文語訳舊約聖書(1953年版)(振り仮名付き)

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雅歌

第1章

1:1 これはソロモンの雅歌がかなり

1:2 ねがはしきは彼かれその口くちの接吻くちつけをもて我われにくちつけせんことなり 汝なんぢの愛あいは酒さけよりもまさりぬ

1:3 なんぢの香膏にほひあぶらは其その香味かをりたへに馨かぐはしくなんぢの名なはそそがれたる香膏にほひあぶらのごとし 是ここをもて女子むすめ等らなんぢを愛あいす

1:4 われを引ひきたまへ われら汝なんぢにしたがひて走はしらん 王わうわれをたづさへてその後宮こうきうにいれたまへり 我われらは汝なんぢによりて歡よろこび樂たのしみ酒さけよりも勝まさりてなんぢの愛あいをほめたたふ 彼かれらは直なほきこころをもて汝なんぢを愛あいす

1:5 ヱルサレムの女子等をうなごらよ われは��くろけれどもなほ美うるはし ケダルの天てん幕まくのごとく またソロモンの帷帳とばりに似にたり

1:6 われ色いろくろきが故ゆゑに日ひのわれを燒やきたるが故ゆゑに我われを視みるなかれ わが母ははの子等こらわれを怒いかりて我われに葡萄園ぶだうぞのをまもらしめたり 我われはおのが葡萄園ぶだうぞのをまもらざりき

1:7 わが心こころの愛あいする者ものよなんぢは何處いづくにてなんぢの群むれを牧やしなひ 午時ひるどきいづこにて之これを息やすまするや請こふわれに告つげよ なんぞ面かほを覆おほへる者ものの如ごとくしてなんぢが伴侶ともの群むれのかたはらにをるべけんや

1:8 婦女をんなの最いとも美うるはしき者ものよ なんぢ若もししらずば群むれの足あし跡あとにしたがひて出いでゆき 牧羊者ひつじかひの天てん幕まくのかたはらにて汝なんぢの羔山羊こやぎを牧かへ

1:9 わが佳?ともよ 我われなんぢをパロの車くるまの馬むまに譬たぐふ

1:10 なんぢの臉ほほには鏈索くさりを垂たれ なんぢの頭くびには珠玉たまを陳つらねて至いとも美うるはし

1:11 われら白銀しろかねの星ほしをつけたる黄金こがねの鏈索くさりをなんぢのために造つくらん

1:12 王わう其その席せきにつきたまふ時とき わがナルダ其その香味かをりをいだせり

1:13 わが愛あいする者ものは我われにとりてはわが胸むねのあひだにおきたる沒藥もつやくの袋のごとし

1:14 わが愛あいする者ものはわれにとりてはエンゲデの園そのにあるコペルの英華はなぶさのごとし

1:15 ああ美うるはしきかな わが佳?ともよ ああうるはしきかな なんぢの目めは鴿はとのごとし

1:16 わが愛あいする者ものよ ああなんぢは美うるはしくまた樂たのしきかな われらの牀とこは�慘�みどりなり

1:17 われらの家いへの棟梁うつばりは香柏かうはく その垂木たるきは松まつの木きなり

  第2章

2:1 われはシャロンの野花のばな谷たにの百合花ゆりなり

2:2 女子等をうなごらの中なかにわが佳?とものあるは荊棘いばらの中なかに百合花ゆりのあるがごとし

2:3 わが愛あいする者ものの男子等をのこらの中なかにあるは林はやしの樹きの中なかに林檎りんごのあるがごとし 我われふかく喜よろこびてその蔭かげにすわれり その實みはわが口くちに甘あまかりき

2:4 彼かれわれをたづさへて酒宴さかもりの室いへにいれたまへり その我わが上うへにひるがへしたる旗はたは愛あいなりき

2:5 請こふ なんぢら乾葡萄ほしぶだうをもてわが力ちからをおぎなへ 林檎りんごをもて我われに力ちからをつけよ 我われは愛あいによりて疾やみわづらふ

2:6 彼かれが左ひだりの手てはわが頭かしらの下したにあり その右みぎの手てをもて我われを抱いだく

2:7 ヱルサレムの女子等をうなごらよ我われなんぢらに?しかと野のの鹿しかとをさし誓ちかひて請こふ 愛あいのおのづから起おこるときまでは殊更ことさらに喚起よびおこし且かつ醒さますなかれ

2:8 わが愛あいする者ものの聲こゑきこゆ 視みよ 山やまをとび 岡をかを躍をどりこえて來きたる

2:9 わが愛あいする者ものは?しかのごとくまた小鹿こじかのごとし 視みよ彼かれわれらの壁かべのうしろに立たち 窓まどより覗のぞき 格子かうしより窺うかがふ

2:10 わが愛あいする者ものわれに語かたりて言いふ わが佳?ともよ わが美うるはしき者ものよ 起たちていできたれ

2:11 視みよ 冬ふゆすでに過すぎ 雨あめもやみてはやさりぬ

2:12 もろもろの花はなは地ちにあらはれ 鳥とりのさへづる時ときすでに至いたり 班鳩やまばとの聲こゑわれらの地ちにきこゆ

2:13 無花果いちじくの樹きはその��あをき果みを赤あからめ 葡萄ぶだうの樹きは花はなさきてその馨かぐはしき香氣にほひをはなつ わが佳?ともよ わが美うるはしき者ものよ 起たちて出いできたれ

2:14 磐間いはまにをり 斷崖がけの匿處かくれどころにをるわが鴿はとよ われに汝なんぢの面かほを見みさせよ なんぢの聲こゑをきかしめよ なんぢの聲こゑは愛あいらしく なんぢの面かほはうるはし

2:15 われらのために狐きつねをとらへよ 彼かの葡萄園ぶだうぞのをそこなふ小狐こぎつねをとらへよ 我等われらの葡萄園ぶだうぞのは花盛はなさかりなればなり

2:16 わが愛あいする者ものは我われにつき我われはかれにつく 彼かれは百合花ゆりの中なかにてその群むれを牧かふ

2:17 わが愛あいする者ものよ 日ひの涼すずしくなるまで 影かげの消きゆるまで身みをかへして出いでゆき 荒あらき山々やまやまの上うへにありて?しかのごとく 小鹿こじかのごとくせよ

  第3章

3:1 夜よるわれ床とこにありて我わが心こころの愛あいする者ものをたづねしが尋たづねたれども得えず

3:2 我われおもへらく今いまおきて邑まちをまはりありき わが心こころの愛あいする者ものを街衢ちまたあるひは大路おほぢにてたづねんと 乃すなはちこれを尋たづねたれども得えざりき

3:3 邑まちをまはりありく夜巡者よまはりらわれに遇あひければ 汝なんぢらわが心こころの愛あいする者ものを見みしやと問とひ

3:4 これに別わかれて過すぎゆき間まもなくわが心こころの愛あいする者ものの遇あひたれば 之これをひきとめて放はなさず 遂つひにわが母ははの家いへにともなひゆき 我われを?うみし者ものの室しつにいりぬ

3:5 ヱルサレムの女子等をうなごらよ 我われなんぢらに?しかと野のの鹿しかとをさし誓ちかひて請こふ 愛あいのおのづから起おこる時ときまで殊更ことさらに喚起よびおこし且かつ醒さますなかれ

3:6 この沒藥もつやく乳香にうかうなど商人あきうどのもろもろの薫物かをりものをもて身みをかをらせ 煙けむりの柱はしらのごとくして荒野あれのより來きたる者ものは誰たれぞや

3:7 視みよ こはソロモンの乗輿のりものにして 勇士ますらを六十人にんその周圍まはりにあり イスラエルの勇士ますらをなり

3:8 みな刀劍つるぎを執とり 戰鬪たたかひを善よくす 各人おのおの腰こしに刀劍つるぎを帶おびて夜よるの警誡いましめに備そなふ

3:9 ソロモン王わうレバノンの木きをもて己おのれのために輿こしをつくれり

3:10 その柱はしらは白銀しろかね その欄杆らんかんは黄金こがね その座ざは紫色むらさきにて作つくり その内部なかにはイスラエルの女子等をうなごらが愛あいをもて繍ぬひたる物ものを張はりつく

3:11 シオンの女子等をうなごらよ 出いできたりてソロモン王わうを見みよ かれは婚姻こんいんの日ひ心こころの喜よろこべる日ひにその母ははの己おのれにかうぶらしし冠冕かんむりを戴いただけり

  第4章

4:1 ああなんぢ美うるはしきかな わが佳?ともよ ああなんぢうるはしきかな なんぢの目めは面?かほおほひのうしろにありて鴿はとのごとし なんぢの髮かみはギレアデ山やまの腰こしに臥ふしたる山羊やぎの群むれに似にたり

4:2 なんぢの齒はは毛けを剪きりたる牝め羊ひつじの浴塲あらひばより出いでたるがごとし おのおの雙子ふたごをうみてひとつも子こなきものはなし

4:3 なんぢの唇くちびるは紅色くれなゐの線維いとすぢのごとく その口くちは美うるはし なんぢの頬ほほは面?かほおほひのうしろにありて石榴ざくろの半片かたわれに似にたり

4:4 なんぢの頸項うなじは武器庫ぶきぐらにとて建たてたるダビデの戍樓やぐらのごとし その上うへには一千の盾たてを懸かけけ列つらぬ みな勇士ますらをの大楯おほだてなり

4:5 なんぢの兩乳房もろちぶさは牝?めじかの雙子ふたごなる二箇ふたつの小鹿こじかが百合花ゆりの中なかに草くさはみをるに似にたり

4:6 日ひの涼すずしくなるまで 影かげの消きゆるまでわれ沒藥もつやくの山やままた乳香にうかうの岡をかに行ゆくべし

4:7 わが佳?ともよ なんぢはことごとくうるはしくしてすこしのきずもなし

4:8 新婦はなよめよ レバノンより我われにともなへ レバノンより我われとともに來きたれ アマナの巓いただきセニルまたヘルモンの巓いただきより望のぞみ 獅子ししの穴あなまた豹へうの山やまより望のぞめ

4:9 わが妹いもわが新婦はなよめよ なんぢはわが心こころを奪うばへり なんぢは只ただ一目ひとめをもてまた頸玉くびたまの一ひとつをもてわが心こころをうばへり

4:10 わが妹いもわが新婦はなよめよ なんぢの愛あいは樂たのしきかな なんぢの愛あいは酒さけよりも遙はるかにすぐれ なんぢの香膏にほひあぶらの馨かをりは一切すべての香物かうものよりもすぐれたり

4:11 新婦はなよめよ なんぢの唇くちびるは蜜みつを滴したたらす なんぢの舌したの底そこには蜜みつと乳ちちとあり なんぢの衣裳ころもの香氣かをりはレバノンの香氣かをりのごとし

4:12 わが妹いもわがはなよめよ なんぢは閉とぢたる園その閉とぢたる水源みなもと封ふうじたる泉水いづみのごとし

4:13 なんぢの園そのの中なかに生おひいづる者ものは石榴ざくろ及およびもろもろの佳果よきみまたコペル及およびナルダの草くさ

4:14 ナルダ 番紅花さふらん菖蒲しやうぶ桂枝けいしさまざまの乳香にうかうの木きおよび沒藥もつやく蘆薈ろくわい一切すべての貴たふとき香物かうもつなり

4:15 なんぢは園そのの泉水いづみ活いける水みづの井ゐ レバノンよりいづる流水ながれなり

4:16 北きた風かぜよ起おこれ 南みなみ風かぜよ來きたれ 我わが園そのを吹ふきてその香氣かをりを揚あげよ ねがはくはわが愛あいする者もののおのが園そのにいりきたりてその佳よき果みを食くらはんことを

  第5章

5:1 わが妹いもわがはなよめよ 我われはわが園そのにいり わが沒藥もつやくと薫物かをりものとを採とり わが蜜房みつぶさと蜜みつとを食くらひ わが酒さけとわが乳ちちとを飮のめり わが伴侶等ともだちよ 請こふ食くらへ わが愛あいする人々ひとびとよ 請こふ飮のみあけよ

5:2 われは睡ねむりたれどもわが心こころは醒さまゐたり 時ときにわが愛あいする者ものの聲こゑあり 即すなはち門かどをたたきていふ わが妹いもわが佳?とも わが鴿はと わが完またきものよ われのために開ひらけ わが首かうべには露つゆ滿みち わが髮かみの毛けには夜よの點滴しづくみてりと

5:3 われすでにわが衣服ころもを脱ぬげり いかでまた着きるべき 已すでにわが足あしをあらへり いかでまた汚けがすべき

5:4 わが愛あいする者もの戸との穴あなより手てをさしいれしかば わが心こころかれのためにうごきたり

5:5 やがて起おきいでてわが愛あいする者ものの爲ために開ひらかんとせしとき 沒藥もつやくわが手てより沒藥もつやくの汁しるわが指ゆびよりながれて關木くわんのきの把柄とりてのうへにしたたれり

5:6 我われわが愛あいする者ものの爲ために開ひらきしに わが愛あいする者ものは已すでに退しりぞき去さりぬ さきにその物ものいひし時ときはわが心こころさわぎたり 我われかれをたづねたれども遇あはず 呼よびたれども答應こたへなかりき

5:7 邑まちをまはりありく夜巡者よまはり等らわれを見みてうちて傷きずつけ 石垣いしがきをまもる者ものらはわが上衣うはぎをはぎとれり

5:8 ヱルサレムの女子等をうなごらよ 我われなんぢらにかたく請こふ もしわが愛あいする者ものにあはば汝なんぢら何なにとこれにつぐべきや 我われ愛あいによりて疾やみわづらふと告つげよ

5:9 なんぢの愛あいする者ものは別ほかの人ひとの愛あいする者ものに何なにの勝まされるところありや 婦女をんなの中うちのいと美うるはしき者ものよ なんぢが愛あいする者ものは別ほかの人ひとの愛あいする者ものに何なにの勝まされるところありて斯かくわれらに固かたく請こふや

5:10 わが愛あいする者ものは白しろくかつ紅くれなゐにして萬人まんにんの上うへに越こゆ

5:11 その頭かしらは純金じゆんきんのごとく その髮かみはふさやかにして��くろきこと烏からすのごとし

5:12 その目めは谷たに川がはの水みづのほとりにをる鴿はとのごとく 乳ちちにて洗あらはれて美うるはしく嵌はまれり

5:13 その頬ほほは馨かぐはしき花はなの床とこのごとく 香草かをりぐさの壇だんのごとし その唇くちびるは百合花ゆりのごとくにして沒藥もつやくの汁しるをしたたらす

5:14 その手てはきばみたる碧玉みどりだまを嵌はめし黄金こがねの釧くしろのごとく 其その躰むくろは�惷�あをだまをもておほひたる象牙ざうげの彫刻物ほりもののごとし

5:15 その脛はぎは蝋石らうせきの柱はしらを黄金こがねの臺だいにてたてたるがごとく その相貌すがたはレバノンのごとく その優すぐれたるさまは香柏かうはくのごとし

5:16 その口くちははなはだ甘あまく誠まことに彼かれには一ひとつだにうつくしからぬ所ところなし ヱルサレムの女子等をうなごらよ これぞわが愛あいする者もの これぞわが伴侶ともなる

  第6章

6:1 婦女をんなのいと美うるはしきものよ 汝なんぢの愛あいする者ものは何處いづこへゆきしや なんぢの愛あいする者ものはいづこへおもむきしや われら汝なんぢとともにたづねん

6:2 わが愛あいするものは己おのれの園そのにくだり 香かぐはしき花はなの床とこにゆき 園そのの中なかにて群むれを牧かひ また百合花ゆりを採とる

6:3 我われはわが愛あいする者ものにつき わが愛あいする者ものはわれにつく 彼かれは百合花ゆりの中なかにてその群むれを牧かふ

6:4 わが佳?ともよ なんぢは美うるはしきことテルザのごとく 華はなやかなることヱルサレムのごとく 畏おそるべきこと旗はたをあげたる軍旅つはもののごとし

6:5 なんぢの目めは我われをおそれしむ 請こふ我われよりはなれしめよ なんぢの髮かみはギレアデ山やまの腰こしに臥ふしたる山羊やぎの群むれに似にたり

6:6 なんぢの齒はは毛けを剪きりたる牝め羊ひつじの浴塲あらひばより出いでたるがごとし おのおの雙子ふたごをうみてひとつも子こなきものはなし

6:7 なんぢの頬ほほは面?かほおほひの後うしろにありて石榴ざくろの半片かたわれに似にたり

6:8 后きさき六十人にん妃嬪をむなめ八十人にん數かずしられぬ處女をとめあり

6:9 わが鴿はとわが完またき者ものはただ一人ひとりのみ 彼かれはその母ははの獨子ひとりごにして?うみたる者ものの喜よろこぶところの者ものなり 女子等をうなごらは彼かれを見みて幸福さいはひなる者ものととなへ 后等きさきたち妃嬪等をむなめたちは彼かれを見みて讃ほむ

6:10 この晨光しののめのごとくに見みえわたり 月つきのごとくに美うるはしく 日ひのごとくに輝かがやき 畏おそるべきこと旗はたをあげたる軍旅つはもののごとき者ものは誰たれぞや

6:11 われ胡桃くるみの園そのにくだりゆき 谷たにの��あをき草木くさきを見み葡萄ぶだうや芽めざしし石榴ざくろの花はなや咲さきしと見み回まはしをりしに

6:12 意おもはず知しらず我わが心こころわれをしてわが貴たふとき民たみの車くるまの中間なかにあらしむ

6:13 歸かへれ歸かへれシユラミの婦をんなよ 歸かへれ歸かへれ われら汝なんぢを觀みんことをねがふ なんぢら何なんとてマハナイムの跳舞をどりを觀みるごとくにシユラミの婦をんなを觀みんとねがふや

  第7章

7:1 君きみの女むすめよ なんぢの足あしは鞋くつの中なかにありて如何いかに美うるはしきかな 汝なんぢの腿ももはまろらかにして玉たまのごとく 巧匠たくみの手てにて作つくりたるがごとし

7:2 なんぢの臍ほぞは美酒よきさけの缺かくることあらざる圓まるき杯盤さかづきのごとく なんぢの腹はらは積つみかさねたる麥むぎのまはりを百合花ゆりもてかこめるが如ごとし

7:3 なんぢの兩乳房もろちぶさは牝め鹿じかの雙子ふたごなる二ふたつの小鹿こじかのごとし

7:4 なんぢの頸うなじは象牙ざうげの戍樓やぐらの如ごとく 汝なんぢの目めはヘシボンにてバテラビムの門もんのほとりにある池いけのごとく なんぢの鼻はなはダマスコに對むかへるレバノンの戍樓やぐらのごとし

7:5 なんぢの頭かしらはカルメルのごとく なんぢの頭かしらの髮けは紫花むらさきのごとし 王わうその垂たれたる髮けにつながれたり

7:6 ああ愛あいよ もろもろの快樂たのしみの中うちにありてなんぢは如何いかに美うるはしく如何いかに悦よろこばしき者ものなるかな

7:7 なんぢの身みの長たけは棕櫚しゆろの樹きに等ひとしく なんぢの乳房ちぶさは葡萄ぶだうのふさのごとし

7:8 われ謂おもふこの棕櫚しゆろの樹きにのぼり その枝えだに執とりつかんと なんぢの乳房ちぶさは葡萄ぶだうのふさのごとく なんぢの鼻はなの氣息いきは林檎りんごのごとく匂にほはん

7:9 なんぢの口くちは美酒よきさけのごとし わが愛あいする者もののために滑なめらかに流ながれくだり 睡ねむれる者ものの口くちをして動うごかしむ

7:10 われはわが愛あいする者ものにつき 彼かれはわれを戀こひしたふ

7:11 わが愛あいする者ものよ われら田舍いなかにくだり 村里むらざとに宿やどらん

7:12 われら夙つとにおきて葡萄ぶだうや芽めざしし莟つぼみやいでし石榴ざくろの花はなやさきし いざ葡萄園ぶだうぞのにゆきて見みん かしこにて我われわが愛あいをなんぢにあたへん

7:13 戀茄こひなすかぐはしき香氣にほひを發はなち もろもろの佳よき果物くだもの古ふるき新あたらしき共ともにわが戸との上うへにあり わが愛あいする者ものよ我われこれをなんぢのためにたくはへたり

  第8章

8:1 ねがはくは汝なんぢわが母ははの乳ちちをのみしわが兄弟きやうだいのごとくならんことを われ戸外そとにてなんぢに遇あふとき接吻くちつけせん 然しかするとも誰たれありてわれをいやしむるものあらじ

8:2 われ汝なんぢをひきてわが母ははの家いへにいたり 汝なんぢより�崖�をしへをうけん 我われかぐはしき酒さけ石榴ざくろのあまき汁しるをなんぢに飮のましめん

8:3 かれが左ひだりの手てはわが頭かしらの下したにあり その右みぎの手てをもて我われを抱いだく

8:4 ヱルサレムの女子等をうなごらよ 我われなんぢ等らに誓ちかひて請こふ 愛あいのおのづから起おこる時ときまで殊更ことさらに喚起よびおこし且かつ醒さますなかれ

8:5 おのれの愛あいする者ものに倚よりかかりて荒野あれのより上のぼりきたる者ものは誰たれぞや 林檎りんごの樹きの下したにてわれなんぢを喚よびさませり なんぢの母ははかしこにて汝なんぢのために劬勞くるしみをなし なんぢを?うみし者ものかしこにて劬勞くるしみをなしぬ

8:6 われを汝なんぢの心こころにおきて印おしでのごとくし なんぢの腕うでにおきて印おしでのごとくせよ 其その愛あいは強つよくして死しのごとく 嫉妬ねたみは堅かたくして陰府よみにひとし その?ほのほは火ひのほのほのごとし いともはげしき?ほのほなり

8:7 愛あいは大水おほみづも消けすことあたはず 洪水こうずゐも溺おぼらすことあたはず 人ひとその家いへの一切すべての物ものをことごとく與あたへて愛あいに換かへんとするとも尚なほいやしめらるべし

8:8 われら小ちひさき妹子いもうとあり 未いまだ乳房ちぶさあらず われらの妹子いもうとの問聘いひこみをうくる日ひには之これに何なにをなしてあたへんや

8:9 かれもし石垣いしがきならんには我われら白銀しろかねの城しろをその上うへにたてん 彼かれもし戸とならんには香柏かうはくの板いたをもてこれを圍かこまん

8:10 われは石垣いしがきわが乳房ちぶさは戍樓やぐらのごとし 是ここをもてわれは情なさけをかうむれる者もののごとく彼かれの目めの前まへにありき

8:11 バアルハモンにソロモンの葡萄園ぶだうぞのをもてり これをその守まもる者等ものどもにあづけおき 彼等かれらをしておのおの銀ぎん一千をその果みのために納をさめしむ

8:12 われ自みずからの有ものなる葡萄園ぶだうぞのわれの手てにあり ソロモンなんぢは一千を獲えよ その果みをまもる者ものも二百を獲うべし

8:13 なんぢ園そのの中なかに住すむ者ものよ 伴侶等ともたちなんぢの聲こゑに耳みみをかたむく 請こふ我われにこれを聽きかしめよ

8:14 わが愛あいする者ものよ 請こふ急いそぎはしれ 香かぐはしき山々やまやまの上うへにありて?しかのごとく 小鹿こじかのごとくあれ