口語訳聖書(振り仮名付き)
章: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
伝道でんどうの書しょ
第1章 Ec-Audio
1:1 ダビデの子こ、エルサレムの王おうである伝道者でんどうしゃの言葉ことば。
1:2 伝道者でんどうしゃは言いう、空くうの空くう、空くうの空くう、いっさいは空くうである。
1:3 日ひの下したで人ひとが労ろうするすべての労苦ろうくは、その身みになんの益えきがあるか。
1:4 世よは去さり、世よはきたる。しかし地ちは永遠えいえんに変かわらない。
1:5 日ひはいで、日ひは没ぼっし、その出でた所ところに急いそぎ行いく。
1:6 風かぜは南みなみに吹ふき、また転てんじて、北きたに向むかい、めぐりにめぐって、またそのめぐる所ところに帰かえる。
1:7 川かわはみな、海うみに流ながれ入いる、しかし海うみは満みちることがない。川かわはその出でてきた所ところにまた帰かえって行いく。
1:8 すべての事ことは人ひとをうみ疲つかれさせる、人ひとはこれを言いいつくすことができない。目めは見みることに飽あきることがなく、耳みみは聞きくことに満足まんぞくすることがない。
1:9 先さきにあったことは、また後のちにもある、先さきになされた事ことは、また後のちにもなされる。日ひの下したには新あたらしいものはない。
1:10 「見みよ、これは新あたらしいものだ」と言いわれるものがあるか、それはわれわれの前まえにあった世々よよに、すでにあったものである。
1:11 前まえの者もののことは覚おぼえられることがない、また、きたるべき後のちの者もののことも、後のちに起おこる者ものはこれを覚おぼえることがない。
1:12 伝道者でんどうしゃであるわたしはエルサレムで、イスラエルの王おうであった。
1:13 わたしは心こころをつくし、知恵ちえを用もちいて、天あめが下したに行おこなわれるすべてのことを尋たずね、また調しらべた。これは神かみが、人ひとの子こらに与あたえて、ほねおらせられる苦くるしい仕事しごとである。
1:14 わたしは日ひの下したで人ひとが行おこなうすべてのわざを見みたが、みな空くうであって風かぜを捕とらえるようである。
1:15 曲まがったものは、まっすぐにすることができない、欠かけたものは数かぞえることができない。
1:16 わたしは心こころの中なかに語かたって言いった、「わたしは、わたしより先さきにエルサレムを治おさめたすべての者ものにまさって、多おおくの知恵ちえを得えた。わたしの心こころは知恵ちえと知識ちしきを多おおく得えた」。
1:17 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しり、また狂気きょうきと愚痴ぐちとを知しろうとしたが、これもまた風かぜを捕とらえるようなものであると悟さとった。
1:18 それは知恵ちえが多おおければ悩なやみが多おおく、知識ちしきを増ます者ものは憂うれいを増ますからである。
第2章 2:1 わたしは自分じぶんの心こころに言いった、「さあ、快楽かいらくをもって、おまえを試こころみよう。おまえは愉快ゆかいに過すごすがよい」と。しかし、これもまた空くうであった。2:2 わたしは笑わらいについて言いった、「これは狂気きょうきである」と。また快楽かいらくについて言いった、「これは何なにをするのか」と。2:3 わたしの心こころは知恵ちえをもってわたしを導みちびいているが、わたしは酒さけをもって自分じぶんの肉体にくたいを元気げんきづけようと試こころみた。また、人ひとの子こは天あめが下したでその短みじかい一生いっしょうの間あいだ、どんな事ことをしたら良よいかを、見みきわめるまでは、愚おろかな事ことをしようと試こころみた。2:4 わたしは大おおきな事業じぎょうをした。わたしは自分じぶんのために家いえを建たて、ぶどう畑ばたけを設もうけ、2:5 園そのと庭にわをつくり、またすべて実みのなる木きをそこに植うえ、2:6 池いけをつくって、木きのおい茂しげる林はやしに、そこから水みずを注そそがせた。2:7 わたしは男女だんじょの奴隷どれいを買かった。またわたしの家いえで生うまれた奴隷どれいを持もっていた。わたしはまた、わたしより先さきにエルサレムにいただれよりも多おおくの牛うしや羊ひつじの財産ざいさんを持もっていた。2:8 わたしはまた銀ぎんと金きんを集あつめ、王おうたちと国々くにぐにの財宝ざいほうを集あつめた。またわたしは歌うたうたう男おとこ、歌うたうたう女おんなを得えた。また人ひとの子この楽たのしみとするそばめを多おおく得えた。 2:9 こうして、わたしは大おおいなる者ものとなり、わたしより先さきにエルサレムにいたすべての者ものよりも、大おおいなる者ものとなった。わたしの知恵ちえもまた、わたしを離はなれなかった。2:10 なんでもわたしの目めの好このむものは遠慮えんりょせず、わたしの心こころの喜よろこぶものは拒こばまなかった。わたしの心こころがわたしのすべての労苦ろうくによって、快楽かいらくを得えたからである。そしてこれはわたしのすべての労苦ろうくによって得えた報むくいであった。2:11 そこで、わたしはわが手てのなしたすべての事こと、およびそれをなすに要ようした労苦ろうくを顧かえりみたとき、見みよ、皆みな、空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものであった。日ひの下したには益えきとなるものはないのである。 2:12 わたしはまた、身みをめぐらして、知恵ちえと、狂気きょうきと、愚痴ぐちとを見みた。そもそも、王おうの後のちに来くる人ひとは何なにをなし得えようか。すでに彼かれがなした事ことにすぎないのだ。2:13 光ひかりが暗くらきにまさるように、知恵ちえが愚痴ぐちにまさるのを、わたしは見みた。2:14 知者ちしゃの目めは、その頭あたまにある。しかし愚者ぐしゃは暗くらやみを歩あゆむ。けれどもわたしはなお同一どういつの運命うんめいが彼かれらのすべてに臨のぞむことを知しっている。2:15 わたしは心こころに言いった、「愚者ぐしゃに臨のぞむ事ことはわたしにも臨のぞむのだ。それでどうしてわたしは賢かしこいことがあろう」。わたしはまた心こころに言いった、「これもまた空くうである」と。2:16 そもそも、知者ちしゃも愚者ぐしゃも同様どうように長ながく覚おぼえられるものではない。きたるべき日ひには皆みな忘わすれられてしまうのである。知者ちしゃが愚者ぐしゃと同おなじように死しぬのは、どうしたことであろう。2:17 そこで、わたしは生いきることをいとった。日ひの下したに行おこなわれるわざは、わたしに悪あしく見みえたからである。皆みな空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 2:18 わたしは日ひの下したで労ろうしたすべての労苦ろうくを憎にくんだ。わたしの後のちに来くる人ひとにこれを残のこさなければならないからである。2:19 そして、その人ひとが知者ちしゃであるか、または愚者ぐしゃであるかは、だれが知しり得えよう。そうであるのに、その人ひとが、日ひの下したでわたしが労ろうし、かつ知恵ちえを働はたらかしてなしたすべての労苦ろうくをつかさどることになるのだ。これもまた空くうである。2:20 それでわたしはふり返かえってみて、日ひの下したでわたしが労ろうしたすべての労苦ろうくについて、望のぞみを失うしなった。2:21 今いまここに人ひとがあって、知恵ちえと知識ちしきと才能さいのうをもって労ろうしても、これがために労ろうしない人ひとに、すべてを残のこして、その所有しょゆうとさせなければならないのだ。これもまた空くうであって、大おおいに悪わるい。2:22 そもそも、人ひとは日ひの下したで労ろうするすべての労苦ろうくと、その心こころづかいによってなんの得えるところがあるか。2:23 そのすべての日ひはただ憂うれいのみであって、そのわざは苦くるしく、その心こころは夜よの間まも休やすまることがない。これもまた空くうである。 2:24 人ひとは食くい飲のみし、その労苦ろうくによって得えたもので心こころを楽たのしませるより良よい事ことはない。これもまた神かみの手てから出でることを、わたしは見みた。2:25 だれが神かみを離はなれて、食くい、かつ楽たのしむことのできる者ものがあろう。 2:26 神かみは、その心こころにかなう人ひとに、知恵ちえと知識ちしきと喜よろこびとをくださる。しかし罪つみびとには仕事しごとを与あたえて集あつめることと、積つむことをさせられる。これは神かみの心こころにかなう者ものにそれを賜たまわるためである。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 第3章 3:1 天あめが下したのすべての事ことには季節きせつがあり、すべてのわざには時ときがある。3:2 生うまるるに時ときがあり、死しぬるに時ときがあり、植うえるに時ときがあり、植うえたものを抜ぬくに時ときがあり、3:3 殺ころすに時ときがあり、いやすに時ときがあり、こわすに時ときがあり、建たてるに時ときがあり、3:4 泣なくに時ときがあり、笑わらうに時ときがあり、悲かなしむに時ときがあり、踊おどるに時ときがあり、3:5 石いしを投なげるに時ときがあり、石いしを集あつめるに時ときがあり、抱だくに時ときがあり、抱だくことをやめるに時ときがあり、3:6 捜さがすに時ときがあり、失うしなうに時ときがあり、保たもつに時ときがあり、捨すてるに時ときがあり、3:7 裂さくに時ときがあり、縫ぬうに時ときがあり、黙だまるに時ときがあり、語かたるに時ときがあり、3:8 愛あいするに時ときがあり、憎にくむに時ときがあり、戦たたかうに時ときがあり、和やわらぐに時ときがある。3:9 働はたらく者ものはその労ろうすることにより、なんの益えきを得えるか。3:10 わたしは神かみが人ひとの子こらに与あたえて、ほねおらせられる仕事しごとを見みた。3:11 神かみのなされることは皆みなその時ときにかなって美うつくしい。神かみはまた人ひとの心こころに永遠えいえんを思おもう思おもいを授さづけられた。それでもなお、人ひとは神かみのなされるわざを初はじめから終おわりまで見みきわめることはできない。3:12 わたしは知しっている。人ひとにはその生いきながらえている間あいだ、楽たのしく愉快ゆかいに過すごすよりほかに良よい事ことはない。3:13 またすべての人ひとが食くい飲のみし、そのすべての労苦ろうくによって楽たのしみを得えることは神かみの賜物たまものである。3:14 わたしは知しっている。すべて神かみがなさる事ことは永遠えいえんに変かわることがなく、これに加くわえることも、これから取とることもできない。神かみがこのようにされるのは、人々ひとびとが神かみの前まえに恐おそれをもつようになるためである。3:15 今いまあるものは、すでにあったものである。後のちにあるものも、すでにあったものである。神かみは追おいやられたものを尋たずね求もとめられる。 3:16 わたしはまた、日ひの下したを見みたが、さばきを行おこなう所ところにも不正ふせいがあり、公義こうぎを行おこなう所ところにも不正ふせいがある。3:17 わたしは心こころに言いった、「神かみは正ただしい者ものと悪わるい者ものとをさばかれる。神かみはすべての事ことと、すべてのわざに、時ときを定さだめられたからである」と。3:18 わたしはまた、人ひとの子こらについて心こころに言いった、「神かみは彼かれらをためして、彼かれらに自分じぶんたちが獣けものにすぎないことを悟さとらせられるのである」と。3:19 人ひとの子こらに臨のぞむところは獣けものにも臨のぞむからである。すなわち一様いちように彼かれらに臨のぞみ、これの死しぬように、彼かれも死しぬのである。彼かれらはみな同様どうようの息いきをもっている。人ひとは獣けものにまさるところがない。すべてのものは空くうだからである。3:20 みな一ひとつ所ところに行いく。皆みなちりから出でて、皆みなちりに帰かえる。3:21 だれが知しるか、人ひとの子こらの霊れいは上うえにのぼり、獣けものの霊れいは地ちにくだるかを。3:22 それで、わたしは見みた、人ひとはその働はたらきによって楽たのしむにこした事ことはない。これが彼かれの分ぶんだからである。だれが彼かれをつれていって、その後のちの、どうなるかを見みさせることができようか。 第4章 4:1 わたしはまた、日ひの下したに行おこなわれるすべてのしえたげを見みた。見みよ、しえたげられる者ものの涙なみだを。彼かれらを慰なぐさめる者ものはない。しえたげる者ものの手てには権力けんりょくがある。しかし彼かれらを慰なぐさめる者ものはいない。4:2 それで、わたしはなお生いきている生存者せいぞんしゃよりも、すでに死しんだ死者ししゃを、さいわいな者ものと思おもった。4:3 しかし、この両者りょうしゃよりもさいわいなのは、まだ生うまれない者もので、日ひの下したに行おこなわれる悪あしきわざを見みない者ものである。 4:4 また、わたしはすべての労苦ろうくと、すべての巧たくみなわざを見みたが、これは人ひとが互たがいにねたみあってなすものである。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 4:5 愚おろかなる者ものは手てをつかねて、自分じぶんの肉にくを食くう。 4:6 片手かたてに物ものを満みたして平穏へいおんであるのは、両手りょうてに物ものを満みたして労苦ろうくし、風かぜを捕とらえるのにまさる。 4:7 わたしはまた、日ひの下したに空くうなる事ことのあるのを見みた。4:8 ここに人ひとがある。ひとりであって、仲なか間まもなく、子こもなく、兄弟きょうだいもない。それでも彼かれの労苦ろうくは窮きわまりなく、その目めは富とみに飽あくことがない。また彼かれは言いわない、「わたしはだれのために労ろうするのか、どうして自分じぶんを楽たのしませないのか」と。これもまた空くうであって、苦くるしいわざである。 4:9 ふたりはひとりにまさる。彼かれらはその労苦ろうくによって良よい報むくいを得えるからである。4:10 すなわち彼かれらが倒たおれる時ときには、そのひとりがその友ともを助たすけ起おこす。しかしひとりであって、その倒たおれる時とき、これを助たすけ起おこす者もののない者ものはわざわいである。4:11 またふたりが一緒いっしょに寝ねれば暖あたたかである。ひとりだけで、どうして暖あたたかになり得えようか。4:12 人ひとがもし、そのひとりを攻せめ撃うったなら、ふたりで、それに当あたるであろう。三つよりの綱つなはたやすくは切きれない。 4:13 貧まずしくて賢かしこいわらべは、老おいて愚おろかで、もはや、いさめをいれることを知しらない王おうにまさる。4:14 たとい、その王おうが獄屋ごくやから出でて、王位おういについた者ものであっても、また自分じぶんの国くにに貧まずしく生うまれて王位おういについた者ものであっても、そうである。4:15 わたしは日ひの下したに歩あゆむすべての民たみが、かのわらべのように王おうに代かわって立たつのを見みた。 4:16 すべての民たみは果はてしがない。彼かれはそのすべての民たみを導みちびいた。しかし後のちに来くる者ものは彼かれを喜よろこばない。たしかに、これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 第5章 5:1 神かみの宮みやに行ゆく時ときには、その足あしを慎つつしむがよい。近ちかよって聞きくのは愚おろかな者ものの犠牲ぎせいをささげるのにまさる。彼かれらは悪あくを行おこなっていることを知しらないからである。5:2 神かみの前まえで軽々かるがるしく口くちをひらき、また言葉ことばを出だそうと、心こころにあせってはならない。神かみは天てんにいまし、あなたは地ちにおるからである。それゆえ、あなたは言葉ことばを少すくなくせよ。 5:3 夢ゆめは仕事しごとの多おおいことによってきたり、愚おろかなる者ものの声こえは言葉ことばの多おおいことによって知しられる。 5:4 あなたは神かみに誓ちかいをなすとき、それを果はたすことを延のばしてはならない。神かみは愚おろかな者ものを喜よろこばれないからである。あなたの誓ちかったことを必かならず果はたせ。5:5 あなたが誓ちかいをして、それを果はたさないよりは、むしろ誓ちかいをしないほうがよい。5:6 あなたの口くちが、あなたに罪つみを犯おかさせないようにせよ。また使者ししゃの前まえにそれは誤あやまりであったと言いってはならない。どうして、神かみがあなたの言葉ことばを怒いかり、あなたの手てのわざを滅ほろぼしてよかろうか。 5:7 夢ゆめが多おおければ空くうなる言葉ことばも多おおい。しかし、あなたは神かみを恐おそれよ。 5:8 あなたは国くにのうちに貧まずしい者ものをしえたげ、公道こうどうと正義せいぎを曲まげることのあるのを見みても、その事ことを怪あやしんではならない。それは位くらいの高たかい人ひとよりも、さらに高たかい者ものがあって、その人ひとをうかがうからである。そしてそれらよりもなお高たかい者ものがある。5:9 しかし、要ようするに耕作こうさくした田畑たはたをもつ国くにには王おうは利益りえきである。 5:10 金銭きんせんを好このむ者ものは金銭きんせんをもって満足まんぞくしない。富とみを好このむ者ものは富とみを得えて満足まんぞくしない。これもまた空くうである。 5:11 財産ざいさんが増ませば、これを食くう者ものも増ます。その持もち主ぬしは目めにそれを見みるだけで、なんの益えきがあるか。 5:12 働はたらく者ものは食たべることが少すくなくても多おおくても、快こころよく眠ねむる。しかし飽あき足たりるほどの富とみは、彼かれに眠ねむることをゆるさない。 5:13 わたしは日ひの下したに悲かなしむべき悪あくのあるのを見みた。すなわち、富とみはこれをたくわえるその持もち主ぬしに害がいを及およぼすことである。5:14 またその富とみは不幸ふこうな出来事できごとによってうせ行いくことである。それで、その人ひとが子こをもうけても、彼かれの手てには何なにも残のこらない。5:15 彼かれは母ははの胎たいから出でてきたように、すなわち裸はだかで出でてきたように帰かえって行いく。彼かれはその労苦ろうくによって得えた何なに物ものをもその手てに携たずさえ行いくことができない。5:16 人ひとは全まったくその来きたように、また去さって行いかなければならない。これもまた悲かなしむべき悪あくである。風かぜのために労ろうする者ものになんの益えきがあるか。5:17 人ひとは一生いっしょう、暗くらやみと、悲かなしみと、多おおくの悩なやみと、病やまいと、憤いきどおりの中なかにある。 5:18 見みよ、わたしが見みたところの善ぜんかつ美びなる事ことは、神かみから賜たまわった短みじかい一生いっしょうの間あいだ、食くい、飲のみ、かつ日ひの下したで労ろうするすべての労苦ろうくによって、楽たのしみを得える事ことである。これがその分ぶんだからである。5:19 また神かみはすべての人ひとに富とみと宝たからと、それを楽たのしむ力ちからを与あたえ、またその分ぶんを取とらせ、その労苦ろうくによって楽たのしみを得えさせられる。これが神かみの賜物たまものである。 5:20 このような人ひとは自分じぶんの生いきる日ひのことを多おおく思おもわない。神かみは喜よろこびをもって彼かれの心こころを満みたされるからである。 第6章 6:1 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。これは人々ひとびとの上うえに重おもい。6:2 すなわち神かみは富とみと、財産ざいさんと、誉ほまれとを人ひとに与あたえて、その心こころに慕したうものを、一つも欠かけることのないようにされる。しかし神かみは、その人ひとにこれを持もつことを許ゆるされないで、他人たにんがこれを持もつようになる。これは空くうである。悪あしき病やまいである。6:3 たとい人ひとは百人にんの子こをもうけ、また命いのち長ながく、そのよわいの日ひが多おおくても、その心こころが幸福こうふくに満足まんぞくせず、また葬ほうむられることがなければ、わたしは言いう、流産りゅうざんの子こはその人ひとにまさると。6:4 これはむなしく来きて、暗くらやみの中なかに去さって行いき、その名なは暗くらやみにおおわれる。6:5 またこれは日ひを見みず、物ものを知しらない。けれどもこれは彼かれよりも安やすらかである。6:6 たとい彼かれは千年ねんに倍ばいするほど生いきても幸福こうふくを見みない。みな一ひとつ所ところに行いくのではないか。 6:7 人ひとの労苦ろうくは皆みな、その口くちのためである。しかしその食欲しょくよくは満みたされない。6:8 賢かしこい者ものは愚おろかな者ものになんのまさるところがあるか。また生いける者ものの前まえに歩あゆむことを知しる貧まずしい者ものもなんのまさるところがあるか。6:9 目めに見みる事ことは欲望よくぼうのさまよい歩あるくにまさる。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものである。 6:10 今いまあるものは、すでにその名ながつけられた。そして人ひとはいかなる者ものであるかは知しられた。それで人ひとは自分じぶんよりも力強ちからづよい者ものと争あらそうことはできない。6:11 言葉ことばが多おおければむなしい事ことも多おおい。人ひとになんの益えきがあるか。 6:12 人ひとはその短みじかく、むなしい命いのちの日ひを影かげのように送おくるのに、何なにが人ひとのために善ぜんであるかを知しることができよう。だれがその身みの後のちに、日ひの下したに何なにがあるであろうかを人ひとに告つげることができるか。 第7章 7:1 良よき名なは良よき油あぶらにまさり、死しぬる日ひは生うまるる日ひにまさる。7:2 悲かなしみの家いえにはいるのは、宴会えんかいの家いえにはいるのにまさる。死しはすべての人ひとの終おわりだからである。生いきている者ものは、これを心こころにとめる。7:3 悲かなしみは笑わらいにまさる。顔かおに憂うれいをもつことによって、心こころは良よくなるからである。7:4 賢かしこい者ものの心こころは悲かなしみの家いえにあり、愚おろかな者ものの心こころは楽たのしみの家いえにある。7:5 賢かしこい者ものの戒いましめを聞きくのは、愚おろかな者ものの歌うたを聞きくのにまさる。7:6 愚おろかな者ものの笑わらいはかまの下したに燃もえるいばらの音おとのようである。これもまた空くうである。7:7 たしかに、しえたげは賢かしこい人ひとを愚おろかにし、まいないは人ひとの心こころをそこなう。7:8 事ことの終おわりはその初はじめよりも良よい。耐たえ忍しのぶ心こころは、おごり高たかぶる心こころにまさる。7:9 気きをせきたてて怒いかるな。怒いかりは愚おろかな者ものの胸むねに宿やどるからである。7:10 「昔むかしが今いまよりもよかったのはなぜか」と言いうな。あなたがこれを問とうのは知恵ちえから出でるのではない。7:11 知恵ちえに財産ざいさんが伴ともなうのは良よい。それは日ひを見みる者ものどもに益えきがある。7:12 知恵ちえが身みを守まもるのは、金銭きんせんが身みを守まもるようである。しかし、知恵ちえはこれを持もつ者ものに生命せいめいを保たもたせる。これが知識ちしきのすぐれた所ところである。7:13 神かみのみわざを考かんがえみよ。神かみの曲まげられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。7:14 順境じゅんきょうの日ひには楽たのしめ、逆境ぎゃっきょうの日ひには考かんがえよ。神かみは人ひとに将来しょうらいどういう事ことがあるかを、知しらせないために、彼かれとこれとを等ひとしく造つくられたのである。 7:15 わたしはこのむなしい人生じんせいにおいて、もろもろの事ことを見みた。そこには義人ぎじんがその義ぎによって滅ほろびることがあり、悪人あくにんがその悪あくによって長生ながいきすることがある。7:16 あなたは義ぎに過すぎてはならない。また賢かしこきに過すぎてはならない。あなたはどうして自分じぶんを滅ほろぼしてよかろうか。7:17 悪あくに過すぎてはならない。また愚おろかであってはならない。あなたはどうして、自分じぶんの時ときのこないのに、死しんでよかろうか。7:18 あなたがこれを執とるのはよい、また彼かれから手てを引ひいてはならない。神かみをかしこむ者ものは、このすべてからのがれ出でるのである。 7:19 知恵ちえが知者ちしゃを強つよくするのは、十人にんのつかさが町まちにおるのにまさる。 7:20 善ぜんを行おこない、罪つみを犯おかさない正ただしい人ひとは世よにいない。 7:21 人ひとの語かたるすべての事ことに心こころをとめてはならない。これはあなたが、自分じぶんのしもべのあなたをのろう言葉ことばを聞きかないためである。7:22 あなたもまた、しばしば他人たにんをのろったのを自分じぶんの心こころに知しっているからである。 7:23 わたしは知恵ちえをもってこのすべての事ことを試こころみて、「わたしは知者ちしゃとなろう」と言いったが、遠とおく及およばなかった。7:24 物事ものごとの理りは遠とおく、また、はなはだ深ふかい。だれがこれを見みいだすことができよう。7:25 わたしは、心こころを転てんじて、物ものを知しり、事ことを探さぐり、知恵ちえと道理どうりを求もとめようとし、また悪あくの愚おろかなこと、愚痴ぐちの狂気きょうきであることを知しろうとした。7:26 わたしは、その心こころが、わなと網あみのような女おんな、その手てが、かせのような女おんなは、死しよりも苦にがい者ものであることを見みいだした。神かみを喜よろこばす者ものは彼女かのじょからのがれる。しかし罪つみびとは彼女かのじょに捕とらえられる。7:27 伝道者でんどうしゃは言いう、見みよ、その数かずを知しろうとして、いちいち数かぞえて、わたしが得えたものはこれである。7:28 わたしはなおこれを求もとめたけれども、得えなかった。わたしは千人にんのうちにひとりの男子だんしを得えたけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子じょしをも得えなかった。7:29 見みよ、わたしが得えた事ことは、ただこれだけである。すなわち、神かみは人ひとを正ただしい者ものに造つくられたけれども、人ひとは多おおくの計略けいりゃくを考かんがえ出だした事ことである。 第8章 8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。 8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。 8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。 8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。 第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
2:1 わたしは自分じぶんの心こころに言いった、「さあ、快楽かいらくをもって、おまえを試こころみよう。おまえは愉快ゆかいに過すごすがよい」と。しかし、これもまた空くうであった。
2:2 わたしは笑わらいについて言いった、「これは狂気きょうきである」と。また快楽かいらくについて言いった、「これは何なにをするのか」と。
2:3 わたしの心こころは知恵ちえをもってわたしを導みちびいているが、わたしは酒さけをもって自分じぶんの肉体にくたいを元気げんきづけようと試こころみた。また、人ひとの子こは天あめが下したでその短みじかい一生いっしょうの間あいだ、どんな事ことをしたら良よいかを、見みきわめるまでは、愚おろかな事ことをしようと試こころみた。
2:4 わたしは大おおきな事業じぎょうをした。わたしは自分じぶんのために家いえを建たて、ぶどう畑ばたけを設もうけ、
2:5 園そのと庭にわをつくり、またすべて実みのなる木きをそこに植うえ、
2:6 池いけをつくって、木きのおい茂しげる林はやしに、そこから水みずを注そそがせた。
2:7 わたしは男女だんじょの奴隷どれいを買かった。またわたしの家いえで生うまれた奴隷どれいを持もっていた。わたしはまた、わたしより先さきにエルサレムにいただれよりも多おおくの牛うしや羊ひつじの財産ざいさんを持もっていた。
2:8 わたしはまた銀ぎんと金きんを集あつめ、王おうたちと国々くにぐにの財宝ざいほうを集あつめた。またわたしは歌うたうたう男おとこ、歌うたうたう女おんなを得えた。また人ひとの子この楽たのしみとするそばめを多おおく得えた。
2:9 こうして、わたしは大おおいなる者ものとなり、わたしより先さきにエルサレムにいたすべての者ものよりも、大おおいなる者ものとなった。わたしの知恵ちえもまた、わたしを離はなれなかった。
2:10 なんでもわたしの目めの好このむものは遠慮えんりょせず、わたしの心こころの喜よろこぶものは拒こばまなかった。わたしの心こころがわたしのすべての労苦ろうくによって、快楽かいらくを得えたからである。そしてこれはわたしのすべての労苦ろうくによって得えた報むくいであった。
2:11 そこで、わたしはわが手てのなしたすべての事こと、およびそれをなすに要ようした労苦ろうくを顧かえりみたとき、見みよ、皆みな、空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものであった。日ひの下したには益えきとなるものはないのである。
2:12 わたしはまた、身みをめぐらして、知恵ちえと、狂気きょうきと、愚痴ぐちとを見みた。そもそも、王おうの後のちに来くる人ひとは何なにをなし得えようか。すでに彼かれがなした事ことにすぎないのだ。
2:13 光ひかりが暗くらきにまさるように、知恵ちえが愚痴ぐちにまさるのを、わたしは見みた。
2:14 知者ちしゃの目めは、その頭あたまにある。しかし愚者ぐしゃは暗くらやみを歩あゆむ。けれどもわたしはなお同一どういつの運命うんめいが彼かれらのすべてに臨のぞむことを知しっている。
2:15 わたしは心こころに言いった、「愚者ぐしゃに臨のぞむ事ことはわたしにも臨のぞむのだ。それでどうしてわたしは賢かしこいことがあろう」。わたしはまた心こころに言いった、「これもまた空くうである」と。
2:16 そもそも、知者ちしゃも愚者ぐしゃも同様どうように長ながく覚おぼえられるものではない。きたるべき日ひには皆みな忘わすれられてしまうのである。知者ちしゃが愚者ぐしゃと同おなじように死しぬのは、どうしたことであろう。
2:17 そこで、わたしは生いきることをいとった。日ひの下したに行おこなわれるわざは、わたしに悪あしく見みえたからである。皆みな空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。
2:18 わたしは日ひの下したで労ろうしたすべての労苦ろうくを憎にくんだ。わたしの後のちに来くる人ひとにこれを残のこさなければならないからである。
2:19 そして、その人ひとが知者ちしゃであるか、または愚者ぐしゃであるかは、だれが知しり得えよう。そうであるのに、その人ひとが、日ひの下したでわたしが労ろうし、かつ知恵ちえを働はたらかしてなしたすべての労苦ろうくをつかさどることになるのだ。これもまた空くうである。
2:20 それでわたしはふり返かえってみて、日ひの下したでわたしが労ろうしたすべての労苦ろうくについて、望のぞみを失うしなった。
2:21 今いまここに人ひとがあって、知恵ちえと知識ちしきと才能さいのうをもって労ろうしても、これがために労ろうしない人ひとに、すべてを残のこして、その所有しょゆうとさせなければならないのだ。これもまた空くうであって、大おおいに悪わるい。
2:22 そもそも、人ひとは日ひの下したで労ろうするすべての労苦ろうくと、その心こころづかいによってなんの得えるところがあるか。
2:23 そのすべての日ひはただ憂うれいのみであって、そのわざは苦くるしく、その心こころは夜よの間まも休やすまることがない。これもまた空くうである。
2:24 人ひとは食くい飲のみし、その労苦ろうくによって得えたもので心こころを楽たのしませるより良よい事ことはない。これもまた神かみの手てから出でることを、わたしは見みた。
2:25 だれが神かみを離はなれて、食くい、かつ楽たのしむことのできる者ものがあろう。
2:26 神かみは、その心こころにかなう人ひとに、知恵ちえと知識ちしきと喜よろこびとをくださる。しかし罪つみびとには仕事しごとを与あたえて集あつめることと、積つむことをさせられる。これは神かみの心こころにかなう者ものにそれを賜たまわるためである。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。
第3章 3:1 天あめが下したのすべての事ことには季節きせつがあり、すべてのわざには時ときがある。3:2 生うまるるに時ときがあり、死しぬるに時ときがあり、植うえるに時ときがあり、植うえたものを抜ぬくに時ときがあり、3:3 殺ころすに時ときがあり、いやすに時ときがあり、こわすに時ときがあり、建たてるに時ときがあり、3:4 泣なくに時ときがあり、笑わらうに時ときがあり、悲かなしむに時ときがあり、踊おどるに時ときがあり、3:5 石いしを投なげるに時ときがあり、石いしを集あつめるに時ときがあり、抱だくに時ときがあり、抱だくことをやめるに時ときがあり、3:6 捜さがすに時ときがあり、失うしなうに時ときがあり、保たもつに時ときがあり、捨すてるに時ときがあり、3:7 裂さくに時ときがあり、縫ぬうに時ときがあり、黙だまるに時ときがあり、語かたるに時ときがあり、3:8 愛あいするに時ときがあり、憎にくむに時ときがあり、戦たたかうに時ときがあり、和やわらぐに時ときがある。3:9 働はたらく者ものはその労ろうすることにより、なんの益えきを得えるか。3:10 わたしは神かみが人ひとの子こらに与あたえて、ほねおらせられる仕事しごとを見みた。3:11 神かみのなされることは皆みなその時ときにかなって美うつくしい。神かみはまた人ひとの心こころに永遠えいえんを思おもう思おもいを授さづけられた。それでもなお、人ひとは神かみのなされるわざを初はじめから終おわりまで見みきわめることはできない。3:12 わたしは知しっている。人ひとにはその生いきながらえている間あいだ、楽たのしく愉快ゆかいに過すごすよりほかに良よい事ことはない。3:13 またすべての人ひとが食くい飲のみし、そのすべての労苦ろうくによって楽たのしみを得えることは神かみの賜物たまものである。3:14 わたしは知しっている。すべて神かみがなさる事ことは永遠えいえんに変かわることがなく、これに加くわえることも、これから取とることもできない。神かみがこのようにされるのは、人々ひとびとが神かみの前まえに恐おそれをもつようになるためである。3:15 今いまあるものは、すでにあったものである。後のちにあるものも、すでにあったものである。神かみは追おいやられたものを尋たずね求もとめられる。 3:16 わたしはまた、日ひの下したを見みたが、さばきを行おこなう所ところにも不正ふせいがあり、公義こうぎを行おこなう所ところにも不正ふせいがある。3:17 わたしは心こころに言いった、「神かみは正ただしい者ものと悪わるい者ものとをさばかれる。神かみはすべての事ことと、すべてのわざに、時ときを定さだめられたからである」と。3:18 わたしはまた、人ひとの子こらについて心こころに言いった、「神かみは彼かれらをためして、彼かれらに自分じぶんたちが獣けものにすぎないことを悟さとらせられるのである」と。3:19 人ひとの子こらに臨のぞむところは獣けものにも臨のぞむからである。すなわち一様いちように彼かれらに臨のぞみ、これの死しぬように、彼かれも死しぬのである。彼かれらはみな同様どうようの息いきをもっている。人ひとは獣けものにまさるところがない。すべてのものは空くうだからである。3:20 みな一ひとつ所ところに行いく。皆みなちりから出でて、皆みなちりに帰かえる。3:21 だれが知しるか、人ひとの子こらの霊れいは上うえにのぼり、獣けものの霊れいは地ちにくだるかを。3:22 それで、わたしは見みた、人ひとはその働はたらきによって楽たのしむにこした事ことはない。これが彼かれの分ぶんだからである。だれが彼かれをつれていって、その後のちの、どうなるかを見みさせることができようか。 第4章 4:1 わたしはまた、日ひの下したに行おこなわれるすべてのしえたげを見みた。見みよ、しえたげられる者ものの涙なみだを。彼かれらを慰なぐさめる者ものはない。しえたげる者ものの手てには権力けんりょくがある。しかし彼かれらを慰なぐさめる者ものはいない。4:2 それで、わたしはなお生いきている生存者せいぞんしゃよりも、すでに死しんだ死者ししゃを、さいわいな者ものと思おもった。4:3 しかし、この両者りょうしゃよりもさいわいなのは、まだ生うまれない者もので、日ひの下したに行おこなわれる悪あしきわざを見みない者ものである。 4:4 また、わたしはすべての労苦ろうくと、すべての巧たくみなわざを見みたが、これは人ひとが互たがいにねたみあってなすものである。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 4:5 愚おろかなる者ものは手てをつかねて、自分じぶんの肉にくを食くう。 4:6 片手かたてに物ものを満みたして平穏へいおんであるのは、両手りょうてに物ものを満みたして労苦ろうくし、風かぜを捕とらえるのにまさる。 4:7 わたしはまた、日ひの下したに空くうなる事ことのあるのを見みた。4:8 ここに人ひとがある。ひとりであって、仲なか間まもなく、子こもなく、兄弟きょうだいもない。それでも彼かれの労苦ろうくは窮きわまりなく、その目めは富とみに飽あくことがない。また彼かれは言いわない、「わたしはだれのために労ろうするのか、どうして自分じぶんを楽たのしませないのか」と。これもまた空くうであって、苦くるしいわざである。 4:9 ふたりはひとりにまさる。彼かれらはその労苦ろうくによって良よい報むくいを得えるからである。4:10 すなわち彼かれらが倒たおれる時ときには、そのひとりがその友ともを助たすけ起おこす。しかしひとりであって、その倒たおれる時とき、これを助たすけ起おこす者もののない者ものはわざわいである。4:11 またふたりが一緒いっしょに寝ねれば暖あたたかである。ひとりだけで、どうして暖あたたかになり得えようか。4:12 人ひとがもし、そのひとりを攻せめ撃うったなら、ふたりで、それに当あたるであろう。三つよりの綱つなはたやすくは切きれない。 4:13 貧まずしくて賢かしこいわらべは、老おいて愚おろかで、もはや、いさめをいれることを知しらない王おうにまさる。4:14 たとい、その王おうが獄屋ごくやから出でて、王位おういについた者ものであっても、また自分じぶんの国くにに貧まずしく生うまれて王位おういについた者ものであっても、そうである。4:15 わたしは日ひの下したに歩あゆむすべての民たみが、かのわらべのように王おうに代かわって立たつのを見みた。 4:16 すべての民たみは果はてしがない。彼かれはそのすべての民たみを導みちびいた。しかし後のちに来くる者ものは彼かれを喜よろこばない。たしかに、これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 第5章 5:1 神かみの宮みやに行ゆく時ときには、その足あしを慎つつしむがよい。近ちかよって聞きくのは愚おろかな者ものの犠牲ぎせいをささげるのにまさる。彼かれらは悪あくを行おこなっていることを知しらないからである。5:2 神かみの前まえで軽々かるがるしく口くちをひらき、また言葉ことばを出だそうと、心こころにあせってはならない。神かみは天てんにいまし、あなたは地ちにおるからである。それゆえ、あなたは言葉ことばを少すくなくせよ。 5:3 夢ゆめは仕事しごとの多おおいことによってきたり、愚おろかなる者ものの声こえは言葉ことばの多おおいことによって知しられる。 5:4 あなたは神かみに誓ちかいをなすとき、それを果はたすことを延のばしてはならない。神かみは愚おろかな者ものを喜よろこばれないからである。あなたの誓ちかったことを必かならず果はたせ。5:5 あなたが誓ちかいをして、それを果はたさないよりは、むしろ誓ちかいをしないほうがよい。5:6 あなたの口くちが、あなたに罪つみを犯おかさせないようにせよ。また使者ししゃの前まえにそれは誤あやまりであったと言いってはならない。どうして、神かみがあなたの言葉ことばを怒いかり、あなたの手てのわざを滅ほろぼしてよかろうか。 5:7 夢ゆめが多おおければ空くうなる言葉ことばも多おおい。しかし、あなたは神かみを恐おそれよ。 5:8 あなたは国くにのうちに貧まずしい者ものをしえたげ、公道こうどうと正義せいぎを曲まげることのあるのを見みても、その事ことを怪あやしんではならない。それは位くらいの高たかい人ひとよりも、さらに高たかい者ものがあって、その人ひとをうかがうからである。そしてそれらよりもなお高たかい者ものがある。5:9 しかし、要ようするに耕作こうさくした田畑たはたをもつ国くにには王おうは利益りえきである。 5:10 金銭きんせんを好このむ者ものは金銭きんせんをもって満足まんぞくしない。富とみを好このむ者ものは富とみを得えて満足まんぞくしない。これもまた空くうである。 5:11 財産ざいさんが増ませば、これを食くう者ものも増ます。その持もち主ぬしは目めにそれを見みるだけで、なんの益えきがあるか。 5:12 働はたらく者ものは食たべることが少すくなくても多おおくても、快こころよく眠ねむる。しかし飽あき足たりるほどの富とみは、彼かれに眠ねむることをゆるさない。 5:13 わたしは日ひの下したに悲かなしむべき悪あくのあるのを見みた。すなわち、富とみはこれをたくわえるその持もち主ぬしに害がいを及およぼすことである。5:14 またその富とみは不幸ふこうな出来事できごとによってうせ行いくことである。それで、その人ひとが子こをもうけても、彼かれの手てには何なにも残のこらない。5:15 彼かれは母ははの胎たいから出でてきたように、すなわち裸はだかで出でてきたように帰かえって行いく。彼かれはその労苦ろうくによって得えた何なに物ものをもその手てに携たずさえ行いくことができない。5:16 人ひとは全まったくその来きたように、また去さって行いかなければならない。これもまた悲かなしむべき悪あくである。風かぜのために労ろうする者ものになんの益えきがあるか。5:17 人ひとは一生いっしょう、暗くらやみと、悲かなしみと、多おおくの悩なやみと、病やまいと、憤いきどおりの中なかにある。 5:18 見みよ、わたしが見みたところの善ぜんかつ美びなる事ことは、神かみから賜たまわった短みじかい一生いっしょうの間あいだ、食くい、飲のみ、かつ日ひの下したで労ろうするすべての労苦ろうくによって、楽たのしみを得える事ことである。これがその分ぶんだからである。5:19 また神かみはすべての人ひとに富とみと宝たからと、それを楽たのしむ力ちからを与あたえ、またその分ぶんを取とらせ、その労苦ろうくによって楽たのしみを得えさせられる。これが神かみの賜物たまものである。 5:20 このような人ひとは自分じぶんの生いきる日ひのことを多おおく思おもわない。神かみは喜よろこびをもって彼かれの心こころを満みたされるからである。 第6章 6:1 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。これは人々ひとびとの上うえに重おもい。6:2 すなわち神かみは富とみと、財産ざいさんと、誉ほまれとを人ひとに与あたえて、その心こころに慕したうものを、一つも欠かけることのないようにされる。しかし神かみは、その人ひとにこれを持もつことを許ゆるされないで、他人たにんがこれを持もつようになる。これは空くうである。悪あしき病やまいである。6:3 たとい人ひとは百人にんの子こをもうけ、また命いのち長ながく、そのよわいの日ひが多おおくても、その心こころが幸福こうふくに満足まんぞくせず、また葬ほうむられることがなければ、わたしは言いう、流産りゅうざんの子こはその人ひとにまさると。6:4 これはむなしく来きて、暗くらやみの中なかに去さって行いき、その名なは暗くらやみにおおわれる。6:5 またこれは日ひを見みず、物ものを知しらない。けれどもこれは彼かれよりも安やすらかである。6:6 たとい彼かれは千年ねんに倍ばいするほど生いきても幸福こうふくを見みない。みな一ひとつ所ところに行いくのではないか。 6:7 人ひとの労苦ろうくは皆みな、その口くちのためである。しかしその食欲しょくよくは満みたされない。6:8 賢かしこい者ものは愚おろかな者ものになんのまさるところがあるか。また生いける者ものの前まえに歩あゆむことを知しる貧まずしい者ものもなんのまさるところがあるか。6:9 目めに見みる事ことは欲望よくぼうのさまよい歩あるくにまさる。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものである。 6:10 今いまあるものは、すでにその名ながつけられた。そして人ひとはいかなる者ものであるかは知しられた。それで人ひとは自分じぶんよりも力強ちからづよい者ものと争あらそうことはできない。6:11 言葉ことばが多おおければむなしい事ことも多おおい。人ひとになんの益えきがあるか。 6:12 人ひとはその短みじかく、むなしい命いのちの日ひを影かげのように送おくるのに、何なにが人ひとのために善ぜんであるかを知しることができよう。だれがその身みの後のちに、日ひの下したに何なにがあるであろうかを人ひとに告つげることができるか。 第7章 7:1 良よき名なは良よき油あぶらにまさり、死しぬる日ひは生うまるる日ひにまさる。7:2 悲かなしみの家いえにはいるのは、宴会えんかいの家いえにはいるのにまさる。死しはすべての人ひとの終おわりだからである。生いきている者ものは、これを心こころにとめる。7:3 悲かなしみは笑わらいにまさる。顔かおに憂うれいをもつことによって、心こころは良よくなるからである。7:4 賢かしこい者ものの心こころは悲かなしみの家いえにあり、愚おろかな者ものの心こころは楽たのしみの家いえにある。7:5 賢かしこい者ものの戒いましめを聞きくのは、愚おろかな者ものの歌うたを聞きくのにまさる。7:6 愚おろかな者ものの笑わらいはかまの下したに燃もえるいばらの音おとのようである。これもまた空くうである。7:7 たしかに、しえたげは賢かしこい人ひとを愚おろかにし、まいないは人ひとの心こころをそこなう。7:8 事ことの終おわりはその初はじめよりも良よい。耐たえ忍しのぶ心こころは、おごり高たかぶる心こころにまさる。7:9 気きをせきたてて怒いかるな。怒いかりは愚おろかな者ものの胸むねに宿やどるからである。7:10 「昔むかしが今いまよりもよかったのはなぜか」と言いうな。あなたがこれを問とうのは知恵ちえから出でるのではない。7:11 知恵ちえに財産ざいさんが伴ともなうのは良よい。それは日ひを見みる者ものどもに益えきがある。7:12 知恵ちえが身みを守まもるのは、金銭きんせんが身みを守まもるようである。しかし、知恵ちえはこれを持もつ者ものに生命せいめいを保たもたせる。これが知識ちしきのすぐれた所ところである。7:13 神かみのみわざを考かんがえみよ。神かみの曲まげられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。7:14 順境じゅんきょうの日ひには楽たのしめ、逆境ぎゃっきょうの日ひには考かんがえよ。神かみは人ひとに将来しょうらいどういう事ことがあるかを、知しらせないために、彼かれとこれとを等ひとしく造つくられたのである。 7:15 わたしはこのむなしい人生じんせいにおいて、もろもろの事ことを見みた。そこには義人ぎじんがその義ぎによって滅ほろびることがあり、悪人あくにんがその悪あくによって長生ながいきすることがある。7:16 あなたは義ぎに過すぎてはならない。また賢かしこきに過すぎてはならない。あなたはどうして自分じぶんを滅ほろぼしてよかろうか。7:17 悪あくに過すぎてはならない。また愚おろかであってはならない。あなたはどうして、自分じぶんの時ときのこないのに、死しんでよかろうか。7:18 あなたがこれを執とるのはよい、また彼かれから手てを引ひいてはならない。神かみをかしこむ者ものは、このすべてからのがれ出でるのである。 7:19 知恵ちえが知者ちしゃを強つよくするのは、十人にんのつかさが町まちにおるのにまさる。 7:20 善ぜんを行おこない、罪つみを犯おかさない正ただしい人ひとは世よにいない。 7:21 人ひとの語かたるすべての事ことに心こころをとめてはならない。これはあなたが、自分じぶんのしもべのあなたをのろう言葉ことばを聞きかないためである。7:22 あなたもまた、しばしば他人たにんをのろったのを自分じぶんの心こころに知しっているからである。 7:23 わたしは知恵ちえをもってこのすべての事ことを試こころみて、「わたしは知者ちしゃとなろう」と言いったが、遠とおく及およばなかった。7:24 物事ものごとの理りは遠とおく、また、はなはだ深ふかい。だれがこれを見みいだすことができよう。7:25 わたしは、心こころを転てんじて、物ものを知しり、事ことを探さぐり、知恵ちえと道理どうりを求もとめようとし、また悪あくの愚おろかなこと、愚痴ぐちの狂気きょうきであることを知しろうとした。7:26 わたしは、その心こころが、わなと網あみのような女おんな、その手てが、かせのような女おんなは、死しよりも苦にがい者ものであることを見みいだした。神かみを喜よろこばす者ものは彼女かのじょからのがれる。しかし罪つみびとは彼女かのじょに捕とらえられる。7:27 伝道者でんどうしゃは言いう、見みよ、その数かずを知しろうとして、いちいち数かぞえて、わたしが得えたものはこれである。7:28 わたしはなおこれを求もとめたけれども、得えなかった。わたしは千人にんのうちにひとりの男子だんしを得えたけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子じょしをも得えなかった。7:29 見みよ、わたしが得えた事ことは、ただこれだけである。すなわち、神かみは人ひとを正ただしい者ものに造つくられたけれども、人ひとは多おおくの計略けいりゃくを考かんがえ出だした事ことである。 第8章 8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。 8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。 8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。 8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。 第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
3:1 天あめが下したのすべての事ことには季節きせつがあり、すべてのわざには時ときがある。
3:2 生うまるるに時ときがあり、死しぬるに時ときがあり、植うえるに時ときがあり、植うえたものを抜ぬくに時ときがあり、
3:3 殺ころすに時ときがあり、いやすに時ときがあり、こわすに時ときがあり、建たてるに時ときがあり、
3:4 泣なくに時ときがあり、笑わらうに時ときがあり、悲かなしむに時ときがあり、踊おどるに時ときがあり、
3:5 石いしを投なげるに時ときがあり、石いしを集あつめるに時ときがあり、抱だくに時ときがあり、抱だくことをやめるに時ときがあり、
3:6 捜さがすに時ときがあり、失うしなうに時ときがあり、保たもつに時ときがあり、捨すてるに時ときがあり、
3:7 裂さくに時ときがあり、縫ぬうに時ときがあり、黙だまるに時ときがあり、語かたるに時ときがあり、
3:8 愛あいするに時ときがあり、憎にくむに時ときがあり、戦たたかうに時ときがあり、和やわらぐに時ときがある。
3:9 働はたらく者ものはその労ろうすることにより、なんの益えきを得えるか。
3:10 わたしは神かみが人ひとの子こらに与あたえて、ほねおらせられる仕事しごとを見みた。
3:11 神かみのなされることは皆みなその時ときにかなって美うつくしい。神かみはまた人ひとの心こころに永遠えいえんを思おもう思おもいを授さづけられた。それでもなお、人ひとは神かみのなされるわざを初はじめから終おわりまで見みきわめることはできない。
3:12 わたしは知しっている。人ひとにはその生いきながらえている間あいだ、楽たのしく愉快ゆかいに過すごすよりほかに良よい事ことはない。
3:13 またすべての人ひとが食くい飲のみし、そのすべての労苦ろうくによって楽たのしみを得えることは神かみの賜物たまものである。
3:14 わたしは知しっている。すべて神かみがなさる事ことは永遠えいえんに変かわることがなく、これに加くわえることも、これから取とることもできない。神かみがこのようにされるのは、人々ひとびとが神かみの前まえに恐おそれをもつようになるためである。
3:15 今いまあるものは、すでにあったものである。後のちにあるものも、すでにあったものである。神かみは追おいやられたものを尋たずね求もとめられる。
3:16 わたしはまた、日ひの下したを見みたが、さばきを行おこなう所ところにも不正ふせいがあり、公義こうぎを行おこなう所ところにも不正ふせいがある。
3:17 わたしは心こころに言いった、「神かみは正ただしい者ものと悪わるい者ものとをさばかれる。神かみはすべての事ことと、すべてのわざに、時ときを定さだめられたからである」と。
3:18 わたしはまた、人ひとの子こらについて心こころに言いった、「神かみは彼かれらをためして、彼かれらに自分じぶんたちが獣けものにすぎないことを悟さとらせられるのである」と。
3:19 人ひとの子こらに臨のぞむところは獣けものにも臨のぞむからである。すなわち一様いちように彼かれらに臨のぞみ、これの死しぬように、彼かれも死しぬのである。彼かれらはみな同様どうようの息いきをもっている。人ひとは獣けものにまさるところがない。すべてのものは空くうだからである。
3:20 みな一ひとつ所ところに行いく。皆みなちりから出でて、皆みなちりに帰かえる。
3:21 だれが知しるか、人ひとの子こらの霊れいは上うえにのぼり、獣けものの霊れいは地ちにくだるかを。
3:22 それで、わたしは見みた、人ひとはその働はたらきによって楽たのしむにこした事ことはない。これが彼かれの分ぶんだからである。だれが彼かれをつれていって、その後のちの、どうなるかを見みさせることができようか。
第4章 4:1 わたしはまた、日ひの下したに行おこなわれるすべてのしえたげを見みた。見みよ、しえたげられる者ものの涙なみだを。彼かれらを慰なぐさめる者ものはない。しえたげる者ものの手てには権力けんりょくがある。しかし彼かれらを慰なぐさめる者ものはいない。4:2 それで、わたしはなお生いきている生存者せいぞんしゃよりも、すでに死しんだ死者ししゃを、さいわいな者ものと思おもった。4:3 しかし、この両者りょうしゃよりもさいわいなのは、まだ生うまれない者もので、日ひの下したに行おこなわれる悪あしきわざを見みない者ものである。 4:4 また、わたしはすべての労苦ろうくと、すべての巧たくみなわざを見みたが、これは人ひとが互たがいにねたみあってなすものである。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 4:5 愚おろかなる者ものは手てをつかねて、自分じぶんの肉にくを食くう。 4:6 片手かたてに物ものを満みたして平穏へいおんであるのは、両手りょうてに物ものを満みたして労苦ろうくし、風かぜを捕とらえるのにまさる。 4:7 わたしはまた、日ひの下したに空くうなる事ことのあるのを見みた。4:8 ここに人ひとがある。ひとりであって、仲なか間まもなく、子こもなく、兄弟きょうだいもない。それでも彼かれの労苦ろうくは窮きわまりなく、その目めは富とみに飽あくことがない。また彼かれは言いわない、「わたしはだれのために労ろうするのか、どうして自分じぶんを楽たのしませないのか」と。これもまた空くうであって、苦くるしいわざである。 4:9 ふたりはひとりにまさる。彼かれらはその労苦ろうくによって良よい報むくいを得えるからである。4:10 すなわち彼かれらが倒たおれる時ときには、そのひとりがその友ともを助たすけ起おこす。しかしひとりであって、その倒たおれる時とき、これを助たすけ起おこす者もののない者ものはわざわいである。4:11 またふたりが一緒いっしょに寝ねれば暖あたたかである。ひとりだけで、どうして暖あたたかになり得えようか。4:12 人ひとがもし、そのひとりを攻せめ撃うったなら、ふたりで、それに当あたるであろう。三つよりの綱つなはたやすくは切きれない。 4:13 貧まずしくて賢かしこいわらべは、老おいて愚おろかで、もはや、いさめをいれることを知しらない王おうにまさる。4:14 たとい、その王おうが獄屋ごくやから出でて、王位おういについた者ものであっても、また自分じぶんの国くにに貧まずしく生うまれて王位おういについた者ものであっても、そうである。4:15 わたしは日ひの下したに歩あゆむすべての民たみが、かのわらべのように王おうに代かわって立たつのを見みた。 4:16 すべての民たみは果はてしがない。彼かれはそのすべての民たみを導みちびいた。しかし後のちに来くる者ものは彼かれを喜よろこばない。たしかに、これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。 第5章 5:1 神かみの宮みやに行ゆく時ときには、その足あしを慎つつしむがよい。近ちかよって聞きくのは愚おろかな者ものの犠牲ぎせいをささげるのにまさる。彼かれらは悪あくを行おこなっていることを知しらないからである。5:2 神かみの前まえで軽々かるがるしく口くちをひらき、また言葉ことばを出だそうと、心こころにあせってはならない。神かみは天てんにいまし、あなたは地ちにおるからである。それゆえ、あなたは言葉ことばを少すくなくせよ。 5:3 夢ゆめは仕事しごとの多おおいことによってきたり、愚おろかなる者ものの声こえは言葉ことばの多おおいことによって知しられる。 5:4 あなたは神かみに誓ちかいをなすとき、それを果はたすことを延のばしてはならない。神かみは愚おろかな者ものを喜よろこばれないからである。あなたの誓ちかったことを必かならず果はたせ。5:5 あなたが誓ちかいをして、それを果はたさないよりは、むしろ誓ちかいをしないほうがよい。5:6 あなたの口くちが、あなたに罪つみを犯おかさせないようにせよ。また使者ししゃの前まえにそれは誤あやまりであったと言いってはならない。どうして、神かみがあなたの言葉ことばを怒いかり、あなたの手てのわざを滅ほろぼしてよかろうか。 5:7 夢ゆめが多おおければ空くうなる言葉ことばも多おおい。しかし、あなたは神かみを恐おそれよ。 5:8 あなたは国くにのうちに貧まずしい者ものをしえたげ、公道こうどうと正義せいぎを曲まげることのあるのを見みても、その事ことを怪あやしんではならない。それは位くらいの高たかい人ひとよりも、さらに高たかい者ものがあって、その人ひとをうかがうからである。そしてそれらよりもなお高たかい者ものがある。5:9 しかし、要ようするに耕作こうさくした田畑たはたをもつ国くにには王おうは利益りえきである。 5:10 金銭きんせんを好このむ者ものは金銭きんせんをもって満足まんぞくしない。富とみを好このむ者ものは富とみを得えて満足まんぞくしない。これもまた空くうである。 5:11 財産ざいさんが増ませば、これを食くう者ものも増ます。その持もち主ぬしは目めにそれを見みるだけで、なんの益えきがあるか。 5:12 働はたらく者ものは食たべることが少すくなくても多おおくても、快こころよく眠ねむる。しかし飽あき足たりるほどの富とみは、彼かれに眠ねむることをゆるさない。 5:13 わたしは日ひの下したに悲かなしむべき悪あくのあるのを見みた。すなわち、富とみはこれをたくわえるその持もち主ぬしに害がいを及およぼすことである。5:14 またその富とみは不幸ふこうな出来事できごとによってうせ行いくことである。それで、その人ひとが子こをもうけても、彼かれの手てには何なにも残のこらない。5:15 彼かれは母ははの胎たいから出でてきたように、すなわち裸はだかで出でてきたように帰かえって行いく。彼かれはその労苦ろうくによって得えた何なに物ものをもその手てに携たずさえ行いくことができない。5:16 人ひとは全まったくその来きたように、また去さって行いかなければならない。これもまた悲かなしむべき悪あくである。風かぜのために労ろうする者ものになんの益えきがあるか。5:17 人ひとは一生いっしょう、暗くらやみと、悲かなしみと、多おおくの悩なやみと、病やまいと、憤いきどおりの中なかにある。 5:18 見みよ、わたしが見みたところの善ぜんかつ美びなる事ことは、神かみから賜たまわった短みじかい一生いっしょうの間あいだ、食くい、飲のみ、かつ日ひの下したで労ろうするすべての労苦ろうくによって、楽たのしみを得える事ことである。これがその分ぶんだからである。5:19 また神かみはすべての人ひとに富とみと宝たからと、それを楽たのしむ力ちからを与あたえ、またその分ぶんを取とらせ、その労苦ろうくによって楽たのしみを得えさせられる。これが神かみの賜物たまものである。 5:20 このような人ひとは自分じぶんの生いきる日ひのことを多おおく思おもわない。神かみは喜よろこびをもって彼かれの心こころを満みたされるからである。 第6章 6:1 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。これは人々ひとびとの上うえに重おもい。6:2 すなわち神かみは富とみと、財産ざいさんと、誉ほまれとを人ひとに与あたえて、その心こころに慕したうものを、一つも欠かけることのないようにされる。しかし神かみは、その人ひとにこれを持もつことを許ゆるされないで、他人たにんがこれを持もつようになる。これは空くうである。悪あしき病やまいである。6:3 たとい人ひとは百人にんの子こをもうけ、また命いのち長ながく、そのよわいの日ひが多おおくても、その心こころが幸福こうふくに満足まんぞくせず、また葬ほうむられることがなければ、わたしは言いう、流産りゅうざんの子こはその人ひとにまさると。6:4 これはむなしく来きて、暗くらやみの中なかに去さって行いき、その名なは暗くらやみにおおわれる。6:5 またこれは日ひを見みず、物ものを知しらない。けれどもこれは彼かれよりも安やすらかである。6:6 たとい彼かれは千年ねんに倍ばいするほど生いきても幸福こうふくを見みない。みな一ひとつ所ところに行いくのではないか。 6:7 人ひとの労苦ろうくは皆みな、その口くちのためである。しかしその食欲しょくよくは満みたされない。6:8 賢かしこい者ものは愚おろかな者ものになんのまさるところがあるか。また生いける者ものの前まえに歩あゆむことを知しる貧まずしい者ものもなんのまさるところがあるか。6:9 目めに見みる事ことは欲望よくぼうのさまよい歩あるくにまさる。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものである。 6:10 今いまあるものは、すでにその名ながつけられた。そして人ひとはいかなる者ものであるかは知しられた。それで人ひとは自分じぶんよりも力強ちからづよい者ものと争あらそうことはできない。6:11 言葉ことばが多おおければむなしい事ことも多おおい。人ひとになんの益えきがあるか。 6:12 人ひとはその短みじかく、むなしい命いのちの日ひを影かげのように送おくるのに、何なにが人ひとのために善ぜんであるかを知しることができよう。だれがその身みの後のちに、日ひの下したに何なにがあるであろうかを人ひとに告つげることができるか。 第7章 7:1 良よき名なは良よき油あぶらにまさり、死しぬる日ひは生うまるる日ひにまさる。7:2 悲かなしみの家いえにはいるのは、宴会えんかいの家いえにはいるのにまさる。死しはすべての人ひとの終おわりだからである。生いきている者ものは、これを心こころにとめる。7:3 悲かなしみは笑わらいにまさる。顔かおに憂うれいをもつことによって、心こころは良よくなるからである。7:4 賢かしこい者ものの心こころは悲かなしみの家いえにあり、愚おろかな者ものの心こころは楽たのしみの家いえにある。7:5 賢かしこい者ものの戒いましめを聞きくのは、愚おろかな者ものの歌うたを聞きくのにまさる。7:6 愚おろかな者ものの笑わらいはかまの下したに燃もえるいばらの音おとのようである。これもまた空くうである。7:7 たしかに、しえたげは賢かしこい人ひとを愚おろかにし、まいないは人ひとの心こころをそこなう。7:8 事ことの終おわりはその初はじめよりも良よい。耐たえ忍しのぶ心こころは、おごり高たかぶる心こころにまさる。7:9 気きをせきたてて怒いかるな。怒いかりは愚おろかな者ものの胸むねに宿やどるからである。7:10 「昔むかしが今いまよりもよかったのはなぜか」と言いうな。あなたがこれを問とうのは知恵ちえから出でるのではない。7:11 知恵ちえに財産ざいさんが伴ともなうのは良よい。それは日ひを見みる者ものどもに益えきがある。7:12 知恵ちえが身みを守まもるのは、金銭きんせんが身みを守まもるようである。しかし、知恵ちえはこれを持もつ者ものに生命せいめいを保たもたせる。これが知識ちしきのすぐれた所ところである。7:13 神かみのみわざを考かんがえみよ。神かみの曲まげられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。7:14 順境じゅんきょうの日ひには楽たのしめ、逆境ぎゃっきょうの日ひには考かんがえよ。神かみは人ひとに将来しょうらいどういう事ことがあるかを、知しらせないために、彼かれとこれとを等ひとしく造つくられたのである。 7:15 わたしはこのむなしい人生じんせいにおいて、もろもろの事ことを見みた。そこには義人ぎじんがその義ぎによって滅ほろびることがあり、悪人あくにんがその悪あくによって長生ながいきすることがある。7:16 あなたは義ぎに過すぎてはならない。また賢かしこきに過すぎてはならない。あなたはどうして自分じぶんを滅ほろぼしてよかろうか。7:17 悪あくに過すぎてはならない。また愚おろかであってはならない。あなたはどうして、自分じぶんの時ときのこないのに、死しんでよかろうか。7:18 あなたがこれを執とるのはよい、また彼かれから手てを引ひいてはならない。神かみをかしこむ者ものは、このすべてからのがれ出でるのである。 7:19 知恵ちえが知者ちしゃを強つよくするのは、十人にんのつかさが町まちにおるのにまさる。 7:20 善ぜんを行おこない、罪つみを犯おかさない正ただしい人ひとは世よにいない。 7:21 人ひとの語かたるすべての事ことに心こころをとめてはならない。これはあなたが、自分じぶんのしもべのあなたをのろう言葉ことばを聞きかないためである。7:22 あなたもまた、しばしば他人たにんをのろったのを自分じぶんの心こころに知しっているからである。 7:23 わたしは知恵ちえをもってこのすべての事ことを試こころみて、「わたしは知者ちしゃとなろう」と言いったが、遠とおく及およばなかった。7:24 物事ものごとの理りは遠とおく、また、はなはだ深ふかい。だれがこれを見みいだすことができよう。7:25 わたしは、心こころを転てんじて、物ものを知しり、事ことを探さぐり、知恵ちえと道理どうりを求もとめようとし、また悪あくの愚おろかなこと、愚痴ぐちの狂気きょうきであることを知しろうとした。7:26 わたしは、その心こころが、わなと網あみのような女おんな、その手てが、かせのような女おんなは、死しよりも苦にがい者ものであることを見みいだした。神かみを喜よろこばす者ものは彼女かのじょからのがれる。しかし罪つみびとは彼女かのじょに捕とらえられる。7:27 伝道者でんどうしゃは言いう、見みよ、その数かずを知しろうとして、いちいち数かぞえて、わたしが得えたものはこれである。7:28 わたしはなおこれを求もとめたけれども、得えなかった。わたしは千人にんのうちにひとりの男子だんしを得えたけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子じょしをも得えなかった。7:29 見みよ、わたしが得えた事ことは、ただこれだけである。すなわち、神かみは人ひとを正ただしい者ものに造つくられたけれども、人ひとは多おおくの計略けいりゃくを考かんがえ出だした事ことである。 第8章 8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。 8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。 8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。 8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。 第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
4:1 わたしはまた、日ひの下したに行おこなわれるすべてのしえたげを見みた。見みよ、しえたげられる者ものの涙なみだを。彼かれらを慰なぐさめる者ものはない。しえたげる者ものの手てには権力けんりょくがある。しかし彼かれらを慰なぐさめる者ものはいない。
4:2 それで、わたしはなお生いきている生存者せいぞんしゃよりも、すでに死しんだ死者ししゃを、さいわいな者ものと思おもった。
4:3 しかし、この両者りょうしゃよりもさいわいなのは、まだ生うまれない者もので、日ひの下したに行おこなわれる悪あしきわざを見みない者ものである。
4:4 また、わたしはすべての労苦ろうくと、すべての巧たくみなわざを見みたが、これは人ひとが互たがいにねたみあってなすものである。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。
4:5 愚おろかなる者ものは手てをつかねて、自分じぶんの肉にくを食くう。
4:6 片手かたてに物ものを満みたして平穏へいおんであるのは、両手りょうてに物ものを満みたして労苦ろうくし、風かぜを捕とらえるのにまさる。
4:7 わたしはまた、日ひの下したに空くうなる事ことのあるのを見みた。
4:8 ここに人ひとがある。ひとりであって、仲なか間まもなく、子こもなく、兄弟きょうだいもない。それでも彼かれの労苦ろうくは窮きわまりなく、その目めは富とみに飽あくことがない。また彼かれは言いわない、「わたしはだれのために労ろうするのか、どうして自分じぶんを楽たのしませないのか」と。これもまた空くうであって、苦くるしいわざである。
4:9 ふたりはひとりにまさる。彼かれらはその労苦ろうくによって良よい報むくいを得えるからである。
4:10 すなわち彼かれらが倒たおれる時ときには、そのひとりがその友ともを助たすけ起おこす。しかしひとりであって、その倒たおれる時とき、これを助たすけ起おこす者もののない者ものはわざわいである。
4:11 またふたりが一緒いっしょに寝ねれば暖あたたかである。ひとりだけで、どうして暖あたたかになり得えようか。
4:12 人ひとがもし、そのひとりを攻せめ撃うったなら、ふたりで、それに当あたるであろう。三つよりの綱つなはたやすくは切きれない。
4:13 貧まずしくて賢かしこいわらべは、老おいて愚おろかで、もはや、いさめをいれることを知しらない王おうにまさる。
4:14 たとい、その王おうが獄屋ごくやから出でて、王位おういについた者ものであっても、また自分じぶんの国くにに貧まずしく生うまれて王位おういについた者ものであっても、そうである。
4:15 わたしは日ひの下したに歩あゆむすべての民たみが、かのわらべのように王おうに代かわって立たつのを見みた。
4:16 すべての民たみは果はてしがない。彼かれはそのすべての民たみを導みちびいた。しかし後のちに来くる者ものは彼かれを喜よろこばない。たしかに、これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようである。
第5章 5:1 神かみの宮みやに行ゆく時ときには、その足あしを慎つつしむがよい。近ちかよって聞きくのは愚おろかな者ものの犠牲ぎせいをささげるのにまさる。彼かれらは悪あくを行おこなっていることを知しらないからである。5:2 神かみの前まえで軽々かるがるしく口くちをひらき、また言葉ことばを出だそうと、心こころにあせってはならない。神かみは天てんにいまし、あなたは地ちにおるからである。それゆえ、あなたは言葉ことばを少すくなくせよ。 5:3 夢ゆめは仕事しごとの多おおいことによってきたり、愚おろかなる者ものの声こえは言葉ことばの多おおいことによって知しられる。 5:4 あなたは神かみに誓ちかいをなすとき、それを果はたすことを延のばしてはならない。神かみは愚おろかな者ものを喜よろこばれないからである。あなたの誓ちかったことを必かならず果はたせ。5:5 あなたが誓ちかいをして、それを果はたさないよりは、むしろ誓ちかいをしないほうがよい。5:6 あなたの口くちが、あなたに罪つみを犯おかさせないようにせよ。また使者ししゃの前まえにそれは誤あやまりであったと言いってはならない。どうして、神かみがあなたの言葉ことばを怒いかり、あなたの手てのわざを滅ほろぼしてよかろうか。 5:7 夢ゆめが多おおければ空くうなる言葉ことばも多おおい。しかし、あなたは神かみを恐おそれよ。 5:8 あなたは国くにのうちに貧まずしい者ものをしえたげ、公道こうどうと正義せいぎを曲まげることのあるのを見みても、その事ことを怪あやしんではならない。それは位くらいの高たかい人ひとよりも、さらに高たかい者ものがあって、その人ひとをうかがうからである。そしてそれらよりもなお高たかい者ものがある。5:9 しかし、要ようするに耕作こうさくした田畑たはたをもつ国くにには王おうは利益りえきである。 5:10 金銭きんせんを好このむ者ものは金銭きんせんをもって満足まんぞくしない。富とみを好このむ者ものは富とみを得えて満足まんぞくしない。これもまた空くうである。 5:11 財産ざいさんが増ませば、これを食くう者ものも増ます。その持もち主ぬしは目めにそれを見みるだけで、なんの益えきがあるか。 5:12 働はたらく者ものは食たべることが少すくなくても多おおくても、快こころよく眠ねむる。しかし飽あき足たりるほどの富とみは、彼かれに眠ねむることをゆるさない。 5:13 わたしは日ひの下したに悲かなしむべき悪あくのあるのを見みた。すなわち、富とみはこれをたくわえるその持もち主ぬしに害がいを及およぼすことである。5:14 またその富とみは不幸ふこうな出来事できごとによってうせ行いくことである。それで、その人ひとが子こをもうけても、彼かれの手てには何なにも残のこらない。5:15 彼かれは母ははの胎たいから出でてきたように、すなわち裸はだかで出でてきたように帰かえって行いく。彼かれはその労苦ろうくによって得えた何なに物ものをもその手てに携たずさえ行いくことができない。5:16 人ひとは全まったくその来きたように、また去さって行いかなければならない。これもまた悲かなしむべき悪あくである。風かぜのために労ろうする者ものになんの益えきがあるか。5:17 人ひとは一生いっしょう、暗くらやみと、悲かなしみと、多おおくの悩なやみと、病やまいと、憤いきどおりの中なかにある。 5:18 見みよ、わたしが見みたところの善ぜんかつ美びなる事ことは、神かみから賜たまわった短みじかい一生いっしょうの間あいだ、食くい、飲のみ、かつ日ひの下したで労ろうするすべての労苦ろうくによって、楽たのしみを得える事ことである。これがその分ぶんだからである。5:19 また神かみはすべての人ひとに富とみと宝たからと、それを楽たのしむ力ちからを与あたえ、またその分ぶんを取とらせ、その労苦ろうくによって楽たのしみを得えさせられる。これが神かみの賜物たまものである。 5:20 このような人ひとは自分じぶんの生いきる日ひのことを多おおく思おもわない。神かみは喜よろこびをもって彼かれの心こころを満みたされるからである。 第6章 6:1 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。これは人々ひとびとの上うえに重おもい。6:2 すなわち神かみは富とみと、財産ざいさんと、誉ほまれとを人ひとに与あたえて、その心こころに慕したうものを、一つも欠かけることのないようにされる。しかし神かみは、その人ひとにこれを持もつことを許ゆるされないで、他人たにんがこれを持もつようになる。これは空くうである。悪あしき病やまいである。6:3 たとい人ひとは百人にんの子こをもうけ、また命いのち長ながく、そのよわいの日ひが多おおくても、その心こころが幸福こうふくに満足まんぞくせず、また葬ほうむられることがなければ、わたしは言いう、流産りゅうざんの子こはその人ひとにまさると。6:4 これはむなしく来きて、暗くらやみの中なかに去さって行いき、その名なは暗くらやみにおおわれる。6:5 またこれは日ひを見みず、物ものを知しらない。けれどもこれは彼かれよりも安やすらかである。6:6 たとい彼かれは千年ねんに倍ばいするほど生いきても幸福こうふくを見みない。みな一ひとつ所ところに行いくのではないか。 6:7 人ひとの労苦ろうくは皆みな、その口くちのためである。しかしその食欲しょくよくは満みたされない。6:8 賢かしこい者ものは愚おろかな者ものになんのまさるところがあるか。また生いける者ものの前まえに歩あゆむことを知しる貧まずしい者ものもなんのまさるところがあるか。6:9 目めに見みる事ことは欲望よくぼうのさまよい歩あるくにまさる。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものである。 6:10 今いまあるものは、すでにその名ながつけられた。そして人ひとはいかなる者ものであるかは知しられた。それで人ひとは自分じぶんよりも力強ちからづよい者ものと争あらそうことはできない。6:11 言葉ことばが多おおければむなしい事ことも多おおい。人ひとになんの益えきがあるか。 6:12 人ひとはその短みじかく、むなしい命いのちの日ひを影かげのように送おくるのに、何なにが人ひとのために善ぜんであるかを知しることができよう。だれがその身みの後のちに、日ひの下したに何なにがあるであろうかを人ひとに告つげることができるか。 第7章 7:1 良よき名なは良よき油あぶらにまさり、死しぬる日ひは生うまるる日ひにまさる。7:2 悲かなしみの家いえにはいるのは、宴会えんかいの家いえにはいるのにまさる。死しはすべての人ひとの終おわりだからである。生いきている者ものは、これを心こころにとめる。7:3 悲かなしみは笑わらいにまさる。顔かおに憂うれいをもつことによって、心こころは良よくなるからである。7:4 賢かしこい者ものの心こころは悲かなしみの家いえにあり、愚おろかな者ものの心こころは楽たのしみの家いえにある。7:5 賢かしこい者ものの戒いましめを聞きくのは、愚おろかな者ものの歌うたを聞きくのにまさる。7:6 愚おろかな者ものの笑わらいはかまの下したに燃もえるいばらの音おとのようである。これもまた空くうである。7:7 たしかに、しえたげは賢かしこい人ひとを愚おろかにし、まいないは人ひとの心こころをそこなう。7:8 事ことの終おわりはその初はじめよりも良よい。耐たえ忍しのぶ心こころは、おごり高たかぶる心こころにまさる。7:9 気きをせきたてて怒いかるな。怒いかりは愚おろかな者ものの胸むねに宿やどるからである。7:10 「昔むかしが今いまよりもよかったのはなぜか」と言いうな。あなたがこれを問とうのは知恵ちえから出でるのではない。7:11 知恵ちえに財産ざいさんが伴ともなうのは良よい。それは日ひを見みる者ものどもに益えきがある。7:12 知恵ちえが身みを守まもるのは、金銭きんせんが身みを守まもるようである。しかし、知恵ちえはこれを持もつ者ものに生命せいめいを保たもたせる。これが知識ちしきのすぐれた所ところである。7:13 神かみのみわざを考かんがえみよ。神かみの曲まげられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。7:14 順境じゅんきょうの日ひには楽たのしめ、逆境ぎゃっきょうの日ひには考かんがえよ。神かみは人ひとに将来しょうらいどういう事ことがあるかを、知しらせないために、彼かれとこれとを等ひとしく造つくられたのである。 7:15 わたしはこのむなしい人生じんせいにおいて、もろもろの事ことを見みた。そこには義人ぎじんがその義ぎによって滅ほろびることがあり、悪人あくにんがその悪あくによって長生ながいきすることがある。7:16 あなたは義ぎに過すぎてはならない。また賢かしこきに過すぎてはならない。あなたはどうして自分じぶんを滅ほろぼしてよかろうか。7:17 悪あくに過すぎてはならない。また愚おろかであってはならない。あなたはどうして、自分じぶんの時ときのこないのに、死しんでよかろうか。7:18 あなたがこれを執とるのはよい、また彼かれから手てを引ひいてはならない。神かみをかしこむ者ものは、このすべてからのがれ出でるのである。 7:19 知恵ちえが知者ちしゃを強つよくするのは、十人にんのつかさが町まちにおるのにまさる。 7:20 善ぜんを行おこない、罪つみを犯おかさない正ただしい人ひとは世よにいない。 7:21 人ひとの語かたるすべての事ことに心こころをとめてはならない。これはあなたが、自分じぶんのしもべのあなたをのろう言葉ことばを聞きかないためである。7:22 あなたもまた、しばしば他人たにんをのろったのを自分じぶんの心こころに知しっているからである。 7:23 わたしは知恵ちえをもってこのすべての事ことを試こころみて、「わたしは知者ちしゃとなろう」と言いったが、遠とおく及およばなかった。7:24 物事ものごとの理りは遠とおく、また、はなはだ深ふかい。だれがこれを見みいだすことができよう。7:25 わたしは、心こころを転てんじて、物ものを知しり、事ことを探さぐり、知恵ちえと道理どうりを求もとめようとし、また悪あくの愚おろかなこと、愚痴ぐちの狂気きょうきであることを知しろうとした。7:26 わたしは、その心こころが、わなと網あみのような女おんな、その手てが、かせのような女おんなは、死しよりも苦にがい者ものであることを見みいだした。神かみを喜よろこばす者ものは彼女かのじょからのがれる。しかし罪つみびとは彼女かのじょに捕とらえられる。7:27 伝道者でんどうしゃは言いう、見みよ、その数かずを知しろうとして、いちいち数かぞえて、わたしが得えたものはこれである。7:28 わたしはなおこれを求もとめたけれども、得えなかった。わたしは千人にんのうちにひとりの男子だんしを得えたけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子じょしをも得えなかった。7:29 見みよ、わたしが得えた事ことは、ただこれだけである。すなわち、神かみは人ひとを正ただしい者ものに造つくられたけれども、人ひとは多おおくの計略けいりゃくを考かんがえ出だした事ことである。 第8章 8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。 8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。 8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。 8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。 第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
5:1 神かみの宮みやに行ゆく時ときには、その足あしを慎つつしむがよい。近ちかよって聞きくのは愚おろかな者ものの犠牲ぎせいをささげるのにまさる。彼かれらは悪あくを行おこなっていることを知しらないからである。
5:2 神かみの前まえで軽々かるがるしく口くちをひらき、また言葉ことばを出だそうと、心こころにあせってはならない。神かみは天てんにいまし、あなたは地ちにおるからである。それゆえ、あなたは言葉ことばを少すくなくせよ。
5:3 夢ゆめは仕事しごとの多おおいことによってきたり、愚おろかなる者ものの声こえは言葉ことばの多おおいことによって知しられる。
5:4 あなたは神かみに誓ちかいをなすとき、それを果はたすことを延のばしてはならない。神かみは愚おろかな者ものを喜よろこばれないからである。あなたの誓ちかったことを必かならず果はたせ。
5:5 あなたが誓ちかいをして、それを果はたさないよりは、むしろ誓ちかいをしないほうがよい。
5:6 あなたの口くちが、あなたに罪つみを犯おかさせないようにせよ。また使者ししゃの前まえにそれは誤あやまりであったと言いってはならない。どうして、神かみがあなたの言葉ことばを怒いかり、あなたの手てのわざを滅ほろぼしてよかろうか。
5:7 夢ゆめが多おおければ空くうなる言葉ことばも多おおい。しかし、あなたは神かみを恐おそれよ。
5:8 あなたは国くにのうちに貧まずしい者ものをしえたげ、公道こうどうと正義せいぎを曲まげることのあるのを見みても、その事ことを怪あやしんではならない。それは位くらいの高たかい人ひとよりも、さらに高たかい者ものがあって、その人ひとをうかがうからである。そしてそれらよりもなお高たかい者ものがある。
5:9 しかし、要ようするに耕作こうさくした田畑たはたをもつ国くにには王おうは利益りえきである。
5:10 金銭きんせんを好このむ者ものは金銭きんせんをもって満足まんぞくしない。富とみを好このむ者ものは富とみを得えて満足まんぞくしない。これもまた空くうである。
5:11 財産ざいさんが増ませば、これを食くう者ものも増ます。その持もち主ぬしは目めにそれを見みるだけで、なんの益えきがあるか。
5:12 働はたらく者ものは食たべることが少すくなくても多おおくても、快こころよく眠ねむる。しかし飽あき足たりるほどの富とみは、彼かれに眠ねむることをゆるさない。
5:13 わたしは日ひの下したに悲かなしむべき悪あくのあるのを見みた。すなわち、富とみはこれをたくわえるその持もち主ぬしに害がいを及およぼすことである。
5:14 またその富とみは不幸ふこうな出来事できごとによってうせ行いくことである。それで、その人ひとが子こをもうけても、彼かれの手てには何なにも残のこらない。
5:15 彼かれは母ははの胎たいから出でてきたように、すなわち裸はだかで出でてきたように帰かえって行いく。彼かれはその労苦ろうくによって得えた何なに物ものをもその手てに携たずさえ行いくことができない。
5:16 人ひとは全まったくその来きたように、また去さって行いかなければならない。これもまた悲かなしむべき悪あくである。風かぜのために労ろうする者ものになんの益えきがあるか。
5:17 人ひとは一生いっしょう、暗くらやみと、悲かなしみと、多おおくの悩なやみと、病やまいと、憤いきどおりの中なかにある。
5:18 見みよ、わたしが見みたところの善ぜんかつ美びなる事ことは、神かみから賜たまわった短みじかい一生いっしょうの間あいだ、食くい、飲のみ、かつ日ひの下したで労ろうするすべての労苦ろうくによって、楽たのしみを得える事ことである。これがその分ぶんだからである。
5:19 また神かみはすべての人ひとに富とみと宝たからと、それを楽たのしむ力ちからを与あたえ、またその分ぶんを取とらせ、その労苦ろうくによって楽たのしみを得えさせられる。これが神かみの賜物たまものである。
5:20 このような人ひとは自分じぶんの生いきる日ひのことを多おおく思おもわない。神かみは喜よろこびをもって彼かれの心こころを満みたされるからである。
第6章 6:1 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。これは人々ひとびとの上うえに重おもい。6:2 すなわち神かみは富とみと、財産ざいさんと、誉ほまれとを人ひとに与あたえて、その心こころに慕したうものを、一つも欠かけることのないようにされる。しかし神かみは、その人ひとにこれを持もつことを許ゆるされないで、他人たにんがこれを持もつようになる。これは空くうである。悪あしき病やまいである。6:3 たとい人ひとは百人にんの子こをもうけ、また命いのち長ながく、そのよわいの日ひが多おおくても、その心こころが幸福こうふくに満足まんぞくせず、また葬ほうむられることがなければ、わたしは言いう、流産りゅうざんの子こはその人ひとにまさると。6:4 これはむなしく来きて、暗くらやみの中なかに去さって行いき、その名なは暗くらやみにおおわれる。6:5 またこれは日ひを見みず、物ものを知しらない。けれどもこれは彼かれよりも安やすらかである。6:6 たとい彼かれは千年ねんに倍ばいするほど生いきても幸福こうふくを見みない。みな一ひとつ所ところに行いくのではないか。 6:7 人ひとの労苦ろうくは皆みな、その口くちのためである。しかしその食欲しょくよくは満みたされない。6:8 賢かしこい者ものは愚おろかな者ものになんのまさるところがあるか。また生いける者ものの前まえに歩あゆむことを知しる貧まずしい者ものもなんのまさるところがあるか。6:9 目めに見みる事ことは欲望よくぼうのさまよい歩あるくにまさる。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものである。 6:10 今いまあるものは、すでにその名ながつけられた。そして人ひとはいかなる者ものであるかは知しられた。それで人ひとは自分じぶんよりも力強ちからづよい者ものと争あらそうことはできない。6:11 言葉ことばが多おおければむなしい事ことも多おおい。人ひとになんの益えきがあるか。 6:12 人ひとはその短みじかく、むなしい命いのちの日ひを影かげのように送おくるのに、何なにが人ひとのために善ぜんであるかを知しることができよう。だれがその身みの後のちに、日ひの下したに何なにがあるであろうかを人ひとに告つげることができるか。 第7章 7:1 良よき名なは良よき油あぶらにまさり、死しぬる日ひは生うまるる日ひにまさる。7:2 悲かなしみの家いえにはいるのは、宴会えんかいの家いえにはいるのにまさる。死しはすべての人ひとの終おわりだからである。生いきている者ものは、これを心こころにとめる。7:3 悲かなしみは笑わらいにまさる。顔かおに憂うれいをもつことによって、心こころは良よくなるからである。7:4 賢かしこい者ものの心こころは悲かなしみの家いえにあり、愚おろかな者ものの心こころは楽たのしみの家いえにある。7:5 賢かしこい者ものの戒いましめを聞きくのは、愚おろかな者ものの歌うたを聞きくのにまさる。7:6 愚おろかな者ものの笑わらいはかまの下したに燃もえるいばらの音おとのようである。これもまた空くうである。7:7 たしかに、しえたげは賢かしこい人ひとを愚おろかにし、まいないは人ひとの心こころをそこなう。7:8 事ことの終おわりはその初はじめよりも良よい。耐たえ忍しのぶ心こころは、おごり高たかぶる心こころにまさる。7:9 気きをせきたてて怒いかるな。怒いかりは愚おろかな者ものの胸むねに宿やどるからである。7:10 「昔むかしが今いまよりもよかったのはなぜか」と言いうな。あなたがこれを問とうのは知恵ちえから出でるのではない。7:11 知恵ちえに財産ざいさんが伴ともなうのは良よい。それは日ひを見みる者ものどもに益えきがある。7:12 知恵ちえが身みを守まもるのは、金銭きんせんが身みを守まもるようである。しかし、知恵ちえはこれを持もつ者ものに生命せいめいを保たもたせる。これが知識ちしきのすぐれた所ところである。7:13 神かみのみわざを考かんがえみよ。神かみの曲まげられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。7:14 順境じゅんきょうの日ひには楽たのしめ、逆境ぎゃっきょうの日ひには考かんがえよ。神かみは人ひとに将来しょうらいどういう事ことがあるかを、知しらせないために、彼かれとこれとを等ひとしく造つくられたのである。 7:15 わたしはこのむなしい人生じんせいにおいて、もろもろの事ことを見みた。そこには義人ぎじんがその義ぎによって滅ほろびることがあり、悪人あくにんがその悪あくによって長生ながいきすることがある。7:16 あなたは義ぎに過すぎてはならない。また賢かしこきに過すぎてはならない。あなたはどうして自分じぶんを滅ほろぼしてよかろうか。7:17 悪あくに過すぎてはならない。また愚おろかであってはならない。あなたはどうして、自分じぶんの時ときのこないのに、死しんでよかろうか。7:18 あなたがこれを執とるのはよい、また彼かれから手てを引ひいてはならない。神かみをかしこむ者ものは、このすべてからのがれ出でるのである。 7:19 知恵ちえが知者ちしゃを強つよくするのは、十人にんのつかさが町まちにおるのにまさる。 7:20 善ぜんを行おこない、罪つみを犯おかさない正ただしい人ひとは世よにいない。 7:21 人ひとの語かたるすべての事ことに心こころをとめてはならない。これはあなたが、自分じぶんのしもべのあなたをのろう言葉ことばを聞きかないためである。7:22 あなたもまた、しばしば他人たにんをのろったのを自分じぶんの心こころに知しっているからである。 7:23 わたしは知恵ちえをもってこのすべての事ことを試こころみて、「わたしは知者ちしゃとなろう」と言いったが、遠とおく及およばなかった。7:24 物事ものごとの理りは遠とおく、また、はなはだ深ふかい。だれがこれを見みいだすことができよう。7:25 わたしは、心こころを転てんじて、物ものを知しり、事ことを探さぐり、知恵ちえと道理どうりを求もとめようとし、また悪あくの愚おろかなこと、愚痴ぐちの狂気きょうきであることを知しろうとした。7:26 わたしは、その心こころが、わなと網あみのような女おんな、その手てが、かせのような女おんなは、死しよりも苦にがい者ものであることを見みいだした。神かみを喜よろこばす者ものは彼女かのじょからのがれる。しかし罪つみびとは彼女かのじょに捕とらえられる。7:27 伝道者でんどうしゃは言いう、見みよ、その数かずを知しろうとして、いちいち数かぞえて、わたしが得えたものはこれである。7:28 わたしはなおこれを求もとめたけれども、得えなかった。わたしは千人にんのうちにひとりの男子だんしを得えたけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子じょしをも得えなかった。7:29 見みよ、わたしが得えた事ことは、ただこれだけである。すなわち、神かみは人ひとを正ただしい者ものに造つくられたけれども、人ひとは多おおくの計略けいりゃくを考かんがえ出だした事ことである。 第8章 8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。 8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。 8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。 8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。 第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
6:1 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。これは人々ひとびとの上うえに重おもい。
6:2 すなわち神かみは富とみと、財産ざいさんと、誉ほまれとを人ひとに与あたえて、その心こころに慕したうものを、一つも欠かけることのないようにされる。しかし神かみは、その人ひとにこれを持もつことを許ゆるされないで、他人たにんがこれを持もつようになる。これは空くうである。悪あしき病やまいである。
6:3 たとい人ひとは百人にんの子こをもうけ、また命いのち長ながく、そのよわいの日ひが多おおくても、その心こころが幸福こうふくに満足まんぞくせず、また葬ほうむられることがなければ、わたしは言いう、流産りゅうざんの子こはその人ひとにまさると。
6:4 これはむなしく来きて、暗くらやみの中なかに去さって行いき、その名なは暗くらやみにおおわれる。
6:5 またこれは日ひを見みず、物ものを知しらない。けれどもこれは彼かれよりも安やすらかである。
6:6 たとい彼かれは千年ねんに倍ばいするほど生いきても幸福こうふくを見みない。みな一ひとつ所ところに行いくのではないか。
6:7 人ひとの労苦ろうくは皆みな、その口くちのためである。しかしその食欲しょくよくは満みたされない。
6:8 賢かしこい者ものは愚おろかな者ものになんのまさるところがあるか。また生いける者ものの前まえに歩あゆむことを知しる貧まずしい者ものもなんのまさるところがあるか。
6:9 目めに見みる事ことは欲望よくぼうのさまよい歩あるくにまさる。これもまた空くうであって、風かぜを捕とらえるようなものである。
6:10 今いまあるものは、すでにその名ながつけられた。そして人ひとはいかなる者ものであるかは知しられた。それで人ひとは自分じぶんよりも力強ちからづよい者ものと争あらそうことはできない。
6:11 言葉ことばが多おおければむなしい事ことも多おおい。人ひとになんの益えきがあるか。
6:12 人ひとはその短みじかく、むなしい命いのちの日ひを影かげのように送おくるのに、何なにが人ひとのために善ぜんであるかを知しることができよう。だれがその身みの後のちに、日ひの下したに何なにがあるであろうかを人ひとに告つげることができるか。
第7章 7:1 良よき名なは良よき油あぶらにまさり、死しぬる日ひは生うまるる日ひにまさる。7:2 悲かなしみの家いえにはいるのは、宴会えんかいの家いえにはいるのにまさる。死しはすべての人ひとの終おわりだからである。生いきている者ものは、これを心こころにとめる。7:3 悲かなしみは笑わらいにまさる。顔かおに憂うれいをもつことによって、心こころは良よくなるからである。7:4 賢かしこい者ものの心こころは悲かなしみの家いえにあり、愚おろかな者ものの心こころは楽たのしみの家いえにある。7:5 賢かしこい者ものの戒いましめを聞きくのは、愚おろかな者ものの歌うたを聞きくのにまさる。7:6 愚おろかな者ものの笑わらいはかまの下したに燃もえるいばらの音おとのようである。これもまた空くうである。7:7 たしかに、しえたげは賢かしこい人ひとを愚おろかにし、まいないは人ひとの心こころをそこなう。7:8 事ことの終おわりはその初はじめよりも良よい。耐たえ忍しのぶ心こころは、おごり高たかぶる心こころにまさる。7:9 気きをせきたてて怒いかるな。怒いかりは愚おろかな者ものの胸むねに宿やどるからである。7:10 「昔むかしが今いまよりもよかったのはなぜか」と言いうな。あなたがこれを問とうのは知恵ちえから出でるのではない。7:11 知恵ちえに財産ざいさんが伴ともなうのは良よい。それは日ひを見みる者ものどもに益えきがある。7:12 知恵ちえが身みを守まもるのは、金銭きんせんが身みを守まもるようである。しかし、知恵ちえはこれを持もつ者ものに生命せいめいを保たもたせる。これが知識ちしきのすぐれた所ところである。7:13 神かみのみわざを考かんがえみよ。神かみの曲まげられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。7:14 順境じゅんきょうの日ひには楽たのしめ、逆境ぎゃっきょうの日ひには考かんがえよ。神かみは人ひとに将来しょうらいどういう事ことがあるかを、知しらせないために、彼かれとこれとを等ひとしく造つくられたのである。 7:15 わたしはこのむなしい人生じんせいにおいて、もろもろの事ことを見みた。そこには義人ぎじんがその義ぎによって滅ほろびることがあり、悪人あくにんがその悪あくによって長生ながいきすることがある。7:16 あなたは義ぎに過すぎてはならない。また賢かしこきに過すぎてはならない。あなたはどうして自分じぶんを滅ほろぼしてよかろうか。7:17 悪あくに過すぎてはならない。また愚おろかであってはならない。あなたはどうして、自分じぶんの時ときのこないのに、死しんでよかろうか。7:18 あなたがこれを執とるのはよい、また彼かれから手てを引ひいてはならない。神かみをかしこむ者ものは、このすべてからのがれ出でるのである。 7:19 知恵ちえが知者ちしゃを強つよくするのは、十人にんのつかさが町まちにおるのにまさる。 7:20 善ぜんを行おこない、罪つみを犯おかさない正ただしい人ひとは世よにいない。 7:21 人ひとの語かたるすべての事ことに心こころをとめてはならない。これはあなたが、自分じぶんのしもべのあなたをのろう言葉ことばを聞きかないためである。7:22 あなたもまた、しばしば他人たにんをのろったのを自分じぶんの心こころに知しっているからである。 7:23 わたしは知恵ちえをもってこのすべての事ことを試こころみて、「わたしは知者ちしゃとなろう」と言いったが、遠とおく及およばなかった。7:24 物事ものごとの理りは遠とおく、また、はなはだ深ふかい。だれがこれを見みいだすことができよう。7:25 わたしは、心こころを転てんじて、物ものを知しり、事ことを探さぐり、知恵ちえと道理どうりを求もとめようとし、また悪あくの愚おろかなこと、愚痴ぐちの狂気きょうきであることを知しろうとした。7:26 わたしは、その心こころが、わなと網あみのような女おんな、その手てが、かせのような女おんなは、死しよりも苦にがい者ものであることを見みいだした。神かみを喜よろこばす者ものは彼女かのじょからのがれる。しかし罪つみびとは彼女かのじょに捕とらえられる。7:27 伝道者でんどうしゃは言いう、見みよ、その数かずを知しろうとして、いちいち数かぞえて、わたしが得えたものはこれである。7:28 わたしはなおこれを求もとめたけれども、得えなかった。わたしは千人にんのうちにひとりの男子だんしを得えたけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子じょしをも得えなかった。7:29 見みよ、わたしが得えた事ことは、ただこれだけである。すなわち、神かみは人ひとを正ただしい者ものに造つくられたけれども、人ひとは多おおくの計略けいりゃくを考かんがえ出だした事ことである。 第8章 8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。 8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。 8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。 8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。 第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
7:1 良よき名なは良よき油あぶらにまさり、死しぬる日ひは生うまるる日ひにまさる。
7:2 悲かなしみの家いえにはいるのは、宴会えんかいの家いえにはいるのにまさる。死しはすべての人ひとの終おわりだからである。生いきている者ものは、これを心こころにとめる。
7:3 悲かなしみは笑わらいにまさる。顔かおに憂うれいをもつことによって、心こころは良よくなるからである。
7:4 賢かしこい者ものの心こころは悲かなしみの家いえにあり、愚おろかな者ものの心こころは楽たのしみの家いえにある。
7:5 賢かしこい者ものの戒いましめを聞きくのは、愚おろかな者ものの歌うたを聞きくのにまさる。
7:6 愚おろかな者ものの笑わらいはかまの下したに燃もえるいばらの音おとのようである。これもまた空くうである。
7:7 たしかに、しえたげは賢かしこい人ひとを愚おろかにし、まいないは人ひとの心こころをそこなう。
7:8 事ことの終おわりはその初はじめよりも良よい。耐たえ忍しのぶ心こころは、おごり高たかぶる心こころにまさる。
7:9 気きをせきたてて怒いかるな。怒いかりは愚おろかな者ものの胸むねに宿やどるからである。
7:10 「昔むかしが今いまよりもよかったのはなぜか」と言いうな。あなたがこれを問とうのは知恵ちえから出でるのではない。
7:11 知恵ちえに財産ざいさんが伴ともなうのは良よい。それは日ひを見みる者ものどもに益えきがある。
7:12 知恵ちえが身みを守まもるのは、金銭きんせんが身みを守まもるようである。しかし、知恵ちえはこれを持もつ者ものに生命せいめいを保たもたせる。これが知識ちしきのすぐれた所ところである。
7:13 神かみのみわざを考かんがえみよ。神かみの曲まげられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。
7:14 順境じゅんきょうの日ひには楽たのしめ、逆境ぎゃっきょうの日ひには考かんがえよ。神かみは人ひとに将来しょうらいどういう事ことがあるかを、知しらせないために、彼かれとこれとを等ひとしく造つくられたのである。
7:15 わたしはこのむなしい人生じんせいにおいて、もろもろの事ことを見みた。そこには義人ぎじんがその義ぎによって滅ほろびることがあり、悪人あくにんがその悪あくによって長生ながいきすることがある。
7:16 あなたは義ぎに過すぎてはならない。また賢かしこきに過すぎてはならない。あなたはどうして自分じぶんを滅ほろぼしてよかろうか。
7:17 悪あくに過すぎてはならない。また愚おろかであってはならない。あなたはどうして、自分じぶんの時ときのこないのに、死しんでよかろうか。
7:18 あなたがこれを執とるのはよい、また彼かれから手てを引ひいてはならない。神かみをかしこむ者ものは、このすべてからのがれ出でるのである。
7:19 知恵ちえが知者ちしゃを強つよくするのは、十人にんのつかさが町まちにおるのにまさる。
7:20 善ぜんを行おこない、罪つみを犯おかさない正ただしい人ひとは世よにいない。
7:21 人ひとの語かたるすべての事ことに心こころをとめてはならない。これはあなたが、自分じぶんのしもべのあなたをのろう言葉ことばを聞きかないためである。
7:22 あなたもまた、しばしば他人たにんをのろったのを自分じぶんの心こころに知しっているからである。
7:23 わたしは知恵ちえをもってこのすべての事ことを試こころみて、「わたしは知者ちしゃとなろう」と言いったが、遠とおく及およばなかった。
7:24 物事ものごとの理りは遠とおく、また、はなはだ深ふかい。だれがこれを見みいだすことができよう。
7:25 わたしは、心こころを転てんじて、物ものを知しり、事ことを探さぐり、知恵ちえと道理どうりを求もとめようとし、また悪あくの愚おろかなこと、愚痴ぐちの狂気きょうきであることを知しろうとした。
7:26 わたしは、その心こころが、わなと網あみのような女おんな、その手てが、かせのような女おんなは、死しよりも苦にがい者ものであることを見みいだした。神かみを喜よろこばす者ものは彼女かのじょからのがれる。しかし罪つみびとは彼女かのじょに捕とらえられる。
7:27 伝道者でんどうしゃは言いう、見みよ、その数かずを知しろうとして、いちいち数かぞえて、わたしが得えたものはこれである。
7:28 わたしはなおこれを求もとめたけれども、得えなかった。わたしは千人にんのうちにひとりの男子だんしを得えたけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子じょしをも得えなかった。
7:29 見みよ、わたしが得えた事ことは、ただこれだけである。すなわち、神かみは人ひとを正ただしい者ものに造つくられたけれども、人ひとは多おおくの計略けいりゃくを考かんがえ出だした事ことである。
第8章 8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。 8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。 8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。 8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。 第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
8:1 だれが知者ちしゃのようになり得えよう。だれが事ことの意義いぎを知しり得えよう。人ひとの知恵ちえはその人ひとの顔かおを輝かがやかせ、またその粗暴そぼうな顔かおを変かえる。
8:2 王おうの命めいを守まもれ。すでに神かみをさして誓ちかったことゆえ、驚おどろくな。
8:3 事ことが悪わるい時ときは、王おうの前まえを去され、ためらうな。彼かれはすべてその好このむところをなすからである。
8:4 王おうの言葉ことばは決定的けっていてきである。だれが彼かれに「あなたは何なにをするのか」と言いうことができようか。
8:5 命令めいれいを守まもる者ものは災わざわいにあわない。知者ちしゃの心こころは時ときと方法ほうほうをわきまえている。
8:6 人ひとの悪あくが彼かれの上うえに重おもくても、すべてのわざには時ときと方法ほうほうがある。
8:7 後のちに起おこる事ことを知しる者ものはない。どんな事ことが起おこるかをだれが彼かれに告つげ得えよう。
8:8 風かぜをとどめる力ちからをもつ人ひとはない。また死しの日ひをつかさどるものはない。戦たたかいには免除めんじょはない。また悪あくはこれを行おこなう者ものを救すくうことができない。
8:9 わたしはこのすべての事ことを見みた。また日ひの下したに行おこなわれるもろもろのわざに心こころを用もちいた。時ときとしてはこの人ひとが、かの人ひとを治おさめて、これに害がいをこうむらせることがある。
8:10 またわたしは悪人あくにんの葬ほうむられるのを見みた。彼かれらはいつも聖所せいじょに出入でいりし、それを行おこなったその町まちでほめられた。これもまた空くうである。
8:11 悪あしきわざに対たいする判決はんけつがすみやかに行おこなわれないために、人ひとの子こらの心こころはもっぱら悪あくを行おこなうことに傾かたむいている。
8:12 罪つみびとで百度ど悪あくをなして、なお長生ながいきするものがあるけれども、神かみをかしこみ、み前まえに恐おそれをいだく者ものには幸福こうふくがあることを、わたしは知しっている。
8:13 しかし悪人あくにんには幸福こうふくがない。またその命いのちは影かげのようであって長ながくは続つづかない。彼かれは神かみの前まえに恐おそれをいだかないからである。
8:14 地ちの上うえに空くうな事ことが行おこなわれている。すなわち、義人ぎじんであって、悪人あくにんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。また、悪人あくにんであって、義人ぎじんに臨のぞむべき事ことが、その身みに臨のぞむ者ものがある。わたしは言いった、これもまた空くうであると。
8:15 そこで、わたしは歓楽かんらくをたたえる。それは日ひの下したでは、人ひとにとって、食くい、飲のみ、楽たのしむよりほかに良よい事ことはないからである。これこそは日ひの下したで、神かみが賜たまわった命いのちの日ひの間あいだ、その勤労きんろうによってその身みに伴ともなうものである。
8:16 わたしは心こころをつくして知恵ちえを知しろうとし、また地上ちじょうに行おこなわれるわざを昼ひるも夜よるも眠ねむらずに窮きわめようとしたとき、
8:17 わたしは神かみのもろもろのわざを見みたが、人ひとは日ひの下したに行おこなわれるわざを窮きわめることはできない。人ひとはこれを尋たずねようと労ろうしても、これを窮きわめることはできない。また、たとい知者ちしゃがあって、これを知しろうと思おもっても、これを窮きわめることはできないのである。
第9章 9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。 9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。 9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。 9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。 9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。 9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。 9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。 9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。 第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
9:1 わたしはこのすべての事ことに心こころを用もちいて、このすべての事ことを明あきらかにしようとした。すなわち正ただしい者ものと賢かしこい者もの、および彼かれらのわざが、神かみの手てにあることを明あきらかにしようとした。愛あいするか憎にくむかは人ひとにはわからない。彼かれらの前まえにあるすべてのことは空くうである。
9:2 すべての人ひとに臨のぞむところは、みな同様どうようである。正ただしい者ものにも正ただしくない者ものにも、善良ぜんりょうな者ものにも悪わるい者ものにも、清きよい者ものにも汚けがれた者ものにも、犠牲ぎせいをささげる者ものにも、犠牲ぎせいをささげない者ものにも、その臨のぞむところは同様どうようである。善良ぜんりょうな人ひとも罪つみびとも異ことなることはない。誓ちかいをなす者ものも、誓ちかいをなすことを恐おそれる者ものも異ことなることはない。
9:3 すべての人ひとに同一どういつに臨のぞむのは、日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことのうちの悪事あくじである。また人ひとの心こころは悪あくに満みち、その生いきている間あいだは、狂気きょうきがその心こころのうちにあり、その後のちは死者ししゃのもとに行いくのである。
9:4 すべて生いける者ものに連つらなる者ものには望のぞみがある。生いける犬いぬは、死しせるししにまさるからである。
9:5 生いきている者ものは死しぬべき事ことを知しっている。しかし死者ししゃは何事なにごとをも知しらない、また、もはや報むくいを受うけることもない。その記憶きおくに残のこる事ことがらさえも、ついに忘わすれられる。
9:6 その愛あいも、憎にくしみも、ねたみも、すでに消きえうせて、彼かれらはもはや日ひの下したに行おこなわれるすべての事ことに、永久えいきゅうにかかわることがない。
9:7 あなたは行いって、喜よろこびをもってあなたのパンを食たべ、楽たのしい心こころをもってあなたの酒さけを飲のむがよい。神かみはすでに、あなたのわざをよみせられたからである。
9:8 あなたの衣ころもを常つねに白しろくせよ。あなたの頭あたまに油あぶらを絶たやすな。
9:9 日ひの下したで神かみから賜たまわったあなたの空くうなる命いのちの日ひの間あいだ、あなたはその愛あいする妻つまと共ともに楽たのしく暮くらすがよい。これはあなたが世よにあってうける分ぶん、あなたが日ひの下したで労ろうする労苦ろうくによって得えるものだからである。
9:10 すべてあなたの手てのなしうる事ことは、力ちからをつくしてなせ。あなたの行いく陰府よみには、わざも、計略けいりゃくも、知識ちしきも、知恵ちえもないからである。
9:11 わたしはまた日ひの下したを見みたが、必かならずしも速はやい者ものが競走きょうそうに勝かつのではなく、強つよい者ものが戦たたかいに勝かつのでもない。また賢かしこい者ものがパンを得えるのでもなく、さとき者ものが富とみを得えるのでもない。また知識ちしきある者ものが恵めぐみを得えるのでもない。しかし時ときと災難さいなんはすべての人ひとに臨のぞむ。
9:12 人ひとはその時ときを知しらない。魚うおがわざわいの網あみにかかり、鳥とりがわなにかかるように、人ひとの子こらもわざわいの時ときが突然とつぜん彼かれらに臨のぞむ時とき、それにかかるのである。
9:13 またわたしは日ひの下したにこのような知恵ちえの例れいを見みた。これはわたしにとって大おおきな事ことである。
9:14 ここに一つの小ちいさい町まちがあって、そこに住すむ人ひとは少すくなかったが、大おおいなる王おうが攻せめて来きて、これを囲かこみ、これに向むかって大おおきな雲梯うんていを建たてた。
9:15 しかし、町まちのうちにひとりの貧まずしい知恵ちえのある人ひとがいて、その知恵ちえをもって町まちを救すくった。ところがだれひとり、その貧まずしい人ひとを記憶きおくする者ものがなかった。
9:16 そこでわたしは言いう、「知恵ちえは力ちからにまさる。しかしかの貧まずしい人ひとの知恵ちえは軽かろんぜられ、その言葉ことばは聞きかれなかった」。
9:17 静しずかに聞きかれる知者ちしゃの言葉ことばは、愚おろかな者ものの中なかのつかさたる者ものの叫さけびにまさる。
9:18 知恵ちえは戦たたかいの武器ぶきにまさる。しかし、ひとりの罪つみびとは多おおくの良よきわざを滅ほろぼす。
第10章 10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。 10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。 10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。 第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
10:1 死しんだはえは、香料こうりょうを造つくる者もののあぶらを臭くさくし、少すこしの愚痴ぐちは知恵ちえと誉ほまれよりも重おもい。
10:2 知者ちしゃの心こころは彼かれを右みぎに向むけさせ、愚者ぐしゃの心こころは左ひだりに向むけさせる。
10:3 愚者ぐしゃは道みちを行いく時とき、思慮しりょが足たりない、自分じぶんの愚おろかなことをすべての人ひとに告つげる。
10:4 つかさたる者ものがあなたに向むかって立腹りっぷくしても、あなたの所ところを離はなれてはならない。温順おんじゅんは大おおいなるとがを和やわらげるからである。
10:5 わたしは日ひの下したに一つの悪あくのあるのを見みた。それはつかさたる者ものから出でるあやまちに似にている。
10:6 すなわち愚おろかなる者ものが高たかい地位ちいに置おかれ、富とめる者ものが卑いやしい所ところに座ざしている。
10:7 わたしはしもべたる者ものが馬うまに乗のり、君くんたる者ものが奴隷どれいのように徒歩とほであるくのを見みた。
10:8 穴あなを掘ほる者ものはみずからこれに陥おちいり、石いしがきをこわす者ものは、へびにかまれる。
10:9 石いしを切きり出だす者ものはそれがために傷きずをうけ、木きを割わる者ものはそれがために危険きけんにさらされる。
10:10 鉄てつが鈍にぶくなったとき、人ひとがその刃はをみがかなければ、力ちからを多おおくこれに用もちいねばならない。しかし、知恵ちえは人ひとを助たすけてなし遂とげさせる。
10:11 へびがもし呪文じゅもんをかけられる前まえに、かみつけば、へび使つかいは益えきがない。
10:12 知者ちしゃの口くちの言葉ことばは恵めぐみがある、しかし愚者ぐしゃのくちびるはその身みを滅ほろぼす。
10:13 愚者ぐしゃの口くちの言葉ことばの初はじめは愚痴ぐちである、またその言葉ことばの終おわりは悪わるい狂気きょうきである。
10:14 愚者ぐしゃは言葉ことばを多おおくする、しかし人ひとはだれも後のちに起おこることを知しらない。だれがその身みの後のちに起おこる事ことを告つげることができようか。
10:15 愚者ぐしゃの労苦ろうくはその身みを疲つかれさせる、彼かれは町まちにはいる道みちをさえ知しらない。
10:16 あなたの王おうはわらべであって、その君きみたちが朝あさから、ごちそうを食たべる国くによ、あなたはわざわいだ。
10:17 あなたの王おうは自主じしゅの子こであって、その君きみたちが酔ようためでなく、力ちからを得えるために、適当てきとうな時ときにごちそうを食たべる国くによ、あなたはさいわいだ。
10:18 怠惰たいだによって屋根やねは落おち、無精ぶしょうによって家いえは漏もる。
10:19 食事しょくじは笑わらいのためになされ、酒さけは命いのちを楽たのしませる。金銭きんせんはすべての事ことに応おうじる。
10:20 あなたは心こころのうちでも王おうをのろってはならない、また寝室しんしつでも富とめる者ものをのろってはならない。空そらの鳥とりはあなたの声こえを伝つたえ、翼つばさのあるものは事ことを告つげるからである。
第11章 11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。 11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。 11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。 11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。 11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。 11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。 第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
11:1 あなたのパンを水みずの上うえに投なげよ、多おおくの日ひの後のち、あなたはそれを得えるからである。
11:2 あなたは一つの分ぶんを七つまた八つに分わけよ、あなたは、どんな災わざわいが地ちに起おこるかを知しらないからだ。
11:3 雲くもがもし雨あめで満みちるならば、地ちにそれを注そそぐ、また木きがもし南みなみか北きたに倒たおれるならば、その木きは倒たおれた所ところに横よこたわる。
11:4 風かぜを警戒けいかいする者ものは種たねをまかない、雲くもを観測かんそくする者ものは刈かることをしない。
11:5 あなたは、身みごもった女おんなの胎たいの中なかで、どうして霊れいが骨ほねにはいるかを知しらない。そのようにあなたは、すべての事ことをなされる神かみのわざを知しらない。
11:6 朝あさのうちに種たねをまけ、夕ゆうまで手てを休やすめてはならない。実みのるのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良よいのであるか、あなたは知しらないからである。
11:7 光ひかりは快こころよいものである。目めに太陽たいようを見みるのは楽たのしいことである。
11:8 人ひとが多おおくの年ねん、生いきながらえ、そのすべてにおいて自分じぶんを楽たのしませても、暗くらい日ひの多おおくあるべきことを忘わすれてはならない。すべて、きたらんとする事ことは皆みな空くうである。
11:9 若わかい者ものよ、あなたの若わかい時ときに楽たのしめ。あなたの若わかい日ひにあなたの心こころを喜よろこばせよ。あなたの心こころの道みちに歩あゆみ、あなたの目めの見みるところに歩あゆめ。ただし、そのすべての事ことのために、神かみはあなたをさばかれることを知しれ。
11:10 あなたの心こころから悩なやみを去さり、あなたのからだから痛いたみを除のぞけ。若わかい時ときと盛さかんな時ときはともに空くうだからである。
第12章 12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。 12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。 12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。 12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。
12:1 あなたの若わかい日ひに、あなたの造つくり主ぬしを覚おぼえよ。悪あしき日ひがきたり、年としが寄よって、「わたしにはなんの楽たのしみもない」と言いうようにならない前まえに、
12:2 また日ひや光ひかりや、月つきや星ほしの暗くらくならない前まえに、雨あめの後のちにまた雲くもが帰かえらないうちに、そのようにせよ。
12:3 その日ひになると、家いえを守まもる者ものは震ふるえ、力ちからある人ひとはかがみ、ひきこなす女おんなは少すくないために休やすみ、窓まどからのぞく者ものの目めはかすみ、
12:4 町まちの門もんは閉とざされる。その時ときひきこなす音おとは低ひくくなり、人ひとは鳥とりの声こえによって起おきあがり、歌うたの娘むすめたちは皆みな、低ひくくされる。
12:5 彼かれらはまた高たかいものを恐おそれる。恐おそろしいものが道みちにあり、あめんどうは花はな咲さき、いなごはその身みをひきずり歩あるき、その欲望よくぼうは衰おとろえ、人ひとが永遠えいえんの家いえに行いこうとするので、泣なく人ひとが、ちまたを歩あるきまわる。
12:6 その後のち、銀ぎんのひもは切きれ、金きんの皿さらは砕くだけ、水みずがめは泉いずみのかたわらで破やぶれ、車くるまは井戸いどのかたわらで砕くだける。
12:7 ちりは、もとのように土つちに帰かえり、霊れいはこれを授さづけた神かみに帰かえる。
12:8 伝道者でんどうしゃは言いう、「空くうの空くう、いっさいは空くうである」と。
12:9 さらに伝道者でんどうしゃは知恵ちえがあるゆえに、知識ちしきを民たみに教おしえた。彼かれはよく考かんがえ、尋たずねきわめ、あまたの箴言しんげんをまとめた。
12:10 伝道者でんどうしゃは麗うるわしい言葉ことばを得えようとつとめた。また彼かれは真実しんじつの言葉ことばを正ただしく書かきしるした。
12:11 知者ちしゃの言葉ことばは突つき棒ぼうのようであり、またよく打うった釘くぎのようなものであって、ひとりの牧者ぼくしゃから出でた言葉ことばが集あつめられたものである。
12:12 わが子こよ、これら以外いがいの事ことにも心こころを用もちいよ。多おおくの書しょを作つくれば際限さいげんがない。多おおく学まなべばからだが疲つかれる。
12:13 事ことの帰きする所ところは、すべて言いわれた。すなわち、神かみを恐おそれ、その命令めいれいを守まもれ。これはすべての人ひとの本分ほんぶんである。
12:14 神かみはすべてのわざ、ならびにすべての隠かくれた事ことを善悪ぜんあくともにさばかれるからである。