道みちを転てんじ、むなしい所ところへ行いって滅ほろびる。6:19 テマの隊商たいしょうはこれを望のぞみ、シバの旅たびびとはこれを慕したう。6:20 彼かれらはこれにたよったために失望しつぼうし、そこに来きてみて、あわてる。6:21 あなたがたは今いまわたしにはこのような者ものとなった。あなたがたはわたしの災難さいなんを見みて恐おそれた。6:22 わたしは言いったことがあるか、『わたしに与あたえよ』と、あるいは『あなたがたの財産ざいさんのうちからわたしのために、まいないを贈おくれ』と、6:23 あるいは『あだの手てからわたしを救すくい出だせ』と、あるいは『しえたげる者ものの手てからわたしをあがなえ』と。 6:24 わたしに教おしえよ、そうすればわたしは黙だまるであろう。わたしの誤あやまっている所ところをわたしに悟さとらせよ。6:25 正ただしい言葉ことばはいかに力ちからのあるものか。しかしあなたがたの戒いましめは何なにを戒いましめるのか。6:26 あなたがたは言葉ことばを戒いましめうると思おもうのか。望のぞみの絶たえた者ものの語かたることは風かぜのようなものだ。6:27 あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、あなたがたの友ともをさえ売うり買かいするであろう。 6:28 今いま、どうぞわたしを見みられよ、わたしはあなたがたの顔かおに向むかって偽いつわらない。6:29 どうぞ、思おもいなおせ、まちがってはならない。さらに思おもいなおせ、わたしの義ぎは、なおわたしのうちにある。6:30 わたしの舌したに不義ふぎがあるか。わたしの口くちは災わざわいをわきまえることができぬであろうか。 第7章 7:1 地上ちじょうの人ひとには、激はげしい労務ろうむがあるではないか。またその日ひは雇人やといにんの日ひのようではないか。7:2 奴隷どれいが夕暮ゆうぐれを慕したうように、雇人やといにんがその賃銀ちんぎんを望のぞむように、7:3 わたしは、むなしい月つきを持もたせられ、悩なやみの夜よるを与あたえられる。7:4 わたしは寝ねるときに言いう、『いつ起おきるだろうか』と。しかし夜よるは長ながく、暁あかつきまでころびまわる。7:5 わたしの肉にくはうじと土つちくれとをまとい、わたしの皮かわは固かたまっては、またくずれる。7:6 わたしの日ひは機はたのひよりも速はやく、望のぞみをもたずに消きえ去さる。 7:7 記憶きおくせよ、わたしの命いのちは息いきにすぎないことを。わたしの目めは再ふたたび幸さいわいを見みることがない。7:8 わたしを見みる者ものの目めは、かさねてわたしを見みることがなく、あなたがわたしに目めを向むけられても、わたしはいない。7:9 雲くもが消きえて、なくなるように、陰府よみに下くだる者ものは上あがって来くることがない。7:10 彼かれは再ふたたびその家いえに帰かえらず、彼かれの所ところも、もはや彼かれを認みとめない。 7:11 それゆえ、わたしはわが口くちをおさえず、わたしの霊れいのもだえによって語かたり、わたしの魂たましいの苦くるしさによって嘆なげく。7:12 わたしは海うみであるのか、龍りゅうであるのか、あなたはわたしの上うえに見張みはりを置おかれる。7:13 『わたしの床とこはわたしを慰なぐさめ、わたしの寝床ねどこはわが嘆なげきを軽かるくする』とわたしが言いうとき、7:14 あなたは夢ゆめをもってわたしを驚おどろかし、幻まぼろしをもってわたしを恐おそれさせられる。7:15 それゆえ、わたしは息いきの止とまることを願ねがい、わが骨ほねよりもむしろ死しを選えらぶ。7:16 わたしは命いのちをいとう。わたしは長ながく生いきることを望のぞまない。わたしに構かまわないでください。わたしの日ひは息いきにすぎないのだから。7:17 人ひとは何者なにものなので、あなたはこれを大おおきなものとし、これにみ心こころをとめ、7:18 朝あさごとに、これを尋たずね、絶たえ間まなく、これを試こころみられるのか。7:19 いつまで、あなたはわたしに目めを離はなさず、つばをのむまも、わたしを捨すてておかれないのか。7:20 人ひとを監視かんしされる者ものよ、わたしが罪つみを犯おかしたとて、あなたに何なにをなしえようか。なにゆえ、わたしをあなたの的まととし、わたしをあなたの重荷おもにとされるのか。7:21 なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、わたしの不義ふぎを除のぞかれないのか。わたしはいま土つちの中なかに横よこたわる。あなたがわたしを尋たずねられても、わたしはいないでしょう」。 第8章 8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、 8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。 8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。 8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。 8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。 第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
3:1 この後のち、ヨブは口くちを開ひらいて、自分じぶんの生うまれた日ひをのろった。
3:2 すなわちヨブは言いった、
3:3 「わたしの生うまれた日ひは滅ほろびうせよ。『男おとこの子こが、胎たいにやどった』と言いった夜よもそのようになれ。
3:4 その日ひは暗くらくなるように。神かみが上うえからこれを顧かえりみられないように。光ひかりがこれを照てらさないように。
3:5 やみと暗黒あんこくがこれを取とりもどすように。雲くもが、その上うえにとどまるように。日ひを暗くらくする者ものが、これを脅おびやかすように。
3:6 その夜よは、暗くらやみが、これを捕とらえるように。年としの日ひのうちに加くわわらないように。月つきの数かずにもはいらないように。
3:7 また、その夜よは、はらむことのないように。喜よろこびの声こえがそのうちに聞きかれないように。
3:8 日ひをのろう者ものが、これをのろうように。レビヤタンを奮ふるい起おこすに巧たくみな者ものが、これをのろうように。
3:9 その明あけの星ほしは暗くらくなるように。光ひかりを望のぞんでも、得えられないように。また、あけぼののまぶたを見みることのないように。
3:10 これは、わたしの母ははの胎たいの戸とを閉とじず、また悩なやみをわたしの目めに隠かくさなかったからである。
3:11 なにゆえ、わたしは胎たいから出でて、死しななかったのか。腹はらから出でたとき息いきが絶たえなかったのか。
3:12 なにゆえ、ひざが、わたしを受うけたのか。なにゆえ、乳ちぶさがあって、わたしはそれを吸すったのか。
3:13 そうしなかったならば、わたしは伏ふして休やすみ、 ねむったであろう。そうすればわたしは安やすんじており、
3:14 自分じぶんのために荒あれ跡あとを築きずき直なおした地ちの王おうたち、参議さんぎたち、
3:15 あるいは、こがねを持もち、しろがねを家いえに満みたした君きみたちと一緒いっしょにいたであろう。
3:16 なにゆえ、わたしは人知ひとしれずおりる胎児たいじのごとく、光ひかりを見みないみどりごのようでなかったのか。
3:17 かしこでは悪人あくにんも、あばれることをやめ、うみ疲つかれた者ものも、休やすみを得え、
3:18 捕とらわれ人びとも共ともに安やすらかにおり、追おい使つかう者ものの声こえを聞きかない。
3:19 小ちいさい者ものも大おおきい者ものもそこにおり、奴隷どれいも、その主人しゅじんから解とき放はなされる。
3:20 なにゆえ、悩なやむ者ものに光ひかりを賜たまい、心こころの苦くるしむ者ものに命いのちを賜たまわったのか。
3:21 このような人ひとは死しを望のぞんでも来こない、これを求もとめることは隠かくれた宝たからを掘ほるよりも、はなはだしい。
3:22 彼かれらは墓はかを見みいだすとき、非常ひじょうに喜よろこび楽たのしむのだ。
3:23 なにゆえ、その道みちの隠かくされた人ひとに、神かみが、まがきをめぐらされた人ひとに、光ひかりを賜たまわるのか。
3:24 わたしの嘆なげきはわが食物しょくもつに代かわって来きたり、わたしのうめきは水みずのように流ながれ出でる。
3:25 わたしの恐おそれるものが、わたしに臨のぞみ、わたしの恐おそれおののくものが、わが身みに及およぶ。
3:26 わたしは安やすらかでなく、またおだやかでない。わたしは休やすみを得えない、ただ悩なやみのみが来くる」。
第4章 4:1 その時とき、テマンびとエリパズが答こたえて言いった、 4:2 「もし人ひとがあなたにむかって意見いけんを述のべるならば、あなたは腹はらを立たてるでしょうか。しかしだれが黙だまっておれましょう。4:3 見みよ、あなたは多おおくの人ひとを教おしえさとし、衰おとろえた手てを強つよくした。4:4 あなたの言葉ことばはつまずく者ものをたすけ起おこし、かよわいひざを強つよくした。4:5 ところが今いま、この事ことがあなたに臨のぞむと、あなたは耐たえ得えない。この事ことがあなたに触ふれると、あなたはおじ惑まどう。4:6 あなたが神かみを恐おそれていることは、あなたのよりどころではないか。あなたの道みちの全まったきことは、あなたの望のぞみではないか。4:7 考かんがえてみよ、だれが罪つみのないのに、滅ほろぼされた者ものがあるか。どこに正ただしい者もので、断たち滅ほろぼされた者ものがあるか。4:8 わたしの見みた所ところによれば、不義ふぎを耕たがやし、害悪がいあくをまく者ものは、それを刈かり取とっている。4:9 彼かれらは神かみのいぶきによって滅ほろび、その怒いかりの息いきによって消きえうせる。4:10 ししのほえる声こえ、たけきししの声こえはともにやみ、若わかきししのきばは折おられ、4:11 雄おじしは獲物えものを得えずに滅ほろび、雌めじしの子こは散ちらされる。 4:12 さて、わたしに、言葉ことばがひそかに臨のぞんだ、わたしの耳みみはそのささやきを聞きいた。4:13 すなわち人ひとの熟睡じゅくすいするころ、夜よるの幻まぼろしによって思おもい乱みだれている時とき、4:14 恐おそれがわたしに臨のぞんだので、おののき、わたしの骨ほねはことごとく震ふるえた。4:15 時ときに、霊れいがあって、わたしの顔かおの前まえを過すぎたので、わたしの身みの毛けはよだった。4:16 そのものは立たちどまったが、わたしはその姿すがたを見みわけることができなかった。一つのかたちが、わたしの目めの前まえにあった。わたしは静しずかな声こえを聞きいた、4:17 『人ひとは神かみの前まえに正ただしくありえようか。人ひとはその造つくり主ぬしの前まえに清きよくありえようか。4:18 見みよ、彼かれはそのしもべをさえ頼たのみとせず、その天使てんしをも誤あやまれる者ものとみなされる。4:19 まして、泥どろの家いえに住すむ者もの、ちりをその基もといとする者もの、しみのようにつぶされる者もの。4:20 彼かれらは朝あさから夕ゆうまでの間あいだに打うち砕くだかれ、顧かえりみる者ものもなく、永遠えいえんに滅ほろびる。4:21 もしその天幕てんまくの綱つなが彼かれらのうちに取とり去さられるなら、ついに悟さとることもなく、死しにうせるではないか』。 第5章 5:1 試こころみに呼よんでみよ、だれかあなたに答こたえる者ものがあるか。どの聖者せいじゃにあなたは頼たのもうとするのか。5:2 確たしかに、憤いきどおりは愚おろかな者ものを殺ころし、ねたみはあさはかな者ものを死しなせる。5:3 わたしは愚おろかな者ものの根ねを張はるのを見みた、しかしわたしは、にわかにそのすみかをのろった。5:4 その子こらは安やすきを得えず、町まちの門もんでしえたげられても、これを救すくう者ものがない。5:5 その収穫しゅうかくは飢うえた人ひとが食たべ、いばらの中なかからさえ、これを奪うばう。また、かわいた者ものはその財産ざいさんをあえぎ求もとめる。5:6 苦くるしみは、ちりから起おこるものでなく、悩なやみは土つちから生しょうじるものでない。5:7 人ひとが生うまれて悩なやみを受うけるのは、火ひの子こが上うえに飛とぶにひとしい。 5:8 しかし、わたしであるならば、神かみに求もとめ、神かみに、わたしの事ことをまかせる。5:9 彼かれは大おおいなる事ことをされるかたで、測はかり知しれない、その不思議ふしぎなみわざは数かぞえがたい。5:10 彼かれは地ちに雨あめを降ふらせ、野のに水みずを送おくられる。5:11 彼かれは低ひくい者ものを高たかくあげ、悲かなしむ者ものを引ひき上あげて、安全あんぜんにされる。5:12 彼かれは悪賢わるがしこい者ものの計はかりごとを敗やぶられる。それで何事なにごともその手てになし遂とげることはできない。5:13 彼かれは賢かしこい者ものを、彼かれら自身じしんの悪巧わるだくみによって捕とらえ、曲まがった者ものの計はかりごとをくつがえされる。5:14 彼かれらは昼ひるも、やみに会あい、真昼まひるにも、夜よるのように手探てさぐりする。5:15 彼かれは貧まずしい者ものを彼かれらの口くちのつるぎから救すくい、また強つよい者ものの手てから救すくわれる。5:16 それゆえ乏とぼしい者ものに望のぞみがあり、不義ふぎはその口くちを閉とじる。 5:17 見みよ、神かみに戒いましめられる人ひとはさいわいだ。それゆえ全能者ぜんのうしゃの懲こらしめを軽かろんじてはならない。5:18 彼かれは傷きずつけ、また包つつみ、撃うち、またその手てをもっていやされる。5:19 彼かれはあなたを六つの悩なやみから救すくい、七つのうちでも、災わざわいはあなたに触ふれることがない。5:20 ききんの時ときには、あなたをあがなって、死しを免まぬかれさせ、いくさの時ときには、つるぎの力ちからを免まぬかれさせられる。5:21 あなたは舌したをもってむち打うたれる時ときにも、おおい隠かくされ、滅ほろびが来くる時ときでも、恐おそれることはない。5:22 あなたは滅ほろびと、ききんとを笑わらい、地ちの獣けものをも恐おそれることはない。5:23 あなたは野のの石いしと契約けいやくを結むすび、野のの獣けものはあなたと和やわらぐからである。5:24 あなたは自分じぶんの天幕てんまくの安全あんぜんなことを知しり、自分じぶんの家畜かちくのおりを見回みまわっても、 かけた物ものがなく、5:25 また、あなたの子孫しそんの多おおくなり、そのすえが地ちの草くさのようになるのを知しるであろう。5:26 あなたは高齢こうれいに達たっして墓はかに入はいる、あたかも麦むぎ束たばをその季節きせつになって打うち場ばに運はこびあげるようになるであろう。5:27 見みよ、われわれの尋たずねきわめた所ところはこのとおりだ。あなたはこれを聞きいて、みずから知しるがよい」。 第6章 6:1 ヨブは答こたえて言いった、 6:2 「どうかわたしの憤いきどおりが正ただしく量はかられ、同時どうじにわたしの災わざわいも、はかりにかけられるように。6:3 そうすれば、これは海うみの砂すなよりも重おもいに相違そういない。それゆえ、わたしの言葉ことばが軽率けいそつであったのだ。6:4 全能者ぜんのうしゃの矢やが、わたしのうちにあり、わたしの霊れいはその毒どくを飲のみ、神かみの恐おそるべき軍勢ぐんぜいが、わたしを襲おそい攻せめている。6:5 野のろばは、青草あおくさのあるのに鳴なくであろうか。牛うしは飼葉かいばの上うえでうなるであろうか。6:6 味あじのない物ものは塩しおがなくて食たべられようか。すべりひゆのしるは味あじがあろうか。6:7 わたしの食欲しょくよくはこれに触ふれることを拒こばむ。これは、わたしのきらう食物しょくもつのようだ。 6:8 どうかわたしの求もとめるものが獲えられるように。どうか神かみがわたしの望のぞむものをくださるように。6:9 どうか神かみがわたしを打うち滅ほろぼすことをよしとし、み手てを伸のべてわたしを断たたれるように。6:10 そうすれば、わたしはなお慰なぐさめを得え、激はげしい苦くるしみの中なかにあっても喜よろこぶであろう。わたしは聖せいなる者ものの言葉ことばを否いなんだことがないからだ。6:11 わたしにどんな力ちからがあって、なお待またねばならないのか。わたしにどんな終おわりがあるので、なお耐たえ忍しのばねばならないのか。6:12 わたしの力ちからは石いしの力ちからのようであるのか。わたしの肉にくは青銅せいどうのようであるのか。6:13 まことに、わたしのうちに助たすけはなく、救すくわれる望のぞみは、わたしから追おいやられた。 6:14 その友ともに対たいするいつくしみをさし控ひかえる者ものは、全能者ぜんのうしゃを恐おそれることをすてる。6:15 わが兄弟きょうだいたちは谷川たにがわのように、過すぎ去さる出水でみずのように欺あざむく。6:16 これは氷こおりのために黒くろくなり、そのうちに雪ゆきが隠かくれる。6:17 これは暖あたたかになると消きえ去さり、暑あつくなるとその所ところからなくなる。6:18 隊商たいしょうはその道みちを転てんじ、むなしい所ところへ行いって滅ほろびる。6:19 テマの隊商たいしょうはこれを望のぞみ、シバの旅たびびとはこれを慕したう。6:20 彼かれらはこれにたよったために失望しつぼうし、そこに来きてみて、あわてる。6:21 あなたがたは今いまわたしにはこのような者ものとなった。あなたがたはわたしの災難さいなんを見みて恐おそれた。6:22 わたしは言いったことがあるか、『わたしに与あたえよ』と、あるいは『あなたがたの財産ざいさんのうちからわたしのために、まいないを贈おくれ』と、6:23 あるいは『あだの手てからわたしを救すくい出だせ』と、あるいは『しえたげる者ものの手てからわたしをあがなえ』と。 6:24 わたしに教おしえよ、そうすればわたしは黙だまるであろう。わたしの誤あやまっている所ところをわたしに悟さとらせよ。6:25 正ただしい言葉ことばはいかに力ちからのあるものか。しかしあなたがたの戒いましめは何なにを戒いましめるのか。6:26 あなたがたは言葉ことばを戒いましめうると思おもうのか。望のぞみの絶たえた者ものの語かたることは風かぜのようなものだ。6:27 あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、あなたがたの友ともをさえ売うり買かいするであろう。 6:28 今いま、どうぞわたしを見みられよ、わたしはあなたがたの顔かおに向むかって偽いつわらない。6:29 どうぞ、思おもいなおせ、まちがってはならない。さらに思おもいなおせ、わたしの義ぎは、なおわたしのうちにある。6:30 わたしの舌したに不義ふぎがあるか。わたしの口くちは災わざわいをわきまえることができぬであろうか。 第7章 7:1 地上ちじょうの人ひとには、激はげしい労務ろうむがあるではないか。またその日ひは雇人やといにんの日ひのようではないか。7:2 奴隷どれいが夕暮ゆうぐれを慕したうように、雇人やといにんがその賃銀ちんぎんを望のぞむように、7:3 わたしは、むなしい月つきを持もたせられ、悩なやみの夜よるを与あたえられる。7:4 わたしは寝ねるときに言いう、『いつ起おきるだろうか』と。しかし夜よるは長ながく、暁あかつきまでころびまわる。7:5 わたしの肉にくはうじと土つちくれとをまとい、わたしの皮かわは固かたまっては、またくずれる。7:6 わたしの日ひは機はたのひよりも速はやく、望のぞみをもたずに消きえ去さる。 7:7 記憶きおくせよ、わたしの命いのちは息いきにすぎないことを。わたしの目めは再ふたたび幸さいわいを見みることがない。7:8 わたしを見みる者ものの目めは、かさねてわたしを見みることがなく、あなたがわたしに目めを向むけられても、わたしはいない。7:9 雲くもが消きえて、なくなるように、陰府よみに下くだる者ものは上あがって来くることがない。7:10 彼かれは再ふたたびその家いえに帰かえらず、彼かれの所ところも、もはや彼かれを認みとめない。 7:11 それゆえ、わたしはわが口くちをおさえず、わたしの霊れいのもだえによって語かたり、わたしの魂たましいの苦くるしさによって嘆なげく。7:12 わたしは海うみであるのか、龍りゅうであるのか、あなたはわたしの上うえに見張みはりを置おかれる。7:13 『わたしの床とこはわたしを慰なぐさめ、わたしの寝床ねどこはわが嘆なげきを軽かるくする』とわたしが言いうとき、7:14 あなたは夢ゆめをもってわたしを驚おどろかし、幻まぼろしをもってわたしを恐おそれさせられる。7:15 それゆえ、わたしは息いきの止とまることを願ねがい、わが骨ほねよりもむしろ死しを選えらぶ。7:16 わたしは命いのちをいとう。わたしは長ながく生いきることを望のぞまない。わたしに構かまわないでください。わたしの日ひは息いきにすぎないのだから。7:17 人ひとは何者なにものなので、あなたはこれを大おおきなものとし、これにみ心こころをとめ、7:18 朝あさごとに、これを尋たずね、絶たえ間まなく、これを試こころみられるのか。7:19 いつまで、あなたはわたしに目めを離はなさず、つばをのむまも、わたしを捨すてておかれないのか。7:20 人ひとを監視かんしされる者ものよ、わたしが罪つみを犯おかしたとて、あなたに何なにをなしえようか。なにゆえ、わたしをあなたの的まととし、わたしをあなたの重荷おもにとされるのか。7:21 なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、わたしの不義ふぎを除のぞかれないのか。わたしはいま土つちの中なかに横よこたわる。あなたがわたしを尋たずねられても、わたしはいないでしょう」。 第8章 8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、 8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。 8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。 8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。 8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。 第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
4:1 その時とき、テマンびとエリパズが答こたえて言いった、
4:2 「もし人ひとがあなたにむかって意見いけんを述のべるならば、あなたは腹はらを立たてるでしょうか。しかしだれが黙だまっておれましょう。
4:3 見みよ、あなたは多おおくの人ひとを教おしえさとし、衰おとろえた手てを強つよくした。
4:4 あなたの言葉ことばはつまずく者ものをたすけ起おこし、かよわいひざを強つよくした。
4:5 ところが今いま、この事ことがあなたに臨のぞむと、あなたは耐たえ得えない。この事ことがあなたに触ふれると、あなたはおじ惑まどう。
4:6 あなたが神かみを恐おそれていることは、あなたのよりどころではないか。あなたの道みちの全まったきことは、あなたの望のぞみではないか。
4:7 考かんがえてみよ、だれが罪つみのないのに、滅ほろぼされた者ものがあるか。どこに正ただしい者もので、断たち滅ほろぼされた者ものがあるか。
4:8 わたしの見みた所ところによれば、不義ふぎを耕たがやし、害悪がいあくをまく者ものは、それを刈かり取とっている。
4:9 彼かれらは神かみのいぶきによって滅ほろび、その怒いかりの息いきによって消きえうせる。
4:10 ししのほえる声こえ、たけきししの声こえはともにやみ、若わかきししのきばは折おられ、
4:11 雄おじしは獲物えものを得えずに滅ほろび、雌めじしの子こは散ちらされる。
4:12 さて、わたしに、言葉ことばがひそかに臨のぞんだ、わたしの耳みみはそのささやきを聞きいた。
4:13 すなわち人ひとの熟睡じゅくすいするころ、夜よるの幻まぼろしによって思おもい乱みだれている時とき、
4:14 恐おそれがわたしに臨のぞんだので、おののき、わたしの骨ほねはことごとく震ふるえた。
4:15 時ときに、霊れいがあって、わたしの顔かおの前まえを過すぎたので、わたしの身みの毛けはよだった。
4:16 そのものは立たちどまったが、わたしはその姿すがたを見みわけることができなかった。一つのかたちが、わたしの目めの前まえにあった。わたしは静しずかな声こえを聞きいた、
4:17 『人ひとは神かみの前まえに正ただしくありえようか。人ひとはその造つくり主ぬしの前まえに清きよくありえようか。
4:18 見みよ、彼かれはそのしもべをさえ頼たのみとせず、その天使てんしをも誤あやまれる者ものとみなされる。
4:19 まして、泥どろの家いえに住すむ者もの、ちりをその基もといとする者もの、しみのようにつぶされる者もの。
4:20 彼かれらは朝あさから夕ゆうまでの間あいだに打うち砕くだかれ、顧かえりみる者ものもなく、永遠えいえんに滅ほろびる。
4:21 もしその天幕てんまくの綱つなが彼かれらのうちに取とり去さられるなら、ついに悟さとることもなく、死しにうせるではないか』。
第5章 5:1 試こころみに呼よんでみよ、だれかあなたに答こたえる者ものがあるか。どの聖者せいじゃにあなたは頼たのもうとするのか。5:2 確たしかに、憤いきどおりは愚おろかな者ものを殺ころし、ねたみはあさはかな者ものを死しなせる。5:3 わたしは愚おろかな者ものの根ねを張はるのを見みた、しかしわたしは、にわかにそのすみかをのろった。5:4 その子こらは安やすきを得えず、町まちの門もんでしえたげられても、これを救すくう者ものがない。5:5 その収穫しゅうかくは飢うえた人ひとが食たべ、いばらの中なかからさえ、これを奪うばう。また、かわいた者ものはその財産ざいさんをあえぎ求もとめる。5:6 苦くるしみは、ちりから起おこるものでなく、悩なやみは土つちから生しょうじるものでない。5:7 人ひとが生うまれて悩なやみを受うけるのは、火ひの子こが上うえに飛とぶにひとしい。 5:8 しかし、わたしであるならば、神かみに求もとめ、神かみに、わたしの事ことをまかせる。5:9 彼かれは大おおいなる事ことをされるかたで、測はかり知しれない、その不思議ふしぎなみわざは数かぞえがたい。5:10 彼かれは地ちに雨あめを降ふらせ、野のに水みずを送おくられる。5:11 彼かれは低ひくい者ものを高たかくあげ、悲かなしむ者ものを引ひき上あげて、安全あんぜんにされる。5:12 彼かれは悪賢わるがしこい者ものの計はかりごとを敗やぶられる。それで何事なにごともその手てになし遂とげることはできない。5:13 彼かれは賢かしこい者ものを、彼かれら自身じしんの悪巧わるだくみによって捕とらえ、曲まがった者ものの計はかりごとをくつがえされる。5:14 彼かれらは昼ひるも、やみに会あい、真昼まひるにも、夜よるのように手探てさぐりする。5:15 彼かれは貧まずしい者ものを彼かれらの口くちのつるぎから救すくい、また強つよい者ものの手てから救すくわれる。5:16 それゆえ乏とぼしい者ものに望のぞみがあり、不義ふぎはその口くちを閉とじる。 5:17 見みよ、神かみに戒いましめられる人ひとはさいわいだ。それゆえ全能者ぜんのうしゃの懲こらしめを軽かろんじてはならない。5:18 彼かれは傷きずつけ、また包つつみ、撃うち、またその手てをもっていやされる。5:19 彼かれはあなたを六つの悩なやみから救すくい、七つのうちでも、災わざわいはあなたに触ふれることがない。5:20 ききんの時ときには、あなたをあがなって、死しを免まぬかれさせ、いくさの時ときには、つるぎの力ちからを免まぬかれさせられる。5:21 あなたは舌したをもってむち打うたれる時ときにも、おおい隠かくされ、滅ほろびが来くる時ときでも、恐おそれることはない。5:22 あなたは滅ほろびと、ききんとを笑わらい、地ちの獣けものをも恐おそれることはない。5:23 あなたは野のの石いしと契約けいやくを結むすび、野のの獣けものはあなたと和やわらぐからである。5:24 あなたは自分じぶんの天幕てんまくの安全あんぜんなことを知しり、自分じぶんの家畜かちくのおりを見回みまわっても、 かけた物ものがなく、5:25 また、あなたの子孫しそんの多おおくなり、そのすえが地ちの草くさのようになるのを知しるであろう。5:26 あなたは高齢こうれいに達たっして墓はかに入はいる、あたかも麦むぎ束たばをその季節きせつになって打うち場ばに運はこびあげるようになるであろう。5:27 見みよ、われわれの尋たずねきわめた所ところはこのとおりだ。あなたはこれを聞きいて、みずから知しるがよい」。 第6章 6:1 ヨブは答こたえて言いった、 6:2 「どうかわたしの憤いきどおりが正ただしく量はかられ、同時どうじにわたしの災わざわいも、はかりにかけられるように。6:3 そうすれば、これは海うみの砂すなよりも重おもいに相違そういない。それゆえ、わたしの言葉ことばが軽率けいそつであったのだ。6:4 全能者ぜんのうしゃの矢やが、わたしのうちにあり、わたしの霊れいはその毒どくを飲のみ、神かみの恐おそるべき軍勢ぐんぜいが、わたしを襲おそい攻せめている。6:5 野のろばは、青草あおくさのあるのに鳴なくであろうか。牛うしは飼葉かいばの上うえでうなるであろうか。6:6 味あじのない物ものは塩しおがなくて食たべられようか。すべりひゆのしるは味あじがあろうか。6:7 わたしの食欲しょくよくはこれに触ふれることを拒こばむ。これは、わたしのきらう食物しょくもつのようだ。 6:8 どうかわたしの求もとめるものが獲えられるように。どうか神かみがわたしの望のぞむものをくださるように。6:9 どうか神かみがわたしを打うち滅ほろぼすことをよしとし、み手てを伸のべてわたしを断たたれるように。6:10 そうすれば、わたしはなお慰なぐさめを得え、激はげしい苦くるしみの中なかにあっても喜よろこぶであろう。わたしは聖せいなる者ものの言葉ことばを否いなんだことがないからだ。6:11 わたしにどんな力ちからがあって、なお待またねばならないのか。わたしにどんな終おわりがあるので、なお耐たえ忍しのばねばならないのか。6:12 わたしの力ちからは石いしの力ちからのようであるのか。わたしの肉にくは青銅せいどうのようであるのか。6:13 まことに、わたしのうちに助たすけはなく、救すくわれる望のぞみは、わたしから追おいやられた。 6:14 その友ともに対たいするいつくしみをさし控ひかえる者ものは、全能者ぜんのうしゃを恐おそれることをすてる。6:15 わが兄弟きょうだいたちは谷川たにがわのように、過すぎ去さる出水でみずのように欺あざむく。6:16 これは氷こおりのために黒くろくなり、そのうちに雪ゆきが隠かくれる。6:17 これは暖あたたかになると消きえ去さり、暑あつくなるとその所ところからなくなる。6:18 隊商たいしょうはその道みちを転てんじ、むなしい所ところへ行いって滅ほろびる。6:19 テマの隊商たいしょうはこれを望のぞみ、シバの旅たびびとはこれを慕したう。6:20 彼かれらはこれにたよったために失望しつぼうし、そこに来きてみて、あわてる。6:21 あなたがたは今いまわたしにはこのような者ものとなった。あなたがたはわたしの災難さいなんを見みて恐おそれた。6:22 わたしは言いったことがあるか、『わたしに与あたえよ』と、あるいは『あなたがたの財産ざいさんのうちからわたしのために、まいないを贈おくれ』と、6:23 あるいは『あだの手てからわたしを救すくい出だせ』と、あるいは『しえたげる者ものの手てからわたしをあがなえ』と。 6:24 わたしに教おしえよ、そうすればわたしは黙だまるであろう。わたしの誤あやまっている所ところをわたしに悟さとらせよ。6:25 正ただしい言葉ことばはいかに力ちからのあるものか。しかしあなたがたの戒いましめは何なにを戒いましめるのか。6:26 あなたがたは言葉ことばを戒いましめうると思おもうのか。望のぞみの絶たえた者ものの語かたることは風かぜのようなものだ。6:27 あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、あなたがたの友ともをさえ売うり買かいするであろう。 6:28 今いま、どうぞわたしを見みられよ、わたしはあなたがたの顔かおに向むかって偽いつわらない。6:29 どうぞ、思おもいなおせ、まちがってはならない。さらに思おもいなおせ、わたしの義ぎは、なおわたしのうちにある。6:30 わたしの舌したに不義ふぎがあるか。わたしの口くちは災わざわいをわきまえることができぬであろうか。 第7章 7:1 地上ちじょうの人ひとには、激はげしい労務ろうむがあるではないか。またその日ひは雇人やといにんの日ひのようではないか。7:2 奴隷どれいが夕暮ゆうぐれを慕したうように、雇人やといにんがその賃銀ちんぎんを望のぞむように、7:3 わたしは、むなしい月つきを持もたせられ、悩なやみの夜よるを与あたえられる。7:4 わたしは寝ねるときに言いう、『いつ起おきるだろうか』と。しかし夜よるは長ながく、暁あかつきまでころびまわる。7:5 わたしの肉にくはうじと土つちくれとをまとい、わたしの皮かわは固かたまっては、またくずれる。7:6 わたしの日ひは機はたのひよりも速はやく、望のぞみをもたずに消きえ去さる。 7:7 記憶きおくせよ、わたしの命いのちは息いきにすぎないことを。わたしの目めは再ふたたび幸さいわいを見みることがない。7:8 わたしを見みる者ものの目めは、かさねてわたしを見みることがなく、あなたがわたしに目めを向むけられても、わたしはいない。7:9 雲くもが消きえて、なくなるように、陰府よみに下くだる者ものは上あがって来くることがない。7:10 彼かれは再ふたたびその家いえに帰かえらず、彼かれの所ところも、もはや彼かれを認みとめない。 7:11 それゆえ、わたしはわが口くちをおさえず、わたしの霊れいのもだえによって語かたり、わたしの魂たましいの苦くるしさによって嘆なげく。7:12 わたしは海うみであるのか、龍りゅうであるのか、あなたはわたしの上うえに見張みはりを置おかれる。7:13 『わたしの床とこはわたしを慰なぐさめ、わたしの寝床ねどこはわが嘆なげきを軽かるくする』とわたしが言いうとき、7:14 あなたは夢ゆめをもってわたしを驚おどろかし、幻まぼろしをもってわたしを恐おそれさせられる。7:15 それゆえ、わたしは息いきの止とまることを願ねがい、わが骨ほねよりもむしろ死しを選えらぶ。7:16 わたしは命いのちをいとう。わたしは長ながく生いきることを望のぞまない。わたしに構かまわないでください。わたしの日ひは息いきにすぎないのだから。7:17 人ひとは何者なにものなので、あなたはこれを大おおきなものとし、これにみ心こころをとめ、7:18 朝あさごとに、これを尋たずね、絶たえ間まなく、これを試こころみられるのか。7:19 いつまで、あなたはわたしに目めを離はなさず、つばをのむまも、わたしを捨すてておかれないのか。7:20 人ひとを監視かんしされる者ものよ、わたしが罪つみを犯おかしたとて、あなたに何なにをなしえようか。なにゆえ、わたしをあなたの的まととし、わたしをあなたの重荷おもにとされるのか。7:21 なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、わたしの不義ふぎを除のぞかれないのか。わたしはいま土つちの中なかに横よこたわる。あなたがわたしを尋たずねられても、わたしはいないでしょう」。 第8章 8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、 8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。 8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。 8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。 8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。 第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
5:1 試こころみに呼よんでみよ、だれかあなたに答こたえる者ものがあるか。どの聖者せいじゃにあなたは頼たのもうとするのか。
5:2 確たしかに、憤いきどおりは愚おろかな者ものを殺ころし、ねたみはあさはかな者ものを死しなせる。
5:3 わたしは愚おろかな者ものの根ねを張はるのを見みた、しかしわたしは、にわかにそのすみかをのろった。
5:4 その子こらは安やすきを得えず、町まちの門もんでしえたげられても、これを救すくう者ものがない。
5:5 その収穫しゅうかくは飢うえた人ひとが食たべ、いばらの中なかからさえ、これを奪うばう。また、かわいた者ものはその財産ざいさんをあえぎ求もとめる。
5:6 苦くるしみは、ちりから起おこるものでなく、悩なやみは土つちから生しょうじるものでない。
5:7 人ひとが生うまれて悩なやみを受うけるのは、火ひの子こが上うえに飛とぶにひとしい。
5:8 しかし、わたしであるならば、神かみに求もとめ、神かみに、わたしの事ことをまかせる。
5:9 彼かれは大おおいなる事ことをされるかたで、測はかり知しれない、その不思議ふしぎなみわざは数かぞえがたい。
5:10 彼かれは地ちに雨あめを降ふらせ、野のに水みずを送おくられる。
5:11 彼かれは低ひくい者ものを高たかくあげ、悲かなしむ者ものを引ひき上あげて、安全あんぜんにされる。
5:12 彼かれは悪賢わるがしこい者ものの計はかりごとを敗やぶられる。それで何事なにごともその手てになし遂とげることはできない。
5:13 彼かれは賢かしこい者ものを、彼かれら自身じしんの悪巧わるだくみによって捕とらえ、曲まがった者ものの計はかりごとをくつがえされる。
5:14 彼かれらは昼ひるも、やみに会あい、真昼まひるにも、夜よるのように手探てさぐりする。
5:15 彼かれは貧まずしい者ものを彼かれらの口くちのつるぎから救すくい、また強つよい者ものの手てから救すくわれる。
5:16 それゆえ乏とぼしい者ものに望のぞみがあり、不義ふぎはその口くちを閉とじる。
5:17 見みよ、神かみに戒いましめられる人ひとはさいわいだ。それゆえ全能者ぜんのうしゃの懲こらしめを軽かろんじてはならない。
5:18 彼かれは傷きずつけ、また包つつみ、撃うち、またその手てをもっていやされる。
5:19 彼かれはあなたを六つの悩なやみから救すくい、七つのうちでも、災わざわいはあなたに触ふれることがない。
5:20 ききんの時ときには、あなたをあがなって、死しを免まぬかれさせ、いくさの時ときには、つるぎの力ちからを免まぬかれさせられる。
5:21 あなたは舌したをもってむち打うたれる時ときにも、おおい隠かくされ、滅ほろびが来くる時ときでも、恐おそれることはない。
5:22 あなたは滅ほろびと、ききんとを笑わらい、地ちの獣けものをも恐おそれることはない。
5:23 あなたは野のの石いしと契約けいやくを結むすび、野のの獣けものはあなたと和やわらぐからである。
5:24 あなたは自分じぶんの天幕てんまくの安全あんぜんなことを知しり、自分じぶんの家畜かちくのおりを見回みまわっても、 かけた物ものがなく、
5:25 また、あなたの子孫しそんの多おおくなり、そのすえが地ちの草くさのようになるのを知しるであろう。
5:26 あなたは高齢こうれいに達たっして墓はかに入はいる、あたかも麦むぎ束たばをその季節きせつになって打うち場ばに運はこびあげるようになるであろう。
5:27 見みよ、われわれの尋たずねきわめた所ところはこのとおりだ。あなたはこれを聞きいて、みずから知しるがよい」。
第6章 6:1 ヨブは答こたえて言いった、 6:2 「どうかわたしの憤いきどおりが正ただしく量はかられ、同時どうじにわたしの災わざわいも、はかりにかけられるように。6:3 そうすれば、これは海うみの砂すなよりも重おもいに相違そういない。それゆえ、わたしの言葉ことばが軽率けいそつであったのだ。6:4 全能者ぜんのうしゃの矢やが、わたしのうちにあり、わたしの霊れいはその毒どくを飲のみ、神かみの恐おそるべき軍勢ぐんぜいが、わたしを襲おそい攻せめている。6:5 野のろばは、青草あおくさのあるのに鳴なくであろうか。牛うしは飼葉かいばの上うえでうなるであろうか。6:6 味あじのない物ものは塩しおがなくて食たべられようか。すべりひゆのしるは味あじがあろうか。6:7 わたしの食欲しょくよくはこれに触ふれることを拒こばむ。これは、わたしのきらう食物しょくもつのようだ。 6:8 どうかわたしの求もとめるものが獲えられるように。どうか神かみがわたしの望のぞむものをくださるように。6:9 どうか神かみがわたしを打うち滅ほろぼすことをよしとし、み手てを伸のべてわたしを断たたれるように。6:10 そうすれば、わたしはなお慰なぐさめを得え、激はげしい苦くるしみの中なかにあっても喜よろこぶであろう。わたしは聖せいなる者ものの言葉ことばを否いなんだことがないからだ。6:11 わたしにどんな力ちからがあって、なお待またねばならないのか。わたしにどんな終おわりがあるので、なお耐たえ忍しのばねばならないのか。6:12 わたしの力ちからは石いしの力ちからのようであるのか。わたしの肉にくは青銅せいどうのようであるのか。6:13 まことに、わたしのうちに助たすけはなく、救すくわれる望のぞみは、わたしから追おいやられた。 6:14 その友ともに対たいするいつくしみをさし控ひかえる者ものは、全能者ぜんのうしゃを恐おそれることをすてる。6:15 わが兄弟きょうだいたちは谷川たにがわのように、過すぎ去さる出水でみずのように欺あざむく。6:16 これは氷こおりのために黒くろくなり、そのうちに雪ゆきが隠かくれる。6:17 これは暖あたたかになると消きえ去さり、暑あつくなるとその所ところからなくなる。6:18 隊商たいしょうはその道みちを転てんじ、むなしい所ところへ行いって滅ほろびる。6:19 テマの隊商たいしょうはこれを望のぞみ、シバの旅たびびとはこれを慕したう。6:20 彼かれらはこれにたよったために失望しつぼうし、そこに来きてみて、あわてる。6:21 あなたがたは今いまわたしにはこのような者ものとなった。あなたがたはわたしの災難さいなんを見みて恐おそれた。6:22 わたしは言いったことがあるか、『わたしに与あたえよ』と、あるいは『あなたがたの財産ざいさんのうちからわたしのために、まいないを贈おくれ』と、6:23 あるいは『あだの手てからわたしを救すくい出だせ』と、あるいは『しえたげる者ものの手てからわたしをあがなえ』と。 6:24 わたしに教おしえよ、そうすればわたしは黙だまるであろう。わたしの誤あやまっている所ところをわたしに悟さとらせよ。6:25 正ただしい言葉ことばはいかに力ちからのあるものか。しかしあなたがたの戒いましめは何なにを戒いましめるのか。6:26 あなたがたは言葉ことばを戒いましめうると思おもうのか。望のぞみの絶たえた者ものの語かたることは風かぜのようなものだ。6:27 あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、あなたがたの友ともをさえ売うり買かいするであろう。 6:28 今いま、どうぞわたしを見みられよ、わたしはあなたがたの顔かおに向むかって偽いつわらない。6:29 どうぞ、思おもいなおせ、まちがってはならない。さらに思おもいなおせ、わたしの義ぎは、なおわたしのうちにある。6:30 わたしの舌したに不義ふぎがあるか。わたしの口くちは災わざわいをわきまえることができぬであろうか。 第7章 7:1 地上ちじょうの人ひとには、激はげしい労務ろうむがあるではないか。またその日ひは雇人やといにんの日ひのようではないか。7:2 奴隷どれいが夕暮ゆうぐれを慕したうように、雇人やといにんがその賃銀ちんぎんを望のぞむように、7:3 わたしは、むなしい月つきを持もたせられ、悩なやみの夜よるを与あたえられる。7:4 わたしは寝ねるときに言いう、『いつ起おきるだろうか』と。しかし夜よるは長ながく、暁あかつきまでころびまわる。7:5 わたしの肉にくはうじと土つちくれとをまとい、わたしの皮かわは固かたまっては、またくずれる。7:6 わたしの日ひは機はたのひよりも速はやく、望のぞみをもたずに消きえ去さる。 7:7 記憶きおくせよ、わたしの命いのちは息いきにすぎないことを。わたしの目めは再ふたたび幸さいわいを見みることがない。7:8 わたしを見みる者ものの目めは、かさねてわたしを見みることがなく、あなたがわたしに目めを向むけられても、わたしはいない。7:9 雲くもが消きえて、なくなるように、陰府よみに下くだる者ものは上あがって来くることがない。7:10 彼かれは再ふたたびその家いえに帰かえらず、彼かれの所ところも、もはや彼かれを認みとめない。 7:11 それゆえ、わたしはわが口くちをおさえず、わたしの霊れいのもだえによって語かたり、わたしの魂たましいの苦くるしさによって嘆なげく。7:12 わたしは海うみであるのか、龍りゅうであるのか、あなたはわたしの上うえに見張みはりを置おかれる。7:13 『わたしの床とこはわたしを慰なぐさめ、わたしの寝床ねどこはわが嘆なげきを軽かるくする』とわたしが言いうとき、7:14 あなたは夢ゆめをもってわたしを驚おどろかし、幻まぼろしをもってわたしを恐おそれさせられる。7:15 それゆえ、わたしは息いきの止とまることを願ねがい、わが骨ほねよりもむしろ死しを選えらぶ。7:16 わたしは命いのちをいとう。わたしは長ながく生いきることを望のぞまない。わたしに構かまわないでください。わたしの日ひは息いきにすぎないのだから。7:17 人ひとは何者なにものなので、あなたはこれを大おおきなものとし、これにみ心こころをとめ、7:18 朝あさごとに、これを尋たずね、絶たえ間まなく、これを試こころみられるのか。7:19 いつまで、あなたはわたしに目めを離はなさず、つばをのむまも、わたしを捨すてておかれないのか。7:20 人ひとを監視かんしされる者ものよ、わたしが罪つみを犯おかしたとて、あなたに何なにをなしえようか。なにゆえ、わたしをあなたの的まととし、わたしをあなたの重荷おもにとされるのか。7:21 なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、わたしの不義ふぎを除のぞかれないのか。わたしはいま土つちの中なかに横よこたわる。あなたがわたしを尋たずねられても、わたしはいないでしょう」。 第8章 8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、 8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。 8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。 8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。 8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。 第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
6:1 ヨブは答こたえて言いった、
6:2 「どうかわたしの憤いきどおりが正ただしく量はかられ、同時どうじにわたしの災わざわいも、はかりにかけられるように。
6:3 そうすれば、これは海うみの砂すなよりも重おもいに相違そういない。それゆえ、わたしの言葉ことばが軽率けいそつであったのだ。
6:4 全能者ぜんのうしゃの矢やが、わたしのうちにあり、わたしの霊れいはその毒どくを飲のみ、神かみの恐おそるべき軍勢ぐんぜいが、わたしを襲おそい攻せめている。
6:5 野のろばは、青草あおくさのあるのに鳴なくであろうか。牛うしは飼葉かいばの上うえでうなるであろうか。
6:6 味あじのない物ものは塩しおがなくて食たべられようか。すべりひゆのしるは味あじがあろうか。
6:7 わたしの食欲しょくよくはこれに触ふれることを拒こばむ。これは、わたしのきらう食物しょくもつのようだ。
6:8 どうかわたしの求もとめるものが獲えられるように。どうか神かみがわたしの望のぞむものをくださるように。
6:9 どうか神かみがわたしを打うち滅ほろぼすことをよしとし、み手てを伸のべてわたしを断たたれるように。
6:10 そうすれば、わたしはなお慰なぐさめを得え、激はげしい苦くるしみの中なかにあっても喜よろこぶであろう。わたしは聖せいなる者ものの言葉ことばを否いなんだことがないからだ。
6:11 わたしにどんな力ちからがあって、なお待またねばならないのか。わたしにどんな終おわりがあるので、なお耐たえ忍しのばねばならないのか。
6:12 わたしの力ちからは石いしの力ちからのようであるのか。わたしの肉にくは青銅せいどうのようであるのか。
6:13 まことに、わたしのうちに助たすけはなく、救すくわれる望のぞみは、わたしから追おいやられた。
6:14 その友ともに対たいするいつくしみをさし控ひかえる者ものは、全能者ぜんのうしゃを恐おそれることをすてる。
6:15 わが兄弟きょうだいたちは谷川たにがわのように、過すぎ去さる出水でみずのように欺あざむく。
6:16 これは氷こおりのために黒くろくなり、そのうちに雪ゆきが隠かくれる。
6:17 これは暖あたたかになると消きえ去さり、暑あつくなるとその所ところからなくなる。
6:18 隊商たいしょうはその道みちを転てんじ、むなしい所ところへ行いって滅ほろびる。
6:19 テマの隊商たいしょうはこれを望のぞみ、シバの旅たびびとはこれを慕したう。
6:20 彼かれらはこれにたよったために失望しつぼうし、そこに来きてみて、あわてる。
6:21 あなたがたは今いまわたしにはこのような者ものとなった。あなたがたはわたしの災難さいなんを見みて恐おそれた。
6:22 わたしは言いったことがあるか、『わたしに与あたえよ』と、あるいは『あなたがたの財産ざいさんのうちからわたしのために、まいないを贈おくれ』と、
6:23 あるいは『あだの手てからわたしを救すくい出だせ』と、あるいは『しえたげる者ものの手てからわたしをあがなえ』と。
6:24 わたしに教おしえよ、そうすればわたしは黙だまるであろう。わたしの誤あやまっている所ところをわたしに悟さとらせよ。
6:25 正ただしい言葉ことばはいかに力ちからのあるものか。しかしあなたがたの戒いましめは何なにを戒いましめるのか。
6:26 あなたがたは言葉ことばを戒いましめうると思おもうのか。望のぞみの絶たえた者ものの語かたることは風かぜのようなものだ。
6:27 あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、あなたがたの友ともをさえ売うり買かいするであろう。
6:28 今いま、どうぞわたしを見みられよ、わたしはあなたがたの顔かおに向むかって偽いつわらない。
6:29 どうぞ、思おもいなおせ、まちがってはならない。さらに思おもいなおせ、わたしの義ぎは、なおわたしのうちにある。
6:30 わたしの舌したに不義ふぎがあるか。わたしの口くちは災わざわいをわきまえることができぬであろうか。
第7章 7:1 地上ちじょうの人ひとには、激はげしい労務ろうむがあるではないか。またその日ひは雇人やといにんの日ひのようではないか。7:2 奴隷どれいが夕暮ゆうぐれを慕したうように、雇人やといにんがその賃銀ちんぎんを望のぞむように、7:3 わたしは、むなしい月つきを持もたせられ、悩なやみの夜よるを与あたえられる。7:4 わたしは寝ねるときに言いう、『いつ起おきるだろうか』と。しかし夜よるは長ながく、暁あかつきまでころびまわる。7:5 わたしの肉にくはうじと土つちくれとをまとい、わたしの皮かわは固かたまっては、またくずれる。7:6 わたしの日ひは機はたのひよりも速はやく、望のぞみをもたずに消きえ去さる。 7:7 記憶きおくせよ、わたしの命いのちは息いきにすぎないことを。わたしの目めは再ふたたび幸さいわいを見みることがない。7:8 わたしを見みる者ものの目めは、かさねてわたしを見みることがなく、あなたがわたしに目めを向むけられても、わたしはいない。7:9 雲くもが消きえて、なくなるように、陰府よみに下くだる者ものは上あがって来くることがない。7:10 彼かれは再ふたたびその家いえに帰かえらず、彼かれの所ところも、もはや彼かれを認みとめない。 7:11 それゆえ、わたしはわが口くちをおさえず、わたしの霊れいのもだえによって語かたり、わたしの魂たましいの苦くるしさによって嘆なげく。7:12 わたしは海うみであるのか、龍りゅうであるのか、あなたはわたしの上うえに見張みはりを置おかれる。7:13 『わたしの床とこはわたしを慰なぐさめ、わたしの寝床ねどこはわが嘆なげきを軽かるくする』とわたしが言いうとき、7:14 あなたは夢ゆめをもってわたしを驚おどろかし、幻まぼろしをもってわたしを恐おそれさせられる。7:15 それゆえ、わたしは息いきの止とまることを願ねがい、わが骨ほねよりもむしろ死しを選えらぶ。7:16 わたしは命いのちをいとう。わたしは長ながく生いきることを望のぞまない。わたしに構かまわないでください。わたしの日ひは息いきにすぎないのだから。7:17 人ひとは何者なにものなので、あなたはこれを大おおきなものとし、これにみ心こころをとめ、7:18 朝あさごとに、これを尋たずね、絶たえ間まなく、これを試こころみられるのか。7:19 いつまで、あなたはわたしに目めを離はなさず、つばをのむまも、わたしを捨すてておかれないのか。7:20 人ひとを監視かんしされる者ものよ、わたしが罪つみを犯おかしたとて、あなたに何なにをなしえようか。なにゆえ、わたしをあなたの的まととし、わたしをあなたの重荷おもにとされるのか。7:21 なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、わたしの不義ふぎを除のぞかれないのか。わたしはいま土つちの中なかに横よこたわる。あなたがわたしを尋たずねられても、わたしはいないでしょう」。 第8章 8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、 8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。 8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。 8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。 8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。 第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
7:1 地上ちじょうの人ひとには、激はげしい労務ろうむがあるではないか。またその日ひは雇人やといにんの日ひのようではないか。
7:2 奴隷どれいが夕暮ゆうぐれを慕したうように、雇人やといにんがその賃銀ちんぎんを望のぞむように、
7:3 わたしは、むなしい月つきを持もたせられ、悩なやみの夜よるを与あたえられる。
7:4 わたしは寝ねるときに言いう、『いつ起おきるだろうか』と。しかし夜よるは長ながく、暁あかつきまでころびまわる。
7:5 わたしの肉にくはうじと土つちくれとをまとい、わたしの皮かわは固かたまっては、またくずれる。
7:6 わたしの日ひは機はたのひよりも速はやく、望のぞみをもたずに消きえ去さる。
7:7 記憶きおくせよ、わたしの命いのちは息いきにすぎないことを。わたしの目めは再ふたたび幸さいわいを見みることがない。
7:8 わたしを見みる者ものの目めは、かさねてわたしを見みることがなく、あなたがわたしに目めを向むけられても、わたしはいない。
7:9 雲くもが消きえて、なくなるように、陰府よみに下くだる者ものは上あがって来くることがない。
7:10 彼かれは再ふたたびその家いえに帰かえらず、彼かれの所ところも、もはや彼かれを認みとめない。
7:11 それゆえ、わたしはわが口くちをおさえず、わたしの霊れいのもだえによって語かたり、わたしの魂たましいの苦くるしさによって嘆なげく。
7:12 わたしは海うみであるのか、龍りゅうであるのか、あなたはわたしの上うえに見張みはりを置おかれる。
7:13 『わたしの床とこはわたしを慰なぐさめ、わたしの寝床ねどこはわが嘆なげきを軽かるくする』とわたしが言いうとき、
7:14 あなたは夢ゆめをもってわたしを驚おどろかし、幻まぼろしをもってわたしを恐おそれさせられる。
7:15 それゆえ、わたしは息いきの止とまることを願ねがい、わが骨ほねよりもむしろ死しを選えらぶ。
7:16 わたしは命いのちをいとう。わたしは長ながく生いきることを望のぞまない。わたしに構かまわないでください。わたしの日ひは息いきにすぎないのだから。
7:17 人ひとは何者なにものなので、あなたはこれを大おおきなものとし、これにみ心こころをとめ、
7:18 朝あさごとに、これを尋たずね、絶たえ間まなく、これを試こころみられるのか。
7:19 いつまで、あなたはわたしに目めを離はなさず、つばをのむまも、わたしを捨すてておかれないのか。
7:20 人ひとを監視かんしされる者ものよ、わたしが罪つみを犯おかしたとて、あなたに何なにをなしえようか。なにゆえ、わたしをあなたの的まととし、わたしをあなたの重荷おもにとされるのか。
7:21 なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、わたしの不義ふぎを除のぞかれないのか。わたしはいま土つちの中なかに横よこたわる。あなたがわたしを尋たずねられても、わたしはいないでしょう」。
第8章 8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、 8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。 8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。 8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。 8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。 第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
8:1 時ときにシュヒびとビルダデが答こたえて言いった、
8:2 「いつまであなたは、そのような事ことを言いうのか。あなたの口くちの言葉ことばは荒あらい風かぜではないか。
8:3 神かみは公義こうぎを曲まげられるであろうか。全能者ぜんのうしゃは正義せいぎを曲まげられるであろうか。
8:4 あなたの子こたちが彼かれに罪つみを犯おかしたので、彼かれらをそのとがの手てに渡わたされたのだ。
8:5 あなたがもし神かみに求もとめ、全能者ぜんのうしゃに祈いのるならば、
8:6 あなたがもし清きよく、正ただしくあるならば、彼かれは必かならずあなたのために立たって、あなたの正ただしいすみかを栄さかえさせられる。
8:7 あなたの初はじめは小ちいさくあっても、あなたの終おわりは非常ひじょうに大おおきくなるであろう。
8:8 先さきの代よの人ひとに問とうてみよ、先祖せんぞたちの尋たずねきわめた事ことを学まなべ。
8:9 われわれはただ、きのうからあった者もので、何なにも知しらない、われわれの世よにある日ひは、影かげのようなものである。
8:10 彼かれらはあなたに教おしえ、あなたに語かたり、その悟さとりから言葉ことばを出ださないであろうか。
8:11 紙かみ草ぐさは泥どろのない所ところに生長せいちょうすることができようか。葦あしは水みずのない所ところにおい茂しげることができようか。
8:12 これはなお青あおくて、まだ刈かられないのに、すべての草くさに先さきだって枯かれる。
8:13 すべて神かみを忘わすれる者ものの道みちはこのとおりだ。神かみを信しんじない者ものの望のぞみは滅ほろびる。
8:14 その頼たのむところは断たたれ、その寄よるところは、くもの巣すのようだ。
8:15 その家いえによりかかろうとすれば、家いえは立たたず、それにすがろうとしても、それは耐たえない。
8:16 彼かれは日ひの前まえに青々あおあおと茂しげり、その若わか枝えだを園そのにはびこらせ、
8:17 その根ねを石塚いしづかにからませ、岩いわの間あいだに生いきていても、
8:18 もしその所ところから取とり除のぞかれれば、その所ところは彼かれを拒こばんで言いうであろう、『わたしはあなたを見みたことがない』と。
8:19 見みよ、これこそ彼かれの道みちの喜よろこびである、そしてほかの者ものが地ちから生しょうじるであろう。
8:20 見みよ、神かみは全まったき人ひとを捨すてられない。また悪あくを行おこなう者ものの手てを支持しじされない。
8:21 彼かれは笑わらいをもってあなたの口くちを満みたし、喜よろこびの声こえをもってあなたのくちびるを満みたされる。
8:22 あなたを憎にくむ者ものは恥はじを着きせられ、悪あしき者ものの天幕てんまくはなくなる」。
第9章 9:1 ヨブは答こたえて言いった、 9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。 9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。 9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。 第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
9:1 ヨブは答こたえて言いった、
9:2 「まことにわたしは、その事ことのそのとおりであることを知しっている。しかし人ひとはどうして神かみの前まえに正ただしくありえようか。
9:3 よし彼かれと争あらそおうとしても、千に一つも答こたえることができない。
9:4 彼かれは心こころ賢かしこく、力強ちからづよくあられる。だれが彼かれにむかい、おのれをかたくなにして、栄さかえた者ものがあるか。
9:5 彼かれは、山やまを移うつされるが、山やまは知しらない。彼かれは怒いかりをもって、これらをくつがえされる。
9:6 彼かれが、地ちを震ふるい動うごかしてその所ところを離はなれさせられると、その柱はしらはゆらぐ。
9:7 彼かれが日ひに命めいじられると、日ひは出でない。彼かれはまた星ほしを閉とじこめられる。
9:8 彼かれはただひとり天てんを張はり、海うみの波なみを踏ふまれた。
9:9 彼かれは北斗ほくと、オリオン、プレアデスおよび南みなみの密室みっしつを造つくられた。
9:10 彼かれが大おおいなる事ことをされることは測はかりがたく、不思議ふしぎな事ことをされることは数かず知しれない。
9:11 見みよ、彼かれがわたしのかたわらを通とおられても、わたしは彼かれを見みない。彼かれは進すすみ行いかれるが、わたしは彼かれを認みとめない。
9:12 見みよ、彼かれが奪うばい去さられるのに、だれが彼かれをはばむことができるか。だれが彼かれにむかって『あなたは何なにをするのか』と言いうことができるか。
9:13 神かみはその怒いかりをやめられない。ラハブを助たすける者ものどもは彼かれのもとにかがんだ。
9:14 どうしてわたしは彼かれに答こたえ、言葉ことばを選えらんで、彼かれと議論ぎろんすることができよう。
9:15 たといわたしは正ただしくても答こたえることができない。わたしを責せめられる者ものにあわれみを請こわなければならない。
9:16 たといわたしが呼よばわり、彼かれがわたしに答こたえられても、わたしの声こえに耳みみを傾かたむけられたとは信しんじない。
9:17 彼かれは大風おおかぜをもってわたしを撃うち砕くだき、ゆえなく、わたしに多おおくの傷きずを負おわせ、
9:18 わたしに息いきをつかせず、苦にがい物ものをもってわたしを満みたされる。
9:19 力ちからの争あらそいであるならば、彼かれを見みよ、さばきの事ことであるならば、だれが彼かれを呼よび出だすことができよう。
9:20 たといわたしは正ただしくても、わたしの口くちはわたしを罪つみある者ものとする。たといわたしは罪つみがなくても、彼かれはわたしを曲まがった者ものとする。
9:21 わたしは罪つみがない、しかしわたしは自分じぶんを知しらない。わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。
9:22 皆みな同一どういつである。それゆえ、わたしは言いう、『彼かれは罪つみのない者ものと、悪あしき者ものとを共ともに滅ほろぼされるのだ』と。
9:23 災わざわいがにわかに人ひとを殺ころすような事ことがあると、彼かれは罪つみのない者ものの苦難くなんをあざ笑わらわれる。
9:24 世よは悪人あくにんの手てに渡わたされてある。彼かれはその裁判人さいばんにんの顔かおをおおわれる。もし彼かれでなければ、これはだれのしわざか。
9:25 わたしの日ひは飛脚ひきゃくよりも速はやく、飛とび去さって幸さいわいを見みない。
9:26 これは走はしること葦あし舟ぶねのごとく、えじきに襲おそいかかる、わしのようだ。
9:27 たといわたしは『わが嘆なげきを忘わすれ、憂うれい顔がおをかえて元気げんきよくなろう』と言いっても、
9:28 わたしはわがもろもろの苦くるしみを恐おそれる。あなたがわたしを罪つみなき者ものとされないことをわたしは知しっているからだ。
9:29 わたしは罪つみある者ものとされている。どうして、いたずらに労ろうする必要ひつようがあるか。
9:30 たといわたしは雪ゆきで身みを洗あらい、灰汁あくで手てを清きよめても、
9:31 あなたはわたしを、みぞの中なかに投なげ込こまれるので、わたしの着物きものも、わたしをいとうようになる。
9:32 神かみはわたしのように人ひとではないゆえ、わたしは彼かれに答こたえることができない。われわれは共ともにさばきに臨のぞむことができない。
9:33 われわれの間あいだには、われわれふたりの上うえに手てを置おくべき仲裁者ちゅうさいしゃがない。
9:34 どうか彼かれがそのつえをわたしから取とり離はなし、その怒いかりをもって、わたしを恐おそれさせられないように。
9:35 そうすれば、わたしは語かたって、彼かれを恐おそれることはない。わたしはみずからそのような者ものではないからだ。
第10章 10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。 10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。 第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
10:1 わたしは自分じぶんの命いのちをいとう。わたしは自分じぶんの嘆なげきを包つつまず言いいあらわし、わが魂たましいの苦くるしみによって語かたろう。
10:2 わたしは神かみに申もうそう、わたしを罪つみある者ものとされないように。なぜわたしと争あらそわれるかを知しらせてほしい。
10:3 あなたはしえたげをなし、み手てのわざを捨すて、悪人あくにんの計画けいかくを照てらすことを良よしとされるのか。
10:4 あなたの持もっておられるのは肉にくの目めか、あなたは人ひとが見みるように見みられるのか。
10:5 あなたの日ひは人ひとの日ひのごとく、あなたの年としは人ひとの年ねんのようであるのか。
10:6 あなたはなにゆえわたしのとがを尋たずね、わたしの罪つみを調しらべられるのか。
10:7 あなたはわたしの罪つみのないことを知しっておられる。またあなたの手てから救すくい出だしうる者ものはない。
10:8 あなたの手てはわたしをかたどり、わたしを作つくった。ところが今いまあなたはかえって、わたしを滅ほろぼされる。
10:9 どうぞ覚おぼえてください、あなたは土つちくれをもってわたしを作つくられた事ことを。ところが、わたしをちりに返かえそうとされるのか。
10:10 あなたはわたしを乳ちちのように注そそぎ、乾酪かんらくのように凝こり固かたまらせたではないか。
10:11 あなたは肉にくと皮かわとをわたしに着きせ、骨ほねと筋すじとをもってわたしを編あみ、
10:12 命いのちといつくしみとをわたしに授さづけ、わたしを顧かえりみてわが霊れいを守まもられた。
10:13 しかしあなたはこれらの事ことをみ心こころに秘ひめおかれた。この事ことがあなたの心こころのうちにあった事ことをわたしは知しっている。
10:14 わたしがもし罪つみを犯おかせば、あなたはわたしに目めをつけて、わたしを罪つみから解とき放はなされない。
10:15 わたしがもし悪わるければわたしはわざわいだ。たといわたしが正ただしくても、わたしは頭あたまを上あげることができない。わたしは恥はじに満みち、悩なやみを見みているからだ。
10:16 もし頭あたまをあげれば、あなたは、ししのようにわたしを追おい、わたしにむかって再ふたたびくすしき力ちからをあらわされる。
10:17 あなたは証人しょうにんを入いれ替かえてわたしを攻せめ、わたしにむかってあなたの怒いかりを増まし、新あらたに軍勢ぐんぜいを出だしてわたしを攻せめられる。
10:18 なにゆえあなたはわたしを胎たいから出だされたか、わたしは息いき絶たえて目めに見みられることなく、
10:19 胎たいから墓はかに運はこばれて、初はじめからなかった者もののようであったなら、よかったのに。
10:20 わたしの命いのちの日ひはいくばくもないではないか。どうぞ、しばしわたしを離はなれて、少すこしく慰なぐさめを得えさせられるように。
10:21 わたしが行いって、帰かえることのないその前まえに、これを得えさせられるように。わたしは暗くらき地ち、暗黒あんこくの地ちへ行いく。
10:22 これは暗くらき地ちで、やみにひとしく、暗黒あんこくで秩序ちつじょなく、光ひかりもやみのようだ」。
第11章 11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。 11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。 11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。 第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
11:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、
11:2 「言葉ことばが多おおければ、答こたえなしにすまされるだろうか。口くちの達者たっしゃな人ひとは義ぎとされるだろうか。
11:3 あなたのむなしい言葉ことばは人ひとを沈黙ちんもくさせるだろうか。あなたがあざけるとき、人ひとはあなたを恥はじさせないだろうか。
11:4 あなたは言いう、『わたしの教おしえは正ただしい、わたしは神かみの目めに潔いさぎよい』と。
11:5 どうぞ神かみが言葉ことばを出だし、あなたにむかってくちびるを開ひらき、
11:6 知恵ちえの秘密ひみつをあなたに示しめされるように。神かみはさまざまの知識ちしきをもたれるからである。それであなたは知しるがよい、神かみはあなたの罪つみよりも軽かるくあなたを罰ばっせられることを。
11:7 あなたは神かみの深ふかい事ことを窮きわめることができるか。全能者ぜんのうしゃの限界げんかいを窮きわめることができるか。
11:8 それは天てんよりも高たかい、あなたは何なにをなしうるか。それは陰府よみよりも深ふかい、あなたは何なにを知しりうるか。
11:9 その量りょうは地ちよりも長ながく、海うみよりも広ひろい。
11:10 彼かれがもし行ゆきめぐって人ひとを捕とらえ、さばきに召めし集あつめられるとき、だれが彼かれをはばむことができよう。
11:11 彼かれは卑いやしい人間にんげんを知しっておられるからだ。彼かれは不義ふぎを見みる時とき、これに心こころをとめられぬであろうか。
11:12 しかし野のろばの子こが人ひととして生うまれるとき、愚おろかな者ものも悟さとりを得えるであろう。
11:13 もしあなたが心こころを正ただしくするならば、神かみに向むかって手てを伸のべるであろう。
11:14 もしあなたの手てに不義ふぎがあるなら、それを遠とおく去され、あなたの天幕てんまくに悪あくを住すまわせてはならない。
11:15 そうすれば、あなたは恥はじることなく顔かおをあげることができ、堅かたく立たって、恐おそれることはない。
11:16 あなたは苦くるしみを忘わすれ、あなたのこれを覚おぼえることは、流ながれ去さった水みずのようになる。
11:17 そしてあなたの命いのちは真昼まひるよりも光ひかり輝かがやき、たとい暗くらくても朝あさのようになる。
11:18 あなたは望のぞみがあるゆえに安やすんじ、保護ほごされて安やすらかにいこうことができる。
11:19 あなたは伏ふしてやすみ、あなたを恐おそれさせるものはない。多おおくの者ものはあなたの好意こういを求もとめるであろう。
11:20 しかし悪あしき者ものの目めは衰おとろえる。彼かれらは逃にげ場ばを失うしない、その望のぞみは息いきの絶たえるにひとしい」。
第12章 12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。 12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。 第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
12:1 そこでヨブは答こたえて言いった、
12:2 「まことに、あなたがたのみ、人ひとである、知恵ちえはあなたがたと共ともに死しぬであろう。
12:3 しかしわたしも、あなたがたと同様どうように悟さとりをもつ。わたしはあなたがたに劣おとらない。だれがこのような事ことを知しらないだろうか。
12:4 わたしは神かみに呼よばわって、聞きかれた者ものであるのに、その友ともの物笑ものわらいとなっている。正ただしく全まったき人ひとは物笑ものわらいとなる。
12:5 安やすらかな者ものの思おもいには、不幸ふこうな者ものに対たいする侮あなどりがあって、足あしのすべる者ものを待まっている。
12:6 かすめ奪うばう者ものの天幕てんまくは栄さかえ、神かみを怒いからす者ものは安やすらかである。自分じぶんの手てに神かみを携たずさえている者ものも同様どうようだ。
12:7 しかし獣けものに問とうてみよ、それはあなたに教おしえる。空そらの鳥とりに問とうてみよ、それはあなたに告つげる。
12:8 あるいは地ちの草くさや木きに問とうてみよ、彼かれらはあなたに教おしえる。海うみの魚うおもまたあなたに示しめす。
12:9 これらすべてのもののうち、いずれか主しゅの手てがこれをなしたことを知しらぬ者ものがあろうか。
12:10 すべての生いき物ものの命いのち、およびすべての人ひとの息いきは彼かれの手てのうちにある。
12:11 口くちが食物しょくもつを味あじわうように、耳みみは言葉ことばをわきまえないであろうか。
12:12 老おいた者ものには知恵ちえがあり、命いのちの長ながい者ものには悟さとりがある。
12:13 知恵ちえと力ちからは神かみと共ともにあり、深慮しんりょと悟さとりも彼かれのものである。
12:14 彼かれが破壊はかいすれば、再ふたたび建たてることができない。彼かれが人ひとを閉とじ込こめれば、開ひらき出だすことができない。
12:15 彼かれが水みずを止とめれば、それはかれ、彼かれが水みずを出だせば、地ちをくつがえす。
12:16 力ちからと深ふかき知恵ちえは彼かれと共ともにあり、惑まどわされる者ものも惑まどわす者ものも彼かれのものである。
12:17 彼かれは議ぎ士したちを裸はだかにして連つれ行いき、さばきびとらを愚おろかにし、
12:18 王おうたちのきずなを解とき、彼かれらの腰こしに腰帯こしおびを巻まき、
12:19 祭司さいしたちを裸はだかにして連つれ行いき、力ちからある者ものを滅ほろぼし、
12:20 みずから頼たのむ者ものたちの言葉ことばを奪うばい、長老ちょうろうたちの分別ふんべつを取とり去さり、
12:21 君きみたちの上うえに侮あなどりを注そそぎ、強つよい者ものたちの帯おびを解とき、
12:22 暗くらやみの中なかから隠かくれた事ことどもをあらわし、暗黒あんこくを光ひかりに引ひき出だし、
12:23 国々くにぐにを大おおきくし、またこれを滅ほろぼし、国々くにぐにを広ひろくし、また捕とらえ行いき、
12:24 地ちの民たみの長ちょうたちの悟さとりを奪うばい、彼かれらを道みちなき荒野あらのにさまよわせ、
12:25 光ひかりなき暗くらやみに手探てさぐりさせ、酔ようた者もののようによろめかせる。
第13章 13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。 第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
13:1 見みよ、わたしの目めは、これをことごとく見みた。わたしの耳みみはこれを聞きいて悟さとった。
13:2 あなたがたの知しっている事ことは、わたしも知しっている。わたしはあなたがたに劣おとらない。
13:3 しかしわたしは全能者ぜんのうしゃに物ものを言いおう、わたしは神かみと論ろんずることを望のぞむ。
13:4 あなたがたは偽いつわりをもってうわべを繕つくろう者もの、皆みな、無用むようの医師いしだ。
13:5 どうか、あなたがたは全まったく沈黙ちんもくするように。これがあなたがたの知恵ちえであろう。
13:6 今いま、わたしの論ろんずることを聞きくがよい。わたしの口くちで言いい争あらそうことに耳みみを傾かたむけるがよい。
13:7 あなたがたは神かみのために不義ふぎを言いおうとするのか。また彼かれのために偽いつわりを述のべるのか。
13:8 あなたがたは彼かれにひいきしようとするのか。神かみのために争あらそおうとするのか。
13:9 神かみがあなたがたを調しらべられるとき、あなたがたは無事ぶじだろうか。あなたがたは人ひとを欺あざむくように彼かれを欺あざむくことができるか。
13:10 あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、彼かれは必かならずあなたがたを責せめられる。
13:11 その威厳いげんはあなたがたを恐おそれさせないであろうか。彼かれをおそれる恐おそれがあなたがたに臨のぞまないであろうか。
13:12 あなたがたの格言かくげんは灰はいのことわざだ。あなたがたの盾たては土つちの盾たてだ。
13:13 黙もくして、わたしにかかわるな、わたしは話はなそう。何事なにごとでもわたしに来くるなら、来くるがよい。
13:14 わたしはわが肉にくをわが歯はに取とり、わが命いのちをわが手てのうちに置おく。
13:15 見みよ、彼かれはわたしを殺ころすであろう。わたしは絶望ぜつぼうだ。しかしなおわたしはわたしの道みちを彼かれの前まえに守まもり抜ぬこう。
13:16 これこそわたしの救すくいとなる。神かみを信しんじない者ものは、神かみの前まえに出でることができないからだ。
13:17 あなたがたはよくわたしの言葉ことばを聞きき、わたしの述のべる所ところを耳みみに入いれよ。
13:18 見みよ、わたしはすでにわたしの立たち場ばを言いい並ならべた。わたしは義ぎとされることをみずから知しっている。
13:19 だれかわたしと言いい争あらそう事ことのできる者ものがあろうか。もしあるならば、わたしは黙もくして死しぬであろう。
13:20 ただわたしに二つの事ことを許ゆるしてください。そうすれば、わたしはあなたの顔かおをさけて隠かくれることはないでしょう。
13:21 あなたの手てをわたしから離はなしてください。あなたの恐おそるべき事ことをもってわたしを恐おそれさせないでください。
13:22 そしてお呼およびください、わたしは答こたえます。わたしに物ものを言いわせて、あなたご自身じしん、わたしにお答こたえください。
13:23 わたしのよこしまと、わたしの罪つみがどれほどあるか。わたしのとがと罪つみとをわたしに知しらせてください。
13:24 なにゆえ、あなたはみ顔かおをかくし、わたしをあなたの敵てきとされるのか。
13:25 あなたは吹ふき回まわされる木この葉はをおどし、干ひあがったもみがらを追おわれるのか。
13:26 あなたはわたしについて苦にがき事ことどもを書かきしるし、わたしに若わかい時ときの罪つみを継つがせ、
13:27 わたしの足あしを足あしかせにはめ、わたしのすべての道みちをうかがい、わたしの足あしの周囲しゅういに限かぎりをつけられる。
13:28 このような人ひとは腐くされた物もののように朽くち果はて、虫むしに食くわれた衣服いふくのようにすたれる。
第14章 14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。 14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。 14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。 第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
14:1 女おんなから生うまれる人ひとは日ひが短みじかく、悩なやみに満みちている。
14:2 彼かれは花はなのように咲さき出でて枯かれ、影かげのように飛とび去さって、とどまらない。
14:3 あなたはこのような者ものにさえ目めを開ひらき、あなたの前まえに引ひき出だして、さばかれるであろうか。
14:4 だれが汚けがれたもののうちから清きよいものを出だすことができようか、ひとりもない。
14:5 その日ひは定さだめられ、その月つきの数かずもあなたと共ともにあり、あなたがその限かぎりを定さだめて、越こえることのできないようにされたのだから、
14:6 彼かれから目めをはなし、手てをひいてください。そうすれば彼かれは雇人やといにんのように、その日ひを楽たのしむことができるでしょう。
14:7 木きには望のぞみがある。たとい切きられてもまた芽めをだし、その若わか枝えだは絶たえることがない。
14:8 たといその根ねが地ちの中なかに老おい、その幹みきが土つちの中なかに枯かれても、
14:9 なお水みずの潤うるおいにあえば芽めをふき、若木わかぎのように枝えだを出だす。
14:10 しかし人ひとは死しねば消きえうせる。息いきが絶たえれば、どこにおるか。
14:11 水みずが湖みずうみから消きえ、川かわがかれて、かわくように、
14:12 人ひとは伏ふして寝ね、また起おきず、天てんのつきるまで、目めざめず、その ねむりからさまされない。
14:13 どうぞ、わたしを陰府よみにかくし、あなたの怒いかりのやむまで、潜ひそませ、わたしのために時ときを定さだめて、わたしを覚おぼえてください。
14:14 人ひとがもし死しねば、また生いきるでしょうか。わたしはわが服役ふくえきの諸しょ日にちの間あいだ、わが解放かいほうの来くるまで待まつでしょう。
14:15 あなたがお呼およびになるとき、わたしは答こたえるでしょう。あなたはみ手てのわざを顧かえりみられるでしょう。
14:16 その時ときあなたはわたしの歩あゆみを数かぞえ、わたしの罪つみを見みのがされるでしょう。
14:17 わたしのとがは袋ふくろの中なかに封ふうじられ、あなたはわたしの罪つみを塗ぬりかくされるでしょう。
14:18 しかし山やまは倒たおれてくずれ、岩いわもその所ところから移うつされる。
14:19 水みずは石いしをうがち、大水おおみずは地ちのちりを洗あらい去さる。このようにあなたは人ひとの望のぞみを断たたれる。
14:20 あなたはながく彼かれに勝かって、彼かれを去さり行いかせ、彼かれの顔かおかたちを変かわらせて追おいやられる。
14:21 彼かれの子こらは尊たっとくなっても、彼かれはそれを知しらない、卑いやしくなっても、それを悟さとらない。
14:22 ただおのが身みに痛いたみを覚おぼえ、おのれのために嘆なげくのみである」。
第15章 15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、 15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。 15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。 15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。 第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
15:1 そこでテマンびとエリパズは答こたえて言いった、
15:2 「知者ちしゃはむなしき知識ちしきをもって答こたえるであろうか。東風ひがしかぜをもってその腹はらを満みたすであろうか。
15:3 役やくに立たたない談話だんわをもって論ろんじるであろうか。無益むえきな言葉ことばをもって争あらそうであろうか。
15:4 ところがあなたは神かみを恐おそれることを捨すて、神かみの前まえに祈いのる事ことをやめている。
15:5 あなたの罪つみはあなたの口くちを教おしえ、あなたは悪賢わるがしこい人ひとの舌したを選えらび用もちいる。
15:6 あなたの口くちみずからあなたの罪つみを定さだめる、わたしではない。あなたのくちびるがあなたに逆さからって証明しょうめいする。
15:7 あなたは最初さいしょに生うまれた人ひとであるのか。山やまよりも先さきに生うまれたのか。
15:8 あなたは神かみの会議かいぎにあずかったのか。あなたは知恵ちえを独占どくせんしているのか。
15:9 あなたが知しるものはわれわれも知しるではないか。あなたが悟さとるものはわれわれも悟さとるではないか。
15:10 われわれの中なかにはしらがの人ひとも、年老としおいた人ひともあって、あなたの父ちちよりも年上としうえだ。
15:11 神かみの慰なぐさめおよびあなたに対たいするやさしい言葉ことばも、あなたにとって、あまりに小ちいさいというのか。
15:12 どうしてあなたの心こころは狂くるうのか。どうしてあなたの目めはしばたたくのか。
15:13 あなたが神かみにむかって気きをいらだて、このような言葉ことばをあなたの口くちから出だすのはなぜか。
15:14 人ひとはいかなる者ものか、どうしてこれは清きよくありえよう。女おんなから生うまれた者ものは、どうして正ただしくありえよう。
15:15 見みよ、神かみはその聖せいなる者ものにすら信しんを置おかれない、もろもろの天てんも彼かれの目めには清きよくない。
15:16 まして憎にくむべき汚けがれた者もの、また不義ふぎを水みずのように飲のむ人ひとにおいては。
15:17 わたしはあなたに語かたろう、聞きくがよい。わたしは自分じぶんの見みた事ことを述のべよう。
15:18 これは知者ちしゃたちがその先祖せんぞからうけて、隠かくす所ところなく語かたり伝つたえたものである。
15:19 彼かれらにのみこの地ちは授さづけられて、他国たこく人じんはその中なかに行いき来きしたことがなかった。
15:20 悪あしき人ひとは一生いっしょうの間あいだ、もだえ苦くるしむ。残酷ざんこくな人ひとには年としの数かずが定さだめられている。
15:21 その耳みみには恐おそろしい音おとが聞きこえ、繁栄はんえいの時ときにも滅ほろぼす者ものが彼かれに臨のぞむ。
15:22 彼かれは、暗くらやみから帰かえりうるとは信しんぜず、つるぎにねらわれる。
15:23 彼かれは食物しょくもつはどこにあるかと言いいつつさまよい、暗くらき日ひが手近てぢかに備そなえられてあるのを知しる。
15:24 悩なやみと苦くるしみとが彼かれを恐おそれさせ、戦たたかいの備そなえをした王おうのように彼かれに打うち勝かつ。
15:25 これは彼かれが神かみに逆さからってその手てを伸のべ、全能者ぜんのうしゃに逆さからって高慢こうまんにふるまい、
15:26 盾たての厚あつい面めんをもって強情ごうじょうに、彼かれにはせ向むかうからだ。
15:27 また彼かれは脂肪しぼうをもってその顔かおをおおい、その腰こしには脂肪しぼうの肉にくを集あつめ、
15:28 滅ほろぼされた町々まちまちに住すみ、人ひとの住すまない家いえ、荒塚あらつかとなる所ところにおるからだ。
15:29 彼かれは富とめる者ものとならず、その富とみはながく続つづかない、また地ちに根ねを張はることはない。
15:30 彼かれは暗くらやみからのがれることができない。炎ほのおはその若わか枝えだを枯からし、その花はなは風かぜに吹ふき去さられる。
15:31 彼かれをしてみずから欺あざむいて、むなしい事ことにたよらせてはならない。その報むくいはむなしいからだ。
15:32 彼かれの時ときのこない前まえにその事ことがなし遂とげられ、彼かれの枝えだは緑みどりとならないであろう。
15:33 彼かれはぶどうの木きのように、その熟じゅくさない実みをふり落おとすであろう。またオリブの木きのように、その花はなを落おとすであろう。
15:34 神かみを信しんじない者もののやからは子こなく、まいないによる天幕てんまくは火ひで焼やき滅ほろぼされるからだ。
15:35 彼かれらは害悪がいあくをはらみ、不義ふぎを生うみ、その腹はらは偽いつわりをつくる」。
第16章 16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。 16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。 16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。 第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
16:1 そこでヨブは答こたえて言いった、
16:2 「わたしはこのような事ことを数多かずおおく聞きいた。あなたがたは皆みな人ひとを慰なぐさめようとして、かえって人ひとを煩わずらわす者ものだ。
16:3 むなしき言葉ことばに、はてしがあろうか。あなたは何なにに激げきして答こたえをするのか。
16:4 わたしもあなたがたのように語かたることができる。もしあなたがたがわたしと代かわったならば、わたしは言葉ことばを練ねって、あなたがたを攻せめ、あなたがたに向むかって頭あたまを振ふることができる。
16:5 また口くちをもって、あなたがたを強つよくし、くちびるの慰なぐさめをもって、あなたがたの苦くるしみを和やわらげることができる。
16:6 たといわたしは語かたっても、わたしの苦くるしみは和やわらげられない。たといわたしは忍しのんでも、どれほどそれがわたしを去さるであろうか。
16:7 まことに神かみは今いまわたしを疲つかれさせた。彼かれはわたしのやからをことごとく荒あらした。
16:8 彼かれはわたしを、しわ寄よらせた。これがわたしに対たいする証拠しょうこである。またわたしのやせ衰おとろえた姿すがたが立たって、わたしを攻せめ、わたしの顔かおにむかって証明しょうめいする。
16:9 彼かれは怒いかってわたしをかき裂さき、わたしを憎にくみ、わたしに向むかって歯はをかみ鳴ならした。わたしの敵てきは目めを鋭するどくして、わたしを攻せめる。
16:10 人々ひとびとはわたしに向むかって口くちを張はり、侮あなどってわたしのほおを打うち、ともに集あつまってわたしを攻せめる。
16:11 神かみはわたしをよこしまな者ものに渡わたし、悪人あくにんの手てに投なげいれられる。
16:12 わたしは安やすらかであったのに、彼かれはわたしを切きり裂さき、首くびを捕とらえて、わたしを打うち砕くだき、わたしを立たてて的まととされた。
16:13 その射手しゃしゅはわたしを囲かこむ。彼かれは無慈悲むじひにもわたしの腰こしを射通いとおし、わたしの肝きもを地ちに流ながれ出ださせられる。
16:14 彼かれはわたしを打うち破やぶって、破やぶれに破やぶれを加くわえ、勇士ゆうしのようにわたしに、はせかかられる。
16:15 わたしは荒布あらぬのを膚はだに縫ぬいつけ、わたしの角つのをちりに伏ふせた。
16:16 わたしの顔かおは泣ないて赤あかくなり、わたしのまぶたには深ふかいやみがある。
16:17 しかし、わたしの手てには暴虐ぼうぎゃくがなく、わたしの祈いのりは清きよい。
16:18 地ちよ、わたしの血ちをおおってくれるな。わたしの叫さけびに、休やすむ所ところを得えさせるな。
16:19 見みよ、今いまでもわたしの証人しょうにんは天てんにある。わたしのために保証ほしょうしてくれる者ものは高たかい所ところにある。
16:20 わたしの友ともはわたしをあざける、しかしわたしの目めは神かみに向むかって涙なみだを注そそぐ。
16:21 どうか彼かれが人ひとのために神かみと弁論べんろんし、人ひととその友ともとの間あいだをさばいてくれるように。
16:22 数年すうねん過すぎ去されば、わたしは帰かえらぬ旅路たびじに行いくであろう。
第17章 17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。 第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
17:1 わが霊れいは破やぶれ、わが日ひは尽つき、墓はかはわたしを待まっている。
17:2 まことにあざける者ものどもはわたしのまわりにあり、わが目めは常つねに彼かれらの侮あなどりを見みる。
17:3 どうか、あなた自みずから保証ほしょうとなられるように。ほかにだれがわたしのために保証ほしょうとなってくれる者ものがあろうか。
17:4 あなたは彼かれらの心こころを閉とじて、悟さとることのないようにされた。それゆえ、彼かれらに勝利しょうりを得えさせられるはずはない。
17:5 分わけ前まえを得えるために友ともを訴うったえるものは、その子こらの目めがつぶれるであろう。
17:6 彼かれはわたしを民たみの笑わらい草ぐさとされた。わたしは顔かおにつばきされる者ものとなる。
17:7 わが目めは憂うれいによってかすみ、わがからだはすべて影かげのようだ。
17:8 正ただしい者ものはこれに驚おどろき、罪つみなき者ものは神かみを信しんぜぬ者ものに対たいして憤いきどおる。
17:9 それでもなお正ただしい者ものはその道みちを堅かたく保たもち、潔いさぎよい手てをもつ者ものはますます力ちからを得える。
17:10 しかし、あなたがたは皆みな再ふたたび来くるがよい、わたしはあなたがたのうちに賢かしこい者ものを見みないのだ。
17:11 わが日ひは過すぎ去さり、わが計はかりごとは敗やぶれ、わが心こころの願ねがいも敗やぶれた。
17:12 彼かれらは夜よるを昼ひるに変かえる。彼かれらは言いう、『光ひかりが暗くらやみに近ちかづいている』と。
17:13 わたしがもし陰府よみをわたしの家いえとして望のぞみ、暗くらやみに寝床ねどこをのべ、
17:14 穴あなに向むかって『あなたはわたしの父ちちである』と言いい、うじに向むかって『あなたはわたしの母はは、わたしの姉妹しまいである』と言いうならば、
17:15 わたしの望のぞみはどこにあるか、だれがわたしの望のぞみを見みることができようか。
17:16 これは下くだって陰府よみの関門かんもんにいたり、われわれは共ともにちりに下くだるであろうか」。
第18章 18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、 18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。 18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。 第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
18:1 そこでシュヒびとビルダデは答こたえて言いった、
18:2 「あなたはいつまで言葉ことばにわなを設もうけるのか。あなたはまず悟さとるがよい、それからわれわれは論ろんじよう。
18:3 なぜ、われわれは獣けもののように思おもわれるのか。なぜ、あなたの目めに愚おろかな者ものと見みえるのか。
18:4 怒いかっておのが身みを裂さく者ものよ、あなたのために地ちは捨すてられるだろうか。岩いわはその所ところから移うつされるだろうか。
18:5 悪あしき者ものの光ひかりは消きえ、その火ひの炎ほのおは光ひかりを放はなたず、
18:6 その天幕てんまくのうちの光ひかりは暗くらく、彼かれの上うえのともしびは消きえる。
18:7 その力ちからある歩あゆみはせばめられ、その計はかりごとは彼かれを倒たおす。
18:8 彼かれは自分じぶんの足あしで網あみにかかり、また落おとし穴あなの上うえを歩あゆむ。
18:9 わなは彼かれのかかとを捕とらえ、網あみわなは彼かれを捕とらえる。
18:10 輪わなわは彼かれを捕とらえるために地ちに隠かくされ、張はり網あみは彼かれを捕とらえるために道みちに設もうけられる。
18:11 恐おそろしい事ことが四方しほうにあって彼かれを恐おそれさせ、その歩あゆみにしたがって彼かれを追おう。
18:12 その力ちからは飢うえ、災わざわいは彼かれをつまずかすために備そなわっている。
18:13 その皮膚ひふは病やまいによって食くいつくされ、死しのういごは彼かれの手足てあしを食くいつくす。
18:14 彼かれはその頼たのむ所ところの天幕てんまくから引ひき離はなされて、恐おそれの王おうのもとに追おいやられる。
18:15 彼かれに属ぞくさない者ものが彼かれの天幕てんまくに住すみ、硫黄いおうが彼かれのすまいの上うえにまき散ちらされる。
18:16 下したではその根ねが枯かれ、上うえではその枝えだが切きられる。
18:17 彼かれの形見かたみは地ちから滅ほろび、彼かれの名なはちまたに消きえる。
18:18 彼かれは光ひかりからやみに追おいやられ、世よの中なかから追おい出だされる。
18:19 彼かれはその民たみの中なかに子こもなく、孫まごもなく、彼かれのすみかには、ひとりも生いき残のこる者ものはない。
18:20 西にしの者ものは彼かれの日ひについて驚おどろき、東ひがしの者ものはおじ恐おそれる。
18:21 まことに、悪あしき者もののすまいはこのようであり、神かみを知しらない者ものの所ところはこのようである」。
第19章 19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。 第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
19:1 そこでヨブは答こたえて言いった、
19:2 「あなたがたはいつまでわたしを悩なやまし、言葉ことばをもってわたしを打うち砕くだくのか。
19:3 あなたがたはすでに十度とたびもわたしをはずかしめ、わたしを悪わるくあしらってもなお恥はじないのか。
19:4 たといわたしが、まことにあやまったとしても、そのあやまちは、わたし自身じしんにとどまる。
19:5 もしあなたがたが、まことにわたしに向むかって高たかぶり、わたしの恥はじを論ろんじるならば、
19:6 『神かみがわたしをしえたげ、その網あみでわたしを囲かこまれたのだ』と知しるべきだ。
19:7 見みよ、わたしが『暴虐ぼうぎゃく』と叫さけんでも答こたえられず、助たすけを呼よび求もとめても、さばきはない。
19:8 彼かれはわたしの道みちにかきをめぐらして、越こえることのできないようにし、わたしの行いく道みちに暗くらやみを置おかれた。
19:9 彼かれはわたしの栄さかえをわたしからはぎ取とり、わたしのこうべから冠かんむりを奪うばい、
19:10 四方しほうからわたしを取とりこわして、うせさせ、わたしの望のぞみを木きのように抜ぬき去さり、
19:11 わたしに向むかって怒いかりを燃もやし、わたしを敵てきのひとりのように思おもわれた。
19:12 その軍勢ぐんぜいがいっせいに来きて、塁るいを築きずいて攻せめ寄よせ、わたしの天幕てんまくのまわりに陣じんを張はった。
19:13 彼かれはわたしの兄弟きょうだいたちをわたしから遠とおく離はなれさせられた。わたしを知しる人々ひとびとは全まったくわたしに疎遠そえんになった。
19:14 わたしの親類しんるいおよび親したしい友ともはわたしを見捨みすて、
19:15 わたしの家いえに宿やどる者ものはわたしを忘わすれ、わたしのはしためらはわたしを他人たにんのように思おもい、わたしは彼かれらの目めに他国たこく人じんとなった。
19:16 わたしがしもべを呼よんでも、彼かれは答こたえず、わたしは口くちをもって彼かれに請こわなければならない。
19:17 わたしの息いきはわが妻つまにいとわれ、わたしは同おなじ腹はらの子こたちにきらわれる。
19:18 わらべたちさえもわたしを侮あなどり、わたしが起おき上あがれば、わたしをあざける。
19:19 親したしい人々ひとびとは皆みなわたしをいみきらい、わたしの愛あいした人々ひとびとはわたしにそむいた。
19:20 わたしの骨ほねは皮かわと肉にくにつき、わたしはわずかに歯はの皮かわをもってのがれた。
19:21 わが友ともよ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、神かみのみ手てがわたしを打うったからである。
19:22 あなたがたは、なにゆえ神かみのようにわたしを責せめ、わたしの肉にくをもって満足まんぞくしないのか。
19:23 どうか、わたしの言葉ことばが、書かきとめられるように。どうか、わたしの言葉ことばが、書物しょもつにしるされるように。
19:24 鉄てつの筆ふでと鉛なまりとをもって、ながく岩いわに刻きざみつけられるように。
19:25 わたしは知しる、わたしをあがなう者ものは生いきておられる、後のちの日ひに彼かれは必かならず地ちの上うえに立たたれる。
19:26 わたしの皮かわがこのように滅ほろぼされたのち、わたしは肉にくを離はなれて神かみを見みるであろう。
19:27 しかもわたしの味方みかたとして見みるであろう。わたしの見みる者ものはこれ以外いがいのものではない。わたしの心こころはこれを望のぞんでこがれる。
19:28 あなたがたがもし『われわれはどうして彼かれを責せめようか』と言いい、また『事ことの根源こんげんは彼かれのうちに見みいだされる』と言いうならば、
19:29 つるぎを恐おそれよ、怒いかりはつるぎの罰ばつをきたらすからだ。これによって、あなたがたは、さばきのあることを知しるであろう」。
第20章 20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、 20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。 第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
20:1 そこでナアマびとゾパルは答こたえて言いった、
20:2 「これによって、わたしは答こたえようとの思おもいを起おこし、これがために心中しんじゅうしきりに騒さわぎ立たつ。
20:3 わたしはわたしをはずかしめる非難ひなんを聞きく、しかし、わたしの悟さとりの霊れいがわたしに答こたえさせる。
20:4 あなたはこの事ことを知しらないのか、昔むかしから地ちの上うえに人ひとの置おかれてよりこのかた、
20:5 悪あしき人ひとの勝かち誇ほこはしばらくであって、神かみを信しんじない者ものの楽たのしみはただつかのまであることを。
20:6 たといその高たかさが天てんに達たっし、その頭あたまが雲くもにおよんでも、
20:7 彼かれはおのれの糞ふんのように、とこしえに滅ほろび、彼かれを見みた者ものは言いうであろう、『彼かれはどこにおるか』と。
20:8 彼かれは夢ゆめのように飛とび去さって、再ふたたび見みることはない。彼かれは夜よるの幻まぼろしのように追おい払はらわれるであろう。
20:9 彼かれを見みた目めはかさねて彼かれを見みることがなく、彼かれのいた所ところも再ふたたび彼かれを見みることがなかろう。
20:10 その子こらは貧まずしい者ものに恵めぐみを求もとめ、その手ては彼かれの貨か財ざいを償つぐなうであろう。
20:11 その骨ほねには若わかい力ちからが満みちている、しかしそれは彼かれと共ともにちりに伏ふすであろう。
20:12 たとい悪あくは彼かれの口くちに甘あまく、これを舌したの裏うらにかくし、
20:13 これを惜おしんで捨すてることなく、口くちの中なかに含ふくんでいても、
20:14 その食物しょくもつは彼かれの腹はらの中うちで変かわり、彼かれの内うちで毒蛇どくへびの毒どくとなる。
20:15 彼かれは貨か財ざいをのんでも、またそれを吐はき出だす、神かみがそれを彼かれの腹はらから押おし出だされるからだ。
20:16 彼かれは毒蛇どくへびの毒どくを吸すい、まむしの舌したは彼かれを殺ころすであろう。
20:17 彼かれは蜜みつと凝乳ぎょうにゅうの流ながれる川々かわがわを見みることができない。
20:18 彼かれはほねおって獲えたものを返かえして、それを食くうことができない。その商あきないによって得えた利益りえきをもって楽たのしむことができない。
20:19 彼かれが貧まずしい者ものをしえたげ、これを捨すてたからだ。彼かれは家いえを奪うばい取とっても、それを建たてることができない。
20:20 彼かれの欲張よくばりは足たることを知しらぬゆえ、その楽たのしむ何なに物ものをも救すくうことができないであろう。
20:21 彼かれが残のこして食たべなかった物ものとては一つもない。それゆえ、その繁栄はんえいはながく続つづかないであろう。
20:22 その力ちからの満みちている時とき、彼かれは窮境きゅうきょうに陥おちいり、悩なやみの手てがことごとく彼かれの上うえに臨のぞむであろう。
20:23 彼かれがその腹はらを満みたそうとすれば、神かみはその激はげしい怒いかりを送おくって、それを彼かれの上うえに降ふり注ぎそそぎ、彼かれの食物しょくもつとされる。
20:24 彼かれは鉄てつの武器ぶきを免まぬかれても、青銅せいどうの矢やは彼かれを射通いとおすであろう。
20:25 彼かれがこれをその身みから引ひき抜ぬけば、きらめく矢やじりがその肝きもから出でてきて、恐おそれが彼かれの上うえに臨のぞむ。
20:26 もろもろの暗黒あんこくが彼かれの宝物ほうもつのためにたくわえられ、人ひとが吹ふき起おこしたものでない火ひが彼かれを焼やきつくし、その天幕てんまくに残のこっている者ものを滅ほろぼすであろう。
20:27 天てんは彼かれの罪つみをあらわし、地ちは起おこって彼かれを攻せめるであろう。
20:28 その家いえの財産ざいさんは奪うばい去さられ、神かみの怒いかりの日ひに消きえうせるであろう。
20:29 これが悪あしき人ひとの神かみから受うける分ぶん、神かみによって定さだめられた嗣し業ぎょうである」。
第21章 21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、 21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。 21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。
21:1 そこでヨブは答こたえて言いった、
21:2 「あなたがたはとくと、わたしの言葉ことばを聞きき、これをもって、あなたがたの慰なぐさめとするがよい。
21:3 まずわたしをゆるして語かたらせなさい。わたしが語かたったのち、あざけるのもよかろう。
21:4 わたしのつぶやきは人ひとに対たいしてであろうか。わたしはどうして、いらだたないでいられようか。
21:5 あなたがたはわたしを見みて、驚おどろき、手てを口くちにあてるがよい。
21:6 わたしはこれを思おもうと恐おそろしくなって、からだがしきりに震ふるえわななく。
21:7 なにゆえ悪あしき人ひとが生いきながらえ、老齢ろうれいに達たっし、かつ力強ちからづよくなるのか。
21:8 その子こらは彼かれらの前まえに堅かたく立たち、その子孫しそんもその目めの前まえに堅かたく立たつ。
21:9 その家いえは安やすらかで、恐おそれがなく、神かみのつえは彼かれらの上うえに臨のぞむことがない。
21:10 その雄牛おうしは種たねを与あたえて、誤あやまることなく、その雌牛めうしは子こを産うんで、そこなうことがない。
21:11 彼かれらはその小ちいさい者ものどもを群むれのように連つれ出だし、その子こらは舞まい踊おどる。
21:12 彼かれらは手て鼓つづみと琴ことに合あわせて歌うたい、笛ふえの音ねによって楽たのしみ、
21:13 その日ひをさいわいに過すごし、安やすらかに陰府よみにくだる。
21:14 彼かれらは神かみに言いう、『われわれを離はなれよ、われわれはあなたの道みちを知しることを好このまない。
21:15 全能者ぜんのうしゃは何者なにものなので、われわれはこれに仕つかえねばならないのか。われわれはこれに祈いのっても、なんの益えきがあるか』と。
21:16 見みよ、彼かれらの繁栄はんえいは彼かれらの手てにあるではないか。悪人あくにんの計はかりごとは、わたしの遠とおく及およぶ所ところでない。
21:17 悪人あくにんのともしびの消けされること、幾いくたびあるか。その災わざわいの彼かれらの上うえに臨のぞむこと、神かみがその怒いかりをもって苦くるしみを与あたえられること、幾いくたびあるか。
21:18 彼かれらが風かぜの前まえのわらのようになること、あらしに吹ふき去さられるもみがらのようになること、幾いくたびあるか。
21:19 あなたがたは言いう、『神かみは彼かれらの罪つみを積つみたくわえて、その子こらに報むくいられるのだ』と。どうかそれを彼かれら自身じしんに報むくいて、彼かれらにその罪つみを知しらせられるように。
21:20 すなわち彼かれら自身じしんの目めにその滅ほろびを見みさせ、全能者ぜんのうしゃの怒いかりを彼かれらに飲のませられるように。
21:21 その月つきの数かずのつきるとき、彼かれらはその後のちの家いえになんのかかわる所ところがあろうか。
21:22 神かみは天てんにある者ものたちをさえ、さばかれるのに、だれが神かみに知識ちしきを教おしえることができようか。
21:23 ある者ものは繁栄はんえいをきわめ、全まったく安やすらかに、かつおだやかに死しに、
21:24 そのからだには脂肪しぼうが満みち、その骨ほねの髄ずいは潤うるおっている。
21:25 ある者ものは心こころを苦くるしめて死しに、なんの幸さいわいをも味あじわうことがない。
21:26 彼かれらはひとしくちりに伏ふし、うじにおおわれる。
21:27 見みよ、わたしはあなたがたの思おもいを知しり、わたしを害がいしようとするたくらみを知しる。
21:28 あなたがたは言いう、『王侯おうこうの家いえはどこにあるか、悪人あくにんの住すむ天幕てんまくはどこにあるか』と。
21:29 あなたがたは道行みちゆく人々ひとびとに問とわなかったか、彼かれらの証言しょうげんを受うけ入いれないのか。
21:30 すなわち、災わざわいの日ひに悪人あくにんは免まぬかれ、激はげしい怒いかりの日ひに彼かれは救すくい出だされる。
21:31 だれが彼かれに向むかって、その道みちを告つげ知しらせる者ものがあるか、だれが彼かれのした事ことを彼かれに報むくいる者ものがあるか。
21:32 彼かれはかかれて墓はかに行いき、塚つかの上うえで見張みはりされ、
21:33 谷たにの土つちくれも彼かれには快こころよく、すべての人ひとはそのあとに従したがう。彼かれの前まえに行いった者ものも数かぞえきれない。
21:34 それで、あなたがたはどうしてむなしい事ことをもって、わたしを慰なぐさめようとするのか。あなたがたの答こたえは偽いつわり以外いがいの何なにものでもない」。